狐ノ橋

岬野葉々

文字の大きさ
上 下
3 / 5

しおりを挟む
  どれくらいの時が経ったのでしょう。

  茜がふと我にかえり、そっと周りを見渡すと、茜のすぐ側には、まんまるの金色お月さまのような目をした小さな狐が、しょぼくれてちょこん、と座っています。
  まんまるの目もふせがちに、天狗のお面をぎゅっと手に握りしめ、うなだれている姿を見ているうちに、何だか茜は可哀想になってきました。
  そして、追いかけられて泣かされたことも忘れ、銀ににこっと笑いかけながら、声をかけてしまいました。

「あなたが銀なの?」

  茜の問いかけに、茜の笑顔をぼーっと見つめていた銀は、はっとしてこっくりと頷きました。

「どうして、いたずらばっかりするの?」

  茜が不思議そうにたずねると、銀はしばらくもじもじしていましたが、やがて顔を上げて、
「みんなにかまって欲しいから…………かも」とだけ言いました。

  茜の方を見ながら、そわそわと動くふさふさのしっぽ。感情のままに動く、くりくりとしたまんまるの目。
  茜は銀をもう少しも怖いとは思いませんでした。
  村人達が言うような、意地悪で悪い狐にも思えません。

  そして、茜は考えました。
  誰かにかまって欲しくていたずらをする――――それはきっと…………。

「ね、わたしたち、お友だちになる?」

  茜にとって、お友達は宣言してからなるものではなかったのですが、この時は何となく先に銀に告げた方が良い気がしたのです。 

  それを聞いた銀は、まんまるの目をさらに見開き、口も大きくぽかん、とあけました。

「いたずらじゃなくて、いっしょにたくさんあそぼうよ。たくさん、たくさんおはなしもするの」

  その考えにわくわくしたかのように、まるで先程子ども達と遊んでいた時と同じように、楽しげに銀に笑いかける茜。
  
  それを見ているだけで、銀の心はぽかぽかと温かくなってきて、ふっと身体中の力が緩みました。
  そして、茜の言葉がゆっくりと銀の頭と心にしみわたっていった後、銀はふにゃっと満面の笑みを浮かべて頷きました。

  かみしめるように、何度も何度も頷いてから、銀は小さな小さな声で繰り返しました。

「うん。ぼくたち、友だちになる。あかねとぼくは、友だちだ」


  それから、茜と銀は木の下に並んで座り、たくさん、たくさんお話をしました。
  そして、帰り際に次の約束を取り交わします。

「銀ちゃん、はれたら、またあした。こんどはみんなであそぼうね」
「うん!…………はれたら?くもりだったら、どうするの?」

  不安そうな銀の答えに、茜は明るくあはは、と笑います。

「くもりでも、だいじょうぶ!雨さえふってなければ、ね」
「雨?……どれくらいの雨なら、だめなの?」

  銀の思いがけない食い下がりに、茜はうーんと声をあげて考えます。

「わたし、この村にきたばかりだし……少しだけでもだめかな?おかたづけも、あるし。あ、でも――!」

  茜はぱっと顔を明るくして、声を弾ませます。

「わたし、一週間後におたんじょう日なの!お母さんが、七日後にわたしのおたんじょう日会、してくれるっていってた!」
「おたんじょう日会……?」

  首をかしげる銀に、茜は嬉しそうに続けます。

「ね、銀ちゃんもその日はおうちにあそびにきてくれる?きっとお母さんが、おいしいものも用意してくれるし、その日は雨がふってもだいじょうぶ!ぜったいみんなであそべる日だよ」

  そうして、茜は一週間後のお誕生日会に銀を誘って別れました。
しおりを挟む

処理中です...