狐ノ橋

岬野葉々

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  茜と別れた後の銀は、足取りも軽く、ぴょんぴょんと跳び跳ねながら、巣穴へと向かいます。
  生まれてから初めて友達ができ、その上お誕生日会にまで呼ばれた銀は、嬉しくてたまりません。

  銀には、両親がいません。
  銀は物心ついた頃から、村人達相手にいたずらをし続けて、自分の寂しさを紛らわしてきました。

  あのね、いたずらをして、人をこまらせるより、こまっている人がいたら、たすけてあげるの。
  そっちのほうが、すてきじゃない?
  こらーっ!っておこられるんじゃなくて、ありがとう、って笑ってもらえるんだよ?

  木の下で並んで話した時の茜の言葉が、銀の心の中で次々と浮かんでいきます。
  巣穴に戻ってまるくなった時もまだ、銀は幸せそうに微笑んでいました。


  温かくうきうきとした銀の心とは裏腹に、夜半から山に重く湿った空気がたちこめました。

(雨の匂い…………)
  銀はひげをぴくりと動かして、少ししょんぼりとしっぽを丸めましたが、気を取り直したようにつぶやきました。

「茜ちゃんのおかたづけ、早く終わったら、それだけそれからたくさん、こころおきなく遊べるかな……!?」
  
  そうだ!その間に、茜が喜びそうなものや場所をたくさん見つけよう!
  
  その思いつきに銀は顔をほころばせ、今度は機嫌良さげにぱたぱたとしっぽを揺らせ、またゆっくりと眠りについていきました。


  次の日。
  銀の思った通り、明るくなる前から、しとしとと霧のような雨が降りだしました。

  巣穴からちょこん、と頭を出した銀の表情は、少し残念そうなものから、きりりと気合いのこもったものへと変わりました。

「これくらいの雨なら、だいじょうぶ」
  銀はその小さな身体を生かして、木立の中を駆け回り、美味しい木の実やきれいな石を集めたり、絶好の遊び場などを調べたりしました。

  次の日、その次の日も雨でした。
  雨足はだんだんと強くなってくるみたいです。

  銀は何度も空を見上げてはため息をつき、それでも同じように、茜を喜ばせる贈り物や遊び場所を求めて過ごしていました。

  巣穴の中はもう、茜への贈り物でいっぱいです。
  銀はそれをうっとりと眺めながら、どれが一番茜のお誕生日の贈り物に相応しいか、考え始めます。

  外の雨はずいぶんと激しくなってきていました。

「……あと三日たったら、茜ちゃんのおたんじょう日。おたんじょう日になったら、雨でも会える」

  銀はまた一つため息をつき、心を切り替えたように残りの三日間は巣穴の中で、ああでもない、こうでもないと茜への贈り物を選んで過ごしました。


  雨が降り続いた六日目。
  銀が巣穴で茜への贈り物を選んでいた頃、茜の住む村にある、唯一の橋が流されました。
  隣の村へと行き来する、大切な大切なたった一つの橋です。
  この橋がかかっている川は、流れがひどく急なため、橋を作るのは大変でひどく手間も時間もかかります。
  けれども、大雨による増水で何度も流されてしまうのです。
  今回流された橋は、今度こそ、と村人達が知恵を出し合い、力を合わせて作り上げた橋だっただけに、村人達の落胆ぶりはひどく、困り果てていました。

  銀はその頃、巣穴の中から空を見上げ、
「明日のおたんじょう日には、雨もやみ、からりと晴れればいいなぁ」と声に出し願っていました。
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