幕末・浪漫千香 〜どんな時代でも、幸せになれる〜

秋藤冨美

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報い

龍馬からの文

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  「文ですー。 」

部屋の掃除にひと段落つき、庭先で掃き掃除をしていると、門の方から声が聞こえた。

「はーい! 」

箒を壁に立て掛け、門の方へと駆けて行く。

「いやあ。引っ越しされてたんで、ここを探し当てるのに苦労しやした。 」

いつも組に文を届けてくれる飛脚の男が、困った様に眉を下げた。

「お知らせしないままにここに来てしまったものですから...。すみません。わざわざ持って来ていただいて。 」

千香もそれに申し訳ないと思い、頭を下げて。

「なんのなんの。これも仕事のうちなんで、頭を上げて下せえ。 」

飛脚の言葉に頭を上げ、スッと背筋を伸ばす。

「今度引っ越しするときは、事前にきちんとお知らせします。 」

「え?また引っ越しするんですかい? 」

「い、いいえ。もしそうなったときには。という意味です! 」

事実、また屯所を変えるのだが、今の時点では色々な事件がどう転ぶかによってそれもどうなるか分からない。しかし、千香の頭の中には無意識のうちに、また屯所が変わることが浮かんでしまっていた。

「?まあ、よく分かりやせんが、とりあえず文をお渡ししときやす。では、失礼しやした。 」

「は、はい。確かに。ご苦労様です。 」

飛脚から文を受け取ると、千香はえっほえっほと駆けて行く姿を見送った。そして、誰から来た手紙か見てみると。

「才谷梅太郎...。龍馬さんや!どしたんやろ。近頃全然手紙来んかったのに。 」

組の者たちに龍馬からの手紙を見られては、不味い。千香は手紙を懐に仕舞うと、足早に女中部屋へと向かった。




















 「どれどれ...。ありゃ、もう亀山社中の話が出てきた。確か、あと一ヶ月後から活動し出すはず。しかも、桂さんと西郷さんともう会っとる...。というか、来年やん!薩長同盟結ばれるの!早すぎ! 」

完全には読めないものの、所々読める文字を拾っていくと大体の内容が理解できた。

「あ。色々詳しく書いてくれてありがたいけど、私がこの手紙持っとったら長州の間者か!とか倒幕を企む輩め!とか言われてめんどくさそう...。でも、坂本龍馬直筆の手紙とかめちゃレアよね。しかも自分宛てのやつ。ううん。どうしよ。捨てるのも燃やすのも勿体無い...。 」

どうしたものかと悩んでいると、部屋の障子が荒々しく開いた。

「ええ!?...って、平助か。急に開けたりして、驚かせんといてや。 」

思わず手に持っていた手紙を背中に隠し。それを藤堂が見とめたか、見とめていないのか、一瞬瞬きをし。

「あれ...。また急に開けちまった。ごめん。 」

少し間を置いて、後ろ手に障子を閉めると千香の正面に腰を下ろした。

「俺さ...。 」

いつになく、真剣な表情で切り出したため、千香はごくりと生唾を飲んだ。

「千香を抱くのは、千香の心の準備ができて、その、やるべきことが終わったらって思ってるけど...。 」

「...え? 」

何の話かと思えば。

「自分を抑えられる自信が無いんだ。でも勿論、千香を傷つける様な真似は絶対しない。けど、けどさ。 」

藤堂は頬を赤らめて、照れた様に目線をちらちらと千香の方へやりながら、膝の上でぎゅっと拳を握り締めている。

「千香も、無意識なんだろうけど、俺を誘う様な顔するから、余計に堪えられそうに無い。 」

千香はほっと胸を撫で下ろし。

「凄い真剣な顔したけん、何言うんだろ思たら。 」

何事かと気を張ったのに内容が内容なので拍子抜けして、苦笑してしまう。

「笑うなよ!俺にとっちゃ、大事なことなんだから! 」

「ごめんなさい。私がまだ駄目って言うたのにね。そうよね。これは二人にとって大事なことよね。 」

千香はこほん、と咳払いし藤堂の方へ向き直った。

「ええと。平助は、わた、私をだ、だきた...い。んよね?でも、私が条件を出してしまったけん、もやもやしてしまいよる、と。 」

いざ口に出すと恥ずかしい言葉を、上手く言えず。かあっと頬を赤らめてしまう。

「そ、そう。 」

藤堂も千香につられて、顔を赤くした。

「じゃあ、平助の心が晴れる様に、本音言うね。」

すると、藤堂は千香の瞳をじいっと見つめて逸らさず。

「私は、怖いけど平助とならいつそうなってもええと思ってます。でもね。 」

千香はゆっくりと目を伏せて。

「もしそうなったとして。子どもができたら、その子はこの時代の子どもとして過ごせるんかどうか分からん。私は元々、先の世の人間。やけん、いつか私が帰ってしまう時に、その子まで消えてしまったら、平助余計辛かろ? 」

「...そうか。そうだよな。いつかは分からないけど、千香はいずれ元の時代に帰るんだよな...。でも。 」

藤堂が千香の手を取って。

「気持ちは、想いは、ずっと覚えてる筈だ。忘れることなんてない。だから、俺は千香と夫婦になって、短い時間だとしても一緒に子を育てたい。俺だって、いつ命を落とすか分からない身だぞ?だから、千香が一人で悩むことなんて無い。その時どうすればいいか、一緒に考えよう。 」

まだ、先のことは分からないのだから。

「...分かった。 」

千香の返事を聞き、藤堂は千香を抱き寄せ。ふと視界に入って来た文を一瞥し、目を瞑ると束ねた髪を優しく撫でた。
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