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5 荒野その5

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 三人はまた誰が先に俺と訓練するかを言い争い始めたので、俺はウッドルフとの訓練を再開し、結局更に十回程押し倒された。
 ウッドルフにとびかかられると解っていても、避けられなかった。どうやらウッドルフの方が俺より速い動きをするみたい。当然か。俺の運動能力が高くないことは、俺が一番よく知っている。
 でも、十回目ぐらいのとびかかりになると、少しくらいは反応できるようになった。
 ウッドルフのとびかかりに合わせて、木刀を持っていない手の方へと横っ飛びするのだ。すると、あと二倍距離が伸びたら、ウッドルフの前足を完全に避けきれるというところまで実現できた。回避自体は失敗だが、結構良い線いっていると思う。あと、持っている木刀はウッドルフには振り下ろせなかった。そんな余裕ないし、それに仲間を痛めつけるのはやっぱりちょっと無理だ。
「ありがとう、ウッドルフ。お前のおかげで、回避のコツを少しつかめてきた気がするよ」
「ワン!」
「本当は完全回避できればいいんだけど、流石にそれは実力差的に無理みたいだな」
「だったら、ウッドルフに手加減させる。全力じゃなくて、力をセーブさせて慣れていく」
 俺の訓練風景を見ていたドキがそう言った。
「そうか、その手があったか。ウッドルフ、俺にとびかかるのを手加減できるか?」
「ワン!」
 ウッドルフは勢いよくうなずいた。そして早速俺から少し離れて、もう一声鳴いてから俺に迫る。
「ワン!」
 おお、今度のスピードは今までよりずっとゆっくりだ。これなら、なんとか避けられる!
 ウッドルフのとびかかりを、横っ飛びで回避する。よし、上手くいった。後は立ち上がって、またウッドルフを見る!
「ワン!」
 ウッドルフは俺のことを少し待ってくれていて、また一声鳴いてからとびかかってきた。どうやらかなり手加減されているな。もっと上手く避けないと。
 今度はダイブせずに、横に走ってかわそうとする。けれどそれではウッドルフの前足をかわしきれず、このままだと体に当たるのが見ていてわかった。
 なので、咄嗟に木刀を盾にする。
 俺の木刀とウッドルフの前足がぶつかり、その力勝負で俺は負けた。
 俺の体は弾かれるようにして、木刀ごとふっとばされる。
 けれどその吹っ飛ばされ方は弱く、方向も俺が避けていた方向だったので、上手く体がウッドルフを回避しきる。
「ワン!」
 なんとかしのぎきったと思った瞬間、至近距離からウッドルフにまたとびかかられて、俺は焦った。
 そのまま、ウッドルフに押し倒され、顔をなめられる。うう、流石に至近距離からとびつかれたら、回避動作もままならないな。
「あー、またウッドルフマスターの顔なめてる!」
「ウッドルフ、マスターに触りすぎ」
「マスター、もっと上手くウッドルフをかわしてください!」
 美少女三人にそう言われながらも、立ち上がる。
「うーん、やっぱり俺に戦闘はきびしいみたいだな。でも、それでも戦う時はくるかもしれないから、もっと上手くならないと。でも、こうもウッドルフにやられっぱなしだと、今後成長できるか不安だな」
「ワン!」
 ウッドルフは、心配するな。と言っている気がした。
「マスター、次は私と訓練しよう。マスターは木刀でひたすら私を攻撃してくれ。私はその攻撃を全て防ぐ。今度は攻撃の練習だ」
 ヒイコがそう言って俺に近づく。その手には確かに木刀。なるほど、防がれるとわかっているなら、こっちは気兼ねなく攻撃できるな。
「わかった。確かに回避の訓練ばかりしていても仕方ないからな。ウッドルフ、今までありがとう。少し休憩していてくれ」
 そう言ってウッドルフの頭をなでる。
「ワン!」
 ウッドルフは元気よく俺から離れていった。
「さあ。では、マスター、こい!」
 そう言ってヒイコが木刀の先を俺に向けてくる。な、なんだか勝負するみたいな雰囲気だな。
「よし。いくぞ、ヒイコ。せやー!」
 俺は最初、割と本気目でヒイコを攻撃する。上から、右から、左から木刀を振る。その全てをヒイコは難なく防御しきった。
「どうしたマスター、この程度か。これでは子供すら倒せないぞ!」
「うおー!」
 ヒイコに挑発されて、俺は本気になる。とにかく木刀を全力で振り、たまに足元も攻撃してみる。
「ふふふ。マスター、その調子だ!」
 しかし、ヒイコは常に笑顔で俺の攻撃をしのいだ。
 そしてここで、ヒイコは木刀で俺の木刀を攻撃してきて、その力で俺の木刀が吹き飛ばされそうになる。
 俺は慌てて木刀を握りしめ、ヒイコからの攻撃の衝撃に耐えた。
「どうしたマスター、隙だらけだぞ」
「くう、ヒイコ。今のやつ、またたまに頼む!」
 どうやら俺は攻撃に集中するあまり、相手からの反撃への備えがおろそかになっていたようだ。
 これではいけない。常に相手を警戒していないと、攻撃に熱中している間に手痛い反撃を受けることになる。今みたいに木刀を手放さないようにするために動きを止めていたら、その間にばっさりやられてしまうぞ。
「どうしたマスター。今までの勢いが消えたぞ。もっと攻撃して、相手をゆさぶれ、追い詰めろ!」
「うおー!」
 警戒しすぎてもそれが躊躇になって、動きがにぶる。けど力みすぎても、ヒイコに防御ではなく回避されたり、また木刀を弾きとばされそうになった時に、動きが止まって隙ができてしまう。
 もっと、戦闘に慣れなければ。隙無く、かつ全力で。敵を倒すまで油断や休憩はできない。その集中力を鍛えるべく、俺はヒイコを攻撃し続けた。

 俺がつかれ、肩で息をし始めたところで、訓練を休憩にする。
「はあ、はあ。ヒイコ、一度休憩にしよう」
「イエスマスター。確かに、焦る必要はない。時間はたっぷりあるのだから、ゆっくり鍛えよう」
 そう言ってヒイコは笑う。はあ、ヒイコは息切れ一つしてないよ。こりゃ強力な先生だ。
「マスター、おつかれでしょう。お水をどうぞ」
「ああ。ありがとうスイホ」
 俺はスイホの手から水をもらう。ん、なんだかこの水。いつもと味が違うような?
「スイホ。これはいつもの水?」
「ノーマスター。これは治癒水です。ひょっとしたら疲労回復にも効果があると思いまして。いかがでしょうか?」
「ん、おお。そう言われたら、なんだかすっごく体が楽になった気がする」
「それは何よりです。さあ、もっとお飲みになられますか?」
「ああ。じゃあもうちょっとだけ」
 確かに体から、疲労が消えていく感じがする。でも、やっぱりスイホの手から水を飲むのはちょっと抵抗があるな。嫌ではないけど、この方法に慣れるのが嫌だ。
「さて、それではマスター。休憩の合間に、マスターの訓練に貢献した私の頭をなでてくれるとうれしいのだが」
 ヒイコがそう言って顔を赤くしながら近づいてくる。
「うん。ああ、はい。ヒイコ、つきあってくれてありがとう」
 そう言って頭をなでる。すると。
「く、くううっ。これは、予想以上に感激だ!」
 ヒイコはテンションアップしていた。
「むうっ」
「むうっ」
 スイホとドキがヒイコを可愛くにらむ。こ、これはひょっとしたら、ちょっとやるくらいで済ませるのが良いかもしれないな。
「はい、ヒイコ。これからもよろしくね」
「はい。なんならすぐにでも再開しましょう!」
 いや、ヒイコ。それは早すぎだって。あ、いやでも、治癒水を飲んだら元気になったから、もう再開してもいいのか?
「マスター。訓練なら次は私が相手する」
 そう言ってドキが近づいてくる。そしてその手には、だんだんと土の塊が生み出されていって、やがて土の塊が大盾の形になる。
「マスター、次は盾を持った相手に攻撃を当てる訓練」
「なるほど。一理あるな。ありがとう、ドキ。それじゃあもう少し休憩したら、今度はドキが相手してくれ」
「イエスマスター」
 俺は休みながら、どうやってドキを攻略するか考える。ドキが持っている盾は大きい。普通に攻撃しても防がれてしまう。
 盾を避けるなら、その範囲の外、上下左右を狙うべきだが。上、つまりドキの顔は攻撃しにくい。ということは、足元を狙うか、利き手側の右方向から攻撃を通すしかない。
 難しそうだが、やってみるか。これは訓練だ。なるべく気軽に、かつ乗り越えるためにやろう。
「よし、それじゃあドキ、今から訓練につきあってくれ」
「イエスマスター。どこからでもきて」
 ドキが盾を自分の体中心に構え、その上からじっと俺の動きを見てくる。うっ、その盾に隠れられたら、本当に攻撃をあてられる気がしないな。
 とにかくまずは、木刀で足元を狙う。
 するとドキは素早く盾を動かして、簡単に木刀を弾いた。だったら今度は盾が下がった分、肩を狙って攻撃する。
 しかし、それもあっさり防がれる。やっぱり、木刀を振るより盾を動かすだけの方が動きが少なくて簡単なんだ。やばい、これ攻撃成功する気しない。
 でも、諦めない。訓練の途中で諦めるという選択肢はない。もし諦めるとしたらそれは三日坊主の時のみ。訓練終わるまではくらいつかなきゃ強くなれないぞ、俺。
 というわけで、今度は相手の周りを回るように右へと移動を開始する。その間も上下交互に木刀攻撃を振るう。
 しかしドキは、ただ体の向きを変えるだけで俺の動きに対応する。そうだよな。相手の周りをただ回るだけなら、相手はちょっと向きを変えれば即対応可能だよな。ただ右側を狙おうとするだけじゃダメだ。
 ということは、今度は左を狙う!
 急に右回りから左回りへと移動を変える。しかしドキはこれにも冷静に対応した。しかもここでドキは、ただ俺へと盾を向け続けるだけじゃなく、一歩後ろに引く。それがなんともいやらしかった。
 ドキが一歩下がったことで、俺の間合いから簡単に外れる。しかも距離をとった後で、れいせいに盾を構え直す。そうか。盾を攻略できなければ、こうして延々と耐え忍ばれてしまうのか。厄介だ。
 俺はすぐにまたドキに近づこうとして、しかしここで立ち止まった。おちつけ、俺。ただやみくもに攻撃してもドキには通用しない。何か、突破口を見つけないと。
「マスター、もうおしまい?」
 ドキがそう訊いてきたので、俺はニヤリと笑った。
「いいや、これならどうだ!」
 俺はドキに向かって突進する。
 そしてドキが構えている盾の上端を左手でつかんで、そこに腕一本で乗るようにしてドキに迫る!
 上半身だけでも盾を越えられれば、木刀がドキに届くと思ったのだ。
 そして、狙い通り盾の上から木刀を振り、ドキを攻撃する。
 しかし、俺の攻撃がドキに当たる直前に、俺の体が盾ごとふっとんだ。
 ドキが盾を投げたのだ。
「えー!」
 俺は盾をつかんだまま地面に落下。ろくに着地もできないまま、盾も手放して地面にねっ転がる。
「危なかった」
 青い空を見ている最中にそう言われて、俺はちょっとなんともいえない気持ちになった。
 そして、思う。今は訓練中だ。のびている場合じゃないぞ。
 慌てて立ち上がると、ドキは既にまた土の盾を生み出して、装備していた。
 盾、復活早っ。いや、相手がドキだからか。でもドキみたいな相手も出てくるかもしれないから、やっぱり相手が誰であろうとずるいって言うのは無しか。
「本当は今ので決めたかったんだけどな」
「けど、今のは良かった。もう少しでマスターにやられてた」
「そういう訓練だからな!」
 もう一度ドキに向かって走る。
 そしてさっきと同じように盾をつかもうとしたところ、ドキは盾を前後にゆらしてつかみづらくすることによって、俺の手を封じた。
 そして、ドキはすぐに一歩引く。
「同じ手はくわない」
「それはそうかもしれないが、そうすると俺の勝ちパターンが消えるような気がするんだけど」
「なら他の手を思いつく。マスターならできる。頑張って」
「はい、頑張ります!」
 そう言って、ひとまずがむしゃらにドキを攻撃し続け、結局ドキの盾は攻略できないまま、俺の体力が限界を迎えた。
「はあ、はあ。ドキ、休憩にしよう」
「イエスマスター」
 ドキは盾を消して、俺に近づく。
「マスター。頭なでて」
「ああ、はい」
 ドキの頭をなでる。
「至福」
「マスター、早速治癒水をどうぞ!」
 スイホがすぐに近づいてきて、俺に治癒水を用意する。
「ああ、ありがとうスイホ」
 スイホから治癒水をもらい、幸いすぐに疲労感は消えていった。
「それじゃあ、次はスイホと訓練かな」
「イエスマスター。私、頑張ります!」
「ああ。俺も頑張るよ」
 それから数分後。
 休憩を終え、今からスイホとの戦闘訓練だ。俺はスイホに木刀を向ける。対するスイホは何も持たず、はりきった目で俺を見ていた。
「さあ、マスター。どこからでも攻撃してきてください!」
 見るからにスイホに自信がみなぎっている。そうか、スイホは俺の木刀を避けきる自信があるんだな。
「よし、わかった。いくぞ、スイホ!」
「イエスマスター、カモン!」
 まっすぐ近寄って、真上から木刀を振り下ろす。
 すると木刀は、微動だにしないスイホの脳天に直撃した。
「あいたっ!」
「え?」
「くうう、このマスターからの痛みが気持ち良いですううっ!」
「あの、スイホ?」
「さあマスター。もっと私を攻撃して、ボコッて、激しい痛みという名の愛を全身にください!」
「あいや、その、さ。俺は、戦いの訓練をしたいんだけど」
「わかっています。ですからマスターには、私の体を使って、本気で攻撃する覚悟を鍛えていただきたいんです。いずれ実戦で躊躇などをしてしまった時、折角のチャンスを逃してしまうこともあるかもしれません。そうならないために、今の内に私の体をボコッて、全力攻撃に慣れるべきですわ。大丈夫、私は痛いのも気持ち良いです。それに最悪治癒水を飲めば体に傷は残りません!」
「スイホ」
 ダメだ。この子予想以上にダメな子、いやアレな子だ。
「訓練でもなんでも、俺が仲間を木刀で一方的に滅多打ちにできるわけないじゃないか」
「いけませんよマスター、その程度の心持ちではいざという時真の実力を発揮することができません。マスターの心には鬼が必要なんです。そう、私をボコる鬼が。私はこの身を傷つけてでも、マスターを強くしてさしあげたいんです。だからもっと気持ち良い一撃をください!」
 スイホがそんなことを言っている間に、ドキとヒイコが近づいて来た。
「マスター、少しスイホ借りる」
「申し訳ないマスター。少しスイホをこらしめなければならない」
 そう言って二人は、スイホの体を捕まえ、地面に押し付け始めた。
「ああ、うん。二人共、俺はひとまず、呼吸をおちつかせて精神集中するよ」
「何をする、二人共、やめろお、今は私とマスターの二人っきりの時間だぞお、外野はひっこんでなさい!」
 抵抗するスイホは結局、顔を地面に押し付けられた後、二人によっていたるところを蹴られる。
「おしおき、必要」
「このメスブタが。少しは遠慮というものを知れ」
「いたっ、痛い、あなた達、仲間でしょっ、私に、こんなことして、ただですむと、あっ痛い、うわああっ、マスターから以外の痛みなんていりませんわー!」
「ワオーン」
 ウッドルフは少しもこちらに近づくことなく、美少女三人の様子を呆れた顔で見ていた。

 その後すぐに怒ったスイホが、空中に逃げ延びて二人に属性攻撃という名の本気反撃を開始した。
 ドキとヒイコも攻撃を避けつつ、すぐさま全力攻撃を開始。やがてスイホは二対一という状況に勝てず、更にボコボコにされて地上に落下する。
 その間俺は、美少女三人の行動をちょっと気にしながら、木刀のすぶりをやっていた。
「やっぱり、皆の本気の戦闘に俺が入る余地はないな。速度も攻撃も違いすぎる。やっぱり基本俺は、皆に頑張ってもらわないと生き残れないんだろうな」
 スイホは地面に落ちたまま、ピクリとも動かない。その間にドキとヒイコが俺の前まで来た。
 スイホ、あの状態でも光になって消えないということは、まだ息があるんだろうな。しばらくそっとしておこう。
「マスター。スイホへのおしおきは完了したが、マスターの戦闘訓練は、次はどうする。また順番に、ウッドルフとの訓練からやり直すか?」
 ヒイコにそう言われたので、俺は少し考えてから答えた。
「いいや。皆と訓練して、俺には地力が足りないと思ったんだ。だから、後は走り込みとか腕立てふせとか、そういう筋トレをしようと思う。皆との訓練は、また明日からにしたいな」
「了解」
 ドキがうなずく。ヒイコもうなずく。
「うむ。それも良いだろう。ではマスター、私達は見張りをする。何か用ができたら声をかけてきてほしい」
「うん。二人共、スイホの暴走を止めてくれてありがとう。今後もまた同じようなことがあったら、よろしくね」
「イエスマスター」
 二人にそう言われた後、俺はひたすら筋トレをした。
 すると、すぐに辺りが暗くなった。日没の時間になったのだ。もうそんな時間か。俺は汗を手でぬぐいながら、少し離れてしまっていた地下居住地に戻った。
 その時には既にスイホが復活していて、地上にはお湯湧き立てのドラム缶風呂が待っていた。
 俺はその風呂に入り、今日のつかれをいやした。ふう、心は勝手に焦るしくやしいし、思いつきで役に立つかわからない努力も始めたが、気持ち良い風呂と植物だけとはいえ一日三食のご飯があれば、結構幸せだと感じてしまう。幸せってこんなに簡単に見つかるんだな。できるだけ、忘れずにいよう。

 4 新発見、アフロ恐竜。

 翌朝。俺は皆が朝食を食べている最中に言った。
「皆。今日は南側で修行の場の状況を確認した後、西方向に行こう」
 修行の場は、時間が経てばモンスターがリセットされるのだから、いるモンスターがレベル1の土人形に戻った瞬間にまた挑めば、きっと効率的なレベル上げができるに違いない。それを狙って、確認しに行きたい。
 それで、西方向だが、確か西には恐竜がいるはずだ。
 好戦的なモンスター、アンピスノ。確か神様の言う通りならば、レベルは43だったはず。
 今の俺達のレベルは、45。これなら、アンピスノと戦っても苦戦はしないかもしれない。
 ということで、もっとレベルを上げたいなら恐竜を倒しに行くべきだ。そういう考えを皆に伝える。
「西には恐竜がいるはず。今の俺達ならきっと倒せるはず。皆、戦ってくれるか?」
「イエスマスター」
「ワン!」
 良かった。皆も賛成してくれた。
「よし、それじゃあ今日は西を見に行こう。でも、危なくなった時は急いで逃げるから、皆も十分気をつけてね」
「イエスマスター」
「ワン!」
 皆の返事も聞いたし、今日は恐竜狩りだ。
 きっと、良い経験値になってくれるはず。

 今日もキリとキンカは家で内職。あとは皆ででかけに行く。ウッドルフが俺を乗せて走っている間、風を感じて気持ち良い。
 まず南に行って、修行の場まで来る。
 今日の修行の場には、たくさんの鳥型の土人形がいた。
 あの巨大ボスの姿と似ているからビビるが、皆人間サイズだし、遠くから見るくらいなら近づいてこないから一安心。そして、まだリセットはされていないか。何時リセットは始まるんだろうな?
「まだ修行の場には挑めないな」
「マスター、私に一つ提案があります」
 スイホがそう言ったので、俺は警戒した。
「また変な、というか変態な考えじゃないだろうね?」
「もう、違いますマスター。この場所は何回も来るよりも、今ここに見張り役のクリーチャーを残して、修行の場のリセットが始まったら家に知らせに戻るように命令しておけばいいんです。そしたらほら、マスターはもうここを気にしなくても、修行の場がリセットした時がわかりますよね。毎回こうして確認に来る時間を削減するためにも、この場の見張りは必要だと思いますわ!」
「スイホ。頭いいな」
 素直にそう思った。
「いつもこういう子でいてくれたら良いんだけど」
「マスター、それってほめてますか?」
「うん。ほめてるほめてる」
「やったー、うれしいですわー!」
 喜ぶスイホの顔を見て、少し心がほんわかする。そうだ、俺は優秀で役に立つ仲間が欲しいわけじゃない。確かにそこも大事だが、それ以上に守りたい、一緒にいたいと思える仲間が欲しいんだ。だから、スイホもちょっとくらいポンコツでいい。ちゃんと愛してあげよう。
「でも、ここに一人だけ見張りを置いておくなんて、そんな寂しいことさせていいのかなあ?」
「別にマスターの命令ならば、皆喜んでやりますよ。あまりそういう遠慮はいりません」
 ヒイコにそう言われる。そうか、じゃあ、頼むか。
「わかった。それじゃあ、ここの見張りにダイヤモンドワイバーンを召喚しよう。ダイヤモンドワイバーン、召喚!」
 俺の目の前に一枚のカードが現れ、それがダイヤモンドワイバーンになる。
「ギヤアアーン!」
「ダイヤモンドワイバーン。前に召喚した時のことは憶えているか?」
「ギヤンアン!」
 おお、ダイヤモンドワイバーンがコクコクとうなずいている。
「お前には痛い思いをさせてしまったな。すまなかった。あれは俺の責任だ」
「ギヤアアーン!」
「マスター。ダイヤモンドワイバーンは、全然気にしてないんでもっとなんでも命令してくださいって言ってる」
 ドキがそう言う。
「そうなのか、ダイヤモンドワイバーン?」
「ギヤアアーン!」
 おお、うなずいてくれた。
「そうか、ありがとう。それで、早速で悪いが次の命令なんだが、しばらくの間この場所で待機して、土人形がレベル1のやつに戻るまで見張っていてほしい。そしてその時が来たら家まで戻ってそのことを報せてほしいんだが、頼めるか?」
「ギヤアアーン!」
 ダイヤモンドワイバーンはしっかりうなずいた。
「そうか。やってくれるか。それじゃあ頼む。ああけど、別に夜になったら戻ってきてもいいし、危なくなった時も助けを求めにきていいからな。あと、一人が寂しかったらもう何人か見張りを増やしてもいいぞ?」
「ギヤアアーン!」
「そういう気づかいは無用。しっかり役目を果たします。と言っているな」
 ヒイコがそう言う。
 なんて良い子なんだ、ダイヤモンドワイバーン。今度からはもっとお前のことを大事にしよう。
「そうか。それじゃあダイヤモンドワイバーン、ここを頼んだぞ」
「ギヤアアーン!」
「それじゃあ、俺達はこのまま西に行く。見張りよろしくな!」
 こうして俺達は、ダイヤモンドワイバーンに修行の場を任せて西に向かった。
 ダイヤモンドワイバーンなら空も飛べるし、何があっても平気だろう。俺達は安心して修行の場から去った。
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