真夏の館

十 的

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前原清美7

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「清美、お前が皆を救うんだ!」
 そんな、一夜の声が聞こえた。
 目の前で、大量の髪が動いている。
 きっと、イスにしばりつけられていなくても、私は何もできなかっただろう。
 これで、一夜もさらわれてしまった。
「っ」
 こんなの、悪夢だ。
 髪の毛が1階へと消えていく。そして、残されたのは、私一人。
「こんなの、ないよ」
 しばらくすると、イスがバラバラになる。座っていたイスも、他のイスも、全て。
 けど私は、ここですぐには立ち上がれなかった。
 こんなところにいるのは嫌だけど、体に力が入らない。私の中の大事な部分が、この館にいる何かにおそれを抱いて、すくんでしまっているのだ。
 本当なら、今は家にいたい。友達と一緒にいたい。笑っていたい。安心していたい。
 なのに、季目も俊二も一夢も一夜も、この館にいる何かにやられてしまった。
 そして、きっと私も。
 たぶん、ここからは、出られないんだ。
「ごめん、皆。私もう、これ以上は、ムリだ」
 だって、皆の居場所も、ここから出る方法も、全然わからないのだ。
 それなのに、一体何をやれというのか。
 もう、どうしようもないのだ。もう、手詰まりなのだ。
 この館に入ってしまったことが、間違いだったのだ。
「寒い。怖い」
 その時、どこからか音楽が聞こえてきた。
「!」
 もうイヤ、もうイヤあ!
「やめてよやめてよやめてよやめてよお!」
 耳を塞ぐ。頭を振る。
 大体、この館はもう調べ尽くした。1階にも2階にも3階にも、この地下にも、もうイスは残っていない。
 なのに、なんで、なんでこの音が、こんなにもすぐにまた聞こえてくるの!
 こんなの嫌。こんなの嘘。こんなの信じられない!
 現実がこんなに最悪なわけない。
 この世界の日常はもっと普通で、もっと楽しくて、いつも皆がいるはず!
 皆、本当なら今も私の前にいるはずなんだー!
「わああああああ!」
 全部違う。全部間違ってる。全部幻だ。全部でたらめだ!
 くそおおお。
 なんで、これが全部現実なんだよ!
「清美」
 季目の姿と声を思い出す。
「清美」
 俊二の姿と声を思い出す。
「清美」
 一夢の姿と声を思い出す。
「清美」
 一夜の姿と声を思い出す。

「清美、お前が皆を救うんだ!」

 最後に聞いた、一夜の言葉を思い出す!
「絶対絶対絶対、失わない、奪わせない、取り戻す!」
 ダメだ。こんなところでくじけてちゃいけない。立ち止まってちゃいけない。諦めちゃいけない!
 今はもう、私しかいないんだ。希望がまだあるって信じられるのは私だけなんだ。皆の分まで、私があがかないといけないんだ!
 立ち上がる。走る。階段をかけ上がる。
 もう私の頭はれいせいではない。必死なんだ。必要にかられて。わけのわからない状況においこまれて。命の危険を感じて。やみくもだろうがなんだろうが、全力で未来を求め続ける。
「あんたがなんなのかは知らないけど、私達は、絶対生き残るんだから。絶対負けないんだから!」
 地下の階段を通って1階に戻ると、足元に鍵が落ちていた。
 赤い鍵だ。それを手にして、ダッシュで走る。
 まだ、この館を完全に調べ尽くしたわけではなかった。気になる部屋は、1部屋残っている。ひょっとしたら、そこに!
 目的の部屋に、すぐに辿り着く。1階に1部屋だけあった、開かない部屋。そこを鍵を使って、開ける!
 ガチャ。
 よし、開いた。入る!

 そこは、異様な空間だった。

 部屋の真ん中にあったのは1つのイス。正面の壁には、オルゴールを持った少女がはりついていた。少女の髪は壁伝いに全方向に広がり、部屋中の壁をおおいつくしている。
 そして、壁の左右に、季目、俊二、一夢、一夜が髪の毛ではりつけられていた。皆、目を閉じたまま動かない。
「!」
 私は足を止めず、まずはイスに座った。このイスに黒いひもはなく、拘束はされなかった。
 そして、目の前にいる少女を見る。
 少女は、和服姿だ。地味な色のものを着ている。そして肌は、ペンキをぬったように真っ白だ。
 この少女が、この館に、私達を閉じ込めた張本人?
 おそらく、そうなのだろう。少女の髪が四人を拘束しているように見えるから。
 怖くない。怖くない。怖くない。
 今、私が言うべきことは、ただ一つだ。
「皆を、はなして。私達を、館の外に出して」
 少女はまばたき一つせず私を見ている。そして、ここで少女のオルゴールから流れる音が止まった。その後、何も起こらない。だから私は言葉を続ける。
「この館に勝手に入ったことは謝ります。ごめんなさい。でも、それで私達の命が脅かされる必要はないでしょう。私達は、どうしても帰らなければならないの」
 そう、こんなところで皆の命が終わるなんてことは、絶対に許さない。私達にはまだ、生きるべき未来があるのだ。
 すると、少女が口を開いた。
「今なら、あなただけ出してもいい」
「!」
 そうきたか。
 少女の声は、この館の中で何度も聞いた声だった。きっと、私達をおそった相手は彼女一人に違いない。
 そして、少女とちゃんと話ができるのだから、今が千載一遇のチャンスなんだ。
 しっかりしろ、私!
「皆と一緒じゃないと、帰れない。この四人も一緒にこの館から出して!」
「もし全員でここから出たいのなら、もう一度オルゴールを鳴らす。その音が止まる前に、あなたはまたイスに座らなければならない」
「!」
 よし、よし!
 この話の流れは、すごく良い。かなり良いぞ!
「つまり、私にチャンスをくれるっていうのね?」
「これに失敗したら、誰もここから出られない」
「そんなこと、言う必要はない。私はここから出る。皆と共に。皆と一緒じゃないと、意味はないから!」
 季目、俊二、一夢、一夜。もう少しだけ待ってて。
「それじゃあ、手がかりをあげる」
 少女がそう言うと、私の目の前に紙が一枚落ちてきた。それを空中でキャッチする。
 すると、同時に少女の手にあるオルゴールが鳴り始め、私が座っているイスがバラバラになった。
「きゃっ」
 しりもちをつく。けど、今は紙を、紙を見るんだ。
 立ち上がりながら、紙に書いてある文を読む。

 その場所から一文字とると、光と水が必要になる。

 よし、走ろう!
「絶対約束守ってよね!」
 そう言い残して、部屋を出る。
 目指すのは階段。
 階段からいをとると、花壇になる。花には光と水が必要だから、間違ってないはず。
 地下への階段は、後回しにする。先に、3階までの階段を全部調べよう!
「!」
 階段の前まで来ると、階段の一部が真っ赤に染まっていた。私はそれを気持ち悪く思いながら、よけてかけ上がる。
 きっとどこかにイスがある。すぐに探さなきゃ!
 2階に行き、3階に行こうとする。すると、3階に行く階段の途中の壁に、赤い字で大きく書いてあった。

 赤い場所に座れ。

「あの1階の!」
 急いでUターン。急げ。急げ。まだ音は鳴っている。間に合うんだ。季目も、俊二も、一夢も、一夜も、全員助かる!
 階段をかけ下りて、また1階へ。そして、そこだけ赤くなっている階段の段差に、お尻をつける。
 すると、目の前の1階の通路に、ガタンとイスが落ちてきた。けれど、イスには木製の箱が、イスの上半分をしまうように組み合わされてできていて、座ることができないようになっていた。
「これ、なんなの」
 私は慌ててその座れないイスに近づく。
 イスの上半分を隠している箱には、前後左右から何本もの四角い棒が突き刺さり貫通していた。そして、箱の上には木で造られた太陽のマークがあって、それらが数本の棒と一緒に箱の面からでっぱっている。
 試しに棒の一本を持って、少し上に上げて押し込むと、反対側からその分出てきて、ある程度動いたところで、棒がガコンと下に落ちて動かなくなる。
「これ、もしかして、パズル?」
 座れないようにイスにつけられた木のパズル。これが最後の、しかけなのか。
 音はまだ聞こえている。急げ、早くこのパズルを解くんだ、私!
「大丈夫。私なら絶対解ける!」
 急いで数本の木の棒をガチャガチャいじる。
 木の棒は、手前に引く、真ん中らへん、奥に押し込むの三通りの状態になって、それが何本もの棒によって、何通りもの状態があるようになっている。ヒントはない。なので、一回一回棒を動かす度に、パズルの反応を見る。
 するとある時、上の面の太陽のマークが少し回った。
「!」
 きっと、少しだけ前に進んだんだ。このパズルは、解ける!
「あともう少し!」
 私は更に棒を動かしていく。すると、もう一度太陽が少し回り、更にもう少し回る。
 そして何回か回ると、太陽がガコンと箱の中に入った。
「よし、いける!」
 更に棒をいくつも動かす。するとやがて、全ての棒が完全に動かなくなった。
「これで解けたっていうこと?」
 はやる気持ちのまま、パズルの上の面を持ってみる。すると、やはり上の面が外れて、中が見えるようになった。
 箱の中には、少女の人形が入った木製の檻が入っていた。そして、それ以上パズルは分解できない。
 また棒を動かしてみる。すると、また棒は動いた。きっと、パズルはこれで半分以上終わったのだ。
「もう少し。もうちょっと!」
 急いで再び棒を動かす。大丈夫、まだ音は鳴っている。焦るな。れいせいに動け。季目のために。俊二のために。一夢のために。一夜のために。皆を必ず助けるために。
 人生の中で一番集中しながら、棒を動かす。するとやがて、ガコンガコンと音が鳴り、棒がパズルから完全に取れるようになった。
 私は全部の棒を引き抜いてから、パズルの四面を外していく。
 そして最後に、少女の人形が入った檻をどかして、ゆっくり床に置いてから、即座にイスに座った。
「これで、私の勝ちだよ」
 すると、音が止まった。
 やがて、大量の髪の毛が私のところまできて、体中にまきついてくる。
 大丈夫、私は勝った。私はやりとげた。私は助かる。皆も一緒に助かる。
「信じてるから」
 そこまで言ったところで、私の視界は髪の毛でふさがれた。
 それからすぐに、私の意識はぷつりと消えた。
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