神様だけにバカ売れしたカードゲームが、異世界で超優秀な特殊能力に生まれ変わりました(ターゲットブレイク)

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8 荒野その8

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「さて、それじゃあ皆。もうレベル61の土人形は倒したから、後は家に帰ろうか?」
「ノーマスター。私達は今、これだけの戦力が召喚されています。そして今目の前にはこちらに近づけない格好の的がいます。流石に百体は相手にしませんが、できれば99体はレベルアップのために倒しておきたいです」
 キリにそう言われる。確かに、これだけの戦力があるのに、倒せそうな高レベルモンスターを百体も見逃すなんてことは、もったいない気がする。
 少しためらってから、やがて俺はうなずいた。
「わかった。けど、この前みたいに範囲攻撃で皆一気に倒そうとはしないでよ。必ず一体ずつ倒して、最後の一体、百体目は残すこと。それができるなら、再度の戦闘を許可する」
「イエスマスター!」
「ガオオオーン!」
 皆は一際高い声をあげると、再び修行の場へと近づいた。皆、そんなに戦いたいのか。まあ、ここで更にレベルを上げられるなら、俺としてもうれしい。
 けど、ここからの敵は、ただやられるだけではなかった。
 槍を二本持った土人形は、空を飛びながら槍を投げて、修行の場内から外へ遠距離攻撃を行ったのだ。槍を手放した後は十秒くらい使って手に槍を再出現させ、弾切れというか、槍切れを起こす様子はない。
 これに皆は、槍を回避しながらの高速戦闘で対抗した。
 五人の美少女と、十人のドラゴン、五人のワイバーン達が、複雑な軌道を描きながら空を飛び回り、お返しにと属性攻撃を放つ。彼女達は、槍土人形達と互角以上の勝負をした。
 しかし高速戦闘ができなかったジャイアントは、瞬く間に槍の雨の餌食となった。
 ジャイアントはタフで、数本程度の槍なら刺さっても問題なかった。だが、20、50本と槍で貫かれると、体に限界がきて、光になって消えていった。
 だがジャイアント達もただやられているばかりではなく、お返しに属性攻撃を放ち、相打ちを決めていった。
「レベルが上がりました。レベルが上がりました」
 まるで散りゆくジャイアント達をいたわるかのように、とっ君がそう告げる。
 そんな、激しい戦いが繰り広げられた後。美少女五人、ドラゴン十人、ワイバーン3人まで減った皆は、土人形を一人だけ残して戻って来た。
 今俺のレベルは、61。とうとう60をこえたか。
「ありがとう、皆。これだけレベルが上がったら、かなり安心できるよ」
 まだ最強の土人形は倒せていないし、アフロ恐竜にも勝てるか分からないけど、61レベルという強さはきっとなかなかのものだろう。
「それじゃあ、ええと。ファイアワイバーン。君だけここに残って、修行の場のモンスターがリセットされた時、家に報せに帰ってきてほしい。他に仲間が必要なら、今の内に言ってくれ」
「フルアアーン!」
「マスター。ファイアワイバーンは一人でその役目を全うできると言っている」
 ヒイコがそう言ったので、俺はうなずいた。
「そうか。それじゃあよろしく頼む。あ、でも、ファイアワイバーンは俺の家を知らないよな。それでも平気なのか?」
「フルアアーン!」
「イエスマスター。我らクリーチャーはマスターの位置ならいつでも正確に感じ取ることができます。その感覚を頼りに家まで行くことが可能です」
「なるほど。それなら安心だ。それじゃあ、ファイアワイバーン。見張り、任せたぞ。他の皆は、俺と帰ろう。あー、ところで俺は、どうやって帰ろう?」
 いつもは、ウッドルフに乗って移動していた。けれど、今はウッドルフを召喚することができない。もし召喚する場合は、皆を一度消して、更に一時間待たなければならない。
「シャアアーン!」
 するとここで、ウォーターワイバーンが自身を誇示するように一声鳴いた。
「ウォーターワイバーン。俺を乗せてくれるか?」
「シャアアーン!」
 ウォーターワイバーンは、任せろ。と言っている気がした。

 7 東の国アッファルトへ

 ウォーターワイバーンの乗り心地は良かった。
 体の半分以上が水なので、その水の部分に体を沈み込ませて、自分の体を固定する。体が服ごと濡れるのは少し嫌だったが、ウォーターワイバーンの体から手を出してみると、全くその手は濡れていなかった。どうやら、ウォーターワイバーンの水はワイバーンの体に全部留まるらしい。そうでなければ、今頃水の部分は全部流れ落ちてしまっているか。
そしてワイバーンのスピードは、ウッドルフ以上に速かった。小一時間程度で家に到着。誰一人遅れずついてくる。ワイバーンとドラゴンは空を飛ぶが、美少女五人は地上を走って同じスピードだった。うーん、けどこうなると、家の増築が必要かな。皆地上にいるというのもよくないかも。
 などと考えていると、よく見ると俺の家のすぐ近くに、たくさんの馬車と人の姿があった。馬車は七台、人は六人。特に人は、遠目でもわかる通り鎧を着ている感じだった。
 鎧を着ているなら、剣も持っているだろう。俺はまず、慌てた。
「この荒野に、人? まさか、俺のことを調べにきたのか? というより、どうする?」
 俺が慌てている間に、美少女五人が動いた。
「マスターの家に不審者を発見。直ちに捕縛する!」
 すぐに属性攻撃で、水の鞭やツルの鞭といったものを出現させる。それで彼らを捕らえ、無力化していった。キンカとヒイコは家の中に駆け込む。
「ま、待った皆。悪い人じゃなかったらどうするの。一旦ストップ、止まって!」
 この俺の声が皆に届いたのは、ウォーターワイバーンが地上に降り立った後だった。美少女達は既に、男達への詰問を始めていた。
「なんの用があってマスターの家に近づいたんですの? 正直に言わないと命はありませんわよ」
「そ、それより、お前達は何者だ、どうしてこんな場所にいる。事情を話せ!」
「あら、質問をしているのはこちらです。どうしても答えられないというのなら、答えたくなるまでおしおきが必要ですね」
 ビシンバシン。キリがツルの鞭で男を叩く。
「ぐあーっ、気持ち良いー!」
 み、皆の目が今まで見たことないくらい冷たい。俺は慌てて彼らに近づいた。
「皆、ちょっと待った。本当にストップ。話は俺がするから、皆は警戒だけしていて」
「マスター、家に侵入していた賊も捕らえました!」
「こちらには4人程おったぞ!」
 ヒイコとキンカまで、まるで手柄を誇るように言った。
 ああ、もう。何がなんだか。本当、どうして今日に限ってこんな来客があったんだ?
「とにかく、皆さん。俺は、ここに住んでいる一般人です。決して怪しい者ではありません。そして皆さんは、一体何者なんですか?」
「こんなところに住んでいて怪しくないわけがないだろう!」
 捕まえている一人に言われた。うぐ、そう言われてしまったら、なんとも言えない。
「あなた達、何をマスターに口答えしているんですか。痛みをもって接しないと、まともな話ができないとでも?」
 キリがそう言って、更に鞭で捕まえている人達をビシンバシン叩く。止めなければと思ったが、動きが速くて止められない。
「ぐわー!」
「痛気持ち良いー!」
「うわあだからキリ、この場は全部俺に任せて!」
 じゃないと痛みで快楽を感じている人が普通の道に戻れなくなってしまう!
「お待ちなさい。こちらの事情は、私が説明するわ!」
 するとここで、聞いたことのない女の子の声を聞いた。今俺達が捕まえているのは、全員男のはずだ。
 声が聞こえた方を振り向くと、そこには金髪の少女。少女と言っても、女子高生くらいの背の高さ。旅人っぽい服を着ているが、その服もどこか上等な感じがして、それに顔立ちも美しい。
 馬車の中から出てきたんだろうか。それも、俺達と話をするために?
 ひょっとしたら、金髪少女は良い子なのかもしれない。
「えい」
 ドキがそんな金髪少女に土を放って、土の縄と手枷足枷で瞬時に拘束した。
「え、わ、きゃあ!」
 金髪少女が驚いて倒れる。当然立ち上がれない。
「王女様ー!」
 捕まっている人達が叫んだ。え、王女様?
「ドキ、ひとまず彼女の拘束をといてあげて!」
「ノーマスター。不審人物は何をするかわからない。まずは全員縛り上げておくのが無難」
「いやでも本当にあの子が王女様だったら、無礼になるよ。それはまずいんじゃないかな?」
「大丈夫。ここではマスターが法。頂点。絶対」
 ダメだ。ドキが暴走している。なんとかしないと。
「こ、このままでも良いですわ。ですからとにかく、こちらの話を聞いて、誤解を解いてください」
 王女様らしき人がそう言った。俺はおそるおそる問う。
「あの、王女様?」
「何かしら」
「本当にその姿で話をしても、いいんですか?」
「そう思っているのならこの縛りを解いてほしいのですけど!」
 ああ、やっぱり怒ってらっしゃる。
「ドキ。相手は話をしたがっているから、土の拘束を解いてあげて」
「イエス、マスター」
 ドキは、しぶしぶうなずいた。
「ここまで許す」
 ドキはそう言って、王女様の足の拘束だけを解いた。腕はまだ縛られたままだ。
「くっ、ぐううっ」
 王女様はなんとかして立ち上がろうとする。それを見て俺は思わず近づいた。
「あ、今起き上がらせます」
「いけませんマスター。相手の目的が不明である内に、不用意に近づいては。ここは私にお任せを!」
 スイホがそう言って、王女様を抱き起こす。
「けっ。このメス犬め。マスターに起こしてもらおうとするなんて、浅ましいにも程がありますわ」
 そしてスイホが王女の耳元で吐いた毒が、こっちにまで聞こえてきた。
 やめろ、スイホ、気まずくなるからやめろ。
「あ、あの、まずは、勝手にそちらを全員捕まえてしまって、申し訳ありません。王女様、なんですよね。ですが、なぜこのような場所に?」
 王女様は顔が砂で汚れながらも、毅然とした態度で俺を見て言った。
「私はアッファルト王国の第二王女。リキュア、オーデ、エライノ。しかし今、アッファルト王国はバウコン帝国の侵略の危機にさらされており、もうじき滅ぼうとしております」
 俺は、彼女が言った言葉に納得するのに、数秒の時間を要した。
 彼女は王国の王女様で。
 その王国が滅びかかっていて。
 彼女は今ここ。
 それは何故?
「その相手国からの侵略行為って、要するに戦争ですよね。戦争は回避できなかったのですか?」
「バウコン帝国は、和平交渉ができるような国ではないのです。故に私は、王様からの勅命により、王家の血筋を絶やさぬためにこの荒野を越え、海を渡り、別の大陸で子孫繁栄を成就するという使命を賜ったのです」
 ふむ。ふむ?
「この荒野を、越えるんですか?」
「ええ、そうよ。その際に、偶然ここを見つけたの。この荒野の真ん中にある不思議な木々に、凶暴と名高いアンピスノの死体。調べるには十分な要素です。そして、配下の騎士達が見つけた地下への階段を調べている間に、あなた達が来たというわけ」
 なるほど。彼らは王女様の騎士だったのか。だが、彼女達がここに来た理由には無理がある。
「あなた達は、この荒野を越えられると思ってるんですか?」
「ええ、そうです」
「でもこの先西に行けば、アフロ恐竜がいますよ。あれを越えられるんですか?」
 きっと今の俺達でも、アフロ恐竜を倒すのは難しいだろう。それを、俺達がすぐ拘束できた彼女達が攻略できるとは考えにくいのだが。
「アフロ恐竜、ああ、ライロピスノですか。アンピスノとライロピスノは、死んだふりをしていればおそってきませんよ」
「マジで!」
「え、ええ。本当です。読んだ文献が正しければ、ですが」
 なるほど。死んだふり、か。いやいや、そんな手実際には試せないな。
 けど俺は、うなずいた。
「わかりました。そういうことでしたら、俺達も警戒を解きます。それに、もうすぐ日もくれます。ここで一晩泊まってもらってもかまいませんよ」
「マスター、そんなことを言って、後でこやつらがおそってきたらどうする!」
 ヒイコが強い口調で言う。もう、心配しすぎだなあ。
「大丈夫だよ、ヒイコ。相手は王女様だし、それに俺達の方が強い。何も悪いことはしないよ」
「だが警戒するにこしたことはない。マスターはあやつらに甘すぎだ」
 キンカにそう言われる。
「きびしくあたってどうするのさ。さあ、皆。拘束を解いてあげて。兵士の皆さんも、俺達を敵とは思いませんよね?」
 そう言って兵士達を見ると、兵士達は叫ぶように言った。
「拘束は解いてもらう。だがお前達は危険すぎる。安心できるわけがない。第一、お前達は何者なんだ。こんな場所にいて、多くのドラゴンを従えている。まさかお前達は、古の魔法使いか?」
 ふむ。兵士の言葉ももっともだ。古の魔法使いがどういう存在かはわからないが、俺達の周りにはドラゴンが十人、ワイバーンが二人も待機していて、更に美少女達は凄く強い。気にするなという方が無理だろう。
だから俺は、正直に答えた。
「俺は魔法使いではなく、カード使いです。この女の子達も、ドラゴン達も、皆俺の仲間です。そして俺は、この世界の人間ではありません。神様の力を借りて、ワープしてきた異世界人です」
「!」
 俺の素上は、たぶん偽らなくてもいいだろう。この世界のどこそこ村から来たといっても、そんな嘘をつきとおせるとは思えない。なので、真実を述べる。
 もしそれでも理解してもらえなければ、それまでだ。解放はするので、すぐここから立ち去ってもらおう。
「そして、こんな荒野の真ん中でポツンと暮らしているのは、ちょっとこの世界の奴隷制度とかが怖かったから、人里から距離をおいていただけです!」
「そ、それは、本当ですの?」
 王女様が瞳を震わせながら言う。
「愚か者が、マスターが嘘を言っているとでもいうのか!」
「マスターの言葉は、真実」
 スイホとドキが言う。すると王女様は、俺に向かって両膝をつき、頭を下げた。
「神の使いよ、お願いです。どうか私達をお助けください!」
「と、おっしゃられましても」
 何この流れ。こういう時どうすればいいの?
「王女様、どうか頭をお上げください!」
「そうです。こんな男のホラ話を信じてはいけません!」
 騎士の皆さんが声をかける。まあとにかく、誰でもいいから、王女様の頭を上げさせてほしい。
「黙りなさい。あなた達は信じられないの? 強力な魔法を使う少女達と、数多くのドラゴンを従える選ばれし者。この方はまさしく神の使いよ。そして、この方の力なくしてアッファルト王国は救われない!」
「あの、ちょっと待った。本当に、タイム。俺は別に、王国を救うとかそういうことは、できませんよ」
「ご謙遜を。私を守る彼ら騎士は、ゆうにレベル40は超えています。彼らを瞬く間に無力化した力、とても普通のものではありません。その強力な力こそ正に、アッファルト王国に迫るバウコン帝国の兵を全て退ける、正義の力に間違いありませんわ!」
 いえ、違います。と言いたい。
 そう思って捕まえている騎士の方々を見ると、その一人が言った。
「王女様、我らの役目をお忘れにならないでください。我らは王族の血を絶やさぬため、このレキの大荒野と西海を渡らなければならないのです。このような魔法使いにかまっている時間はありません!」
 その言葉に、思わずうなずきたくなる。といっても、俺の家の前で立ち止まっていたのはあなた達の方なんだけどね。
「愚か者。それこそ役目をはき違えているというものです。私が国から逃げるのは、一度国が滅びようと、いずれ後の世代の王族がアッファルト王国を取り戻すため。ですが、今状況は変わりました。この目の前に現れた神の使いの力によって、滅びる寸前となったアッファルトは救われるのです。お願いです。どうか、私達をお救いください!」
「ちょっと待った、ちょっと待った!」
 またしても頭を下げるリキュア王女に声をかける。
「王女様。まず俺は、神の使いなんかじゃない。まあちょっと神様から特殊能力をもらってるけど、それ以外は普通の、一般人だ。戦争なんて止められっこない。変な期待はやめてくれ!」
「いいえ、アッファルトを救えるのはあなただけです。お願いです。対価ならさしあげます。アッファルトに平和が戻りさえすれば、そこでできる限りの報酬と待遇、金銀財宝を積み上げて献上します。私の体が欲しければ、喜んでさしあげます。ご命令とあらば、奴隷にもなりましょう。ですから、どうか私達にそのお力をお貸しください!」
「いや、王女様。そんなこと言われても」
「お願いします、この通りです!」
 困った。この王女様、俺の話を聞く気が無いみたいだ。
「悪いけど、俺に国を救う力なんて、本当にないよ。皆、王女様達の拘束を解いてあげて。ここから更に西に行く気なら、止めなくていいから。家の中にいる人達も、解放してあげて」
「イエスマスター。しかし、よろしいのですか。別にこの者達など戦利品扱いとしてマスターの所有物、即ち奴隷にしてしまっても構わないと思いますが」
 スイホが怖いことを言う。俺は奴隷制度が怖くて人里に近づくのを躊躇していたんだぞ。それなのに自分から奴隷を作ってどうする。
「そんな怖いこと絶対にしないから。王女様の話、皆も聞いたでしょ。この人達にはやるべきことがあるんだ。それを邪魔するわけにはいかないよ。というわけで、兵士の皆さんも、俺達とは争わず、すぐに立ち去ってください。いいですね」
 俺は何度も言って、スイホ達に王女様達の拘束を解除させた。
 そして俺は、静かに考え事をするべく、家に入る。
 イスがあって良かった。キリ、作ってくれてありがとう。
 今はウッドルフに座れないので、木製のイスに座る。そして目を瞑り、考えた。
 今、アッファルト王国はバウコン帝国に滅ぼされかかっているらしい。そして、アッファルト王国の勝利は難しいとのこと。
 たぶん、アッファルト王国というのは、ここから東の方向にある、ダイヤモンドワイバーンが見つけた国のことだろう。北には山、南には森があるらしいが、そっちには逃げないのだろうか?
 そして、そのアッファルト王国の王女様に助けてほしいと言われたけど、はたして俺に何ができる?
 国が滅ぶんだぞ。きっと人がいっぱい死ぬ。それも、人に殺されてだ。
 それを、俺が止められるのか?
 無理だ。
 もし俺が召喚できるクリーチャー達を使って、バウコン帝国の人達と戦うとしても、それは間違いなく、命の奪い合いになる。
 俺のクリーチャーが、人を殺すんだ。
 それは、俺が殺したも同然だ。
 モンスターはともかく、人殺しなんて、できない。
 するわけには、いかないよ。
「マスター」
「ん、なんだい、キンカ」
「あの者達はなぜか、この家の近くで土下座をし始めたぞ。しかも、ここ、マスターの家に向かって、だ」
 そう言われて、なんともいえない気持ちになる。
「帰ってもらって。俺には、王女様の期待には応えられない」
「イエスマスター。では、力づくで追い払おう」
「いや、それもやめて。ただ言うだけでいいから。王女様達も、すぐに立ち去るよ」
「イエスマスター」
 こうして、キンカが家を出た。
 そして、すぐに戻ってきて、俺に言った。
「マスター、あの者達から言伝を預かってきた。王女とやらは、マスターが力を貸してくれるまでここを動かないとのことだ。そして、他の兵士は、王女の決定にただ従い、マスターが協力すると言うまでいつまでも待つと言っている」
「あの人達、何を考えてるんだ!」
 俺は頭を抱えた。
 だって、国が滅ぶんだろ。人が死ぬんだろ?
 そんな危機に、俺が何をできる。
 人は、いずれ必ず死ぬ。
 それは寿命だったり、病気だったり、誰かの手によるものだったりと色々あるけど、決まってそんな場面にいたって、俺ができることなんて何もない。
 俺には誰かを救える力も、意思もない。
 誰かを救える人は、特別な人なんだ。俺じゃない。
 だから、例えアッファルト王国が滅ぶとしても、俺には何もできないよ。
「キンカ。君なら彼女達を救えるか?」
「ふむ。それはやってみなければわからん。だが、マスターのご命令とあらば、全力で希望に応えるぞ。なんだ、やる気になったのか?」
「違うよ。ただ聞いてみただけだ。どっちみち、皆に危ないことはさせられない」
「そうか。まあなんにせよ。あやつらは単なるイレギュラーだ。マスターの興味も引けぬ有象無象であるようだし、別に助力する必要も、気にかける必要もないだろう」
「違う、違うんだ」
 彼女達を、なんとも思わないわけじゃない。こんな荒野にまで来ているんだ。その覚悟が、大きいというのもわかる。
 ただ、俺に彼女達に応えられるだけの力がないから、拒んでいるだけだ。
 神様から力をもらったとしても、俺は俺。
 いきなり国を救えなんて言われて、できるはずがない。
「マスター、お水はいかがですか?」
 そうスイホに言われ、彼女を見ると、その手には既に水があった。
「ああ、ありがとう。スイホ」
 俺はその水を見る。
 俺は、この水を飲める。それも、スイホがいる限り、いくらでも飲めるんだ。
 だが、王女様は、アッファルト王国の人達は、きっとこのままバウコン帝国に滅ぼされてしまったら、ただの水を一口飲むことすらできなくなるかもしれない。
 いや、それどころか、当たり前のように送っていた日常生活、生きる喜びすら手に入らなくなるだろう。
 それを、俺は、ただこの場で一人水を飲んで、見過ごすというのか。
 そう思うと、思わず両手に力が入った。
 再び、心が迷う。
 けど、揺れていた心はふいに、自分なりの答え、思いを見つけて、やがて、決心した。
「スイホ、キンカ。俺、決めたよ」
「イエスマスター。私達は全てマスターの意に従います」
「俺は、異世界に来てまずやらなければいけないことをやる。それは、人助けだ」
 俺の力がどこまで通じるかわからない。けど、やらないよりはマシだ。そう思った。
 そう思って、水を飲み切った後、俺は再び王女様達に会いに行った。

 地上はもう日没時で、辺りは薄暗くなっていた。
 そんな中、王女様と十二人の騎士が俺がいる方に向かって土下座をしているのを見た。
 彼女達の思いを、少しでもくんであげよう。その結果がどうなるかはわからないけど、俺も彼女達に何か、してあげたくなった。
「皆さん。頭を上げて、立ち上がってください」
「で、では、私達をお救いしてくださるのですか?」
 王女様達はまだ立ち上がらない。だから俺は、言った。
「俺も考えを改めました。アッファルト王国を救えるかはわかりませんが、この力、出来る限り王女様のお役に立てたいと思いました」
「っ、本当ですか!」
「ですがそれには、条件があります」
「な、なんでしょう?」
「王女様は、俺にアッファルト王国が救うに値する国であることを、俺に認めさせてください。例え一国が滅ぶ危機であっても、あなたの国が悪い国であった場合、俺は協力したくありません」
 もしかしたら、アッファルト王国が悪くて、バウコン帝国が正義である可能性もある。
 俺はまだ、二国のことをあまり知らない。だから、アッファルト王国のことを知らなければ、俺は心の底から助けようとは思えないだろう。
 まあもう既に、この目の前にいる王女様を助けたいとは思っているわけだけど。でも事情が変われば、やっぱり完全に力にはなれない。
「わかりました。私達と共に王国に来てくだされば、国内の光景を子細にご紹介いたします」
「それともう一つ。俺の力は戦いの道具ではありません。例え敵が現れ、彼らを殺す必要に迫られようとも、俺はなるべく誰も殺さない道を選びたい。なので王女様には、出来る限りの戦闘の回避。これに尽力してもらいます」
「それも受け入れます。私だって、無闇に誰かを殺したいとは思いません。あなたにお力をお借りするように、私もまた出来る限り、争わぬ方法で戦います」
「そう言ってくださるなら、俺はあなた達に力を貸します。そして、俺は王女様方に頭を下げられるような偉い人ではありません。すぐに立ちあがって、俺の隣に立ってください。俺は頭を下げられるより、あなた達と同じ景色を眺めたい」
 そう言うと、ようやく王女様達が立ち上がった。
「偉大なる神の使いよ。ご協力、感謝いたします」
「俺は札瓜沙漠です。リキュア王女、これからよろしく」
 そう言うと、まず王女様が俺に手をさしだした。
 俺は、その手をつかみ、握手した。
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水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

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