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6 荒野その6

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 しばらく西に進むと、恐竜を発見した。アンピスノだ。
「ギイイア!」
 アンピスノは一体だけぽつんといて、そこで孤高のシャドーボクシングをしていた。
 どうも仮想標的に向かって、パンチ、とびかかり、尻尾ぶん回しをしているように見える。
 なんだあの恐竜。どう見ても野生の動きではない。まさか混乱中、いや、もうじき試合を控えているとか?
「いました、マスター。恐竜です」
「あ、ああ」
 ヒイコの声で我に返る。
「それじゃあ、皆であの恐竜を倒してくれ。けどその前に、増援を呼ばないとな」
「イエスマスター。しかし、今私達のレベルは、先日戦った時よりも上がっています。ここは、一人ずつあの恐竜に挑んでも危険ではないかもしれません」
 スイホがそう言った。
「そうか。スイホの言いたいことはわかった。でも、油断は禁物だ。俺達はいつも油断していて、そのせいで恐竜を呼び寄せたり、強い土人形を出現させたりしてしまっている。戦いは常に全力だし、危なくなったら逃げることも考える。それを忘れるなよ」
「イエスマスター」
「ヒロードラゴン召喚」
 俺の目の前に一枚のカードが現れ、それがヒロードラゴンに変わった。
「ガオオオ!」
「ヒロードラゴン、この前の戦闘を憶えているよな。強い相手と戦わせて悪かった。そして、勝たせてくれてありがとう」
「ガオオオ」
「今日は、あそこにいる恐竜と戦ってほしい。けど、最初から全力じゃなくて、皆が一人ずつ戦うようにして、危なくなったら、その時から全員で挑んでほしいんだ。やってくれるか?」
「ガオオオ!」
 ヒロードラゴンがうなずく。うん、やっぱりドラゴンがいると頼もしい。皆人型だから、あの恐竜を相手にするとなると心配になるんだよな。
「では早速戦ってきます。マスターに勝利を!」
「行って、くる」
「行って参ります、マスター!」
「ガオオオ!」
 美少女三人と、ヒロードラゴンが恐竜の方へ向かう。
「ワン!」
「ウッドルフ。お前は、俺といてくれるか。いざとなった時の逃げる用意として」
「ワン!」
 ウッドルフは、任せろ。と言っている気がした。
 俺はそれで安心して、戦いに行った皆を後方から見守る。

「ギイイア!」
 恐竜が皆に気づき、一声鳴く。
 その後すぐに、スイホが水を発射して攻撃した。
 水をまともにくらった恐竜は動けなくなり、一方的にやられっぱなしとなる。
 あれ、前は皆の攻撃をくらっても、平然としていたよな。今回は効いているのか?
 そう思っていると、スイホが恐竜に接近して、大きな水のハンマーで相手の顔面を殴る。
 それを一発、二発、三発とくらった恐竜は、たたらを踏んで倒れた。
 スイホは追い打ちに水ハンマーを振り下ろす。次に巨大な水の剣を生み出して、それを恐竜に突き立てた。
「ギイイイアアー!」
 恐竜の断末魔が響き渡る。
 そして、恐竜は動かなくなる。すると皆は、俺に手を振って呼んだ。
「ワン!」
 ウッドルフが俺を乗せて駆けだし、皆の元へ走る。そうか、無事倒したか。
 スイホ、強い。いや、皆パワーアップしてるのか?
 どうやらもう、恐竜が相手では皆の脅威にはならないようだ。

 ウッドルフが皆のいる場所まで走ると、俺もしっかりと恐竜が死んでいることを確認できた。
 そして、恐竜を倒したスイホは笑顔だった。
「どうです、マスター。私やりました。ほめてください!」
「ああ、よくやったスイホ。もうこんなに強くなってたんだな」
「一人で倒せるなら、散開して恐竜を倒してもよさそう」
 ドキが言う。確かにそうだ。レベル上げが目的なら、個別に恐竜を倒す方が効率が良い。たぶんだけど。
「じゃあ、二手に分かれよう。さっきの戦いは見ていたけど、それでもまだ一人で行動するのは危険すぎると思うんだ。皆もそれでいいね?」
「イエスマスター」
「ガオオオ!」
「それじゃあ、どういう風に分かれようか。皆はどう思う?」
「そうだな。属性相性でいうなら、私とヒロードラゴンで組んだ方が良いと思う」
 ヒイコが言う。確かに、同じ火属性同士で組んだ方が戦い方は楽かもしれない。
「なるほど。でも、もし火が効きづらい相手が現れたらどうするんだ。そう考えたら、分かれるのは火属性同士だと思うぞ」
「なるほど。確かにマスターの言う通りだ」
「なら私は、ヒイコと組む」
 ドキが言った。
「ヒイコとは、スイホを攻撃した際に少し連携ができるようになったから」
「その理由、私は怒っても良いんですの?」
 スイホが笑顔でドキを見る。俺はうなずいた。
「わかった。それじゃあドキとヒイコ、スイホとヒロードラゴンで分かれよう。俺はウッドルフに乗って、ドキとヒイコペアについていくよ。ヒロードラゴンは大きいから、もし探す時分かりやすいと思うんだ」
「イエスマスター」
 ドキとヒイコがうなずいた。
「お待ちくださいマスター、それだと私とマスターは離れ離れになってしまいますが!」
「うん。スイホ、がんばってね」
「い、イエスマスター」
「よし。それじゃあ行動開始だ。もしすぐ合流できないようだったら、合流地点は家。夜までに帰るということで」
 こうして、俺達は恐竜狩りを始めた。

「レベルが上がりました」
 初めてすぐに、俺のレベルが46になる。
 今、目の前でドキとヒイコが二体目の恐竜を倒したところだ。
 ドキとヒイコは喜ぶこともなく、更に西へ行く。
 ここら辺、恐竜が結構いるなあ。走って五分おきぐらいに見つかる気がする。
 このまま更に恐竜を倒し、どんどんレベルを上げたいところだ。
 そして、それから約二時間後。レベルは47。
 そろそろお腹が空いてきたな。と思ったところで、ドキとヒイコが移動をやめ、立ち止まった。
「ん、どうした。ドキ、ヒイコ」
「新たな敵」
「マスター、あの恐竜をご覧ください」
 そう言われ、二人の元まで移動してから、ヒイコが指さす方を見る。
「ん。ん?」
 そこには、頭がアフロな恐竜がいた。
 大きさは、アンピスノより二回りくらい大きい。けど色はあまり変わらなくて、何より目立つのが、頭の巨大アフロ。
 そんなアフロ恐竜が、リズミカルに頭をゆらして足踏みでリズムをとっていた。
「あいつ。強いのか?」
 大きいということは強いんだろうが、その強さがどれほどかいまいちわからない。
「私達で攻撃してみましょうか?」
 ヒイコがそう提案する。しかし俺は首を横に振った。
「いや、もしかしたらあのアフロ恐竜は相当強いのかもしれない。ここは更に増援を生み出そう。そうだな、4、5人程で戦わせて、勝てる相手か見極めたい」
 可能な限りクリーチャーを召喚して、全力で戦って完全敗北したら、俺はもう打つ手なし、おしまいだ。生き残るのは至難の業となるだろう。それに、5人で勝負して勝てなかったら、それ以上の数でも結果が同じな可能性は高い。それくらい、強いやつは強い。
「イエスマスター。だったら、攻撃力が高いドラゴンを召喚するべき」
 ドキの提案に、俺はうなずいた。
「ああ、そうだな。じゃあまずは、ゴールドラゴン召喚」
 その後三分かけて、俺は更に3人のドラゴンを召喚する。
 木属性のジュレイドラゴン、土属性のサガンドラゴン、水属性のスプラッシュドラゴン。
 合計四人のドラゴンが、俺の前で整列した。
「戦力は、これくらいでいいか」
「イエスマスター。早速、彼らに攻撃の指示を」
 俺はヒイコにうなずく。
「ああ、そうだな。けどその前に、彼らに確認だ。なあ、ドラゴンの皆。俺は今、お前達を勝てるかどうかもわからない相手に突撃させようとしている。それはいわば捨て駒だ。それでも、お前達はやってくれるか?」
「グワアーオン!」
 四人のドラゴンが吠える。凄い迫力だ。
「皆、やるって言ってる」
 ドキがそう言ったので、俺はうなずいた。
「皆、ありがとう。だが、これは必要な戦いではない。なので、勝てないと見たら逃げても問題ない。くれぐれも、自分達の命を最優先にしてくれよ」
「グワアーオン!」
「マスター、アフロ恐竜がこちらへ来る」
 ドキが言う。え、あ、本当だ!
「どうやらドラゴン達の声を聞いてこちらに気づいたようですね」
「なるほど。それじゃあドラゴン達、後は任せた。あのアフロ恐竜と戦ってくれ。俺達はひとまず逃げる!」
「グワアーオン!」
 こうして、ドラゴン達はアフロ恐竜に突っ込んだ。一方俺はウッドルフに乗って逃げる。ドキとヒイコは俺の護衛。
 ある程度離れたところで、ウッドルフが立ち止まり、ドラゴン達対アフロ恐竜の戦いの行方を気にした。俺も遠くから見つめる。
 その戦いは、一方的かつ大迫力だった。
 ドラゴン達が四方から囲んで相手をリンチにしようとするも、アフロ恐竜はそれを全く気にすることなく、目の前のサガンドラゴンを殴り、かみつく。すると、みるみるとサガンドラゴンが満身創痍になっていった。
 やがてサガンドラゴンは肩を食われた後、そこから引き裂かれて光になる。それを見た三人のドラゴンは、アフロ恐竜から距離をとろうとした。
 しかし、その前にゴールドラゴンがとびかかられて、馬乗りにされる。その後すぐに、アフロ恐竜の一方的な攻撃が始まる。ひたすら殴られていると、十秒とかからずにゴールドラゴンが光になって消えた。
 スプラッシュドラゴンとジュレイドラゴンは空中から属性攻撃を放つが、アフロ恐竜は全く痛がる様子を見せない。そしてアフロ恐竜は二人を見上げると、頭のアフロを光らせた。
「ギイイアアアン!」
 聞く者を戦慄させる声。光ったアフロから青白い雷が放たれ、二人のドラゴンに直撃する。
 スプラッシュドラゴンとジュレイドラゴンは、こらえることもできずに墜落した。その落下地点へと、アフロ恐竜が走っていく。
 その光景をそこまで見た後、俺は言った。
「皆、帰ろう。あの強さには流石に、近寄れない」
「イエスマスター」
「ワン!」
 今日のレベル上げは、ここまでだ。もうあの敵から、出来る限り離れたい。
 皆、一目散に家がある方向へ走り出した。

 家へと帰還中、俺はウッドルフに乗りながら、召喚リストをじーっと見ていた。
 やがてしばらくすると、スイホとヒロードラゴンの名前が赤くなり、その上にバッテンが表示される。
 どうやら、お亡くなりになられたらしい。スプラッシュドラゴンとジュレイドラゴンも、当然のようにやられている。
「スイホとヒロードラゴンも、アフロ恐竜にやられたのかな」
 あの二人が勇ましくアフロ恐竜に挑んで、あっさりと散ったという光景が容易にイメージできた。
 もしくは、その他のまだ見ぬ強敵。
「今日はもう、自主練だけにしよう」
 それから数時間かけて、俺は我が家に無事帰還したのだった。

 アフロ恐竜によって、結構クリーチャーが倒されてしまった。
 けど、まだ特殊能力のリセットはしなくていいだろう。再召喚できる回数も多いし、ターゲットは9枚全部残っている。わざわざ一人以外消してまですることではないように思えた。
 スイホはすぐに再召喚して、水をもらう。そしてその時に、誰にやられたのかを聞いた。
「それがですね、マスター。あの後恐竜を倒して回っていたら、その時になんとも間抜けな恐竜を見つけたんです。頭がアフロだったんですよ。やばいアイツセンスありませんわって思いながら倒そうとしたんですが、気がついたら体を引き裂かれていました」
「なるほど。そうだったか。そのアフロ恐竜、俺も見たよ。ドラゴン四人が相手でも圧勝してた」
「アフロ恐竜は、恐竜たちのボスなんでしょうか?」
「わからない。とにかく、恐竜狩りは一旦やめにしよう。もし全ての恐竜がアフロ恐竜の部下で、部下を倒しまくった俺達に怒ってやって来たら、大変なことになるからな。刺激してしまうかもしれない行動はやめておこう」
 この荒野には、まだまだ俺達よりも上のモンスターがいるということだ。俺は慢心せずに、今日もひたすら戦闘訓練を行った。

 5 北方面への冒険

 そして、翌日。
「今日は山があるという北側を探索しよう」
 強敵がいたらそちらには近寄らないようにしているが、しかし冒険を投げだしたわけじゃない。
 というか、ダイヤモンドワイバーンが修行の場から戻って来るまでひたすら戦闘訓練とか、正直俺の体がもたない。人間に休みとリフレッシュは必要なんだ。
 というわけで、いざゆかん。北の地。
 今日もスイホ、ドキ、ヒイコを護衛に、ウッドルフに乗って何もない荒野を走る。いや、たまに虫を踏んだりするけど、それは俺が求めているものじゃない。
 ひたすら走って、数時間。前方にうっすらと、山が見えてきた。
「おお、あれがダイヤモンドワイバーンが見つけたという山か」
「遠い。今日中にはつかない」
 ドキがそう断言してくれた。
「うーん、山には何かあると思うんだけど、でも今日中には家に戻っておきたいし、修行の場に比較的近い我が家は捨てられないしなあ」
 それに、これだけ時間をかけて、山しか見つかっていない。
 これは、ひょっとしたらもう帰った方が良いか?
「皆、どう思う。これからどうしよう」
「マスターが望むのなら、私はこのままこの先に何かないか探索を続けてもいい。その間マスターは家に帰ってもらっても、ここでくつろいでいても構わない。とにかく更なる探索が必要なら、私がその任を任されよう」
 ヒイコがそう言ってくれた。
「なるほど。確かに、何か発見はしたいけど、別に俺がいなくても皆に任せればそれでいいのかもな。むしろ、俺はただ邪魔なだけかもしれない」
「そこまでは言わない。けど、私もヒイコと同じ意見」
「私はマスターの乾いた喉を水でうるおすという重要な役目がありますから、マスターとは離れられません!」
 ドキとスイホが言う。いや、水が飲みたかったら別のクリーチャーを召喚してもいいんだけど、まあ、スイホがそう言うならいいか。
「わかった。そう言ってくれるなら、ドキとヒイコに更なる探索を任せるよ。俺とスイホは、今から帰れば丁度昼ごはん時くらいだから、帰ることにする。二人も、日が暮れても帰ってこなかったら心配になるから、ちゃんと今日中に帰ってきてね」
「イエスマスター」
 こうして、ドキとヒイコは探索を再開した。
「スイホ、ウッドルフ。俺達は帰ろう」
「イエスマスター」
「ワン!」
 ここまでつれてきてもらったが、結局家に戻ることにする。
 こんなにも新しい発見がないというのも、つまらないな。神様に、もっと別の場所にワープしてもらえていたら良かったかもしれない。
 まあ、今更そんなことを思っても仕方ないし、それにあんまりがっかりもしていないから、いいけどさ。

 ドキとヒイコより一足早く家に戻って、ごはんを食べてから戦闘訓練をする。
 一度注意したら、スイホはちゃんと訓練につきあってくれるようになった。最初からこうだったら良かったのに。
 そして、ウッドルフのとびかかりは、手加減されたらなんとかかわし続けられるようになってきたのだが、本気でこられるとまるでかなわない。くやしいが、少しずつ回避が上達している気はする。この調子で経験を積んでいこう。
 いっぱい訓練して、いっぱい休んで、またいっぱい訓練する。そうしていると、先にドキだけが家に帰ってきた。
「マスター、只今戻った」
「おかえりドキ。ヒイコは?」
「相談して、二手に分かれた。そして、私は荒野にある地下への階段を見つけた。だから、それを報告しに戻って来た」
「地下への階段?」
 階段ということは、そこに誰かいるのかな?
「階段の先は鍵が閉まった扉になっていた」
「なるほど。人の気配はあった?」
 ドキが首を横に振る。
「わからない」
「その他には、何もなかったんだね?」
 ドキがうなずく。
「そうか。ありがとう、ドキ。でも、そこは危険なのかどうか。現状じゃ判断できないな」
 例えば、その扉の先に良い人がいるとする。
 その場合は良いんだが、問題は悪い人がいる場合、もしくは危険な空間が待っている場合だ。
 こんな荒野に住む人がいるなら、それは訳アリな人に違いない。まず間違いなく、国にいられなくなった人だ。十中八九犯罪者だ。そんな人と仲良くなれる可能性は限りなく0に近い。
 その他の可能性としては、例えば危険なモンスターが封印されているとか。この世界にはモンスターがいて、魔法があるのだ。人じゃなくてモンスターが潜んでいる可能性もあるだろう。
 さて、どうするか。冒険したいなら、その階段を気にするべきだが、警戒するならそこに行くのはまだやめておくべきかもしれない。
「鍵なら、キンカが作ってくれるのではないでしょうか?」
 そこでスイホがそんな、ありえそうなことを口にした。
「確かに、キンカなら可能性はある」
 ドキもそう思うか。それじゃあ。
「よし、それじゃあキンカに鍵の相談をしよう。なんとかなりそうなら、明日地下階段へと行ってみようか」
「イエスマスター」
 というわけで、早速キンカに相談しに行く。

「鍵か。まあできるぞ。少し時間がかかるが、いいか、マスター」
「ああ。できるなら頼む。でも、鍵穴の形はわからなくてもいいのか?」
「イエスマスター。今から私が生み出そうとしている鍵は、コピコピ金という金属で作られた、どんな鍵穴も形を変えて開ける魔法の鍵だ。それなら、どんな鍵も開けられるに違いない」
「なるほど」
 そんな便利なものがあるのか。いや、それ、危険な物じゃないか?
 まあ、悪用しなければいいか。
「わかった。それじゃあキンカ、魔法の鍵を作ってくれ」
「イエスマスター」
 そのニ十分後、俺はキンカから魔法の鍵を受け取った。キリから細いツルをもらい、それを鍵に巻いて縛って、首にさげておけるネックレスのようにする。
 それから更に時間が経ち、日が沈んだ直後のこと。やっとヒイコが帰ってきて、俺はホッとした。
「すまないマスター、何も見つからなかった」
「いや、ヒイコが無事ならそれでいいんだ。ありがとう、ヒイコ」
 当然夜は、皆とおだやかに過ごす。
 そしてその日も、ダイヤモンドワイバーンは戻ってこず、一日が終わったのだった。

 翌日。本日も晴天なり。
「それじゃあ、今日は地下への階段を調べるぞー!」
「おー!」
「ワン!」
 今日のメンバーも、俺、スイホ、ドキ、ヒイコ、ウッドルフ。
 早速ドキに案内してもらい、例の地下階段へ行く。
 何時間もかけて、俺達はドキが発見した地下階段へと到着した。
 確かに荒野のど真ん中に、ぽつんと地下への階段がある。俺は皆の先頭に立ち、階段を下りた。
 すぐに扉を発見。俺は一応、扉を強めにノックする。
 コン。コン。
 しーん。反応無し。よし。じゃあ、開けるか。
「開けた瞬間デストラップとかありませんように」
「確かに、その危険があるかもしれませんわ。マスター、開けるのはお待ちください」
「私が開ける」
 皆の意見を通し、ドキに扉を開けてもらう。
 すると。
「開かない」
「え?」
 なんと、鍵がかかった扉は開かなかった。もちろん、鍵は閉まったままだということだ。
「この鍵パチモンとかじゃないんですかね」
「やめなさい、スイホ。そんないやがらせキンカはしない。とにかく、鍵の性能を確かめたいな」
「同感。マスター、その鍵の力を私が試す」
 ドキは地上に戻ると、土を生み出し、それで錠前を作った。
 ドキはその鍵穴に魔法の鍵を差し込み、鍵を開け、錠前の鍵の部分が開くのを確かめる。
 ドキは更に錠前を二つ作る。その錠前も、魔法の鍵で開けた。
「鍵穴の形は全部違った。魔法の鍵は間違いなくどんな鍵も開ける」
「ということは、あの扉だけ魔法の鍵では開かない?」
「マスター。それでは魔法の鍵の力が否定されていますが」
 スイホにそう言われるが、しかし俺にはそうとしか考えられない。
「鍵に力があるように、扉にも魔法がかかっているんじゃないかな。つまり扉に、魔法の鍵への対処が施されているんだ」
「なるほど」
 スイホがうなずく。
「ということは、扉を開けられない」
 ドキが言う。俺もうなずいた。
「そうみたいだね。それじゃあ、帰ろう。この地下階段は、今の所放っておくしかないね」
「イエスマスター」
「マスター、ごめんなさい。私が見つけたばっかりに、マスターに無駄な時間を使わせた」
「そんなこと、気にするなドキ。俺は気にしない。むしろ少し楽しかったぞ。それに、結局は皆が無事で帰れるんだ。悪い結果じゃないさ」
「マスター。やさしい」
「やさしくないマスターだった時は、いつでも言ってくれ。気をつけるから」
「ワン!」
 こうして俺達は、すぐに家に帰ることにした。
 その後はひたすら特訓。今日も、ダイヤモンドワイバーンは帰ってこなかった。

 本日は一日中戦闘訓練を行う。
 どうせ何もない毎日が続くのだから、こうなったら試しにとことん訓練漬けの日を送ろうと思った次第だ。
 よし、やるぞー。
「マスター、おつかれになったら私の膝枕をご利用ください!」
「マッサージ、やる」
「マスター、マスターは筋肉がお好きなのでしょうか。でしたら私も、腹筋くらい割れていた方が良いでしょうか?」
「皆、ありがとう、けど、今日は皆も自由にしてていいよ」
「イエスマスター。では、本日はマスターを見守り、応援してます!」
 美少女三人の声が明るく、緊張感がない。
 まるで俺の意気込みを霧散させようとしているかのようだ。
 しかし、皆悪気はない。それはわかっているので、出来る限り気にしないことにする。
 でも、筋トレなんてすぐに効果が表れるわけでもなく、更にすぐつかれ、苦しくなり、体はろくに動かなくなる。
 こんなことをするまでもなく、レベルを上げて皆を強くする方が楽なのでは?
 つかれきった後にふとそう思ったが、しかしそれでは俺がラクしすぎる気がする。なので、やはり体を鍛えることは日課にしたい。
 そう強く思いながら、今日一日を過ごしたのだった。
 今日も、ダイヤモンドワイバーンは帰ってこなかった。
 
 翌日。朝。
「マスター。私は今日南方面の探索へ向かおうと思います。よろしいでしょうか?」
 ヒイコがそう言った。
「マスター、私も」
 ドキとヒイコが俺を見る。
 俺は、そういえばそうだった。と思った。
「そうか、南方面は修業の場を発見してからは全く探索してなかったな。わかった。ドキ、ヒイコ。俺の方から頼む。行ってきてくれ」
「イエスマスター」
 なんか、俺が探索に行っても、護衛させるだけで足手まといにしかならないのかな。と思った。なので、俺も行こうとは言わないでおく。
 その後は、今日もひたすら戦闘訓練に打ち込んだ。日没時にドキとヒイコは帰ってきたが、新しい発見はないとの事だった。そして、今日もダイヤモンドワイバーンは帰ってこなかった。
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