上 下
16 / 37

16 雪山その3

しおりを挟む
 かなり周囲が暗くなってきたところで、無事屋敷に帰ってこれた。
 屋敷が見えたことで安心していると、その後すぐに、扉の前で皆が俺の帰りを待っているのが見えたので、少し慌てた。
「皆、ただいま!」
「お帰りなさいませ、マスター!」
「お帰りなさいませ、サバク様!」
「キュッキュー!」
「チュー!」
「カメー!」
 スイホ、リキュア王女様、イルフィン、ネズット、カメトル。皆元気だ。キンカ、サルンキー、バートリーと、捕まえたウサット族の二人は見えないけど、そこのところはどうなんだろう。無事解決できたんだろうか?
 屋敷のすぐ前まで来て、すぐにネツウルフの背中から降りる。
「ありがとう、ウルフ達。俺一人では、きっと帰ってこれなかった」
「ワン!」
 よし、ネツウルフ。良い返事だ。これからもよろしく頼むぞ。
 後はすぐに、出迎えてくれた皆に向かって言う。
「皆。まずは屋敷の中に入ろう。寒かっただろう。中にずっといて良かったのに」
「そんなわけにはいきません。それに、私達が屋敷を出たのはたった今のことです。スイホさんやイルフィンさんが、サバク様が帰って来るのを感じたと言ってくださったので、慌てて出てきました」
「キュー!」
 そうか。だったらそんなに寒くはなかったかな。それでも、わざわざ外で出迎える程のことではないと思うが、しかしうれしいことはうれしい。皆の温かさで俺の心がポカポカになりそうだ。
 まあ、つもる話は後回しだ。俺は今度は、ドラゴン達に向き直る。
「それじゃあ俺は屋敷に入るけど、入れる大きさの皆も入ってくれ。ジュレイドラゴンだけ屋敷には入れないけど、もし寒かったら特殊能力を終了させるから、よかったら言ってくれ」
「グオオーン!」
 ジュレイドラゴンが一鳴きした。これは、外でも全然平気のサイン?
「ワン!」
 そしてここでウッドルフが俺に近づいて、何かをうったえてきた。
「ワンワンワワン、ワン!」
 だ、ダメだ。犬語がわからない。今回は意思を察せる要素が少な過ぎて、お手上げ状態だ。
「マスター。ウッドルフは、自分達は夜の間もモンスターを探してもっと倒してくると言っておりますわ」
 その時、クリーチャー同士での意思疎通が可能なスイホが通訳してくれた。助かる。
「なるほど。でも、いいのか。今まで走りっぱなしだったのに、これからも頑張り続けて。正直、オーバーワークなんじゃないのか?」
「ワン!」
 ウッドルフが一鳴きすると、すぐに他のクリーチャー達もうなずいた。
「マスター、皆24時間働けると言っております」
「み、皆。スイホ、それ、嘘じゃないよね?」
 う、うちはブラックな企業ではありませんよ? お給金は発生したことないけど。
「信じてくださいマスター。皆私の言葉を肯定しておりますわ!」
 このスイホの言葉に、皆またしてもうなずく。なんということだろう。俺の召喚する仲間は、疲れを知らないスーパー戦士だとでもいうのか?
 そういえば疲れてるところは見たことないな。眠っているところは見たことあるけど。
 んー、ひょっとしてこれは、あれか?
 夜は動けないし、日中は日中であまり役に立たない俺を休ませて、その間に自分達だけで効率よくレベルアップを済ませてしまおうという皆の総意?
「皆、そんなに働けるのか?」
「ガオオオーン!」
 どうやら皆はやる気らしい。
 本当に良い子達だ。ごめん、一方俺はあんまり良くない上司で。せめてアッファルト王国の危機が本当に去ったら、皆に恩返ししよう。パーティーとかやろうか。
「わかった。俺は、日中の戦いを特等席で全部見てきた。今なら、お前達ならこの雪山でも戦えると確信している。きっと俺がいなくても本当に大丈夫なんだろう。けど、危ない時は無理をするなよ。もし何かあったら戻ってこい。何かなくても、明日の朝には帰ってくるんだぞ。俺だって少しでも自分の力でレベルアップしたいと思っているんだ。本番は日中。決して無理せず、わが身を大事にするんだぞ」
「ガオオオーン!」
「ワオーン!」
 なんて良い返事なんだ。神様、皆良い子すぎます。
「キュー!」
 そして更にここでイルフィンも一鳴きすると、夜でもレベリング側へと回った。
「イルフィン、お前もか」
「キューキュー!」
「もしかしてスイホ、お前も」
「い、いえ。私は流石に、マスターのおそばにいさせていただきたいと思います」
「チュー!」
「カメ!」
 スイホはすぱっと外出を拒否した。ネズットとカメトルも同意見っぽい。
 そうだよね。それが普通の反応だよね。ちょっとホッとする。
「よし、それじゃあ皆行ってらっしゃい。頼んだぞ」
 こうして、新たにイルフィンを加えた16人の俺の仲間は、俺を置いて薄暗い雪山の中へとその身を投じた。
 きっと、彼らなら大丈夫だろう。
 本当、俺の特殊能力便利すぎる。

 結局、屋敷に戻るのは俺、リキュア王女様、スイホ、ネズット、カメトルの五名。
 ウサギキツネは、スイホが肩に担いで中へと運んだ。そして暖炉の前まで運ぶと、早速ネズットにウサギキツネの下に置く器を用意してもらう。
 ネズットはたった数秒で、石製の、キッチンのシンクみたいな形の器を用意してくれて、その中にウサギキツネを入れた。
「まあ。これはきっと、ヒューテルですね」
 そのウサギキツネを見てリキュア王女様が言った。
「知っているのか王女様」
「はい。お話に聞いただけですが。ウサギの耳に、キツネの体、ヒューテル。攻撃と素早さに特化した狩人タイプで、自分の体より大きな獲物を仕留めるとのことです」
「うん。合ってる」
「ですがヒューテルの真の恐ろしさは、その数。必ず群れて行動して、怒涛の一斉攻撃で相手を倒すのだそうです。一体だけでも異様に素早く、倒しづらいのに、二体もいれば備えの無い冒険者ではあっという間に殺されてしまうと。そう聞いたことがあります」
「確かに。こっちもそれなりの戦力差とジャイアント達がいてくれなければ、危なかった」
「サバク様は、こちらを一体どのようにするおつもりですか?」
「実はそれをリキュア王女様に相談しようと思って持ってきたんだ。このヒューテルの死体、どうしよう。何か役に立つかな?」
「役に立つも何も、高レベルのモンスター素材ですよ。売ろうと思えば頭のてっぺんから尻尾の先まで全部売れます。ま、まあ、私は、使い方などわからないのですけど」
「うーん。売り物かあ。じゃあ、肉は食えるかなあ?」
「お肉、ですか」
「どうなのです、リキュア。さっさとマスターの質問に答えなさい」
「スイホ、急かさないで」
「イエスマスター」
「コールデッドマウンテンで手に入れられるお肉の話なら、一つだけ聞いたことがあります」
「ほう。それは?」
「雪山猪、モグネーの肉は美味い」
 そうか。
 猪のお肉の方か。
「ごめん。持ってこなくて」
「い、いいえ、そんな。て、え。もしかしてモグネーも倒したんですか!」
「うん。三体」
「それは凄いですよ。ヒューテルだけでなくモグネーも、強敵という話です。高い攻撃力と防御力を兼ね備えた戦車のようなモンスターと言われているのです。それをどちらも倒したなんて、やはりサバク様は強いです!」
「結構ギリギリだったけどね。でも、そうか。ひとまずウサギキツネ、改めヒューテルは、食べられるかわからないのか」
 俺はヒューテルの氷漬けを見つめる。
 すると、皆もヒューテルの氷漬けを見つめる。
「食べて、みますか?」
 スイホがそう言うと、一拍おいてから、俺はうなずいた。
「うん。お願い」
 ものは試しだ。それに、このまま放置というのももったいない。
 俺は、何かを切るならきっとキンカだな。と思って周囲を見回してから、言った。
「そういえば、キンカとサルンキーとバートリーはどこだ?」
 あと、ウサット族の二人の行方も気になる。
 屋敷まで帰ってきた安心感にとらわれていて、一瞬大事な仲間と小さなお客さん達のことを忘れていた。
「彼女達は、ウサット族の子供と共に、ウサット族の里へと行きました」
 スイホがそう、あっさりと言う。
「そうか。三人が。護衛かな?」
「いえ、鉄や果物が出せる便利な存在だからです」
 そう返されると、ちょっとどう反応しようか迷う。間違ったことは言っていない気がするけど、皆の良さはそれだけではない。絶対に。
「申し訳ありません、サバク様。これは私の不徳の致すところです。罰するのならば、この身、いかようにもいたしてください」
 そしてこのリキュア王女様の反応にも、どう返そうか迷う。
「そうですわリキュア。これも全てあなたのせいですわ。大人しく罰を受けなさい!」
「ちょっと待ったスイホ、話が見えない。あとスイホも一緒だったでしょ。罪があるとするなら君も同罪だよ。いいの?」
「えっちな罰なら、大歓迎ですわ!」
 ダメだ。いつものスイホだ。
「わ、私も、えっちな罰なら興味あります!」
 そんな、リキュア王女様までそのノリか。ああ。まるでスイホが二人いるみたいだ。
「とにかく、わけ、教えて」
「イエスマスター」
「はい、サバク様」
「といっても、長い説明はありません。ウサット族の少女の方が、鉄や果物を生み出す三人の力を欲しがったので、大人しく帰るかわりにその三人を連れていくと言ったのですわ。それをリキュアが応じたのです」
 なるほど。そういえば確かに、スイホがさっきそんなことを言っていた。
 便利な力かあ。俺の仲間だから、頼もしいとか、頼りになるとか、もっと良い言い方があるとも思うんだけど、客観的に見て便利な力だから、なんともいえない。
「まさか、夜遅くになっても三人が帰ってこないとは。これは私の落ち度です。どうか叱ってくださいサバク様」
「いいや、叱らないよ。まずあの状況で最悪なパターンは、子供二人が黙ったまま、家にも帰せないで夜を迎えることだったからね。だから、キンカ達がいないのは痛手だけど、まだかなり良い状況だ。三人が抜けた穴くらいなら、なんとかなるはずだしね」
「甘いですわ、あまあまですわマスター。もっと私に対して怒って、むち打ちの刑とか、お尻ぺんぺんの刑とか、お胸ぱいんぱいんの刑とかやってください!」
「お胸ぱいんぱいんの刑って何?」
 おっと、一旦落ち着こう俺。まずは召喚状況を確かめよう。
「ひとまず今、キンカ達の無事を確かめる。とっ君。現在の召喚状況を確認させてくれ」
「イエスマスター」
 すぐ俺の視界に、現在の召喚状況が映った。キンカ、サルンキー、バートリーは、良かった。まだ生きてる。消えてない。
 もしここで消えたのが確認してたら、平静じゃいられないところだった。里で何かあったにしろ、道中で何かあったにしろ、とっても心配していたところだ。
「オーケーとっ君、召喚状況をしまってくれ」
「イエスマスター」
「今のところキンカ達は、消えてはいない。他のイルフィン達も同様だ。キンカ達が歓迎されているかはわからないけど、きっと里にいるのは間違いない」
「ほっ。良かったです」
 リキュア王女様は手を胸にあてて安心してくれる。良い人だ。
「そういえばイルフィンはその三人の後を追って、ウサット族の里の場所をつきとめましたわ」
 ここで唐突に、スイホが重要な情報を喋った。
「そうか。でかしたイルフィン!」
「これで三人を失った失態も、少しは払しょくできたでしょうか?」
「もうバッチリだよ。特にウサット族との争いの回避を気にしていたから。そうか、イルフィンは夜チームの皆にウサット族の里を回避させるためについていったんだな。くそっ、先に言ってくれよ!」
「そうですわ。つまりイルフィンも同罪ですわ!」
「いや、そこはいい」
「イエスマスター」
「ふう。安心した。それじゃあ、もう遅い時間だし、ごはんにしよう。ああ、そうだ。ヒューテルのお肉をさばいてもらおうとしていたんだったな。それじゃあ今回はキンカのかわりに、他の少女クリーチャーを召喚しようか」
 二人目のキンカを呼び出すのもありだけど、そうなったら後でキンカが二人、目の前にいる状況になったりしたら、ややこしいしね。
「えっ」
 その時、リキュア王女様が驚いた。
「あの、リキュア王女様、何か?」
「サバク様は、五人の美少女の他にもまだ美少女を召喚できるのですか?」
「うん」
 ちょっと沈黙が生まれる。
「ではここは、私がヒューテルをさばきますわ!」
 ここでスイホがそう叫んだ。
「え、ていっても、スイホはヒューテルをさばくための刃物を持ってないよ?」
「ここは氷の刃で代用しますわ。それ!」
 スイホが一声あげると、右手に氷の包丁が生まれる。
「まあ凄い」
「おお。それじゃあスイホ、頼む」
 俺とリキュア王女様は素直に驚く。
「イエスマスター。それでは早速、ヒューテルの尻尾をサクッと切りますわ!」
「え、それはもったいな」
 ストン。と、リキュア王女様の言葉の途中で、ヒューテルの尻尾が三本全部切り落とされた。
「あ、あの、スイホさん。できれば、皮はきれいに全身をはいでもらえますか?」
 リキュア王女様の懇親のうったえ。
「何言ってるんですの。毛皮なんて食べられませんわ」
 しかしスイホは意に返さなかった!
「し、しかし」
「待った、スイホ。やっぱり、他の子を呼ぼうか。そっちの方が、解体得意かもしれないし」
「い、いえ、ご安心を、マスター。私だって肉の一つや二つ、鮮やかに準備してみせますわ!」
「もう既に鮮やかではないのですけど」
 俺とリキュア王女様のテンションは落ちていたが、スイホはめげなかった。
 そのまま私に任せろとばかりに、ザックザクと、ヒューテルを雑に解体していく。
 最終的に胴体の肉が少しと、足の骨にこびりついたわずかな薄い肉を手に入れたところで、結局フライパンを生み出さないといけないことに気づく。
 こうして新たに、4コストの金属性クリーチャー、カナタが召喚されたのだった。

 ヒューテルの見るも無残なバラバラ死体は、俺、スイホ、ネズット、カメトルの四人で家の外に捨てに行った。
 ヒューテルの毛皮は元通りの状態だったならば美しかったが、ここまでボロボロにしてしまっては、もうゴミにしか見えない。せめて、もう一つの死体は大事に扱おう。それでも今は肉が美味しいかもわかっていないし、毛皮を得ても使い道がないため、やはり氷漬けにしたまま置いておくけど。冷凍保存って偉大だ。
 カメトルが火の明かりを灯して移動。ネズットが屋敷から少し離れた木の根元あたりで、地面に穴を開けてくれる。俺とスイホはその上で、二人で運んだ石製の器を逆さにして、ヒューテルのバラバラ死体を落とし入れる。
 無事捨て終えたら、ネズットが開いた穴の上に盛り土で蓋をしてくれた。
 お肉を得るのって難しい。
「スイホ。この容器は、洗ったらまた使えそうだから、水魔法できれいにしておいてくれ」
「イエスマスター。ピッカピカにしてみせますわ!」
「じゃあ、お願い。ネズット、カメトル。早く中に行こう」
「チュー!」
「カメ!」
「あの、マスター、私は」
「スイホは、ちょっとの間外で反省してて」
 俺達は先に家にあがり、スイホは暗闇の中で佇む。
「ほ、放置プレイ、気持ち良い!」
 そんなことを言ったかどうかは知らないが、スイホ、ちょっと頭を冷やしてくれ。君にはその時間が必要だ。
「ちなみにカナタ、動物の皮をはいだりできる?」
「イエスマスター、私の得意分野ですよ!」
 先程したこのやりとりを、俺はまだ忘れてはいない。
 ところで今家には、キリもいる。
 肉を焼くにしても、煮るにしても、スパイスはかかせないでしょう。
 そういう判断で召喚した。
 ネズット、カメトルと共に食堂まで来る。屋敷中には既にカメトルが出した火の玉があちこちに浮かんでいるので、明るさは足りている。このカメトルが出した火は、引火しない炎らしい。火事にならないらしく、便利だ。
 食卓には既に木皿やフォーク、フルーツの盛り合わせが置かれており、今厨房ではキリが焼肉を作ってくれている。
 リキュア王女様とカナタは、食堂の席でスタンバイしていた。
「サバク様、ヒューテルを片づけてくださりありがとうございました。本当は、私がやれば良かったのですが」
「いや、王女様にはそんなことさせられません。あれは重かったですし、片付けは俺の仕事ですよ」
「そんな、サバク様にそんなことはさせられません。本来ならば、ですが、すみません。サバク様の身の回りの世話もできずにいて」
「そんなこと、する必要はないですよ。やってほしいことがあったら、他の皆にも手伝ってもらえばいいんですし」
「そ、それはつまり、私は不要ということですか?」
「そんなことは言っていないよ」
「わ、私、もっとサバク様のお役に立ちます。たてるよう、努力いたします!」
 そう言われても、困るなあ。リキュア王女様にはもう十分助けてもらっているし。
「リキュア、あなたは思い込みすぎ」
 そこで、カナタがそう言った。
「カナタさん」
「マスターは役に立たないからって捨てるような心の持ち主じゃないよ。だって、私達を生んでくれた人だもん。私達が売れなかった間も苦労してくれた、大切な人。マスターは世界一やさしいんだから」
「チュー!」
「カメ!」
「そう、ですか」
 皆の声を聞いて、リキュア王女様が納得する。正直、照れる。
「それに、マスターがいらないって言った時は、すぐに私達が捨ててあげるから、それがまだだっていうことは、まだ使い道があるってことだよ」
「カナタ、その発言は誤解しか生まなくない?」
「そう、ですね。私は、心の中で焦っていました。サバク様、私、サバク様に見限られないように、自分ができることを最大限行いますわ」
「いや、見限るとかないから。人聞きの悪いことを言わないで」
「そうです、サバク様。まだこの雪山に生息するモンスターについて、何も説明していませんでしたね。国にうっすらと伝わる程度のか細い情報ですが、今の内にお話ししておきます」
「う、うん。そういえば、モグネーとヒューテルの他に何がいるの?」
「先に名前をあげてしまえば、ユダコ、オトーロ、バリピスノ、ドラウグドル、コースノール、クリスタラオルです。この内、コースノールとクリスタラオルはドラゴンで、とても強いと言われています。彼らに狙われたら、死を受け入れよ。そう言い伝えられております」
「ドラゴン、かあ。強いって言われているなら、避けようかなあ」
 こっちにもドラゴンはいるけど、今はウサット族の子供に苦戦したり、猪や小型動物のような相手と良い勝負する程度だからな。きっと強さは比べものにならないだろう。
 リキュア王女様は他にもたくさん名前をあげてくれたし、それに今のところはヒューテルとモグネーを狙っても良いはずだ。わざわざ危険な相手を求める必要はない。
「ドラゴン達を避けるのは、簡単です。雪山の頂上に近づかなければ、縄張りには入らないとのことです。しかし万が一、偶然にも出会ってしまった場合は、全力でお逃げください。きっとレベル上げ中の今のサバク様では、全力を尽くしてもかなわないかもしれません」
「了解。頂上には行かないよ」
「一応、このコールデッドマウンテンの頂上付近は、常に吹雪が舞っているそうです。上を目指す際は、天候にもお気をつけください」
「ああ、わかった」
 吹雪の中にいるドラゴンか。要注意だな。
「では次に、ユダコの説明をします。ユダコは八本の触手を持った大型モンスターです。その触手が厄介で、鋭い槍にも、堅固な盾にもなるそうです」
「ああ、なんか想像つく」
 要するにタコモンスターなのだろう。ここは陸上だが、相手がモンスターならいてもおかしくはない。
「そうですか。流石はサバク様です。ユダコは木の上で休み、移動中は空を飛んで上から獲物を狙うそうです。ですので上からの奇襲には、必ず注意してください」
「なるほど。わかった。とても良い情報だ。参考になる」
 そういえば今日俺が歩いたところは、あまり木が無かったな。
 屋敷の後ろには結構あるけど。ということはユダコと会うためには、屋敷の後ろ方向、頂上方向へと行かないといけないということか?
 それは少し危険な気がする。ドラゴンには絶対気をつけないといけないし、ユダコを狙うのは後にしよう。
「次にオトーロです。オトーロは地中から奇襲してくるモンスターで、残念ながら見つけるための手がかりはありません。ただその姿は、巨大なミミズに大口と四肢を与えたものだという話です。もし襲われた時は、慌てずに対処を。空に逃げるというのも手かもしれません」
「なるほど。ミミズモンスターか。わかった。気をつけるよ」
 空を飛ぶモンスターの次は、下から攻撃してくるモンスターか。想像以上に過酷だな、この雪山は。
「次のモンスターです。バリピスノは、吹雪が降り始める境目辺りから見つかるモンスターだそうです。見た目はアンピスノに似ているらしいのですが、その強さはけた違い。やはり戦う際には、ご注意を」
「ああ、わかった」
「次のモンスターは、ドラウグドルです。ドラウグドルは、二種類のドラゴンの次に強い、この山の脅威といわれています。姿はワニ。普段は大人しいですが、強力な物理攻撃と魔法を使うといわれています」
「なるほど。この山のナンバー3か。気をつけよう」
「私が伝え聞いているコールデッドマウンテンのモンスターは、以上です。ですが、他にも未知のモンスターがいるかもしれませんし、遭遇の際には十分お気をつけてください」
「なるほど。ありがとう。リキュア王女様は頼りになるなあ」
「そ、そんな。私はこれぐらいのことしかできません。ですが、この屋敷でサバク様の帰りをただ待つことしかできないだけの私が、少しでもサバク様のお役にたてたのなら、それは最高の幸せです」
「そこまで大げさなことを言う必要はないよ。でも、これだけリキュア王女様には助けてもらっているんだ。俺もできるだけ早く、レベルアップを済ませるからね」
「マスター。では明日からは私も、マスターと共にモンスターを倒させてください!」
 ここでカナタが、そう言った。
 俺はうなずく。
「うん、ありがとう。じゃあカナタ。明日からお願いね?」
「イエスマスター!」
 ここで、キリが厨房から焼けた肉を運んできた。
「お待たせしましたマスター。とリキュア。お肉が焼けましたよ」
「あ、それじゃあ私も運ぶのを手伝います」
「私もー!」
 リキュア王女様とカナタが元気よく席を立つ。
「はい。ではお願いね。マスター、どうぞ」
 キリが真っ先に俺の前に肉を持ってくる。焼いた肉と香草の香りが、食欲を刺激した。
「うーん、良い匂いだ。結構美味しそうだな」
「それなら、腕をふるったかいがありました」
「マスター、入れ物のお掃除終わりましたー!」
 丁度良くスイホも帰ってくる。これで屋敷に残っているメンバーは全員食堂にそろったな。
 その後すぐに、皆に焼き肉が配られる。もちろんネズットやカメトルの分もある。
「それでは、いただきます」
「いただきます」
 俺達は、皆そろってヒューテルの肉を食べた。
 その感想は。
「もぐもぐ、ごくん。なんだか、臭いな。味も、例えようのないまずさがある」
 どうやらスパイスの香りで今までくさみがごまかされていたようだ。正直、ひかえめに言ってまずかった。
「これは確かに、美味しくありませんね」
 リキュア王女様も同意見だ。
「申し訳ございません、マスター。こちらへお持ちする前に、一度味見をするべきでした」
 キリが言う。
「いや、キリは上手く調理してくれた。ただ、お肉が悪かっただけだ。しょうがない。もったいないけど、捨てよう」
「チュー!」
「カメカメ」
 その時、ネズットとカメトルが鳴いた。
「ん、どうしたお前達?」
「マスター。ネズットとカメトルは、いらないなら俺にくれ。と言っています」
 そのカナタの通訳が、俺には信じられなかった。
「無理してない?」
 俺がそう訊くと、二人はうなずく。
「そうか。でも、本当に無理に食べなくてもいいんだからな」
 そう言って、俺達はネズットとカメトルに焼肉を与えた。
 すると二人は、美味しそうに骨ごとバリバリ食べたのだった。
 ヒューテル、持ってきたかいがあって良かった。
しおりを挟む

処理中です...