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17 雪山その4

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 夜ごはんの次はお風呂だ。
 屋敷に風呂場があったので、利用する。ただし、屋敷には水道がなかった。
 なので、スイホに水をはってもらい、その後カメトルに丁度いい温度まで温めてもらう。水の中で燃える炎って美しい。神秘的。
すぐにお風呂の用意ができたので、まず俺が入ることになった。
 俺としては順番は最後でも良かったんだけど、皆にどうしてもとゆずられてしまったから、仕方ない。ここで頑なに拒んでも無駄な時間を使うだけなので、すぐに入ることにする。
 全部脱いで湯舟につかる。
 ザバーン。俺が入ることによってあふれるお風呂のお湯がなんとも気持ち良かった。
「ふー。皆、一番風呂ありがとうー」
 お風呂は気持ち良い。体が温まって、気分もおちつく。最高のリラックス空間だ。
 そんなひと時を味わっていると、突然、リキュア王女様が裸になって風呂場に入って来た。
「失礼します、サバク様」
「え、えっ、えー!」
 リキュア王女様が裸になって風呂場に入って来たー!
 慌ててリキュア王女様に背を向ける。そして言った。
「あの、リキュア王女様、これはどういうことでしょうか!」
「ええ。実は、旅の備えとして必要だと、リュックにタオルを入れて持って来ていたのです。お風呂場に来る前に、皆で誰がサバク様の入浴中にタオルを届けるかでじゃんけんをしました。そして見事私が勝ちました。ネズットさんは強敵でした」
ネズットー、もう少し頑張ってー!
ていうかよく皆負けたな。クリーチャー達が全滅する確率の方が低いはずだろ?
「折角ですので、私がサバク様のお体をぬぐってさしあげます」
「いいえ結構、自分でします!」
「そう言わずに。もっと私を頼ってください」
「頼り方が間違ってる!」
「サバク様。そんなに、私はサバク様のお相手として不足ですか?」
 リキュア王女様、まだそんなことを言っているのか。
「リキュア王女様。リキュア王女様は素敵な方です。ですが、本当に俺なんかと、結婚したいと思ってるんですか?」
「はい。むしろ、サバク様以外には考えられません!」
 いかん。聞き方がまずかった。
「それは、ありがとうございます。ですがやはり、そういうことはまだ早い。少なくとも、アッファルト王国を本当に救うまでは、結婚とかは考えない方が良いと思うんです。だから、どうか、リキュア王女様。真の平和が訪れるまで、そういうことは待ってもらえませんか?」
「そうかもしれませんが、今は戦いの中にある一時の休息の最中であり、こうして無事にサバク様とお会いできる貴重な時間なのです。こんな時こそ、体と心を全て癒やすために、愛を求めあい、確かめ合うのは悪いことではないと、そう思いませんか?」
「いいや。今も外では俺の仲間が頑張って戦ってくれてるんだ。そんな中、俺だけそういうことをする気にはなれない。例え今は体を休めていても、俺の心は今でも、戦いの中にあるんです」
 そこまで俺が言ったところで、沈黙。
 数秒後、リキュア王女様は言った。
「では、この戦いが終わったら、サバク様は私を選んでくださいますか?」
「え、偉ぶって」
「私がサバク様の隣に常によりそい、子孫を産むに相応しい女であると、認めてくださいますか?」
「か、考えておきます」
「そうですか。わかりました。では、待ちます」
 よ、良かった。わかってくれたあー。
「ですがサバク様。もしアッファルト王国が滅んでしまったとしたら、その時は絶対に私を妻にしてくださいね?」
「ど、どうして?」
「それは私が、いえ、私の子孫が、アッファルト王国を取り戻さなければならないからです。そうなった時も、サバク様のお力が必要であるということを、決して忘れずに。約束してくださいね?」
「わ、わかった。例えそうなったとしても絶対に俺がリキュア王女様を守り続けるし、第一絶対にそうならないようにしてみせる」
「絶対ですよ?」
「うん。絶対」
「絶対絶対、絶対ですよ?」
「俺嘘つかない。約束破らない」
 少なくとも、ここではいとは言えない。言えるか。結婚だぞ。今の俺の身元はゆるゆるだ。まだ大切な人を迎える準備とか段取りができてない。
「わかりました。それでは、今回はここで引きさがります」
「うん。ありがとう」
「では、タオルをお渡ししますね」
「あ、うん。ありがとう」
 俺は後ろからタオルをさしだされたので、それをもらう。
 するとその時、タオルをつかんだ俺の手が、リキュア王女様の両手に包まれた。
「サバク様。私はこれからも、サバク様からの愛をいただけるように、精一杯頑張りますから」
 そこでやっと、リキュア王女様が風呂場を去った。
 俺はタオルを見る。
「覚悟しなければ、ならないのか」
 結婚。
 俺が、リキュア王女様と結婚。
 リキュア王女様はああ言ってくれているが、しかし本当にそれでいいのだろうか?
 リキュア王女様は、後悔しないのだろうか?
「いや、例え後悔する日がくるとしても、その理由は必ず俺になる」
 女の子を悲しませたくないのなら、女の子を悲しませないように生きるしかない。努力を続けるしかない。
 あそこまで言ってくれたリキュア王女様に、俺は答えよ、答えよー。
 いや、やっぱり本当に俺でいいのか?
「覚悟、決まらねー」
 もう少し、俺は風呂場で考えることにした。
 俺がもっと決断力がある男だったら、リキュア王女様にあんなことを言わせなかったんじゃないかなー。と、ちょっと思う。

 屋敷にあるたくさんの小部屋には、ベッドも完備されてあったので、それを使わせてもらう。
 俺のクリーチャー達からはベッド不要との申し出を受けたが、リキュア王女様は必要なので、俺の分と二部屋使う。
「あの、サバク様と私が一緒のベッドで寝れば、ベッドは一つで済みますが」
「いや、流石にそれはできない。してはならない」
 スイホとキリも俺に賛成したので、俺とリキュア王女様は隣り合った個室を使うことにした。
 しかしそうなると、残るクリーチャー達はどこで寝るんだと、俺は思った。
「当然マスターの部屋で寝ますわ」
「それが当然です」
「私達が、いつでもマスターをお守りします!」
「チュー!」
「カメ!」
 スイホ、キリ、カナタ、ネズット、カメトルはそう言う。
 しかし、その配置だと俺は気にかかることが一つある。
 リキュア王女様は、一人でも良いのかどうか。その点だ。
「というわけで、スイホとキリ、カナタはリキュア王女様の部屋で寝て。護衛ということで」
「ひ、必要ありませんわ。第一ここはウサット族が手を出せないまま残っている堅固なお屋敷ですのよ。敵への備えなんていりません!」
「スイホ程言うつもりはありませんが、この屋敷は今のところ安全です。そういう心配はいらないかと」
「ネズットとカメトルがマスターのそばにつくなら、私はかまいませんよ」
 よし。まずはカナタの了承を得られた。
「リキュア王女様は、どうですか? 人がいた方が安心するとか、ありませんか?」
「はい。ですが強いて言うなら、私もサバク様と同室したいです!」
 うん。皆こんな感じだ。
「それでも、俺は寝室を分けるべきだと思う。一つは俺、ネズット、カメトル。もう一つは、リキュア王女様、スイホ、キリ、カナタの部屋。わかった?」
「イ、イエスマスター」
 こうして、俺の心配事が一つ解消された。
 やっぱり、リキュア王女様は常に守られてないとね。もうウサット族は今ここに俺達がいることは知っているはずだし、少しはその備えが出来たら良いなと思う。
 モンスターは危険だけど、ウサット族はこの屋敷のことを知っている。ある意味モンスター以上に気にしなければならない。
 屋敷待機組の戦力も、もっと増員した方がいいだろうか?
 少しその話もしたが、リキュア王女様に問題ないと言われた。
 もし何かあれば、王家の鍵を使って荒野に逃げればいい。そう思ってくれている。そして例え何かあっても、のちに俺と合流できれば、何の心配もなくなるとのことだ。
 確かに、誰も入れないワープ部屋と屋敷があれば、大抵の脅威は無意味と化すだろう。
 それをふまえても、皆との部屋割りは決して変えないけど。やっぱり、男女が一緒になるのは常識的ではないと思うんだ。ちょっとの間でも、そういうところはきっちり分けよう。
 そう念を押してから、俺達は眠りについた。
「レベルが上がりました」
 寝る前にそう言ったとっ君と、今も外で頑張っているであろう仲間の存在が、これ以上なく頼もしく感じた。

 11 雪山二日目

 目覚めた。
「マスター。眠っている間にレベルが上がりました」
 意識が目覚めてすぐに、とっ君の声が聞こえる。
「おお、ありがとう、とっ君。そしてありがとう、皆。今のレベルは、76か。たくさんモンスターを倒したんだな」
 なんだか本当に、俺がいない方が皆上手くやれるのかもしれない。
 いいや、そういう後ろ向きな考えはよくない。そう、俺だけしかチャンスカードを使えないんだから、絶対現場にいた方が良い。今日も頑張るぞ、俺。

 ネズット、カメトルと共に部屋を出ると、部屋の前にリキュア王女様、スイホ、カナタがいた。
「マスター、おはようございます」
「おはようございますマスター」
「サバク様、おはようございます」
「皆、おはよう。こんなところで、どうしたの?」
「はい。今日も一瞬でも早くサバク様とお会いしたくて、こうしてお部屋の前で待っていました」
 リキュア王女様にそう言われる。そして皆にうなずかれる。
 そう言われると、なんか困る。まるで早く起きない俺が悪いかのようだ。
「キリは今、朝ごはんを用意してくれてます!」
 カナタに笑顔で言われる。ふむ。ということは、フルーツを出してくれてるのかな?
「マスター。私の聖水でお顔を清めてください。それとも、朝風呂に入られますか?」
「いや、風呂はいいや。ありがとう、皆」
 とにかく俺は、慌てて朝の支度をした。
 皆にずっとつきそわれているのは慣れてきたけど、更にリキュア王女様まで加わるとまた緊張する。まあ、それだけ期待してもらっているということだ。今日も一日頑張ろう。
 先に食堂に行ったネズットとカメトルに遅れて食堂に行くと、そこには香辛料の香り漂うスパイシーな空気が待っていた。
 なんと、今朝の食卓にはカレーがあったのだ。
「え、なにこれ、カレー?」
「イエスマスター」
 キリがそう言って、ネズットとカメトルの前にカレーを置く。
「あ、おはようキリ」
「はい。おはようございます」
「どうしたの、カレーなんて。そんな材料、あった?」
「イエスマスター。今日はトマトと豆の無水カレーです。カナタ作の炊き釜でライスも炊きました。力作です」
「なるほど。全部野菜で代用してあるのか」
「サ、サバク様。今回の食事の案は、私が考えました。昨夜キリさんが用意してくださった香草焼肉を見て、ひょっとしたら野菜炒め等もこれなら美味しいのではないかと思ったのです。そうしたらキリさんが、これを作れると。私はただ見ているだけでしたが、少しでもお役に立てたでしょうか?」
「ああ。リキュア王女様。凄いです。おかげで美味しい朝ごはんが食べられます。ありがとう。キリもありがとう」
「イエス、マスター!」
「マスター、水と料理に使う火は私がおこしましたわ!」
「す、スイホ。水はわかるけど、火はどうやって?」
「木と木をこすり合わせて」
「あ、ありがとう。すごく頑張ったね」
「マスター、鍋やスプーンは私が生み出しましたよ!」
「うん。カナタもありがとう」
「えへへー」
「じゃあ、冷めないうちに食べよう」
「はい!」
「イエスマスター」
「チュー!」
「カメー!」
 今日も賑やかなごはんだ。こんな幸せな時間があるから、今日も頑張れるんだな。

 カレーを食べ終えた。美味しかった。
 その後になってようやく、俺は外に出た皆が戻ってきていないか気になった。
 早速外に出る。すると皆の姿があった。
「お、帰ってたか、皆。ごめん、遅くなって。全員大丈夫」
 そう言いながら見渡してると、ふと皆の口元に、黒い血痕がこびりついているのが見えた。
「皆、外食した?」
 こくり。16人にうなずかれる。
「そ、そう。美味しかった?」
「ガオオオーン!」
「ワンワン!」
「キューキュー!」
「わあ、ちょっと待って皆。誰か呼んでくる!」
 ひとまず、話がわかる人型クリーチャーが必要だ。

 慌ててキリ達を呼ぶと、全員一度外に出た。リキュア王女様まで来る。
「皆、通訳を頼む」
「イエスマスター」
 皆からの話を聞いた結果、ヒューテルまずい。モグネー美味しい。タコ美味しい。モグラまずい。とのことだった。
 そうか。やはりモグネーは美味しかったか。昨日は惜しいことをした。
 それで、おそらくタコはユダコ、モグラはオトーロなのだろうが、皆食べたのか。つまり、倒したのか。
「皆、そいつら全員と会って、戦ったのか。苦戦しなかったか?」
「ガオオオーン!」
「ワンワン!」
「それなりに強かったですが、自分達の敵ではありませんでしたよ。と言っています!」
 うん。カナタ。通訳ありがとう。
「ありがとう、皆。よし、それじゃあ。まずは、皆口元を拭くか」
 皆口元を血で汚しているので、ワイルドさが上昇している。衛生的にもよくないだろう。
「丁度リキュア王女様が、タオルを用意してくれてあったんだ。皆、それで」
「ワン」
 ウッドルフが一声鳴くと、目の前に木綿のタオルが現れた。
 いや、このタオル、やけに温かいな。いや、それ以前に。
 タオルだ。
 うん。
 タオルだ。
「ウッドルフ。これお前が出したのか?」
「ワン!」
 ウッドルフは大きくうなずいた。
「うん。ありがとう、ウッドルフ」
 俺はそう言った後、キリを見る。
「マ、マスター」
「キリ。俺、初めてタオルが出るところ見たんだけど、ひょっとして、隠してた?」
 だって今まで、拭くものは葉っぱだったじゃないか。
 するとキリは、物凄く頭を下げた。
「も、申し訳ありません、マスター!」
「謝罪はいい。それより、訳を教えてくれ。本当に怒ってないから」
「じ、実は私、綿は生み出せるのですが、糸にする、布にするといった加工が出来なくて、ぶっちゃけ苦手で」
「うん」
「なので、ずっと黙っておりました。申し訳ありません!」
 俺はキリの肩に手をおいた。
「キリ」
「はい、マスター」
「人は誰にだって向き不向きがある。良くないのは、それを黙って、隠しておくことだ」
「ほ、本当に申し訳ございません」
「いや、本当に怒ってない。今までそれで困ることはなかったし。けれど、今度からはちゃんと教えてね?」
「イエスマスター」
「で。他にも何か隠していたことはある?」
「わ、私はもうありませんが」
「実は私が」
「実は私も」
 ここでスイホとカナタが名乗りをあげた。
 話を聞いた結果。
 どうやらスイホはお湯を生み出すのが苦手らしい。カナタは宝石が苦手だそうだ。
 こんな場面で、皆の新たな一面を知った。この分だと、他の子達も苦手な分野がありそうだな。
 そんなこんながありながら、ひとまず俺達家にいた組は、外にいた組の口元を、ウッドルフとフォレストジャイアントとジュレイドラゴンが生み出したタオルでぬぐってあげた。
 ただ、ジュレイドラゴンが生み出したタオルは大きすぎて、使いづらかった。どうやら、体の大きさ関係で生み出せる物の大きさが変わるようだ。今後この情報は常に念頭においておこう。
 数分後。
 皆の顔がきれいになりました。
「ふう。ひとまずこれで良し。それで、皆。今の内に俺に報告することはないか?」
「キューキュー」
 どうやらイルフィンが何か知っているようだ。
「えーっと、カナタ。通訳頼む」
「イエスマスター。近くに隠れてこちらの動きを探っているウサット族達をどうしますか。と訊いています!」
 ほう、なるほど。
 ここまで来ているのか、ウサット族。
「基本、ウサット族に攻撃はしない。けどどうしても戦わないといけないなら、拘束してから、お帰り願おう。それに、この屋敷の近くにいられても、リキュア王女様の御身が心配になるだけだ。よし、ここは皆がそろっている内に、平和的に追い返そう」
「ガオオオーン!」
「ワオーン!」
 おお、皆。わかってくれたか。
 俺の方針を聞いた途端、皆一斉に一方向へ向かって走り出した。
「マスター。私も行きます」
「不穏分子は排除しなければ」
「荒事なら任せてください!」
 スイホ、キリ、カナタも後に続いた。
 俺は、ひとまずリキュア王女様の安全を確保しよう。
「リキュア王女様。ここは危ないので屋敷の中にいてください」
「ええ、わかりました。私は戦いなんてできませんからね。仕方ありません」
 リキュア王女様が屋敷の中に入るのを見てから、俺は皆の元へ駆けつける。
 そして現場に到着すると、俺の仲間は既に7人のウサット族を捕まえていた。
 捕まえてしまったか。逃げてくれれば良かったのだが、抵抗されてしまったかな?
「こらー、放せー!」
「俺達をどうするつもりだー!」
「ていうかズンタ、こいつら強いじゃないかー!」
「わー、ごめんなさーい、でも昨日戦った時は本当に強くなかったんですー!」
 ウサット族の中には、子供の姿もある。あの子は確かに、昨日も会ったな。
 俺はまず、皆、というよりイルフィンを見る。
「これで来ていたウサット族は全員か?」
「キュー!」
 イルフィンはうなずいた。よし。では早速、とにかく話をしよう。
「皆さん」
「く、悪頭め。殺すなら殺せ!」
「モンスターなんかひきつれやがって。悪魔に魂を売ったのか、この外道が!」
「俺達がやられたら、里長様が黙っていないぞ!」
 あ、ダメだ。話を聞いてくれそうにない。
「ガオオオーン!」
「ワンワン!」
 ここで、皆が捕まえたウサット族に吠えた。完全なる威嚇だ。
「ひいー!」
 皆恐怖にのまれて、すくみあがる。よし、きっとこちらの意見を通すなら、今の内だな。
「俺達はウサット族に危害を加えることはありません。よってこのまま皆さんをおかえしします。ですので皆さんも、どうか俺達を敵視しないでください」
ウサット族の様子は、どうだ?
ダメだ。皆おびえてて、聞いていない。仕方ない。このまま話を続けようとしても時間がもったいないだけかもしれないし、すぐに帰ってもらうか。
「ジュレイドラゴン。すまないが一人で彼らを里までつれていってくれ。行先は彼らに聞いて」
 ジュレイドラゴンは既にイルフィンから里の場所を聞いているかもしれないけど、そのことが彼らにばれたら問題だろう。なので、そう指示する。
「グオオーン!」
 するとジュレイドラゴンはうなずいて、植物のツルで七人全員縛り上げ、背中に積んだ。後は遅くもなく速くもないスピードで歩いて行く。
「ひ、ひいー!」
 ウサット族はまだ怯えているが、ジュレイドラゴンに任せれば大丈夫だろう。俺達はすぐに、レベル上げに行こう。
「皆。それじゃあ行こうか。スイホとキリ、それとネズットとモエトルは、屋敷で待機。リキュア王女様と一緒にいてあげて。カナタは、通訳として一緒に来て」
「イエスマスター」
 さあ、それでは行動開始だ。
「ネツウルフ。俺を乗せて。さて、それじゃあどっちへ行こうか?」
「ワンワン!」
 お、どうやらウルフ達に意見があるようだ。
「マスター。どうやらここより下にいるモンスターではレベルが上がらなくなってきたとのことです。倒すなら断然上にいるモンスターだと」
「なるほど。よしわかった、なら頂上方向へ行こう」
 皆からの意見を尊重して、上へ向かう。
「でも皆、気をつけて。山頂付近にはドラゴンがいるらしい。吹雪になったら、それ以上の登山は避けるからね」
「ガオオオーン!」
「ワン!」

 山を登ると、木がいきなり乱立して、移動がまっすぐじゃなくなる。
 けれど俺の仲間達は強靭な足腰で走り続け、しばらくすると、新たなモンスターを見つけた。
「キュー!」
「ガオーア!」
 イルフィンが一声鳴いて注意をうながすと、ヒロードラゴンがすぐに相手を見つけ、火球を放った。
 すると、空中にいた大きな紺色のタコが火球を受け止めて、少し身じろぎした。
「あれがユダコか!」
 ユダコは左右に大きく揺れながら、こちらへとどんどん近づいてくる。
 しかし、四人の小型ドラゴンが四方を囲み、ブレスで攻撃しだすと、ユダコは慌てた。地上からジャイアント達、ウルフ達からの魔法もくらい、やみくもに足を伸ばした後、地に落ちる。
「レベルが上がりました」
 やった。これで77レベルだ。
 ユダコの足がゴムみたいに伸びたのが衝撃的だったが、皆余裕をもって回避していた。きっと夜の内にも同じ攻撃を見ていて、予測していたのだろう。
こちらにケガはない。良かった。
「これがユダコか」
 ネツウルフがユダコの死体が落ちた場所まで案内してくれた。
「皆の話では美味しいらしいけど、今は放置でいいや。他のモンスターを探そう」
 この分ならレベル上げは順調かな。と思ったけど、そうはいかなかった。
 ユダコはそれから、あまり現れなかったからだ。体感時間、30分に一度現れるといった感じだ。
 雪山は確かに良い経験値稼ぎができた。しかし敵と出会う頻度が少な過ぎる。索敵が得意なイルフィンがいるというのに、ほとんどが移動時間にかかっている。
正直、もっと多くモンスターと戦いたい。
 ユダコを探しながらの間にも、ヒューテルが何体か現れたが、それを倒す程度では更なるレベルアップには至らなかった。もうヒューテルには苦戦しないようになっていたが、その分旨味も少なくなってしまったようだ。
 かなり時間をかけて移動して、レベルがやっと78になる。
 俺としては、バウコン帝国軍に勝つために、80レベル以上、いや、できれば90レベルはほしい。
 このスピードでは、そこまで到達するのにかなり時間がかかりそうだ。
 もっと、モンスターが現れてほしい。
 その願いが通じたのだろうか。
 降る雪がかなり多くなった頃、俺達の正面から、白と緑の体色をした二本足立ち恐竜が現れた。
「ジイイイア!」
 きっと、バリピスノだ。
 もしかしたら、もうすぐ吹雪地帯が近いのかもしれない。
 でもそれ以上に、強そうなモンスターだ!
「皆、逃さず仕留めろ!」
「ガオオオーン!」
「ワン!」
「キュー!」
「イエスマスター!」
 まずドラゴン達が、低空飛行でバリピスノの上を通過し、後ろをとろうとする。
「ジイイイア!」
 するとバリピスノは大跳躍し、スプラッシュドラゴンにとびついた。
 バリピスノとスプラッシュドラゴンは取っ組み合いながら落下する。
 その落下地点が、ジャイアント達の正面だった。
 落下したバリピスノだけを狙うように、ジャイアント達が魔法の連打をくりだす。
 するとバリピスノはまた見事な跳躍力で、その場から距離をとる。
 すかさずそこへ二人のドラゴンが集まり、挟み撃ちにする。遅れてウルフも遠距離攻撃。
 バリピスノはよく大跳躍をして、距離をとったり、とびかかったりしてくるも、こちらは数の多さで被害をカバー。
「せい!」
 カナタが生み出した刀で敵の顔に大きな傷をつけ。
「キュー!」
 イルフィンが死角から水鉄砲を撃ち込む。
 すると、終始バリピスノは翻弄され、決定打を決められずに、どんどん傷ついていく。
「ワンワン!」
「ガオオオーン!」
 最後は、ウルフ達とドラゴン達の集中砲火に包まれる。
「ジイイイーア」
 バリピスノは驚異的な体力と戦闘力を持っていたが、ここで倒れる。
「レベルが上がりました」
「やったー!」
 今の俺のレベルは、80。
 一気に2も上がったぞ。バリピスノは手強いが、たんまり経験値を持っている。
 これはうれしい発見だ。
「皆、この調子でバリピスノを倒すぞ。バリピスノは吹雪地帯にもいるらしい。ドラゴンに気をつけつつ、探すんだ!」
「ガオオオーン!」
「ワオーン!」
 皆もバリピスノを相手にする手ごたえを感じているのだろう。
 今日の目標は、バリピスノをたくさん倒す。これで決まりだ。

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