14 / 14
前原清美8
しおりを挟む
気がついたら、病院にいた。
なんでも、私、季目、俊二、一夢、一夜の五人は、あの館の前で倒れていたらしい。たまたま通りがかった親切な人が救急車を呼んでくれて、私達は病院に搬送された、らしい。
その恩人とは会えていないから、本当に、感謝の念を送ることしかできない。
その後、私達は精密検査を受けて、体のどこにも異常がないことを確かめてから、退院した。きっと、倒れていた原因は、あの少女につかまったからだ。それ以外考えられない。というか、私も最後は髪の毛でつかまえられてしまった。あのままやっぱり館から出られない、なんてことになっていたらと思うと、ゾッとする。もうあんな体験したくはない。
と、いうことで。退院して、夏休みがあと数日で終わろうとしている私達は、とりあえず集まってジュースで乾杯した。場所は、俊二の両親が経営している喫茶店だ。今は営業時間じゃないから、貸し切り同然。
「えー、では。俺達が生き残れたことに!」
「かんぱーい!」
皆の声がそろう。でも。
「ねえ一夜。もうそのこと思い出したくないんだけど」
私が言う。その間に、俊二はごくごくコーラを飲んでいる。
「いやわるいわるい。けど、かんぱいの音頭といったら今はこれしかないだろ。何せ、本当なら肝試し終了パーティーをするはずだったんだからな」
一夜が言う。まあ、一夜が館でのことを大してなんとも思っていないということはわかった。
けれど、あの出来事は一日でも早く忘れたがっている人もいるのだ。私は季目を見た。心なしか、季目は少し暗い。
季目は、髪を切った。男の子みたいな髪型になった。
なんでも、髪の毛におそわれた記憶が原因で、長い髪を見ると怖くなるらしい。それだけでなく、今まで以上に怖がりになってもいた。だから季目は、今回の件の一番の被害者だ。
「大丈夫、季目。あれは全部悪い夢だったんだから。飲んで忘れよ。私、とことんつきあってあげるから」
「季目とつきあう?」
一夢が大声を出した。
「そこうるさい」
私が言う。
「そうだぞ季目、なんなら俺もつきあってやる。なんせ、今回は全部俺のおごりだからな!」
一夜が言う。たしかに一夜は、今回のおわびにということで、パーティーの全額負担を申し出たが、それは当然というものだ。他男二人はともかく、私と季目のようなか弱い女子にあんな体験させておいて、平謝りだけというのは絶対に許さない。
「お前はダメだ、お前はダメだぞ一夜!」
一夢がまた大声を出した。
「そうだー俺もまぜろ、まぜてくれー!」
俊二が大声を出した。
「良かった。もう、大丈夫、なんだよね」
季目がそう言ってうすく笑う。私はうなずいた。
「うん。私達は帰ってこれた。もう何も怖くない。全部大丈夫だよ、季目」
そう言って、クリームソーダを飲む。うん、この味がのどにしみわたる。
「えーと、それで、俺達を病院につれていってくれたのは見知らぬ誰かだったわけだけど、そこまで行くのに、力になってくれたのが清美だったんだよな?」
俊二が言う。
「うん。最後まで私ががんばったから、皆を助けることができた」
私がうなずく。
「清美姐さん、本当ありがとうございます!」
俊二がコーラを置いて、私に後頭部まで見せて拝んでくる。
「何言ってんの。私だって助かりたかったんだから、全力を尽くしたのは当然だったっての」
本当は、一人だけ出れるとも言われたんだけど。まあ、友達おいて自分だけっていうのは、ムリよね。
「清美、ありがとう。礼を言う。季目が無事なのは、お前のおかげだ」
そこで一夢も、ソーダを置いて私に頭を下げた。なんだお前ら、キモイぞ。
「なんだお前ら、キモイぞ」
「キモくたってなんだっていい。俺達の命を救ってくれたのは、清美なんだ。頭を下げるのは当然。この通りだ、ありがとう!」
一夜がジンジャーエールを置いて頭を下げる。
「そんな、今更だって」
「清美、私からもありがとう」
季目まで頭を下げてしまう。まいったなあ、もう。
「皆がいてくれたから、私も頑張れたんだよ」
館でのことなんて1ミリも思い出したくないのに、皆ときたら、こうなんだもん。
「あの時、私は途中で心が折れてた。皆と来ていなかったら、諦めてた。最後まで力をふりしぼれたのは、絶対に自分の力だけじゃない、皆のおかげ。だから、あの館からは皆の力で脱出できたんだ」
本当、そう思う。私一人の力なんて大したことなくて、仲間の力っていうのは、凄まじいものなのだ。それが今回の件でよくわかった。
「皆の力っていうことは、俺の力でもあるってことだよな。ふうー良かったー。そう言われると救われるぜえ」
そして、途端にいつもの調子に戻る俊二。こいつときたら、もう。本当、私に感謝してるのかね?
まあ、感謝されてもむずがゆいだけなんだけどね。
「あの時は、本当に俺の力が及ばなかった。力が足りていれば、あそこより先にもいけたんだ。だから、俺は今後何が起こってもいいように、もっと力をつける!」
一夢がそう意気込む。こいつは、何があったんだろうか。
そう思っていると、一夢が季目に顔を寄せた。
「だから、俺、今以上に強い男になるから、強くなり続けるから。あの時は守れなかったけど、これからはずっと、季目を守らせてくれ、こ、恋人として!」
そう、一夢が真剣な表情で言う。
「うおー。一夢お前熱いなあ」
一夜が言う。
「ヒュー」
俊二が口笛を吹く。
私は、ちらっと季目を見る。
少なくとも、一夢が人前でマジな告白をするのは今回が初めてだ。それを季目は、どう受け止めるのだろう。あるいは、切り捨てるのだろう。
すると、季目は。
「うん。あの、よろしく、一夢」
なんと、初めてのオーケーを出した。
「え、あ、う、っ、いいよおっしゃあー!」
一夢が、見るからに喜ぶ。そして私は思わず季目に確認をとる。
「ねえ、季目。本気なの。一夢のやつもう、見てて気持ち悪いくらい浮かれてるけど」
見つめていると、季目はうなずいた。
「うん。今は、その、誰でもいいから、いてくれるとうれしい、から。だから一夢でも、いい。今は」
一夢でもって言った。今はって二回言った!
「良かったな、この今だけ彼氏!」
一夜が声をはりあげる。
「おめでとう、この今だけ彼氏!」
俊二が声をはりあげる。
「今だけでもいい、季目の隣にいられるなら、それだけで俺は幸せなんだー!」
一夢が男泣きをしている。
「はあ。まあ、いいか。こらこら一夢。泣くんじゃない」
「うれしすぎる、これは、うれしすぎるから出る涙なんだあ!」
一夢が自分の腕を涙でぬらす。まあ、おめでとうとは思っておこう。絶対口にはしないけど。
「へへ、この瞬間をカメラにおさめられないのが残念だぜ」
一夜が言う。
「スマホで撮っておくか。ほら一夢、こっち向いてー」
俊二がスマホで一夢を撮り始める。一夜も撮り始める。
「やめろお、やめろおお前ら!」
一夢は泣き止むのに必死っぽい。
「まったく。男が泣いてるところを撮って何が楽しいのやら」
私はひとまずフライドポテトを一つ食べる。
「でも、皆いつも通りで良かった。私だけみたい、元気がないのは」
季目が言う。すると一夜がジンジャーエールをがぶ飲みする。
「ごく、ごく、ぷはあー、俺は、無理矢理元気を出してるだけだ。なんてったって、大事なカメラを失くしたからな。く、やられる前までは調子良かったのに!」
一夜が言う。そりゃやられる前なら誰だって調子良いだろうよ。
「スマホで撮影できるじゃない」
私が言う。
「カメラじゃないと撮影している気分にならないんだよおー、っぐあー、でも拾いにはいけねえし」
一夜が言う。
「確かに、もうあの館には行く気しないな」
俊二が言う。
「絶対行かない。もう絶対行かない!」
一夢が言う。
季目はふるえて、カルピスを飲んでいる。
やっぱり、もう皆あの館に行く気はないか。
はあ、私だけ、よね。
「だが、あの館で季目の次にやられたと知った俺は、思った。あの時俺は、もしかしたら何か大事な事に気づけなかったんじゃなかったのかって。だから俺は、今より洞察力と推理力をきたえあげ、いずれどんなことにも気づくスーパー頭脳の持ち主になりたい」
俊二がそう言って、私達を一度見て、また口を開ける。
「ずばり、将来は名探偵になる!」
「おー」
一夜だけ、そう言った。
「いや、俊二。もしかしたら探偵にはなれるかもしれないけど、名探偵はムリだと思うぞ」
一夢が言う。
「ギャグなら許せる」
季目が言う。
「俊二、もう少し将来のことは考えたら?」
私が言う。
「うるさい、なるったらなるんだ。名探偵、俺にぴったりの響きじゃねえか。やがてはどんな難事件も解決するスーパー小学生になってやる!」
俊二が言う。
「いや、もう小学校は卒業してるし」
一夢が言う。
「それくらいすごくなるって話!」
俊二がそう言ってピザを食べる。
「ピザが似合う名探偵に、俺はなる!」
「てきとう言いすぎ」
私は思わず、そう言った。
「だが、俺も今回の件で反省した。次からは、心霊スポット以外をめぐることにする」
一夜が言った。それは私も同感。もうまきこまれるのはごめんだ。
「心霊スポット以外のスポットって、何スポット?」
私が訊く。
「パワースポットだな。撮影中に何か映りこむかもしれないし」
一夜が言う。
「映りこむって、何が?」
一夢が訊く。
「精霊とか妖精とか、不自然な光とかだよ。心霊スポットでは本物が出ることがわかったんだ。パワースポットにだって何かあるに違いない」
一夜が言う。
「そうか。まあ、趣味があるのは良いことだな」
一夢が言う。
「パワースポットなら、私も行きたいかも」
季目が言う。
「お、一緒に来たいか。いいぞ一緒に行こう!」
一夜がすごくうれしそうにする。
「そ、その時は、当然俺も行くからな。だって俺、彼氏だし!」
一夢があわてて言う。
「お、面白そうだな。俺も行くぜ」
俊二が言う。
「はあ。男三人に季目だけ混ぜられるわけないじゃん。その時は私も行くわ」
私が言う。
「ふはは。やっぱり俺達は良い友人関係を築けているな」
一夜が言う。
「俺と季目はもう友達以上だけどな」
一夢がウザく言う。
「もうずっと長いことつるんでるからなあ」
俊二が言う。
「楽しいことをするだけなら良いんだけど」
季目が言う。
「楽しいことしかしないわよ。これからいっぱい楽しい思い出作ろ?」
私が言う。
「だが未来はただ楽しいだけじゃないぞ。やりたいことはなんだってできる。季目は何がしたい?」
俊二が言う。
「え。私は、特には」
季目が言う。
「やりたいことはたくさんあって良い。それだけ毎日が楽しくわくわくになるからな。何かが食べたいだって、どこかに行きたいだって、なんでもいい。一夢を捨てたいだっていい」
俊二が言う。
「それはダメだ。絶対にダメだ!」
一夢があわてふためく。
「たぶん、怖いっていう心はさ。何かにおびえるからでてくるんだよ。だったらさ、心の中を楽しいことだらけにしたら、もう怖くないじゃん。だから、今の季目にはそれが必要なんだよ」
俊二が珍しく良いことを言っている気がする。
「珍しく良いことを言うな、俊二」
一夜が言う。
「珍しい男、それが俺だ。だから、とにかくさ。季目が何かやりたいって言った時は、俺達全員つきあうぜ。だから、もっと楽しいことを考えよう。そして毎日ずっと楽しく過ごそう!」
俊二が言う。さりげなく私達全員まきこんでるけど、まあ本当のことだからいいけどさ。
私は季目を見た。
「ありがとう、俊二。私をはげましてくれて」
すると、季目は笑っていた。久しぶりのちゃんとした笑顔だ。
こんなにきれいに笑えるのなら、きっと季目は大丈夫だ。そう信じられる。
「お、俺もそう思ってたんだ、季目!」
そして、一夢のやつはなぜこうも哀れに見えるのだろう?
「清美はどうだ?」
一夜が私にそう言った。
「私?」
「ああ。館で一番がんばったのは清美だろう。だから、もし清美がやりたいことがあったら、俺達はすすんで協力するぞ。なあ皆」
一夜がそう言うと。
「そうだな」
一夢が言う。
「もちろんだ」
俊二が言う。
「清美は、なんともない?」
季目がそう心配してくれる。
だから、私は笑った。
「ありがとう。皆。私は平気。でも」
「でも?」
季目が言う。私は言葉を続ける。
「私、今になって将来の夢ができたんだ」
「ほう、夢」
俊二が言う。
「良いんじゃないか?」
一夢が言う。
「どんな夢なんだ?」
一夜が訊いてくる。
だから私は、言った。
「私、あの館で会った、幽霊、だと思うあの少女を、成仏させてあげたいと思う」
皆は、ぽかんとした。
私は、続ける。
「皆がさらわれて、私一人になった時、出会った少女は、ゲームに勝てば私達を助けるって言ってくれたの。だから、確かに閉じこめられて、おそわれはしたけど、でもきっと完全に悪いやつじゃないんだと思う。だから、あの子も、あの館に閉じこめられているのだとしたら、解放してあげたいの」
おばけなんてないさ。
おばけなんてうそさ。
ねぼけた人が、見間違えたのさ。
でも、本当にいたと知ったら。
きっとその魂は、本当は正しいところに送ってあげるべきなんだと思う。
その方が、絶対に良い。そう思うんだ。
それが今の、私のやりたいことなんだ。
「良いんじゃ、ねえか?」
しばらく間をあけてから、一夜がそう言った。
「確かに、またあんなことが起こらないようになるなら、それにこしたことはないよな」
一夢がそう言った。
「清美。まさかお前がそういうやつとは思わなかった。なんて良い女なんだ。ほれちまいそうだぜ」
俊二が言った。
「ほれるな」
私が言う。
「清美、怖くないの?」
季目が言う。
「正直、怖かったよ。あんな体験もう二度としたくないとも思う。でも、もし少女を迎える準備ができたら、行ってあげたい。だって、あの館は何年あそこにあるの。どんなに長い間あんなところにいても、良いことなんてきっとないよ。だから、誰もあの子を助けないのなら、私が助けたい」
「応援するぜ、その夢」
一夜が言う。
「できたら良いな。そんなことが」
一夢が言う。
「良いセンスだ」
俊二が言う。
「危ないことだけは、しないでね」
季目が心配してくれる。
「うん。ありがとう、皆。さーて、もっと食べて飲むぞー!」
「おー!」
ひとまず今は、目の前のパーティーを楽しもう。
これからもこうして生きていられることに感謝して、自分の人生を存分に楽しむことにする。
さあ、思う存分食べるぞー。
なんでも、私、季目、俊二、一夢、一夜の五人は、あの館の前で倒れていたらしい。たまたま通りがかった親切な人が救急車を呼んでくれて、私達は病院に搬送された、らしい。
その恩人とは会えていないから、本当に、感謝の念を送ることしかできない。
その後、私達は精密検査を受けて、体のどこにも異常がないことを確かめてから、退院した。きっと、倒れていた原因は、あの少女につかまったからだ。それ以外考えられない。というか、私も最後は髪の毛でつかまえられてしまった。あのままやっぱり館から出られない、なんてことになっていたらと思うと、ゾッとする。もうあんな体験したくはない。
と、いうことで。退院して、夏休みがあと数日で終わろうとしている私達は、とりあえず集まってジュースで乾杯した。場所は、俊二の両親が経営している喫茶店だ。今は営業時間じゃないから、貸し切り同然。
「えー、では。俺達が生き残れたことに!」
「かんぱーい!」
皆の声がそろう。でも。
「ねえ一夜。もうそのこと思い出したくないんだけど」
私が言う。その間に、俊二はごくごくコーラを飲んでいる。
「いやわるいわるい。けど、かんぱいの音頭といったら今はこれしかないだろ。何せ、本当なら肝試し終了パーティーをするはずだったんだからな」
一夜が言う。まあ、一夜が館でのことを大してなんとも思っていないということはわかった。
けれど、あの出来事は一日でも早く忘れたがっている人もいるのだ。私は季目を見た。心なしか、季目は少し暗い。
季目は、髪を切った。男の子みたいな髪型になった。
なんでも、髪の毛におそわれた記憶が原因で、長い髪を見ると怖くなるらしい。それだけでなく、今まで以上に怖がりになってもいた。だから季目は、今回の件の一番の被害者だ。
「大丈夫、季目。あれは全部悪い夢だったんだから。飲んで忘れよ。私、とことんつきあってあげるから」
「季目とつきあう?」
一夢が大声を出した。
「そこうるさい」
私が言う。
「そうだぞ季目、なんなら俺もつきあってやる。なんせ、今回は全部俺のおごりだからな!」
一夜が言う。たしかに一夜は、今回のおわびにということで、パーティーの全額負担を申し出たが、それは当然というものだ。他男二人はともかく、私と季目のようなか弱い女子にあんな体験させておいて、平謝りだけというのは絶対に許さない。
「お前はダメだ、お前はダメだぞ一夜!」
一夢がまた大声を出した。
「そうだー俺もまぜろ、まぜてくれー!」
俊二が大声を出した。
「良かった。もう、大丈夫、なんだよね」
季目がそう言ってうすく笑う。私はうなずいた。
「うん。私達は帰ってこれた。もう何も怖くない。全部大丈夫だよ、季目」
そう言って、クリームソーダを飲む。うん、この味がのどにしみわたる。
「えーと、それで、俺達を病院につれていってくれたのは見知らぬ誰かだったわけだけど、そこまで行くのに、力になってくれたのが清美だったんだよな?」
俊二が言う。
「うん。最後まで私ががんばったから、皆を助けることができた」
私がうなずく。
「清美姐さん、本当ありがとうございます!」
俊二がコーラを置いて、私に後頭部まで見せて拝んでくる。
「何言ってんの。私だって助かりたかったんだから、全力を尽くしたのは当然だったっての」
本当は、一人だけ出れるとも言われたんだけど。まあ、友達おいて自分だけっていうのは、ムリよね。
「清美、ありがとう。礼を言う。季目が無事なのは、お前のおかげだ」
そこで一夢も、ソーダを置いて私に頭を下げた。なんだお前ら、キモイぞ。
「なんだお前ら、キモイぞ」
「キモくたってなんだっていい。俺達の命を救ってくれたのは、清美なんだ。頭を下げるのは当然。この通りだ、ありがとう!」
一夜がジンジャーエールを置いて頭を下げる。
「そんな、今更だって」
「清美、私からもありがとう」
季目まで頭を下げてしまう。まいったなあ、もう。
「皆がいてくれたから、私も頑張れたんだよ」
館でのことなんて1ミリも思い出したくないのに、皆ときたら、こうなんだもん。
「あの時、私は途中で心が折れてた。皆と来ていなかったら、諦めてた。最後まで力をふりしぼれたのは、絶対に自分の力だけじゃない、皆のおかげ。だから、あの館からは皆の力で脱出できたんだ」
本当、そう思う。私一人の力なんて大したことなくて、仲間の力っていうのは、凄まじいものなのだ。それが今回の件でよくわかった。
「皆の力っていうことは、俺の力でもあるってことだよな。ふうー良かったー。そう言われると救われるぜえ」
そして、途端にいつもの調子に戻る俊二。こいつときたら、もう。本当、私に感謝してるのかね?
まあ、感謝されてもむずがゆいだけなんだけどね。
「あの時は、本当に俺の力が及ばなかった。力が足りていれば、あそこより先にもいけたんだ。だから、俺は今後何が起こってもいいように、もっと力をつける!」
一夢がそう意気込む。こいつは、何があったんだろうか。
そう思っていると、一夢が季目に顔を寄せた。
「だから、俺、今以上に強い男になるから、強くなり続けるから。あの時は守れなかったけど、これからはずっと、季目を守らせてくれ、こ、恋人として!」
そう、一夢が真剣な表情で言う。
「うおー。一夢お前熱いなあ」
一夜が言う。
「ヒュー」
俊二が口笛を吹く。
私は、ちらっと季目を見る。
少なくとも、一夢が人前でマジな告白をするのは今回が初めてだ。それを季目は、どう受け止めるのだろう。あるいは、切り捨てるのだろう。
すると、季目は。
「うん。あの、よろしく、一夢」
なんと、初めてのオーケーを出した。
「え、あ、う、っ、いいよおっしゃあー!」
一夢が、見るからに喜ぶ。そして私は思わず季目に確認をとる。
「ねえ、季目。本気なの。一夢のやつもう、見てて気持ち悪いくらい浮かれてるけど」
見つめていると、季目はうなずいた。
「うん。今は、その、誰でもいいから、いてくれるとうれしい、から。だから一夢でも、いい。今は」
一夢でもって言った。今はって二回言った!
「良かったな、この今だけ彼氏!」
一夜が声をはりあげる。
「おめでとう、この今だけ彼氏!」
俊二が声をはりあげる。
「今だけでもいい、季目の隣にいられるなら、それだけで俺は幸せなんだー!」
一夢が男泣きをしている。
「はあ。まあ、いいか。こらこら一夢。泣くんじゃない」
「うれしすぎる、これは、うれしすぎるから出る涙なんだあ!」
一夢が自分の腕を涙でぬらす。まあ、おめでとうとは思っておこう。絶対口にはしないけど。
「へへ、この瞬間をカメラにおさめられないのが残念だぜ」
一夜が言う。
「スマホで撮っておくか。ほら一夢、こっち向いてー」
俊二がスマホで一夢を撮り始める。一夜も撮り始める。
「やめろお、やめろおお前ら!」
一夢は泣き止むのに必死っぽい。
「まったく。男が泣いてるところを撮って何が楽しいのやら」
私はひとまずフライドポテトを一つ食べる。
「でも、皆いつも通りで良かった。私だけみたい、元気がないのは」
季目が言う。すると一夜がジンジャーエールをがぶ飲みする。
「ごく、ごく、ぷはあー、俺は、無理矢理元気を出してるだけだ。なんてったって、大事なカメラを失くしたからな。く、やられる前までは調子良かったのに!」
一夜が言う。そりゃやられる前なら誰だって調子良いだろうよ。
「スマホで撮影できるじゃない」
私が言う。
「カメラじゃないと撮影している気分にならないんだよおー、っぐあー、でも拾いにはいけねえし」
一夜が言う。
「確かに、もうあの館には行く気しないな」
俊二が言う。
「絶対行かない。もう絶対行かない!」
一夢が言う。
季目はふるえて、カルピスを飲んでいる。
やっぱり、もう皆あの館に行く気はないか。
はあ、私だけ、よね。
「だが、あの館で季目の次にやられたと知った俺は、思った。あの時俺は、もしかしたら何か大事な事に気づけなかったんじゃなかったのかって。だから俺は、今より洞察力と推理力をきたえあげ、いずれどんなことにも気づくスーパー頭脳の持ち主になりたい」
俊二がそう言って、私達を一度見て、また口を開ける。
「ずばり、将来は名探偵になる!」
「おー」
一夜だけ、そう言った。
「いや、俊二。もしかしたら探偵にはなれるかもしれないけど、名探偵はムリだと思うぞ」
一夢が言う。
「ギャグなら許せる」
季目が言う。
「俊二、もう少し将来のことは考えたら?」
私が言う。
「うるさい、なるったらなるんだ。名探偵、俺にぴったりの響きじゃねえか。やがてはどんな難事件も解決するスーパー小学生になってやる!」
俊二が言う。
「いや、もう小学校は卒業してるし」
一夢が言う。
「それくらいすごくなるって話!」
俊二がそう言ってピザを食べる。
「ピザが似合う名探偵に、俺はなる!」
「てきとう言いすぎ」
私は思わず、そう言った。
「だが、俺も今回の件で反省した。次からは、心霊スポット以外をめぐることにする」
一夜が言った。それは私も同感。もうまきこまれるのはごめんだ。
「心霊スポット以外のスポットって、何スポット?」
私が訊く。
「パワースポットだな。撮影中に何か映りこむかもしれないし」
一夜が言う。
「映りこむって、何が?」
一夢が訊く。
「精霊とか妖精とか、不自然な光とかだよ。心霊スポットでは本物が出ることがわかったんだ。パワースポットにだって何かあるに違いない」
一夜が言う。
「そうか。まあ、趣味があるのは良いことだな」
一夢が言う。
「パワースポットなら、私も行きたいかも」
季目が言う。
「お、一緒に来たいか。いいぞ一緒に行こう!」
一夜がすごくうれしそうにする。
「そ、その時は、当然俺も行くからな。だって俺、彼氏だし!」
一夢があわてて言う。
「お、面白そうだな。俺も行くぜ」
俊二が言う。
「はあ。男三人に季目だけ混ぜられるわけないじゃん。その時は私も行くわ」
私が言う。
「ふはは。やっぱり俺達は良い友人関係を築けているな」
一夜が言う。
「俺と季目はもう友達以上だけどな」
一夢がウザく言う。
「もうずっと長いことつるんでるからなあ」
俊二が言う。
「楽しいことをするだけなら良いんだけど」
季目が言う。
「楽しいことしかしないわよ。これからいっぱい楽しい思い出作ろ?」
私が言う。
「だが未来はただ楽しいだけじゃないぞ。やりたいことはなんだってできる。季目は何がしたい?」
俊二が言う。
「え。私は、特には」
季目が言う。
「やりたいことはたくさんあって良い。それだけ毎日が楽しくわくわくになるからな。何かが食べたいだって、どこかに行きたいだって、なんでもいい。一夢を捨てたいだっていい」
俊二が言う。
「それはダメだ。絶対にダメだ!」
一夢があわてふためく。
「たぶん、怖いっていう心はさ。何かにおびえるからでてくるんだよ。だったらさ、心の中を楽しいことだらけにしたら、もう怖くないじゃん。だから、今の季目にはそれが必要なんだよ」
俊二が珍しく良いことを言っている気がする。
「珍しく良いことを言うな、俊二」
一夜が言う。
「珍しい男、それが俺だ。だから、とにかくさ。季目が何かやりたいって言った時は、俺達全員つきあうぜ。だから、もっと楽しいことを考えよう。そして毎日ずっと楽しく過ごそう!」
俊二が言う。さりげなく私達全員まきこんでるけど、まあ本当のことだからいいけどさ。
私は季目を見た。
「ありがとう、俊二。私をはげましてくれて」
すると、季目は笑っていた。久しぶりのちゃんとした笑顔だ。
こんなにきれいに笑えるのなら、きっと季目は大丈夫だ。そう信じられる。
「お、俺もそう思ってたんだ、季目!」
そして、一夢のやつはなぜこうも哀れに見えるのだろう?
「清美はどうだ?」
一夜が私にそう言った。
「私?」
「ああ。館で一番がんばったのは清美だろう。だから、もし清美がやりたいことがあったら、俺達はすすんで協力するぞ。なあ皆」
一夜がそう言うと。
「そうだな」
一夢が言う。
「もちろんだ」
俊二が言う。
「清美は、なんともない?」
季目がそう心配してくれる。
だから、私は笑った。
「ありがとう。皆。私は平気。でも」
「でも?」
季目が言う。私は言葉を続ける。
「私、今になって将来の夢ができたんだ」
「ほう、夢」
俊二が言う。
「良いんじゃないか?」
一夢が言う。
「どんな夢なんだ?」
一夜が訊いてくる。
だから私は、言った。
「私、あの館で会った、幽霊、だと思うあの少女を、成仏させてあげたいと思う」
皆は、ぽかんとした。
私は、続ける。
「皆がさらわれて、私一人になった時、出会った少女は、ゲームに勝てば私達を助けるって言ってくれたの。だから、確かに閉じこめられて、おそわれはしたけど、でもきっと完全に悪いやつじゃないんだと思う。だから、あの子も、あの館に閉じこめられているのだとしたら、解放してあげたいの」
おばけなんてないさ。
おばけなんてうそさ。
ねぼけた人が、見間違えたのさ。
でも、本当にいたと知ったら。
きっとその魂は、本当は正しいところに送ってあげるべきなんだと思う。
その方が、絶対に良い。そう思うんだ。
それが今の、私のやりたいことなんだ。
「良いんじゃ、ねえか?」
しばらく間をあけてから、一夜がそう言った。
「確かに、またあんなことが起こらないようになるなら、それにこしたことはないよな」
一夢がそう言った。
「清美。まさかお前がそういうやつとは思わなかった。なんて良い女なんだ。ほれちまいそうだぜ」
俊二が言った。
「ほれるな」
私が言う。
「清美、怖くないの?」
季目が言う。
「正直、怖かったよ。あんな体験もう二度としたくないとも思う。でも、もし少女を迎える準備ができたら、行ってあげたい。だって、あの館は何年あそこにあるの。どんなに長い間あんなところにいても、良いことなんてきっとないよ。だから、誰もあの子を助けないのなら、私が助けたい」
「応援するぜ、その夢」
一夜が言う。
「できたら良いな。そんなことが」
一夢が言う。
「良いセンスだ」
俊二が言う。
「危ないことだけは、しないでね」
季目が心配してくれる。
「うん。ありがとう、皆。さーて、もっと食べて飲むぞー!」
「おー!」
ひとまず今は、目の前のパーティーを楽しもう。
これからもこうして生きていられることに感謝して、自分の人生を存分に楽しむことにする。
さあ、思う存分食べるぞー。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる