幕末・浪漫千香 〜どんな時代でも、幸せになれる〜

秋藤冨美

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心を尽くして

御武運をお祈り致します

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 八月十八日。今日は世に言う八月十八日の政変が起こる日。前日からそのことが分かっていた千香は、気が気ではなく一睡もできない有り様だった。未来のことを知っている身として、助言をしようかとも思ったが、下手に教えても逆に混乱を招きかねない。寧ろ、歴史の上では何も知らずとも壬生浪士組はこの政変でちゃんと功績を挙げている。しかし折角この時代に来たんだから、何か自分に出来ることは無いだろうかと考え。よし!と立ち上がった千香は、身支度を整え厨房へ向かう。まだ日が昇っていない時間のため、暗がりの中で昨晩の夕餉の野菜の皮を使いスープを作る。戦う前に、下手に食べれば途中で腹が痛くなってはいけない。帰ってきた時いっぱい食べてもらえば良い。千香が作っているのは俗に言うコンソメスープである。味噌汁が良いかとも思ったが、具は今日の朝餉用に取っておきたかったので却下。流石に洋風の味に慣れていない隊士たちにそのまま配るのは不味いと考え、若干和風の味になるように調整する。スープを器に注ぎ、盆に乗せ厨房を後にしようとしたその時。

「あれ。森宮さんこんなに早く朝餉の支度? 」

ふと背後から声をかけられ、思わず盆を落としそうになる。

「わわっ!大丈夫?驚かせて御免。 」

藤堂が駆け寄り、落ちかけた器を受け止める。

「すみません!あ、あの、皆さん御所の警護に行かれたのでは? 」

千香はまだ動悸が治まらない胸を押さえ、訊ねる。

「まだ出動命令が下らないんだ。でもいつ命が出ても出動出来るように腹ごしらえしとこうと思って此処に来たんだ。 」

もどかしそうな表情を浮かべる藤堂。
朝から出陣するのだと思い、ずっと気を張っていたので、思っていた以上にドッと疲れが押し寄せてくる。おまけに寝ていないので、体がバキバキだ。

「分かりました!では、朝餉にはまだ少し早いので、このスープを皆さんでどうぞ。 」

藤堂は千香の言葉に首を傾げる。

「すうぷ?まあ、森宮さんが作るならハズレは無いと分かってるけど。 」

「野菜の皮で出汁を取ったお吸い物です。結構美味しいですし、こんなに毎日暑くても体には温かいものが良いんですよ! 」

スープについて聞かれ、咄嗟に千香は野菜の皮で出汁を取った吸い物。と答えたがあながち間違っていないと思う。

「了解。じゃあ運ぶの手伝うね。向こう結構空気張り詰めてるから、入りづらいと思うし。 」

藤堂はひょいと千香の手から盆を奪うと、隊士たちが待機している場所へと向かう。気を使って、一緒に来てくれるところを見ると、藤堂は大概優しい人ということが分かり、もし現代にいたらモテるタイプだろうなと千香は思った。残りの器を乗せた盆を持ち、藤堂の後ろを歩く。部屋に着くと、確かに隊士たちの苛々が目に見えるようで、普段顰めっ面の土方がより一層険しい顔をしていて。

「皆さん、いつ出陣なさるか分からないので、少しでも体を温めていただきたいと思い、お吸い物を作りました。朝餉は時間が来て、皆さんがまだ待機していらっしゃったら此方へお持ち致しますね。 」

千香は声を掛けながら一人一人にスープを手渡す。隊士たちは最初、初めての匂いと味に戸惑っていたが、次第に慣れ各自満足した表情が伺えた。千香は飲み終えた器を回収し、厨房へ戻ると朝餉の支度を始めた。これから、結果戦いはしない。しかし、気合いを入れなくてはいけないから、何か精の付くもの作ろうと意気込む。煮物を煮詰め味噌汁を作り米を炊くと、そうだ。たまごふわふわにしよう。確か、近藤の好物だったし。と思い付く。最後にたまごふわふわを作り、漬け物を添えた。千香のへそくりで貯めたお金は全て卵へと流れ。それでも食べたくなるので、買ってしまう。現代では身近な卵もこの時代では、約二十倍の値段だったりする。あまり物欲が無い千香は、貯めた金が全て卵に変わることは厭わないらしい。その後、朝餉を運ぶと近藤が笑顔を見せ、より一層気合いが入り、隊士たちの士気も上がった。
   やがて正午になり、そろそろ出動する頃だと思い、特製おにぎりを手渡すと丁度そこで命が下され、近藤たちは屯所を後にした。千香はその後ろ姿を見送りながら、御武運お祈りいたしますと心で呟いた。
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