88 / 95
夢か現か
八木為吉
しおりを挟む
「お客さん!起きて下さい!もう店じまいです! 」
激しく揺さぶられる感覚に目を覚ますと。作務衣に身を包んだ店員らしき人間が、怒りと呆れを含んだ顔で大きく溜め息を吐いている。
「え...。どういうこと...痛っ。 」
状況を把握出来ないままに、急に謎の頭痛が襲ってきた。脈打つ様に痛む頭を抱えていると、流石に店員も焦り出しこちらに駆け寄って来る。
「どないしたんですか!? 」
どう対応して良いか分からず、あわあわと慌てる店員に、大丈夫だという旨を伝えようと顔を上げると。
「為、三郎君? 」
その顔が、為三郎と瓜二つだった。どうして、と思いながらも、まずはここがどこなのかを知りたい。
「お客さん、それは曾祖父様の名前です。流石新選組ファンと言いたいところやけど。...とりあえず横になったほうが良えと思います。奥に蒲団があるんで、来て下さい。 」
「大、丈夫です。自分で何とかします。 」
「あかん!そないなんじゃ歩けもしいひんやろう!大人しゅう言うことを聞き! 」
断りの言葉を聞きもせず、店員は引きずる様にして奥の部屋へと連れて行った。
「あの。まだ名前言ってませんでしたよね。私、森宮千香と言います。先程は大変ご迷惑をおかけしてしまって、すみませんでした。 」
千香は漸く頭痛が収まり、蒲団から出て店員に深く頭を下げる。こんな歳にもなって、見ず知らずの人にこんなに迷惑をかけてしまうのはとても恥ずかしかった。
「気にせいで下さい。というか、あの状況で助けへんほうがおかしいでしょう。当たり前のことをしたまでですよ。 」
店員はほら、頭を上げて。と千香に促した。そして千香が顔を上げると、何故かその顔をじいっと見つめ。千香は何か付いているんだろうか、と目を瞬かせた。
「貴方、曾祖父はんの仰っとった女とよう似てますな。偶然やろうけど。 」
「為三郎君が言っていた...。 」
子母澤寛が昭和初期に為三郎に話を聞いた折には、女の話など出てこなかったはず。千香は顎に手を当て、ううむと考えこんだ。
「何や、為三郎君やなんてむちゃ馴れ馴れしい気するけど。まあ良えわ。...私は為吉と申します。 」
「為吉さん、と仰るのですね。先程は本当に本当に失礼を致しました。 」
「貴方、それほんまの話し方やないでしょう。共通語っていうやつつこうてますけど。 」
「な、何で分かるんですか。 」
為吉にいとも容易く言葉遣いを見破られ、動揺のあまりついいつものイントネーションで話してしまった。
「イントネーションが一緒やな。そのほうが貴方も話しやすいやろ。 」
すると、為吉はにこにこと笑った。なんだかほっとする笑顔で、千香のざわざわとした胸中を収めるには十分だった。
「実は貴方、いっぺん八木邸の中で倒れたんです。ほして、救急車を呼ぼうとしたら急に立ち上がってこの店の中に入っていかはって。椅子に座ったかと思ったら、すやすや寝始めたんです。どうしたものかと思って、放っておいたら閉店時間まで起きなくて。 」
笑いを堪えながら、千香に今までの経緯を話してくれた。もしかすると夢遊病の類いかと思われたのかもしれない。けれど、千香には倒れたなんて記憶も無ければ、その後立ち上がって椅子に座ったという記憶も無い。
「あの、ほんまに私倒れたんですか。八木邸に入ってからの記憶が無いんですが......。 」
ここで何の前触れも無く幕末に行っていたなどと口走れば、それこそ本当にヤバい人だと思われてしまう。
「...... それじゃあ、もし曾祖父はんが言うとったことがほんまのことやったら、貴方は......。 」
急に為吉の顔色が変わり、顔が青ざめた。
「もそやけどもて貴方、幕末にタイムスリップしとったなんて言おりませんですやろ? 」
千香は為吉の言葉に、柔く頷いた。
「仰る通りです。私、幕末にタイムスリップしてました。新選組にもおうて、色々見てきました。 」
「...そないなことが、あり得るんですね。そないなら私と貴方がここで会ったのは、きっと曾祖父はんから伝わる話を貴方に伝えるためでしょう。 」
為吉は真剣な表情を浮かべ、戸棚から木箱を取り出した。
激しく揺さぶられる感覚に目を覚ますと。作務衣に身を包んだ店員らしき人間が、怒りと呆れを含んだ顔で大きく溜め息を吐いている。
「え...。どういうこと...痛っ。 」
状況を把握出来ないままに、急に謎の頭痛が襲ってきた。脈打つ様に痛む頭を抱えていると、流石に店員も焦り出しこちらに駆け寄って来る。
「どないしたんですか!? 」
どう対応して良いか分からず、あわあわと慌てる店員に、大丈夫だという旨を伝えようと顔を上げると。
「為、三郎君? 」
その顔が、為三郎と瓜二つだった。どうして、と思いながらも、まずはここがどこなのかを知りたい。
「お客さん、それは曾祖父様の名前です。流石新選組ファンと言いたいところやけど。...とりあえず横になったほうが良えと思います。奥に蒲団があるんで、来て下さい。 」
「大、丈夫です。自分で何とかします。 」
「あかん!そないなんじゃ歩けもしいひんやろう!大人しゅう言うことを聞き! 」
断りの言葉を聞きもせず、店員は引きずる様にして奥の部屋へと連れて行った。
「あの。まだ名前言ってませんでしたよね。私、森宮千香と言います。先程は大変ご迷惑をおかけしてしまって、すみませんでした。 」
千香は漸く頭痛が収まり、蒲団から出て店員に深く頭を下げる。こんな歳にもなって、見ず知らずの人にこんなに迷惑をかけてしまうのはとても恥ずかしかった。
「気にせいで下さい。というか、あの状況で助けへんほうがおかしいでしょう。当たり前のことをしたまでですよ。 」
店員はほら、頭を上げて。と千香に促した。そして千香が顔を上げると、何故かその顔をじいっと見つめ。千香は何か付いているんだろうか、と目を瞬かせた。
「貴方、曾祖父はんの仰っとった女とよう似てますな。偶然やろうけど。 」
「為三郎君が言っていた...。 」
子母澤寛が昭和初期に為三郎に話を聞いた折には、女の話など出てこなかったはず。千香は顎に手を当て、ううむと考えこんだ。
「何や、為三郎君やなんてむちゃ馴れ馴れしい気するけど。まあ良えわ。...私は為吉と申します。 」
「為吉さん、と仰るのですね。先程は本当に本当に失礼を致しました。 」
「貴方、それほんまの話し方やないでしょう。共通語っていうやつつこうてますけど。 」
「な、何で分かるんですか。 」
為吉にいとも容易く言葉遣いを見破られ、動揺のあまりついいつものイントネーションで話してしまった。
「イントネーションが一緒やな。そのほうが貴方も話しやすいやろ。 」
すると、為吉はにこにこと笑った。なんだかほっとする笑顔で、千香のざわざわとした胸中を収めるには十分だった。
「実は貴方、いっぺん八木邸の中で倒れたんです。ほして、救急車を呼ぼうとしたら急に立ち上がってこの店の中に入っていかはって。椅子に座ったかと思ったら、すやすや寝始めたんです。どうしたものかと思って、放っておいたら閉店時間まで起きなくて。 」
笑いを堪えながら、千香に今までの経緯を話してくれた。もしかすると夢遊病の類いかと思われたのかもしれない。けれど、千香には倒れたなんて記憶も無ければ、その後立ち上がって椅子に座ったという記憶も無い。
「あの、ほんまに私倒れたんですか。八木邸に入ってからの記憶が無いんですが......。 」
ここで何の前触れも無く幕末に行っていたなどと口走れば、それこそ本当にヤバい人だと思われてしまう。
「...... それじゃあ、もし曾祖父はんが言うとったことがほんまのことやったら、貴方は......。 」
急に為吉の顔色が変わり、顔が青ざめた。
「もそやけどもて貴方、幕末にタイムスリップしとったなんて言おりませんですやろ? 」
千香は為吉の言葉に、柔く頷いた。
「仰る通りです。私、幕末にタイムスリップしてました。新選組にもおうて、色々見てきました。 」
「...そないなことが、あり得るんですね。そないなら私と貴方がここで会ったのは、きっと曾祖父はんから伝わる話を貴方に伝えるためでしょう。 」
為吉は真剣な表情を浮かべ、戸棚から木箱を取り出した。
0
あなたにおすすめの小説
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写と他もすべて架空です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる