星果泥棒と紅い宝玉

岬野葉々

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運命の分かれ道、タタン名物石畳の広場

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 グレイは上ご機嫌で坂を下っていた。
 その際、何度も何度も右腕を左手でさする。

「良い、良いな!この解放感!!いつぶりだ?!」

 身も心も軽く、坂道を下る。
 と、その時、後ろから声がかかる。

「そこのお兄さん!景気が良さそうだね。何か良いことでも?」

 グレイが振り返れば、地元民らしい服装の少年がニコニコと笑いながら話しかけてくる。

「おお、分かるか?!長年の悩みがようやく解消されたところでね!今日は祝杯を上げるさ」

 晴れ晴れと語るグレイを見て、少年は少し目を見開いた。
 琥珀の瞳がキラリと光る。

「それは、おめでたいね!ところでお兄さん、旅人のようだけど?」

 その問いに対し、グレイはこくりと頷く。

「まあな」

「僕、この辺りに詳しいんだ!お兄さんの祝杯をあげるに相応しいお店、紹介するよ!!」

 突然の提案に、グレイは少し用心深げに目を細める。
 が、次の瞬間、あっさりとその提案を受け入れた。

(なんだ?……ま、いいか。どうせ、地元の客引きの一種だろう。ここで会ったのも、何かの縁だ。たとえ紹介された店がイマイチだろうと、祝杯用の酒くらい置いてあるだろうさ)

 紹介したお店行きに乗り気なグレイを見て、少年は嬉々として丁寧にお店の場所を語る。

「良い?お兄さん、海鮮と星果万歳亭だよ?!タタン名物の石畳の広場の南にあるから……道筋は、」

「分かった、もう分かったって。お前は店の回し者か?道筋ももう何度も言わずとも、大丈夫だ。…………しかし、またすごい店名だな」

「そう?海辺の街タタンは、海辺だけあって海鮮は抜群に美味しいよ。もう一つの名産物、星果は街の誇りだしね」

「そんなものか?海鮮はともかく、星果なんぞ普通の奴らじゃまず、お目にかかれるもんじゃないがね」

 ふーん、と気のない相槌を打ちながら、グレイは手を振って少年と別れる。
 
 海辺の街タタンへと街道を進むグレイ。
 その人影をしばし見送りながら、地元民に扮したリアトは呟く。

「本当に、……本当に頼むよ、お兄さん。僕らが巻き込んだリィーヤの救われるビジョンが見えたのは、これだけなんだ。しっかり、そして絶対に広場に行ってくれ!」
  
 


 ギィー、ときしみながら、荷馬車が停まる。

 どうやら、街に入ったみたいだ。
 
 泣きじゃくっていたリィーヤは、はっと息を詰めた。

 これから待ち受ける事態を思うと、身体が震える。

(間違いは、正すこと。正すように、努力する――わたしがすべきこと。それは、星果泥棒は他にいると分かってもらうこと。その上で、星果二切れ分、ううん、食べたのはそれだけだけど、場合によっては一つ丸々分の対価を払うこと)

 震えながらも、これからすべきことを考えていたリィーヤは、いきなり縄の端を掴んで引っ張られ、荷台から転がり落ちる。

「い、痛っ」

 思わず呻くも、すぐ周りの異様な雰囲気に飲まれ、身体が強張り固まった。

 リィーヤが放り出された石畳の広場は、街の人々で埋め尽くされている。

 皆、怒りの表情で、口々にリィーヤ、星果泥棒を罵り、罰を求めている――

「ひっ……ち、ちがうの、わたし、どろぼうじゃ……」

 懸命に訴えようとするリィーヤに、近くにいた人々が声を上げる。

「なんだと?!泥棒じゃないだって――?!」
「嘘だ!おれは見たぞ!!お前が手に星果の皮を持っていたのを――!!」
「やっぱり、反省の、罪の欠片もないんじゃ、見せしめに使っても……」
「二度と盗みが出来ぬよう、両手を切り落とせ――!!」
「逃げ出せぬよう、両足もだ――!!」

 段々とヒートアップしてくる人々に対し、リィーヤは声を張り上げる。

「星果を二切れ、二切れだけ、食べました!その分の対価は、絶対に支払います!!でも、その他は、それ以外はわたしじゃない!!わたしは、泥棒なんかじゃない!!」
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