幕末・浪漫千香 〜どんな時代でも、幸せになれる〜

秋藤冨美

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国が揺らぐ

西郷吉之助 上

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   団子屋に着くと、暖簾を潜って店へと入る。

「いらっしゃいませ~。あれ、千香ちゃん。久し振りやね。 」

パタパタと千代が駆け寄って来た。店の中を見回すと以前来たときよりも、客がまばらだった。今日は西郷が一緒に居たので、この方が人目に触れ難いとほっと胸を撫で下ろし。

「本当!久し振りだね。 」

すると急に千代がよよよと泣き真似を始めた。

「...千香ちゃん、この前と違うひと連れとる!手が早すぎるわ!ううっ!うちは、あんたのことそんな子に育てた覚えは無いでぇ! 」

「うちかて、お千代ちゃんに育ててもろた覚えないわ! 」

「ふふ。ようできました。さ、あちらのお席座ってや。 」

千代は千香の小気味良い反応に満足気に頷くと、千香と西郷を席へと促した。

「お団子2つ、お願いします。 」

「ほいきた!任せときや! 」

席に着いて早々、千香は注文を済ませた。少しの間、千香の元気良く駆けて行く後ろ姿を見ていたが、ふと気がついて西郷へと向き直り。

「あの...。西郷さん。そういえば私、まだ名前を名乗っていませんでしたよね。では改めて。森宮千香といいます。この度はこちらの不注意で、本当にすみません。 」

「そげんに謝らんで下さい!そうですか。千香さぁと言うのなあ。素敵なお名前ござんで。ちゅうか、先程のお嬢さぁはおもしとか人なあ。ねんじゅああなんですか? 」

西郷は千代の方を見ながら、千香に笑顔で尋ねた。

「はい。本当に面白くて明るくて良い子なんです。 」

千香も西郷に答えるかの様に、微笑んだ。

「はい!お待ちどう様!お団子二つ! 」

いつものことながら出てくるのが早い団子に、幕末いま現代みらいも変わっていないのだなあと安心して。

「ありがとう、お千代ちゃん。 」

「いいえ~。そのお侍さんとよろしゅうな。ほな、うちはまた仕事に戻るわ~! 」

にやにやと揶揄う様な笑みを残して、千代は奥へと下がって行った。最早この調子に慣れてしまった千香は、突っ込む気も毛頭無く、西郷に食べましょう、と促した。





















「そういえば、千香さぁは買い物の途中じゃったでは?時間大丈夫ですか?夕餉の支度とか。 」

団子を食べ終え、一息ついたとき西郷が切り出した。

「大丈夫です。というか、西郷さんにご無礼な真似をしてしまってここに居るんですから、帰りが遅くとも訳を話せば分かってくれます。 」

「良かった。なら、心配あいもはんね。おいも、時々こうやって息抜きがてらに街を歩いとうんござんで。けれど、話し相手がいなくて寂しかなと思っていたら、千香さぁに会えた。 」

西郷は本当に薩摩筆頭なのかと思うくらい、屈託の無い笑顔を見せた。それでますます、千香の中での西郷のイメージが変わっていく。

「それじゃあ、西郷さんこそお仲間が探しておいででは? 」

「よかんござんで。もしここに来たら、他人のふいをしてやい過ごしもんで。今日くらい見逃して欲しかもですし。 」

「っふふふ!西郷さん、そんなので薩摩の長が勤まるんですか!本当に薩長同盟結んだ人だとは思えません!でも龍馬さんと気が合いそう!というか、龍馬さんだから成功したのかも。 」

余りに西郷が子どもの様にはしゃぐため、千香は自分の立場を忘れて笑ってしまった。

「千香さぁは、坂本のこっぉ知っとうですか? 」

すると西郷は先程とは打って変わり、急に真剣な表情になった。千香はまずい、これ以上はボロが出ない様にしないとと思い直し、

「はい。西郷さんみたいに、街で偶然お会いしました。 」

「そうですか。でんいけんして、薩長同盟に坂本が関わっとうと言い切れうですか。そん場にいた訳でんあうまいし。 」

あ、と気づいたときにはもう遅く。嫌な汗が額に浮かび、西郷は千香を疑いの目で見ていた。

「ええと。それは、ですね...。 」

西郷を見ることが出来ず、無意識的に目線を泳がせた。自分が未来から来て、歴史を知っているということを話すべきか、仮に話したとしても今日初対面の人間がそれを信じるだろうか、と千香の胸の中で葛藤が続いていたとき。

「そげんに怖がらんでしてたもんせ。先程も言ったでしょう?おやただの町人だと。言いたく無いのなら、言わずとも責めはしません。 」

「本当にいいん、ですか?こんな情報知っている人間をのさばらせたりして。 」

「のさばらせう、なんて面白かちゅうこつを言おいもすね。良かんですど。何故千香さぁがそんこっぉ知っとうのかは、聞きません。もしおいが本当にそいを知う運命なら、またそん機会が来たとき聞けば良かんですから。 」

資料では人の好き嫌いは激しかったと記されている西郷だが、本当は今日初めて会った人間に、しかも知られていては厄介なことを知られているのに、こうも優しいものなのかと、千香はじんわりと胸が温かくなった。

「ありがとう、ございます。 」
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