6 / 6
運命の分かれ道、タタン名物石畳の広場
しおりを挟む
グレイは上ご機嫌で坂を下っていた。
その際、何度も何度も右腕を左手でさする。
「良い、良いな!この解放感!!いつぶりだ?!」
身も心も軽く、坂道を下る。
と、その時、後ろから声がかかる。
「そこのお兄さん!景気が良さそうだね。何か良いことでも?」
グレイが振り返れば、地元民らしい服装の少年がニコニコと笑いながら話しかけてくる。
「おお、分かるか?!長年の悩みがようやく解消されたところでね!今日は祝杯を上げるさ」
晴れ晴れと語るグレイを見て、少年は少し目を見開いた。
琥珀の瞳がキラリと光る。
「それは、おめでたいね!ところでお兄さん、旅人のようだけど?」
その問いに対し、グレイはこくりと頷く。
「まあな」
「僕、この辺りに詳しいんだ!お兄さんの祝杯をあげるに相応しいお店、紹介するよ!!」
突然の提案に、グレイは少し用心深げに目を細める。
が、次の瞬間、あっさりとその提案を受け入れた。
(なんだ?……ま、いいか。どうせ、地元の客引きの一種だろう。ここで会ったのも、何かの縁だ。たとえ紹介された店がイマイチだろうと、祝杯用の酒くらい置いてあるだろうさ)
紹介したお店行きに乗り気なグレイを見て、少年は嬉々として丁寧にお店の場所を語る。
「良い?お兄さん、海鮮と星果万歳亭だよ?!タタン名物の石畳の広場の南にあるから……道筋は、」
「分かった、もう分かったって。お前は店の回し者か?道筋ももう何度も言わずとも、大丈夫だ。…………しかし、またすごい店名だな」
「そう?海辺の街タタンは、海辺だけあって海鮮は抜群に美味しいよ。もう一つの名産物、星果は街の誇りだしね」
「そんなものか?海鮮はともかく、星果なんぞ普通の奴らじゃまず、お目にかかれるもんじゃないがね」
ふーん、と気のない相槌を打ちながら、グレイは手を振って少年と別れる。
海辺の街タタンへと街道を進むグレイ。
その人影をしばし見送りながら、地元民に扮したリアトは呟く。
「本当に、……本当に頼むよ、お兄さん。僕らが巻き込んだリィーヤの救われるビジョンが見えたのは、これだけなんだ。しっかり、そして絶対に広場に行ってくれ!」
ギィー、ときしみながら、荷馬車が停まる。
どうやら、街に入ったみたいだ。
泣きじゃくっていたリィーヤは、はっと息を詰めた。
これから待ち受ける事態を思うと、身体が震える。
(間違いは、正すこと。正すように、努力する――わたしがすべきこと。それは、星果泥棒は他にいると分かってもらうこと。その上で、星果二切れ分、ううん、食べたのはそれだけだけど、場合によっては一つ丸々分の対価を払うこと)
震えながらも、これからすべきことを考えていたリィーヤは、いきなり縄の端を掴んで引っ張られ、荷台から転がり落ちる。
「い、痛っ」
思わず呻くも、すぐ周りの異様な雰囲気に飲まれ、身体が強張り固まった。
リィーヤが放り出された石畳の広場は、街の人々で埋め尽くされている。
皆、怒りの表情で、口々にリィーヤ、星果泥棒を罵り、罰を求めている――
「ひっ……ち、ちがうの、わたし、どろぼうじゃ……」
懸命に訴えようとするリィーヤに、近くにいた人々が声を上げる。
「なんだと?!泥棒じゃないだって――?!」
「嘘だ!おれは見たぞ!!お前が手に星果の皮を持っていたのを――!!」
「やっぱり、反省の、罪の欠片もないんじゃ、見せしめに使っても……」
「二度と盗みが出来ぬよう、両手を切り落とせ――!!」
「逃げ出せぬよう、両足もだ――!!」
段々とヒートアップしてくる人々に対し、リィーヤは声を張り上げる。
「星果を二切れ、二切れだけ、食べました!その分の対価は、絶対に支払います!!でも、その他は、それ以外はわたしじゃない!!わたしは、泥棒なんかじゃない!!」
その際、何度も何度も右腕を左手でさする。
「良い、良いな!この解放感!!いつぶりだ?!」
身も心も軽く、坂道を下る。
と、その時、後ろから声がかかる。
「そこのお兄さん!景気が良さそうだね。何か良いことでも?」
グレイが振り返れば、地元民らしい服装の少年がニコニコと笑いながら話しかけてくる。
「おお、分かるか?!長年の悩みがようやく解消されたところでね!今日は祝杯を上げるさ」
晴れ晴れと語るグレイを見て、少年は少し目を見開いた。
琥珀の瞳がキラリと光る。
「それは、おめでたいね!ところでお兄さん、旅人のようだけど?」
その問いに対し、グレイはこくりと頷く。
「まあな」
「僕、この辺りに詳しいんだ!お兄さんの祝杯をあげるに相応しいお店、紹介するよ!!」
突然の提案に、グレイは少し用心深げに目を細める。
が、次の瞬間、あっさりとその提案を受け入れた。
(なんだ?……ま、いいか。どうせ、地元の客引きの一種だろう。ここで会ったのも、何かの縁だ。たとえ紹介された店がイマイチだろうと、祝杯用の酒くらい置いてあるだろうさ)
紹介したお店行きに乗り気なグレイを見て、少年は嬉々として丁寧にお店の場所を語る。
「良い?お兄さん、海鮮と星果万歳亭だよ?!タタン名物の石畳の広場の南にあるから……道筋は、」
「分かった、もう分かったって。お前は店の回し者か?道筋ももう何度も言わずとも、大丈夫だ。…………しかし、またすごい店名だな」
「そう?海辺の街タタンは、海辺だけあって海鮮は抜群に美味しいよ。もう一つの名産物、星果は街の誇りだしね」
「そんなものか?海鮮はともかく、星果なんぞ普通の奴らじゃまず、お目にかかれるもんじゃないがね」
ふーん、と気のない相槌を打ちながら、グレイは手を振って少年と別れる。
海辺の街タタンへと街道を進むグレイ。
その人影をしばし見送りながら、地元民に扮したリアトは呟く。
「本当に、……本当に頼むよ、お兄さん。僕らが巻き込んだリィーヤの救われるビジョンが見えたのは、これだけなんだ。しっかり、そして絶対に広場に行ってくれ!」
ギィー、ときしみながら、荷馬車が停まる。
どうやら、街に入ったみたいだ。
泣きじゃくっていたリィーヤは、はっと息を詰めた。
これから待ち受ける事態を思うと、身体が震える。
(間違いは、正すこと。正すように、努力する――わたしがすべきこと。それは、星果泥棒は他にいると分かってもらうこと。その上で、星果二切れ分、ううん、食べたのはそれだけだけど、場合によっては一つ丸々分の対価を払うこと)
震えながらも、これからすべきことを考えていたリィーヤは、いきなり縄の端を掴んで引っ張られ、荷台から転がり落ちる。
「い、痛っ」
思わず呻くも、すぐ周りの異様な雰囲気に飲まれ、身体が強張り固まった。
リィーヤが放り出された石畳の広場は、街の人々で埋め尽くされている。
皆、怒りの表情で、口々にリィーヤ、星果泥棒を罵り、罰を求めている――
「ひっ……ち、ちがうの、わたし、どろぼうじゃ……」
懸命に訴えようとするリィーヤに、近くにいた人々が声を上げる。
「なんだと?!泥棒じゃないだって――?!」
「嘘だ!おれは見たぞ!!お前が手に星果の皮を持っていたのを――!!」
「やっぱり、反省の、罪の欠片もないんじゃ、見せしめに使っても……」
「二度と盗みが出来ぬよう、両手を切り落とせ――!!」
「逃げ出せぬよう、両足もだ――!!」
段々とヒートアップしてくる人々に対し、リィーヤは声を張り上げる。
「星果を二切れ、二切れだけ、食べました!その分の対価は、絶対に支払います!!でも、その他は、それ以外はわたしじゃない!!わたしは、泥棒なんかじゃない!!」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる