星果泥棒と紅い宝玉

岬野葉々

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星果泥棒?!何のこと?!!

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「起きろ!おい、起きろと言っている!!この、泥棒め!!!」

 突如、乱暴に身体をゆすられて、リィーヤは驚いて目を覚ます。
 その弾みに、リィーヤの手から、果実の皮が滑り落ちた。

「やっぱり――!!」
「星果を食べたのか?!」
「罰当たりめ!!!」
「わあああ、おれのところの星果がないっっ」
「俺のところもだ?!お前、星果をどこにやった!!」

 リィーヤは、周りで繰り広げられる怒声についていけない。
 身をすくませ、小さくなったリィーヤになお、収まることのない糾弾が突きつけられる。

「星果泥棒は、大罪だ!!」
「手足をもげ!見せしめだ!!」
「引きまわして、処罰しろ!もう二度と盗む輩が出ぬように――」
「いや、対価だ!対価をよこせ――!」
「そうだ、そうだ!このままだと、うちは破産しちまうっ」

 半ば暴徒と化した男たちに小突かれ、引き倒され、罵られる。
 そうして、ろくな釈明も出来ないまま、リィーヤは引きずられ、ぐるぐるに縄をかけられた上で馬車の荷台に放り込まれた。

(どういうことなの?泥棒?わたしが――?)

 乱暴な扱いで身体中のあちこちが痛む。
 しかし、それよりもなお、突然の泥棒扱いによる衝撃の方が大きい。
 何で、どうして、と何度も思考がくるくるそこだけを空回っている。
 けれど、ガタゴトと進む荷馬車の上で、縛られた身体の痛みから徐々に正気付いてくる。

(星果泥棒、と言ってた。星果ってやっぱり――)

 微笑んで差し出された、見慣れぬ星のような形の果物。
 わたしは、それを受け取った。そして、食べた。二切れも――

「なんてこと……あれは、彼らのものじゃなかったのね」

 そうして振り返れば、恩人と思い込んだ一行に対して、いくつかの違和感やおかしな点に気がつく。

 あの少年は、、と言っていた。
 そして、あの一行が大切そうに運んでいた、あの木箱の中身は――?
 きっと、それこそが星果だ。
 星果泥棒は、彼らに他ならない。

 〈いいか、ただほど高いものはないんだからな!〉

 不意にルド兄の言葉が脳裏に蘇った。

 いつもポヤポヤして、騙されやすいと心配してわたしに言い聞かせられていた言葉だ。

 〈家族は別だ。助け合い、補い合う。
 互いに思いあい、行動するのに対価は不要だ。
 だけど、人間は別だ。
 必ず、対価を払え。払えなくば、受け取るな。〉

「ルド兄、おにいちゃん、……わたし、わたし失敗しちゃったよ」

 木漏れ日の中でまどろむ前の自分が腹立たしい。
 何が運が良かった、だ。
 何がこのまま導都へ行ける、だ。
 もはや、何もかもがめちゃくちゃだ!

 絶対成し遂げて見せる、と誓った懐のものを思い出し、リィーヤは声を上げて泣く。

 良い人たちと心の底から感謝した一行に騙され、裏切られた感情そのままに泣きじゃくった。
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