真夏の館

十 的

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前原清美1

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 暑く、日差しが強い夏の日。
 私達は、限りある夏休みの一日を、皆との勉強会に費やしていた。
 断言しておくが、こんなことはめったにない。基本、私達は勉強が嫌いだ。できることなら、勉強の無いステキな生活を送りたい。けどそれは不可能だ。なぜなら私達は学生なのだから。学生は勉強ができるということを、日常で、学校で、示さないといけないのだ。それが学生全員の使命であり本分なのだ。
 まあ、本当はさんざん遊び回ったあげく、皆親に勉強しろって言われたから、仕方なくやってるだけなんだけど。なので、今日は大人しく勉強する。そしてきっと明日以降はまた遊び回る毎日に戻るだろう。夏休みばんざい。
 今いる場所は、倉中一夜の部屋。真ん中にちゃぶ台を置いて、私と、粉雪季目、戸川一夢、東井俊二が、四人でちゃぶ台を囲み、勉強道具を広げている。
 一夜は、ベッドの上でノートを広げている。このポジションのまま、私達はもう1時間近く勉強していた。
 私の学力は、そこそこだ。全ての教科で、可がギリギリとれるというくらい。一応、このままでは安心できないとは思っている。できることなら、ここで頭をパワーアップさせておきたい。まあ、一日でなんとかなるのならだけど。
 季目は、優秀な生徒だ。私は季目が80点以下の点数をとったところを今まで見たことがない。なので季目は今、私達に勉強を教える先生となってくれている。
「なあ、季目。ここがよくわからないんだけど」
 そう言ってさっきから季目に何度も質問しているのは、一夢。彼は季目のことが好きだ。一夢は季目と話をしたくて何度も季目に質問しているのだ。その考えが見え透いているから、私はつい冷めた目で一夢を見てしまうが、季目が嫌がっている様子はないので、割って入ることもしない。けど、一夢の恋が成就する可能性も、今のところない。季目は相変わらず一夢のことをなんとも思ってないようだ。
「むむむむむー。なんてことだ。考えても全然わからんぞ」
 そう言いながらペンを唇の上に乗せて遊んでいるのが、俊二。この中で一番バカだ。でもなぜかテストではいつもギリギリセーフな点ですんでいる。運が良いというか、勘が鋭いというか、結構どんな時もなんとかしてしまう男だ。
「んー、よし。きりのいいところまで終わったぞ」
 ベッドの上でそう言う、一夜。彼は結構頭が良いが、言動がバカよりだ。この男三人が出会って仲良くなったのは、きっと互いにひかれあったゆえなのだろう。小学校に入る前からこの三人は仲良くて、私と季目はそんな三人のバカを見て楽しんでいたから、もう結構長い仲になる。
「なあ、ところで皆。明日の予定はまだ、誰一人として決まってないよな?」
 一夜が私達を見て言う。
「ああ、ないな」
 一夢が言う。
「ああ、ないぜ」
 俊二が言う。
「まあ、ヒマだけど」
 私が言う。
「私も、空いてるけど」
 季目が言う。
「なら、明日は俺につきあってくれよ。そしてそれが終わったら、皆でパーティーをやろう。きっと、最初から最後まで楽しいぞー」
 一夜が楽しそうに言う。
「パーティーか。いいな、やろうぜ」
 俊二が言う。
「季目とパーティー。絶対やろう」
 一夢が言う。
「パーティーは良いけど、つきあえって、何に?」
 私が訊く。
「最後はパーティーだとして、最初は、何をするの?」
 季目も訊く。
「ふっふっふ。よく聞いてくれよ。俺はついに、あの幽霊館に忍び込もうと決心したのだー!」
 一夜が言う。
「幽霊館?」
 一夢が言う。
「ほう」
 俊二が言う。
「はあ?」
 私が言う。
「ひっ」
 季目が言う。
 私達は一斉に、季目を見る。すると、季目は慌てた。
「な、なんでもないよ。そう、肝試し。ふうん。そういえば、夏にぴったりだね」
 季目が慌てながら言う。
「いや、そりゃ今は夏だけどさあ、でもあそこはどうよ。絶対さけた方が良いんじゃない?」
 私は、一夜の思いつきに否定的だった。
 私達の町には、一軒の古びた洋館がある。
 そこは、私達の間では幽霊館といわれているところで、誰もが口をそろえて絶対近づいてはいけないと言う。更に、誰かがこの洋館に入ったきり行方不明になったという事件が数件あるとか。まあ、それは根も葉もないうわさだろう。子供を怖がらせるための作り話にちがいない。
「あそこは誰も近寄らないよ。もし私達が行ったなんてばれたら、皆怒られるんじゃない?」
 私が言う。
「いいや、大丈夫だ。誰にも内緒で行って、すぐ帰ってくれば絶対ばれない。というわけで、明日幽霊館に入って肝試ししようと思う。皆、異論はないな?」
 まったく。こんなことを言いだすバカは子供と同じレベルの脳をしているとしか言いようがない。大きくなっても言うことが子供とは、しょうがないやつだ。
「おお、あの行ってはいけない幽霊館か。確かにあそこに行けば、面白いかもしれないな。夏といえば肝試しだし、良いんじゃねえか?」
 だが、そう言うバカは他にもいた。どうやら俊二のやつも乗り気なようだ。
「お、俺は、季目が行くなら、別に幽霊館だろうとバンジージャンプだろうと、どこでもいいぜ」
 一夢のやつは、いつだって季目基準。一歩間違えればストーカーなのだが。
 私はここでちらっと、季目を見る。
「ええっと、どうしようかな」
 悩む季目。季目は良い子だから、行ってはいけない場所に行くというのは否定的だろう。だが、三人のバカが行こうと発言をしているので、何を言えばいいのか悩んでいるに違いない。
 だから私は、はっきり言った。
「別に、悩むことないって。行かなくていいよ、季目。バカ共のバカな考えにつきあう必要は全くない」
「う、うん」
 季目はよわよわしくうなずく。
「季目が行かないなら、俺も行かない。あそこはそもそも、立ち入り禁止場所みたいなものだからな」
 一夢が言う。
「おいおい、それだと行くのは俺と一夜の二人だけかよ。そりゃないぜ。男二人で肝試しなんて、寂しすぎる、切なすぎる、盛り上がらなさすぎる!」
 俊二が言う。
「勝手に寂しくなってうさぎごっこしてな」
 私が言う。
「ぴょんぴょん、ぴょんぴょん」
 俊二が言う。ったく、何言ってんだ、俊二も私も。
「正直に言うと、俺はずっと前からあの館を気にしていた。入ってみたくてうずうずしていた。そのうずうずを、とうとう解放してしまおうと思う。そして、どうせ行くなら皆で行くのが良いだろう。一緒にわくわくを共有しようぜ。良い思い出になると思うからさ。な、一夢、季目、清美。五人で行ってみよう」
 一夜が言う。そう言われてもねえ。
「一夜、あんた、季目は行かないって言ったでしょ。それに、私も行かないから。自分が一人で行くのは怖いからって、友人をまきこもうとしないでよ」
 私が言う。
「俺は怖くない。ただ、肝試しの後の肝試し終了パーティーも盛り上げたいだけだ」
 一夜が言う。
「そうだぞ、パーティーもするんだ。それなら怖くないだろう!」
 俊二が言う。
「肝試しの後の、パーティー。季目と、良い雰囲気に。ちらっ」
 一夢は思考がだだもれだけど、一夢の思い通りになることは絶対にないだろう。
「肝試しもパーティーも、女の子無しじゃもりあがらない。野郎だけなんてナンセンス。わかってくれよお!」
 一夜が言う。
「絶対わかってやるもんか」
 私が言う。
「み、皆が、そこまで行きたいなら、私も、行ってもいいけど」
 そこで、季目がそんなことを言いだした。
「季目が行くのか!」
 一夢が大声を出す。
「別に、怖いわけじゃないし。肝試しくらい、なんともないし」
 季目はそう言うけど、季目の視線が下の方をずっとさまよってる。どうも本気で言っているわけではなさそうだ。
「季目。いいよ。ムリしないで。あいつらはバカだから仕方ないの。明日は私の家で、録画しておいた芸能人達の自由研究大合戦でも二人で見よう?」
 芸能人達の自由研究大合戦とは、どの動物もコーヒーを飲むのかや、トランポリンで人はどれだけ高く跳べるかなど、ありとあらゆる自由研究をして、紅白に分かれて優劣を競うという夏の特別番組だ。ちなみに今年の負けた方の罰ゲームは、わさびずしを食べるだった。
 まだ録画を消してなくて良かったかもしれない。今年のやつは既に一回見たけど、季目と一緒ならまた見てもいい。何より、行ってはいけない場所で肝試しするよりははるかにマシだろう。
「わかった。それじゃあ、こうしよう。今から俺と、季目か清美がゲームをして、俺が勝ったらこの皆で肝試しに行く。負けたら行かないでいい。それでどうだ?」
 一夜がそんな提案をしてくる。そんなの、わざわざ受けなくてもいいんだけど。
「うん、いいよ。何をするの?」
 季目がなぜか、のってしまった。
「季目、良いの?」
 私が、思わず訊く。
「うん。別に、私も乗り気じゃないわけじゃ、ないし」
 季目がそう言うが、やはり元気がないように見える。
「季目、もし怖いのが嫌なら、ムリしなくてもいいんだよ」
 私は季目の心配をするけど。
「ううん。全然怖くない。大丈夫。肝試しなんて、子供の遊びだもん」
 季目はこの様子。はあ、仕方ない。まあ、季目か私が一夜に勝てば、肝試しには行かないのだ。なら、ここで勝てばいい。ここは簡単にゲームに勝って、一夜をぎゃふんと言わせてやろう。
「そう。じゃあ、ここで息抜きに一夜とゲームして、勝って黙らせようか。そうすればこの話もきれいに終わるし」
「うん」
 季目がうなずく。
「よし、それじゃあ俺とゲームだ。題して、相手が思った言葉をあてろゲーム!」
 一夜が話を進める。
「今から俺がノートに言葉を書く。その言葉を、季目か清美が言い当てるんだ。ただし、書く言葉は必ず物で、回答者は俺に3回まで質問してもいい。そうしたら俺は、はいかいいえで答える。ルールは以上だ。いいな!」
「うん。いいよ。つまり、ウミガメのスープをやるんだね」
 季目がうなずく。
「ウミガメのスープ?」
 俊二が言った。私もそう思った。
「出題者が回答者に質問をさせて、それをはいか、いいえか、関係ありませんの、どれかの受け答えでヒントをあげていって、やがて答えを導きだすっていうクイズのことよ」
 季目が説明してくれる。
「へー」
 皆感心した。
「うん。要するにそれだ。俺はそれで勝負しようと言いたかったんだ!」
 一夜が力をこめて言う。しかし、私はここで待ったと思った。
「ちょっと待った。一夜はさっき、質問が3回までって言ったわよね。それって少なすぎるでしょ。もっと回数を増やしても良いと思うんだけど」
 もしその物の特徴を教えてもらえるのなら、ヒントは3つあれば答えられるかもしれないけど、はいかいいえだけなら、3回はきつい。絶対足りないに違いない。
「でも、かといって10回もヒントをあげたら、間違いなく答えられるだろ。じゃあ清美は、何回ヒントがあればいいんだよ」
 一夜が言う。
「それを、これから決めよう」
 私は、自分のノートにある言葉を書いた。
 その言葉は、マリトッツォ。
「今、私がノートに言葉を書いた。一夜は、その言葉をあてるために私に質問して。その質問の回数だけ、私達にもヒントをちょうだい。そして、質問回数が少なく答えられた方が勝者よ。質問回数が同数で正解したら、どちらかが答えられなくなるまでその質問回数以内で交互に勝負し続ける。それでどう?」
 そう言うと、一夜はにやりと笑った。
「いいだろう。その勝負、うけてたとう。これなら、公平だ。やらない理由がない。そして、勝つのはこの俺だ!」
 やたら自信がある様子の一夜。
「お、おもしろそうだな。それ、俺も答えていいよな?」
 そこで、俊二が言う。
「え。じゃあ、2対2で答えを言い合うってこと?」
 私はそう言って、一夜を見る。すると一夜は、うなずいた。
「いいだろう。俺と俊二が、一回ずつ答える。だから季目と清美も、一回ずつ答える。ただし、質問できるのはあくまで俺と季目だけにしよう。それでいいな?」
「ええ、私はそれでもいいわ」
 私はうなずく。
「うん。私が、質問するんだ」
 季目がうなずく。
「俺は、季目を応援してる」
 一夢が言うが、まあ、こいつはいいや。
 私は、にやりと笑う。
「それじゃあ、ゲームスタート。さあ、一夜。まずは私に質問して」
 これで、一夜が質問すれば質問する程、季目が有利になる。
 さて、一夜はどうくるか。
「それじゃあ、まず一つ目の質問だ。それは、食べ物ですか?」
 ふむ。まずはありきたりな質問だ。手堅い。というか、最初はやっぱりこれだよね。
「はい」
「それは、甘いですか?」
「はい」
「それは、ケーキですか?」
「いいえ」
 マリトッツォは、パンの間にクリームをたっぷり入れたお菓子だ。つまり分類上はクリームパン。決してケーキではないはず。
「わかった。答えはかぼちゃの煮つけだ!」
 俊二が言う。
「違います。俊二は、もう答えないでね」
「えー」
 俊二が言う。
「清美、何書いたの?」
 ここで季目が、私のノートを見る。
 すると季目は、ああ。とうなずいた。
「その食べ物は、和菓子ですか?」
 この一夜の質問は的外れだ。ふっ。残念。
「いいえ」
「その食べ物の食材に、タマゴは使われていますか?」
 すぐにまたくる一夜の質問。これは、えーと、クリームは生クリームだけで、あとパンって、小麦粉こねるだけよね?
「いいえ」
「ふっ、そうか」
 一夜が余裕そうな顔をした。
「一夜、これで質問5回したわよ」
 やっぱり質問3回は、ムリに等しいだろう。
「ふむ。確かに質問3回は少なすぎたな。だが、これで的はしぼりこめたぞ。しかし、あえてここでもう一度質問しておこう」
 なんか、一夜はまだ余裕そうにしている。まだ、マリトッツォと断定できる要素は足りてないと思うんだけど。
「ずばり、その食べ物は3文字ですね?」
「いいえ」
 私が答えると、一夜の表情が消えた。
「一夜、なんだと思ったんだ?」
 一夢が訊く。
「ゼリーか、プリンだと思った。タマゴじゃないから、ゼリーだと、てっきり」
 これで一夜の自信が完全に無くなったようだ。ふふん、決めつけてかかるから大事な質問回数を不用意に増やしてしまうのだ。このままたくさん質問してくるがいい。
「これで質問は6回したわね。まだ続きそうだけど」
 私が言う。
「このゲーム、こんなに難しいんだ」
 季目が言う。確かに、季目だって5回以上質問することになるかもしれない。ここは、10回でも20回でも質問させとかないと。
「それで、次の質問は?」
「ええと、食べ物で、甘くて、ケーキじゃなくて、和菓子でもなくて、タマゴは入ってなくて、三文字でもない」
 一夜は一度目をつぶる。そしてすぐに見開くと、私を見て言った。
「じゃあ、何文字なんだそれは。それは、5文字以上ですか!」
「あ、えっと」
 私はとまどう。
 マリトッツォって、ッツォって、何文字?
「こういう場合、小さいつや、小さいヤみたいな文字は、カウントしなくてオーケー?」
 私がさりげなくヘルプを求める。
「ああ、カウントしない」
 一夜が言う。
「じゃあ、いいえ」
「4文字のように見えて、小さいつややを入れれば、五文字以上の物、か」
 一夜があごに手をあてて考える。
「あの、それは質問2回分ってことでいいよね?」
 私が言う。
「いいや、1回分だ。俺は1回しか質問してないからな」
 一夜が言う。
「季目、納得できる?」
 私が季目に訊く。
「うん。仕方ないよ。このゲーム、思った以上に難しいし」
 季目がうなずく。私は、一夜を見た。
「だって。一夜、季目に感謝してよね」
「小さいつが入る、小さいやが入る」
 一夜は今考えるのに必死なようだ。まあでも、小さいやはないんだけどね。これで更に困ってくれると助かる。
「あ」
 そこで一夜が止まった。
「どうした」
 俊二が言う。
「あったぞ、小さいつもやも使う、そしてそれらを除けば4文字になる食べ物が!」
 うそお。
 一夜は自信にあふれた表情で私を見て、言った。
「答えは、シャーベットだ!」
「違います」
 一夜の表情がまた消えた。
「これは、一夜は答えを間違えてしまったということで、そっちの問題を待たずして、私達の勝利っていうことでいいのかな?」
 私は思わず笑いながら言う。
「いや、今のも質問だ。答えは、シャーベットだ、ですか。って言おうとしたんだ!」
 一夜の言い訳が苦しい。
「まあ、折角の質問なら、カウントしてあげてもいいけど。季目はどう思う?」
 私は季目を見る。
「これで、質問は8回したね!」
 季目がそう宣言する。
 あ、勝利宣言は、しないのか。まあ、季目がまだやる気なら、いいんだけど。
「ふう。で、一夜。まだ質問はある?」
「シャーベットでもない、シャーベットでもないなら、他の、小さい文字を入れて5文字以上になる、4文字に見える、ケーキでも和菓子でもない甘い食べ物」
 一夜は考えこむ。むう、ここで粘るなあ、こいつ。
「あ」
 その時、一夜は私を見た。
「何?」
 私はちょっと余裕げに彼の言葉を待つ。
「ひょっとしてその食べ物は、流行った、あるいはバズッたものですか?」
 ん、あー。
 ここで、感づいてしまったかなあ。
「はい」
「答えはマリトッツォだあ!」
 一夜が喜ぶ。
「正解」
 私はすぐに、当てられたことを認める。
「すげえなあ一夜。俺は一文字もわからなかったぜ。どこでわかったんだ?」
 俊二が感心する。一文字わかりそうなら基本全部わかるっつうの。
「もう4文字くらいの甘いものっていったら、大分限られるはずだから、必死に言葉を探したんだよ。いやあ良かった、質問数をどうにかおさえたぜー」
 一夜がそう言って額の汗をぬぐう。はたして、質問数は本当におさえられたのだろうか。私としては、もう少し減らせたと思うんだけど。まあ、それはいいか。たぶん、これで私達は有利になった。勝利は目前といっても過言ではないだろう。
「これで、一夜が質問した回数は9回か。だから、季目が一夜の問題を、9回までの質問で解けなかったら、季目の負けで、明日全員で肝試しするんだな」
 一夢が言う。
「まあ、そうなるわけだけど、それで、一夜。私達に何を当ててほしいか、決めた?」
 私が言うと、一夜はうなずいた。
「ああ。最初からこれだって決めてたんだ」
 一夜はノートに答えを書いてから、私と季目を見る。
 ふむ。書き方を見た限り、答えは4文字以上8文字以内ってところかな。
「さあ、ここからは攻守交替だ。季目、なんでも質問してきな」
 一夜が自信ありげに言う。
 ではここから、本番だ。
「なんて書いたんだ?」
 俊二が答えを確認する。そして、何やらうなずいてちゃぶ台に戻った。
「なるほどな」
 俊二が納得するもの。か。ひょっとしたら、一夜が好きな物かな?
「じゃあ、それは、食べ物、または飲み物ですか?」
 季目が早速質問する。
「いいえ」
 一夜が首を横に振る。
「それは、皆が普段使うものですか?」
「いいえ」
「それで、何かを作りますか?」
「はい」
 私は季目を見る。季目も私を見た。
 これで質問は3回したけど、結構物の候補はしぼれたと思う。
 食べられない物で、皆は普段使わず、何かを作る道具。
 例えば、トンカチとか、ドライバーとか、ミキサーとか。
 けど、一夜といえばまずはこれだろう。
「ねえ、一夜。ここであてにいっていい?」
 私が言う。
「なんだ、もうわかったのか。なら、本当にそれが合っているかどうか、聞いてやってもいいぞ?」
 一夜が余裕そうに言う。
 じゃあ。
「答えは、ビデオカメラ」
「な、なんでわかった!」
 ああ、やっぱり。
「あちゃー、もう当てられたかー」
 俊二もしっかりリアクションをとる。
「本当に、ビデオカメラにしたんだ」
 季目が少し驚いている。まあ、私も少し驚いている。
 ビデオカメラは、動画を作るもの。そして一夜は、スマホではなくカメラで動画を撮影するのが好きな変わり者。
 でもまさか、自分の好きな物を問題にするとはねえ。
「私はただ、一夜の好きな物を言っただけよ。簡単に想像できる物を答えにしたのがまずかったわね」
 私は余裕をもって言う。けど、これは回答権が二人分あるからできる賭けだった。ビデオカメラ一つに答えをしぼるのには、更にもう何回か質問をしなければならなかっただろう。まあ、それはビデオカメラですかって訊けば即終了だったわけでもあるけども。
 とにかくだ。私達の作戦勝ちだね。
「メモした証拠も見るか?」
 一夜が言う。
「いい。そっちが負けを認めたんだし」
 私が言う。
「ふう。これで明日は清美とテレビかあ」
 季目がどこか安心した顔で言う。
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