引きこもり☆新婚生活

十 的

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「清太。話があるの。開けていい?」
 母の声が、俺の耳に届いた。
 俺は、何も言わない。するといつも通り、母が部屋に入ってくる。
「清太。あのね、突然だけど。お引越しすることになったの。あなただけ」
 それは、あまりにも急な話だ。突然すぎる。
 俺は思わず、顔を母の方へ向けた。すると母は、話を続ける。
「そこには、あなたの奥さんになってくれる人もいるんだって。だから、決して悪い思いはしないと思う。けれど、私達、お父さんとお母さんとは、しばらく会えなくなるの。いいわね?」
 俺に、奥さん?
 母や父と、会えない?
 どういうことだろう。
「詳しく、教えて」
 俺は、全てのことがどうでもいいと思っているけど、しかし母が今言っているのは、俺の今後のことだ。
 自分のことなら、できるだけ詳しく知っておきたい。
「そう、ね。いきなりこんな話しても、驚くだけよね。いい、聞いて。これは、あなたのことだけど、あなた以外の人のためでもあるの」
 母はそう前置きして、今地球が、どういう事態に陥っているかを説明した。

 地球から7億光年離れたとことにある星、オールガール星。
 そこには、地球人より優れた文明、技術を持つオールガール星人が暮らしているらしい。
 そしてオールガール星人の宇宙探索計画により、地球と我ら地球人が発見された。
 そのためオールガール星人は、地球人にコンタクトをとった。
 そのコンタクトの内容は一つ。男をよこせというもの。
 実はオールガール星人は、女性だけしかいなく、男は存在しないらしいのだ。
 なのでオールガール星人は、どうにかして男を手に入れなければならない。
 そのため、オールガール星人は地球人に大量の成人男性を要求した。
 この要求を断れば、オールガール星人と地球人との戦争が始まるらしい。いや、オールガール星人は7億光年離れた星からやって来れる技術を持つ勢力。きっと地球人はなすすべもなくやられるだろう。というか、オールガール星を攻撃できる手がない。
 なので、各国は男の提供を受け入れた。そして日本は、働いていない成人男性、即ちニートをオールガール星人に差し出すことに決めた。
 そしてニート兼引きこもりである俺が、オールガール星に送られることになった。というわけだ。

 そこまで話すと、母は泣いた。
「ごめんね。清太。もしかしたら、もう二度と会えないかも。いいえ、地球に帰ることすら、できないかもしれない」
 そうか。それで俺は、この部屋を出て行かなければいけないのか。
 まあ、そういうことなら、仕方ないか。
「母さん、泣かないで」
「清太」
「今まで生かしてくれて、ありがとう」
 そう言うと、母に抱きしめられた。
 こうして俺、田中清太はオールガール星に行くことになった。

 翌日、俺は10年以上ぶりに家を出て、東京湾に行った。
 外出は怖かったが、俺は行かないといけない。というか、今は俺でもできることがあるんだ。なら、やらないと。家族のためにも、地球のためにも。
 そう、ちょっと思う。
 こんな風に外を移動するのも、小学生以来かあ。
 俺は少し、昔を懐かしむ。
 俺はもともと、一人が好きな男だった。
 それに、暗いところも好きだし、静かなところも好きだった。だから、友達なんて作らなかった。
 最初は頑張って、いや、無理して幼稚園や学校にも行ったけど、気づいた時には心と体を壊していた。
 人形よりかはちょっと動く程度。いや、最近の動く人形よりも動かないかもしれない。そんなのが、俺。
 そんな俺に、例え異星人でも、妻ができるのだろうか?
 はっきり言って、未だ半信半疑だ。でも俺は、母につれられて東京湾に来た。
 すると、東京湾には円盤型のユーフォーが停泊していた。
 ユーフォーだ。
 初めて見る。けど、別にユーフォーが好きでもないので、ふーん。というだけ。
 ユーフォーの周囲には人がいなかった。というか、警察が通行止めを行っていた。
「田中清太、来ました。提供ナンバーは、777です」
「はい。777番、田中清太さんですね。確認完了しました。では清太さんだけ、来てください」
「清太、いってらっしゃい」
「うん。いってきます」
 また母に泣かれた。目の前に母がいるのに、何もできない自分がちょっと悔しい。
 いや、俺は母の分まで、頑張るんだ。
 正直久しぶりに外にいるせいですっごく怖いけど、なんとか警察の人についていく。
 すると、ユーフォーから通路が伸びているところがあって、そこにイスとテーブルが置いてあり、そこに座っていたクリーム色の髪の女性が俺を見た。
 思わずビクッと震える俺。女性はにっこり笑顔を見せながら、近づいてくる。
「山本さん、彼が移民者?」
「はい。提供番号777、田中清太さんです」
「そう、清太さんって言うのお。ふふ、よろしくね?」
 そう言って女性が膝に両手を置いてかがみ、胸の谷間を見せてくる。俺は思わず、遠ざかった。
「あらあ、嫌われちゃった?」
「い、いえ。けど、人、怖い」
「あらあそうなのお。ふふ、かーわいい!」
 おかしな人だ。俺を見て、ずっと笑顔で。ひょっとして彼女が、宇宙人?
「では、自分はこれで」
「はーい。まったねー!」
 俺を残して去る警察。女性は彼に手を振ってから、また俺を見て笑顔を見せる。
「それじゃあ清太さん。この通路を通って、そこにもう一人いるお姉さんの案内に従って?」
「は、はい」
 俺はまた女性から遠ざかってから、おどおどと言われた通りにする。
 すると長い通路を歩いてユーフォーの中に入ったところで、青紫色の髪の女性と会った。
「あなたが清太さんですね?」
「は、はい」
「では、どうぞこちらへ」
 女性が歩いていくので、俺はついていく。やがて、一つの部屋に入った。
 その部屋には、シャワールームみたいな場所と、人が寝られる台があった。
「清太さん。まず、あちらのクリーンルームで体を洗浄してもらいます。次にあちらの台に寝てもらって、メディカルチェックを受けてもらいます」
「はい」
「というわけで、ここで裸になってクリーンルームに入ってください」
 俺は言われた通り裸になる。ちゃんと仕切りになるカーテンがあったので、その中に隠れて済ます。
 慌ててシャワールームみたいな場所に入って、そこで温風とすぐ乾くミストをかけられ、数分後、そこから出る。
「清太さん。着替えを用意しました。次はメディカルチェックです」
「はい」
 新しい服に着替えてから、次は台の上にねそべる。
 それも数分で終わり、また女性に声をかけられた。
「清太さん。身体検査は終わりです。どうやらあなたもオールガール星に来て大丈夫なようです」
「はい」
「では、これを首につけてください。私達の言語の翻訳機です」
 そう言って、首輪を渡される。
 一応つけた感じ、なんともない。
「では次に、こちらへ」
 また女性についていくと、大部屋に案内された。そこには既に、何百人もの男がいた。
「しばらくここにいてください。トイレはあっち。食事は時間がきたらあっちでとれます」
「は、はい」
「あと、これを」
 女性が持っていたタブレットのようなものを、ここで渡される。
「これは?」
「指名リストです。あなたは自分の妻を、自分で選べます。ただし、オールガール星についたら時間切れ。こっちが勝手に妻を決めてしまうから。そこのところ、注意して」
「は、はい」
「では、ごゆっくり」
 女性はそう言って、部屋を出る。それじゃあ俺は、どこにいよう。なるべく暗くて静かなところがいいなあ。
 でも、見渡す限り暗い場所はない。人もまばらだが、自然と等間隔に座っていて、広いといえるスペースがない。
 いや、一つだけ言えることがある。皆、部屋の端を好んでいる。俺も端がいいな。あいや、でも、広さを考えれば真ん中あたりか。
 ああ、あとは、人通りがあるトイレ近くと食事スペース近くはやめておこう。となると、真ん中あたりか。そこら辺で、座っていよう。
 ちょっと歩いて、適当に座る。あとは、ああ、このタブレットで、妻を決めないとな。
 あの人は、最終的には勝手に決めてくれるって言ってたけど、自分がお世話になる人だ。出来る限り、自分で決めた方が良いだろう。
 タブレットを見ると、いくつかの検索方法が表示されていた。

 登録ナンバー順に妻を探す。
 バスト順に妻を探す。
 やさしさ優先で妻を探す。
 趣味で検索。

 なるほど。これらを頼りに妻を探せばいいのか。
 なら選ぶのは、やさしさかな。俺はニートで引きこもりだ。それを許してくれる人が良い。というか、それ以外の人とはうまくできないだろう。
 やさしさ優先で妻を探してと。おお、いくつもの顔写真と名前が見れた。皆美人だ。
 でも、いっぱいいるなあ。この人達皆がやさしいのかなあ?
 試しに右上の人の顔写真をタップ。するとその人の情報が表示された。
 年齢、86歳。は、86歳?
 これは、ちょっと、どうなんだろう。あいや、異星人だから、それでもいいのか?
 でも、俺はまだ20代だ。どうせなら同年代くらいがいい。きっとその方が気が合うこともあるだろう。いや、俺と気が合う人なんて会ったことないけど。
 ひとまず、この人はやめよう。そして、20代の人を探そう。
 すると、確認する人皆が、70代、60代、50代。大体そんな感じだった。30代はおろか、40代すらかすりもしない。
 何十人も確認したところで、俺はすっかり妻探しに飽きてしまった。
 はあ。まさか妻を選ぶだけでも大変とは。いや、全員美人だしきれいだったけど、でもやっぱり、この中から誰か一人を選ぶとなると、できるだけ自分の希望を入れたいよなあ。
 そう思い、一度タブレットから目を離すと、その後はなかなかやる気が起きなかった。もともと俺は、ずっと一人でじーっとして生きていたのだ。それ以外のことなんて、なかなかできない。俺はそんな人間だ。

「食事の時間でーす。食べてくださーい!」
 食事スペースの方で、そんな女性の声が聞こえた。
 ほとんどの人が、食事スペースに集まる。俺は、いいや。もともと、一日一食ですら多い食生活だし。少なくとも今は、食べたくない。
 ただ、人が移動するところを見ているだけというのも気が滅入る。仕方ない。ここはタブレットに意識を移そう。
 俺はまたタブレットを見て、妻探しを始める。端から順に女性の顔をタップして、年齢を確認。それを繰り返す。
 気が遠くなりながらそれを続けていると、ある時、俺の指が止まった。
 ネーリ・イスタネッカ。33歳。
 30代だ。20代じゃないけど、今まで見た中で一番若い。
 俺は彼女に興味をもった。若いだけが決め手じゃないだろうけど、興味を持つきっかけは大事だろう。ええと、身長、体重、3サイズはいいとして。
 職業、ボクシング。趣味、トレーニング、かあ。
 格闘技、苦手だなあ。趣味も、合いそうにない。
 でも、だからってそれを否定する気もない。というかむしろ、彼女、ネーリが仕事と趣味をしている間、俺は部屋でじっとしてい放題なんじゃないか?
 そう思うと、彼女に興味が出てきた。もしかしたら、彼女は結構条件が良いかもしれない。俺のひきこもり生活も、認めてくれるかも。
 そう思い彼女のページを見ていると、下にメール送信機能と電話機能があった。
 俺は思わず、彼女にメールしてみようと思い立つ。もしメールのやりとりで彼女が良い人そうだと判断できた時は、このまま彼女を妻に選ぼう。返信がなかったりした時は、仕方ないけどまた妻を選び直そう。
 電話は、恐ろしくてかけられない。大体、ろくに人と話したこともない俺が、妻になってくれるかもしれない人と話せるわけないじゃないか。ここはメール一択だ。
 ええと、ネーリ様。地球人の者ですが、あなたを妻にしたいと思いました。ですが俺でよろしいでしょうか。よろしければお返事ください。
 よし、送信。
 そこまでしたところで、俺はすっとした。なんだか、一つ大きなことをやりとげた気分。
 彼女、ネーリから返事、くるかな?
 そんなことを思いながら、俺は返事を待った。
 そうして、ネーリのことを考えているだけで、俺はちょっとドキドキした。

 タブレットに時間機能があったので、俺は今が何時かも知ることができた。
 そして俺がメールを送って二時間後、突然タブレットから音が鳴った。
 慌てて見てみると、タブレットの表示が電話モードになっているようだった。

 電話 ネーリ 電話に出る 拒否

 メ、メールを送っただけなのに、いきなり俺に電話?
 なんだこの人。俺、ちょっと苦手かも。
 俺はごくりと喉をならしてから、ひとまず電話に出るをタップする。
 すると画面に、ネーリの顔が表示された。
「あ、出た。凄い凄い、初めまして!」
 ネーリは満面の笑顔になる。
 こ、これ、もしかして、テレビ電話?
「あれ、もしもーし。聞こえてる、よね?」
「あ、あの、初めまして」
「はい、初めまして!」
 ネーリは元気だ。元気すぎる。
 それに美人だし、可愛いし、まだ30代。
 本当に俺が夫でも、いいのだろうか?
 一瞬そんなことを思うが、すぐに目の前のネーリの顔に集中する。
「あなたが私を選んでくれた旦那さんですよね!」
「お、俺は、まだ、夫じゃないよ。ただ、ネーリ、さんが、気になっただけで」
「あはっ、うれしい! 私のことは、ネーリで良いよ。呼んで!」
「ね、ネーリ!」
「きゃあーん、うれしいー!」
 ネーリはとっても喜んでいる。でも、俺はニートで、引きこもりだぞ。それで、いいのか?
「あの、ネーリ」
「ん、何、旦那様?」
「俺は、清太。清太っていう名前だ」
「はい、清太!」
「それで、ネーリは、本当に俺でいいのか?」
「ん、何が?」
「だって、俺は、ニートで、引きこもりで、まともに君とも話せないかもしれない。それでも、君を妻にしてもいいのか?」
 そう言って、俺は少しだけ希望を見る。
 もし、今まで通り、引きこもり生活を続けられるのなら。そんな環境があるのなら。
 それは、すっごく、すっごく魅力的だ。
 だから、俺はできるなら、いや、どうしても新たなひきこもり生活が欲しい。
 だから、もしネーリが俺を許してくれるなら、甘やかしてくれるなら。
「だって清太は、私を選んでくれたんでしょ?」
「う、うん。一応」
「だったら私は、清太が大好き! 私は清太のこと、なんでも許せちゃう!」
 俺は、出来る限り、ネーリの力になりたいと思う。彼女と一緒に、なりたいと思う。
「あ、ありがとう」
「うんうん。ね、あのね、清太。私、清太にいっぱいいろんなことしてあげたいなあ。清太は嫌いなもの、ある?」
「ん、人と、音」
「うっ。それは難しいなあ。けど、私、頑張る! 清太のために、頑張る!」
「ネーリ」
 ネーリは良い子だ。めちゃくちゃ良い子すぎる。きっと俺には、もったいないだろう。
 けど、今俺には、ネーリを選べる権利がある。なら、そのチャンス、使いたい。
「ネーリ。ありがとう。俺も、何か、頑張りたい」
「うん! ありがとう、清太!」
「それじゃあ、ひとまず、電話、切るよ」
「ええ、もう? 私もっと、清太と話していたいよお!」
「迷惑じゃない?」
「別に迷惑じゃ」
「何話してるんですか、ネーリ先輩」
「あ、ちょ、今はダメー!」
 あ、向こうから電話が切れた。
「ふう」
 なんだか、元気で明るい人だったけど、悪い人じゃなさそうだったな。
 よし、それじゃあ俺はネーリを、妻に決定。と。
 こうして俺は、何億人もいる女性の中から、ネーリを選んだ。
 その後も、ユーフォーにいる間、何度もネーリから電話とメールが来た。
 俺は話すことなんてなかったけど、ずっと俺に話し続けるネーリはとてもうれしそうだった。

 ユーフォーに乗って三日後。とうとうユーフォーが動き出した。
「皆、ユーフォーが浮いてる!」
 誰かがそう叫ぶと、何人かの男が窓へと近づいた。
 俺は、その間もじっとしている。
 別に、外の景色なんて見てもどうしようもないからだ。それに、景色を見るのは好きじゃない。
 それからずっと、窓の方にいるやつらは驚きっぱなしだった。
「お前ら、見ろ。今宇宙だ!」
「わあ、瞬間移動した!」
「あの水色の星は、あれが、オールガール星か!」
 ほとんどの男達が興奮している中、やがて、部屋中にアナウンスが流れた。
「皆さん、オールガール星に到着しました。スタッフの指示に従い、ユーフォーを降りてください。タブレットは、お持ちいただいても残していただいても構いません」
 すぐに女性が部屋に入って来て、俺達を誘導する。
 俺は、タブレットを持っていくことにした。これでネーリと電話もメールもできるし、もしかしたら持っていてもいいかもしれない。
 ユーフォーを降りた地は、空港のような所だった。俺達はそこで、分けられる。
「あなたは、妻を選びましたか?」
「はい。ネーリを選びました」
「ネーリ、ですね。ではこちらのグループで待機していてください」
「はい」
 どうやら、妻を決めたらしい他の男達と待っていると、その後一人ずつ名前を呼ばれて、更に分けられる。
 その後、俺達は歩かされ、小型ユーフォーに乗せられる。その後、一人ずつ妻の家に送られた。
 俺の順番は、真ん中あたり。赤い屋根の一軒家の上空でユーフォーが止まると、ユーフォーの乗組員にロープのわっかに足をかけ、更に両手で捕まるように言われた。更にしっかりベルトもつける。
「すぐに地上まで下りれますので、しっかりつかまっていてください。手と足を離した後、ベルトを外してください」
「はい」
「では、よい新婚生活を」
 俺がロープにつかまると、足元が開いた。そのまま俺を乗せたロープが下におろされる。
 今日は風が少しあるようだったが、このロープは、どういうわけか少しもゆれなかった。
 そして俺が下りた地上には、赤い髪の美女、ネーリがいた。
 俺は地上に降りたち、ベルトも外す。すると、すぐにロープが回収され、ユーフォーも飛んでいく。
「お帰りなさいませ、旦那様!」
 そしてネーリが、何度もテレビ電話で見た、いや、それ以上の笑顔で俺を迎える。
 彼女が、俺の、妻。
 俺は、ひきこもりだけど、何もできないけど。
 できれば、ネーリを悲しませたくはないな。
「これから、よろしく。ネーリ」
「わーい! 本当に私の清太だー!」
 そこで俺は、ネーリに押し倒された。
「あいてっ!」
「あ、ごめん清太、大丈夫?」
「う、うん。ちょっと痛いだけ」
「痛いの? ごめんなさい。許して?」
「うん。許すから、とりあえず、俺に、引きこもれる、薄暗い部屋をちょうだい」
「うん! こっちだよ清太。ほら、立って!」
 俺は押し倒されたんだけどなあ。
 そう思いながら、俺はネーリに手を引っ張られ、そのまま家につれこまれた。
「ここが清太の部屋だよ!」
「おお、ありがとう」
 案内された部屋は、なかなか良かった。
 テレビも本棚もいらないが、大きなベッドがある。それだけで、十分だ。
「それじゃあ俺は、もう引きこもるから、これで」
「何言ってるの、清太。折角私達会えたんだよ?」
 そこで俺は、今度はやさしく抱きしめられ、キスされる。
「さ、子作りしよ?」
 そうか。オールガール星人は男を必要とする人種。つまりやっぱり、俺を求めるのはそういうことがしたいからか。
 俺はまた、今度はベッドの上に押し倒され、そのままあんなことやこんなことをされた。
 その間俺は、ただされるがままだった。

 夜。食卓でネーリと共にごはんを食べる。
「うふふ。清太。今晩は清太の大好きな卵料理だよ!」
 そう。今俺の前には卵料理が並んでいる。事前に電話で伝えていたからな。ありがたい。
 でも、オムレツにオムライスに、温泉卵、卵スープ。
 これはちょっと、作りすぎなんじゃないだろうか?
「ネーリ、ありがとう。でも、俺こんなにいっぱい食べられないよ。それに、ネーリのごはん、俺のと違うんだけど」
 ネーリのごはんは、鶏肉とブロッコリーを焼いたもの。のみ。
「うん。私のごはんはいつもこれだから。清太も同じものが良かった?」
「いいや、そうじゃなくて。同じ物を作った方が楽なのに、わざわざ俺のために、ごめん」
「そんな、気にしないで。私は清太のためを思って作ったんだよ。全然大変じゃなかったんだから!」
「それなら、いいけど」
 なんだかそう言わせているようで、心苦しい。
「ネーリ。今度からは、俺のごはんも、ネーリと同じでいいから」
「え、清太、いいの?」
「うん。ネーリの負担と思うと、嫌だ」
「そう。清太がそう言うなら、そうするけど。清太、やさしいね。好き!」
 そう言って笑顔を見せるネーリ。
 俺は、なんとも言えなくなる。
 というか、会話というものに慣れてないから、ちょっとギクシャクする。
「ひとまず、食べよう」
「うん! いだきます!」
「いただきます」
 ネーリの作ったごはんは、とても美味しかった。
 けど、用意してもらった卵料理を半分以上残してしまって、少し申し訳なく思った。
「ネーリ、ごめん。やっぱり残しちゃった」
「ううん、気にしないで。私、清太がお腹いっぱいになってくれて幸せ!」
「残りは、明日の夜また食べるよ」
「あれ、朝ごはんは別のが良い?」
「いや、俺は食べて一日一食だから。夜しか食べないよ」
「そんなんじゃダメだよ清太。一日三食食べなくちゃ!」
「ええ、いいよ」
「清太、私は清太の妻だよ。旦那様の体調管理は私の仕事。だから食べなきゃだーめー!」
「ええ、でも、用意されても食べられないよ?」
「ううっ。それはあ、じゃあ、何か考えとく!」
「うん。でも、何もしなくていいから」
「それは、や! 私、清太の妻だもん!」
 俺はネーリの勢いに逆らえず、なんでもされるがままになってしまう。
 うう。ネーリは良い人なんだろうけど、ぐいぐいくるよお。なんとかならないかなあ。
 まあ、ネーリが仕事にいけば解放されるか。もう少しの間だけ、耐えていよう。

 その後、ネーリと一緒にお風呂に入って、その後一緒のベッドで寝た。
 ベッドが大きかったのはこういうわけか。
 ちなみに寝間着や着替えなんかは、先にネーリの家に送られてあった。準備の良いことである。
 そして俺はまた、ネーリとあんなことやこんなことをした。
 ネーリと一緒にいる途中で、俺の意識は途切れた。

 目覚めた。
 カーテンの端を見ると、わずかに朝日が入ってきている。もう朝か。
 ネーリは、いないな。静かだ。いいな。
 やっと、再び引きこもれる。
 俺はベッドから出て、じっとする。しばらくすると、突然部屋のドアが開いた。
「清太ー! 起きてるー?」
 途中から声を静かにするネーリ。俺は返事代わりに、ネーリを見た。
「あ、清太おはよう! あのね、清太。私朝ごはん作ったよ。飲んで!」
「え、飲む?」
 何を言ってるんだ、ネーリは?
「清太は、朝ごはんは食べられないんでしょ。だったら、スムージーは飲めるんじゃないかなって思って。だから、作ったの。一緒に飲もう?」
「う、うん。じゃあ、持ってきて」
「はーい!」
 ネーリは嬉しそうに、ドタドタと部屋を出た。
 俺なんかといて、何がいいんだろう?
 そう思ったけど、でも、ネーリは妻なんだよな。
 放っといてほしいと思う反面、ネーリとはうまくやらないといけないとも思う。
 だって俺は、地球のために売られた交渉の道具。何かまずいことをしたら、そのしわ寄せが地球にくることもあるかも。
 いや、今俺は地球にいないから、地球がどうなったって関係ないけどさ。
 いやいや、でも、母と父は一応世話になった。二人に仇を返すわけにはいかないし。
 それに、ネーリは、たぶん本気で俺のことを好きでいてくれている。
 ただ、俺が男ってだけで好きでいてくれるだけかもしれないけど、折角の好意をはねのけるようなことも、やっぱりできない。
 まあ、このままネーリに振り回されたら、その内死んでしまうかもしれないけど。
 その時は、その時か。俺は押しかけ夫。全権利はネーリが握っている。
 やっぱりできるだけ、何かネーリのためにしないといけないのかな。
 そう思い、考えていると、ネーリが二杯のスムージーを持ってやって来た。
「はい、清太。一緒に飲もう!」
「う、うん」
 緑色のスムージーを一杯もらって、見つめる。
「ごく、ごく、ごく。うん、美味しいよ!」
 ネーリが笑顔で空のスムージーを俺に見せつける。よし、それじゃあ俺も、飲もう。
「ごく、ごく、ごく」
 あ、本当に美味しい。初めて飲むけど、気分がスッキリする。
「うふふ、飲んでくれた。やったあ!」
「ありがとう、ネーリ」
 俺はネーリにコップを返した。
「はい、ごちそうさまでした。明日も持ってくるね!」
「うん。ありがとう」
「うふふ!」
 ネーリは機嫌よく部屋を出て行く。
 ちょっとにぎやかな生活が始まったけど、俺も頑張って、慣れよう。
 何より、ネーリが嫌いなわけじゃないからな。

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