神様だけにバカ売れしたカードゲームが、異世界で超優秀な特殊能力に生まれ変わりました(ターゲットブレイク)

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14 雪山その1

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 王都から出て、壁の外に来ました。
 幸いドラゴン達は、ちゃんと壁のすぐ外で俺の帰りを待っていた。
「皆、待っていてくれてありがとう!」
「ガオオオーン!」
「それで、急ぎの用があるんだけど、俺とリキュア王女様を乗せてすぐに荒野へ飛んでくれ。誰が一番速く飛べる?」
「グオオーン!」
「ジュレイドラゴンか。頼む。お前一人で俺とリキュア王女様の二人を乗せて、飛んでくれ!」
「グオオーン!」
 一人のジュレイドラゴンが一鳴きして、俺達に背中を向ける。俺とリキュア王女様は、大きな荷物を背負ってジュレイドラゴンに駆け寄る。
「まさか私が、ドラゴンに乗るような日が来るとは」
「王女様。道案内は頼みました」
「はい!」
 すぐにジュレイドラゴンから植物のツルが伸びてきて、俺とリキュアの体をしっかりと捕まえて、宙へ浮かせて背中へ乗せると、更にしっかりと体に固定して、ジュレイドラゴンが立ち上がった。
「よし、行け。ジュレイドラゴン!」
「グオオーン!」
「あの、サバク様。他のお連れの方々は?」
「一度消させてもらう。とっ君。一度このジュレイドラゴン以外を消して、特殊能力終了だ!」
「イエスマスター」
 次の瞬間、俺達の近くにいたスイホ達、そしてドラゴン達が一瞬で姿を消した。
「これは?」
 リキュア王女様が困惑している間に、ジュレイドラゴンが空を飛ぶ。
「リキュア王女様。方角はどっち!」
「もう少し右です。しかし、皆さまの姿はどちらへ?」
「今は休んでもらっているんです。そうですね、俺の特殊能力を、王女様にだけ教えておきましょう。王女様も、俺の弱点を知っておいて、その上で用心してください」
 空を飛んで移動している間、俺はリキュア王女様に自分の特殊能力を説明した。
 そのおかげで、簡単に説明が終わった時には、既に結構な時間、荒野を飛んでいた。

「まさか、時間が経つだけでサバク様の仲間がよみがえるなんて。とてつもない力です」
「怖い、ですか? あまりにも、強すぎて」
「いいえ。逆に納得できます。サバク様はやはり、本当の神の使いだったのです。疑ったことは一度もございませんが、サバク様の力は、あまりにも強大すぎます。それは正に正義を貫くためのお力です」
「それは言い過ぎだと思うけど。けど、それくらい強い力があるからこそ、バウコン帝国を止められる。俺の力は、きっと今が使う最高のタイミングだと思うんだ」
「そう思ってくださり、真にありがとうございます」
「地下階段まで、まだかかりそう?」
「はい。まだ近くまではきていません。しかし方角はあっています」
「つまりそれまで、まだ時間があるね。じゃあそれまでの間、あー。俺の話でも、聞きたい?」
「はい、ぜひ!」
 王女様にそう言われたので、身の上話を語る。
 けれど、それほど楽しい話もないし、長い話もない。一つ特別な話があるといえば、作ったカードゲームが神様だけにバカ売れしたこと。
 そうしたことを話し終えると、リキュア王女様は言った。
「つまりサバク様は、神様に選ばれたということですね」
「んー、まあ、そうなる、かなあ?」
「サバク様はもっと自分を誇って良いと思います。神様へのお目通りが叶う者など、そうはいません。それに、授かった力を使って、もっと多くのものを求めて良いと思います。伯爵や王の座なんて、ほんの始まりにすぎません。もっと多くのものを、手に入れるべきです」
「そう、なのかな?」
「はい。何よりサバク様は正義の心に満ち溢れていて、おやさしいです。サバク様ならどんな富や地位を得ようと、間違ったことはいたしません」
「どうだろう。そこは注意をはらっておこう」
「サバク様。この世界に来てからは、どういったお過ごし方をされたのですか?」
「ん、うーん。大したことはしてないっていうか。何回か死にかけたっていうか。死にかけた理由は大体スイホ達の不注意なんだけど、でも俺が無事に生きていられるのもスイホ達のおかげだから、なんだろう。あっという間に過ぎたって感じかなあ。まあ、速めにレベル60になれたっていうのは助かったかな。そのおかげでアッファルト王国を救うことができたんだし」
「確かに。そのおかげで私達も救われました。きっと神様のご加護がサバク様を英雄の道へと導いてくださっているのでしょう」
「まあ、たびたび夢に現れてくれてるくらいだから、加護があるっていうのかな。今も神様のお告げが発端で、絶好の場所にレベル上げをしに行けるんだし」
「サバク様だけでなく神様のお力も加われば、アッファルト王国は安泰ですわ」
「ありがとう。ところで、リキュア王女様はどう育ったのですか? よければお聞かせください」
「私はただ、第二王女として相応しいふるまい方を身につけるべく、あらゆる教育を受けていただけです。特別お話するようなことはございません」
「良い思い出は、思い出せない?」
「それを言うのなら、城で過ごした時間の全てが良き思い出です。ああ、でも、一番の思い出は、サバク様と出会えたことでしょうか」
「ああ。あの時は、その、ごめん」
 なんか、王女様を拘束したり、いろいろしたりしてしまったことを思い出してしまった。
「い、いいえ、こちらこそごめんなさい。元はこちらが無礼をはたらいたのですから!」
「そういえばあの時は、王女様が後から現れたんでしたよね?」
「はい。私は騎士の方々に、安全だとわかるまで馬車の中にいてほしいと言われていたのです。そして、もし危険があるとわかれば、騎士達を置いて逃げろと、そう念を押されていました。ですが私は、結局一人では逃げられませんでした」
「王女様は、お優しいんですね」
「いいえ。私は本当にただ、一人では逃げられなかっただけです。たった一人で荒野を行く覚悟を、私は持ち合わせておりませんでした。そして、騎士達の思いを踏みにじって、皆が捕まった中へと飛び込んだのです。今思えばあれは結果的には間違っていませんでしたが、実に愚かな行動でした」
「でも、王女様がそういう方だったから、俺はきっと、アッファルト王国を助けようと思ったんですよ」
「そう、でしょうか?」
「はい。王女様は、間違ったことはしていません」
「やはりサバク様は、お優しいですね」
「そうですか、どうも」
「私なんかが、サバク様の妻となって、良いのでしょうか?」
「え?」
「いえ、なんでもありません。それより、もうすぐ地下階段に到着すると思われます。今、鍵の目印がわずかに動きました」
「よし、わかりましたリキュア王女様。ジュレイドラゴン、地上に階段がある場所を見つけられるか?」
「グオオーン!」
 俺とリキュア王女様は今、ジュレイドラゴンの背中に乗っている。なので位置関係上、下を確認する役目はジュレイドラゴンだけに任せるしかない。
 それから一分経ち、二分経ち、まだジュレイドラゴンの飛行速度が減速しないな。高度も下がらないな。と思った頃、リキュア王女様がぽつりと言った。
「あの、サバク様」
「どうしました、リキュア王女様」
「どうやら、先程動いたように見えた目印は、あれからまたピクリとも動かなくなってしまったようです」
「うん」
「もしかしたら、まだ地下階段にはちょっとだけ近づいただけで、実際の距離はまだまだずっとずうっと、ずうーっと遠いのかもしれません」
「うん」
「ですので、その、ごめんなさい」
 リキュア王女様に謝られた。
「王女様。そんなこともありますよ」
 俺は、そう言ってあげることしかできなかった。
 それからもしばらく飛び続けて、やがてジュレイドラゴンは荒野の中の地下階段を見つけ、その前で俺達を降ろした。
 そこで、俺はなんとなく、ジュレイドラゴンにバナナを出してもらって、皆で食べた。

 バナナのおかげで元気を得た。
 リキュア王女様が前を歩き、地下階段の先の、扉の前に立つ。
「お願い、開いて」
 リキュア王女様がそう言って鍵を使うと、扉は無事開いた。
 そして二人で扉の先へ入ると、俺はそこの光景に見とれた。
 四角い小部屋の床いっぱいに、一つの黄色く光り輝く、円形魔法陣が描かれている。更にそこから、同色のホタルのような光がフワリと上昇しては、途中で消えていった。
 ちなみに、ジュレイドラゴンは大きすぎるので地下階段を通れなかった。必然的にお留守番だ。
「これが、ワープ魔法陣」
 なるほど。ワープを使って、コールデッドマウンテンに一っとびというわけか。
「ワープができるなら、確かに一瞬で山まで行けるな」
「あ、どうやら正常に作動するようですよ、サバク様。光が強くなってきました」
 リキュア王女様の言う通り、俺達が魔法陣の中に入ると、魔法陣の光が強くなり、更に浮かび上がる光の玉の量も増していった。
 やがてホタルの光は重なり合って壁となり、時計回りに回転し始める。
「リキュア王女様」
「はい」
「この先何があっても、俺が絶対に守るから」
「っ、はい!」
 きっとこの先に、俺よりも強いモンスターがゴロゴロいる。
 俺はその中で強くなり、リキュア王女様と共にアッファルト王国に帰るんだ。

 次の瞬間、黄色く輝く光が一瞬で緑色に変わった。
 そして、光の壁も無くなり、またホタルの光程度に変わる。開けていたはずの扉も、今は閉まっている。
ここは、さっきとは違う場所?
「ワープに成功したのか」
「行きましょう、サバク様。きっとここが、コールデッドマウンテンです」
 リキュア王女様が鍵を使って、扉を開ける。
「あっ」
 そこでリキュア王女様が何かに気づいた。
「どうしたの、リキュア王女様」
「向こうの鍵を閉めるのを忘れていました」
 そう言ってリキュア王女様が、こちらを見てテヘヘっと笑う。
 可愛い。
「じゃあ、一緒に行こうか」
「いえ。一人で平気です。向こうにはまだ、ジュレイドラゴンさんがいてくださいますし」
「そうか。そうだな。ならお願いします。その間に俺は、一人でこの先のことを調べておくよ」
「ええ。お願いします。サバク様」
 こうして俺は先に扉をくぐり、リキュア王女様はワープ魔法陣の上に残った。
 魔法陣部屋の先は、石と木材で建てられた、大きな屋敷になっているようだった。
 まず目に入ったのは、広い廊下だ。そして近くに、いくつもの扉。
「一番近くの扉は、トイレか」
 ちなみにトイレは洋式だった。
 他は、収納スペースだったり、小部屋だったり。小部屋がかなり多かった。
「誰かいませんかー?」
 思わずそう言う。返事は返ってこないけど、念のためスイホを召喚しよう。もう皆の召喚を終えてから、一時間は経っているはずだ。
「スイホ、召喚!」
 俺の目の前に一枚のカードが現れて、それがスイホに変わった。
「お呼びでしょうか、マスター」
「一応、周囲の警戒をお願い。誰かがいたら、用心して」
「イエスマスター」
 そして俺達二人は、広い居間に行きつく。暖炉はあるけど、薪はない。イスやテーブルも、かなり年季が経っている気がする。
 もっとよく居間を観察している内に、ふとカーテンを開けた窓の外が、辺り一面雪景色であることに気づいた。
「雪だ」
 外は薄暗い。そして雪がチラチラと降っている。そして乱立する、雪が積もった木。やはりここは、雪山の中みたいだ。
「遅くなりました、サバク様」
「うわあ!」
 驚いて声がした方向を見る。そこにはリキュア王女様が立っていた。
「リキュア王女様。扉の戸締り、ありがとうございました」
「はい。ふふ、サバク様は怖がりなんですね」
「ああ、まあ、はい。驚いてしまってすいません」
「いえ、いいんです。むしろこちらこそすみませんでした」
「ここには、誰もいないんですか?」
「ええ。ここはコールデッドマウンテンの中腹。住んでいる者などおりません。中の様子はある程度きれいに見えるかもしれませんが、それはこの屋敷を建てたのが古の魔法使いで、モンスター除けと劣化防止の魔法が今もかかっているからです。決して誰かが定期的に掃除をしていたからではありません」
古の魔法使いか。前にも聞いたことがある気がするな。そこまでなんでもやってしまう人だったのか、古の魔法使い凄い。
「かつてはここにも王族と従者達がよく来ていたそうですが、ある時を境に行き来をやめました。なのでここに人が訪れるのは、本当に久しぶりのことなんです」
「ある時、というと?」
「かつて我らは、悪魔にとりつかれた王族の娘を助けるために、このコールデッドマウンテンに住んでいるウサット族の里から秘宝を盗んで、結果的にそれを壊してしまいました。それ以降、誰もこの屋敷には一度も近づかなかったんです。ウサット族との争いを、避けるために」
「盗んだん、ですか」
「ええ。宝剣と聞いています。その剣が悪魔を倒した直後に、刃が折れてしまったのだとか。結局宝剣は返すことができず、ウサット族との関係はそのまま断たれたという話です」
「なんともいえない話ですね」
「きっとウサット族も、宝剣を盗んだ私達を許してはいないでしょう。サバク様、もしウサット族を見つけたら、ご用心を。ウサット族の特徴は、銀髪に兎の耳と聞いています」
「わかった。気をつけるよ」
 話を聞く限り、悪いのはアッファルト王国の人達なんだろうけど、でもそれからかなり年数が経っているだろうし、今の人達は悪くないはずだ。
「その宝剣を盗んだのって、当事者達はまだ生きてる?」
「いえ。五百年以上も前の話です」
「そっか。それならリキュア王女様達は完全に悪くないね。でも、もしウサット族の人達と話ができたら、ちゃんと謝っておこう」
「はい」
「マスター。私が残りのこの建物の様子を見てきましょうか?」
「ああ、スイホ。一緒に行こう。俺も建物全体の様子を、見ておきたい」
「それもいいですが、サバク様。サバク様は一刻も早くレベル上げに行った方が良いのでは?」
 確かに、リキュア王女様の言う通りだ。
「私はレベル上げにはなんのお役にもたてませんし、せめてこの建物内のことは、全て私にお任せください。サバク様は、どうかレベル上げにご専念を」
「わかった。それじゃあ、そうするよ。スイホ、やっぱり外へ出よう。なるべく早く、かつ多く手頃なレベルのモンスターを見つけたい」
「イエスマスター」
「あ、でしたら。持って来たリュックの中に防寒具が入っておりますので、それにお着替えください。そうすれば寒さも平気ですよ」
「ああ。助かります、リキュア王女様」
「私は元から寒さなんか平気ですわ」
 俺は、早速リキュア王女様が用意してくださった防寒具に着替えた。
 そして、三人で玄関まで行く。
「よし。じゃあ、行ってくる。この屋敷のことは頼みました、リキュア王女様」
「はい。サバク様。どうかご無事で」
「むうっ。行きますよ、マスター!」
「ああ。行こう。スイホ」
 俺は扉の内鍵を開けて、両開きの扉の片側を開けた。
 次の瞬間、驚く程冷たい空気が顔にあたる。
「寒い!」
 俺は素早く外に出る。そしてスイホも出るのを確認してから、扉を閉めた。
「うわあ、マスター。辺り一面白すぎて、ちょっと幻想的ですね」
「ああ、そうだね」
「では、レベルアップのため、行きましょう!」
「うん」
 いざ歩き出すと、雪を踏む独特の感覚が足に伝わってきた。これが雪山か。
「あ、マスター。足音が独特な音ですよ。結構楽しい!」
「そうだね。確かに、楽しいかも」
 焦ってばかりでも仕方ないか。少しは雪山を楽しむ余裕があっても良いかもしれない。
 そう思っていると、突然視界の右端で、何かが動いた。
「てえい!」
「やあっ!」
 グサッ、グサッ。
 直後スイホが俺の盾になって、同時に大きな氷柱が二本、スイホの体に突き刺さった。
「ス、スイホ!」
「マスター、ご安心を。私は平気です!」
 そう言われても、口から血をとばしてるのが見えてるよ!
「て、敵か、キンカ召喚!」
 目の前に一枚のカードが現れて、それがキンカに変わる。
「む。スイホ、ケガをしているな」
「キンカ。攻撃してくる敵を」
 そこまで言ったところで、俺は敵の正体を確認した。
 相手は、銀髪に兎耳の、少年と少女の二人組だった。武器は持っていないが、服や靴は雪で作られたかのように真っ白だ。
 あ、あれはまさか、今さっきリキュア王女様から聞いたばかりの、こちらを恨んでいると思われる現地の民族!
「こ、拘束して。ケガさせちゃダメだから!」
「イエスマスター」
 キンカは少年少女へと走り出す。一方スイホは、気合いで氷を体から引き抜いていた。
「この程度お、マスターをお守りした勲章だと思えば、どうってことないですわ!」
「ありがとうスイホ。でも俺はカードに守られてるから、今は自分の安全と相手の無力化に専念して!」
「イエスマスター!」
 そう言ってスイホは、両手を口元にあてて顔を上へ向けた。おそらく、自分で治癒水を生み出して飲んでいるのだろう。
 ところで、キンカと少年少女達は、かなりハイレベルな魔法勝負をしていた。
 というか少年少女が二対一で、キンカとの魔法合戦に押し勝っている。あの子達、強いぞ。キンカだけじゃ勝てない!
 でも、スイホは今傷を癒やしているし、俺は剣しか持ってないし!
 あ、そうだ。ジュレイドラゴンを呼べばいいんだ!
「ターゲットを一枚チャンスカードに変えて、ジュレイドラゴンをこの場に瞬間移動!」
 次の瞬間、荒野にいたはずのジュレイドラゴンがこの場に現れた。
「グオオーン!」
「きゃー、ドラゴンー!」
「で、でかいぞー!」
 よし、子供達は慌てているぞ!
「ジュレイドラゴン、子供達を拘束して!」
「グオオーン!」
 ジュレイドラゴンも植物のツルを生み出して、子供達を縛り上げようとする。
「えいっ!」
「あ、このドラゴン、あんまり強くない!」
 うそ、これでもまだ子供達に勝てないの?
「くそお、あのクソガキ共があ。傷の礼、たっぷり返してやりますわ!」
「スイホ、おちついて。彼らは捕まえるだけだから!」
 でも、三対一でもまだ不安だ。せめてもう一人くらい召喚したい。
 あ、そうだ。今が次の召喚までの時間を短縮する時じゃないか?
「とっ君、再召喚まであと何秒!」
「あと39秒です」
「じゃあ4枚のターゲットをチャンスカードにして、残り時間をサクッと削減!」
「イエスマスター。もう次の召喚が可能です」
「じゃあ、イルフィン、サルンキー、バートリー、ネズット、カメトルを召喚!」
 俺は、5コストまでなら一人だけだけど、1コスト召喚なら5人まで即召喚できることをちゃんと憶えていた。
 だから今目の前に5枚のカードが現れて、それがイルフィン、サルンキー、バートリー、ネズット、カメトルになる!
「キュー!」
「キキー!」
「チチチッ!」
「チュー!」
「カメー!」
 よし。皆、良い声だ!
「皆、少年と少女を全力で捕まえろー!」
 皆思い思いに鳴いて、63レベル相応のとんでもないスピードで突撃した。
「な、何あれ、敵が急に、いっぱい!」
「こ、これはまずい。おおお、お前ら、くるなー!」
 少年少女が何本もの氷柱をとばしまくる。
 けれどそれはろくに狙いが定まっておらず、難なくうちの1コストクリーチャー達が回避して突破し、魔法で拘束した。
「ひー、動けないー!」
「うわー、やられたー!」
 氷と鉄とツルと土の縄でグルグル巻きにされた二人を見られたことで、俺はようやく相手に近づけるようになった。
「ふう。ありがとう皆。この子達、やけに強かったなあ」
「ひっ」
「く、来るな!」
 少年少女は俺を見るなり、怯えた。俺はなるべく、怖がらせないように言う。
「君達。俺は敵じゃないよ。まずは、安心して」
「そんなの嘘、敵だもん!」
「悪い奴の言葉なんか、聞くもんか!」
「それは、昔ここに来てた人達が、君達の宝物を奪ったから?」
「!」
 少年少女は、俺の言葉に驚いた。
「そ、そうだ!」
「あなただって知ってるじゃない。やっぱり悪い奴らが帰ってきたの!」
「違うよ。といっても、その話は俺にはどうすることもできないけど。俺はただ、この山にレベル上げしに来たんだ。強くなったら、すぐに帰るよ」
「つ、強くなったら、俺達の里を襲う気なんだ!」
「あ、悪魔。あっちいけ!」
「わかった。俺はもう行く。けど、君達の誤解は、どうしても解いておきたい。少しの間、こっちの話を聞いてほしいんだ。このまま君達を、帰すわけにもいかないから」
「や、やっぱり、酷いことする気なんだ!」
「放せ、はーなーせー!」
 いやだって。この子達がこのまま家に帰って、敵が攻めてきたなんて伝えられたら、俺レベル上げどころじゃなくなるかもしれないし。
 この子達には少し怖がらせてしまうかもしれないけど、一度屋敷の中まで来てもらおう。
「キンカ。一人、屋敷まで運んで。もう一人は、俺が運ぶから」
「イエスマスター」
「お待ちくださいマスター。二人目は、この私が運びますわ。もしケガの心配をしてくださっているのなら、それは無用です。この通りもう完治しましたわ!」
「そう。そこまで言うなら。スイホ、お願い。ところで君達。名前は。俺は沙漠って言うんだ」
 少年少女はここで、息ぴったりにそっぽを向いた。
 言えないか。まあ、仕方ない。
 こうして俺達は、すぐに屋敷の中に戻った。

 少年少女を、屋敷の中へと運び込む。
 玄関には、まだリキュア王女様がいた。良かった、丁度いい。
「まあ。サバク様。どうされたのですか、その子達は」
「ああ、うん。ただいま。リキュア王女様。悪いけど、俺達の都合を、この子達に言って聞かせてほしいんだ。このまま家へ帰したら、たぶん大変なことになるから」
「悪者がまだいた!」
「新しい悪者だー!」
 二人はリキュア王女様を見てそう言う。それを見たリキュア王女様は、事情を察してくれて、うなずいた。
「わかりました。この子達を説き伏せる役目は、この私にお任せください」
「うん。お願い。けど、言っても理解が得られないようだったら、そのまま帰してあげてね。今日この子達が帰ってこなかったら、両親が心配するから」
「はい。わかりました」
「帰れるの?」
「っ、おい、バカ、ルンナ。喋るな!」
「ええ。帰れますよ。ちゃんと家までお帰しします。ですので安心してください」
 ちょっとだけこちらを見た少女に向けて、リキュアは笑顔で言った。
 けど二人はまた、そっぽを向く。
「念のため、このクリーチャー達7人をここに残しておくよ。それじゃあ俺は行ってくる」
「はい。いってらっしゃいませ」
 リキュア王女様に頭を下げられたのがなんともいえなかったので、素早く外へ出ようとする。けれどその時ふと気になって、少年少女に声をかけた。
「ねえ。君達のお家はどっちにある?」
 彼らの答えは沈黙だった。でもそれでもいい。知りたい答えがなんでも返ってくるなんて、思ってはいないから。けど、だからこそ俺は、リキュア王女様が二人と打ち解けることを信じよう。
「もし君達の家の方に行ってしまったら、俺は気づいた瞬間に全力でそこから離れるよ。だから、心配しないで。騒ぎは起こさないから。戦いも、起きないよ」
 それだけ言って、再び屋敷を出る。大きすぎるので屋敷には入れなかったジュレイドラゴンと合流。
 さあ。改めて、ここからが本番だ。
 まずは、扉を出た正面へと一直線に進んでいこう。その方が迷う危険はないだろう。
 あと、空からの偵察も有効か?
 いや、ここに来てすぐに、ウサット族との出会いもあった。彼らに見つからないようにするためにも、空からの偵察は控えた方がいいだろう。
 今回は、行けるところまで一直線に行って、暗くなり始めたらすぐに帰ろう。帰ったらイルフィンがいてくれるし、イルフィンを頼っての本格的な索敵も明日からできそうだ。
 となるとまずは、移動ではなく、召喚だな。
 ウサット族2人との戦いは、相手が子供であるのにも関わらず、5コストクリーチャーが3人いてもこちらが不利そうだった。そのことを考えると、こちらは今の内に十人、いや15人くらい用意した方が良いかもしれない。
「ヒロードラゴン、召喚」
 屋敷の前でヒロードラゴンを召喚する。するとヒロードラゴンは俺の思い通り、俺と同じくらいの小さなサイズで召喚できた。
「よし、実験成功だ!」
「ガオーア?」
 ヒロードラゴンが俺を見つめて、首をかしげる。
「いや、思い通りに小さく召喚できたなって。ヒロードラゴン。しばらくは俺の護衛をしてくれ。数がそろったら、この山の探索に行くぞ」
「ガオーア!」
大きいクリーチャーを召喚しなくて済むのなら、あまり広く場所を使わない小規模な戦闘もできるだろう。あと13人、小型クリーチャーを召喚して、戦力を集めよう。
 俺はその召喚を全て終えるまで、屋敷の前でひたすら召喚可能時間が訪れるのを待った。
 それは、なるべく敵との遭遇を警戒した結果の、堅実な行動だったけど、はたから見るとビビリで情けない動きだったかもしれない。まあそうだとしても、俺は自分の命が惜しいからやっぱり慎重に動くけどね。
 残るターゲットは4枚か。あと最大3回まで使えるチャンスカード、有効に使いたい。



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