幕末・浪漫千香 〜どんな時代でも、幸せになれる〜

秋藤冨美

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心を尽くして

素麺パーティー!! 下 〈日常編〉

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すっかり昼餉の支度を済ませた千香は、隊士たちに声を掛けた。しかし、内容は「本日の昼餉は中庭で」という不可解なものであり。事情を知る二人は、また千香の悪い癖が出たと頷けたが、事情を知らない土方などは苛々して文句を垂らす。

「森宮の奴、今度は何をしでかす気だ!こちとら考える事が山程あるってのに!」

しかし、沖田が竹を準備しているのを見ると、急いで部屋へ戻り紙と筆を両手に携え、何かを書き始める。それを見て、千香は腹がよじれるほど笑ってしまう。
豊玉発句集にでも加えるつもりだろうかと。ふと隣を見ると沖田も同様で。
そんな土方を眺め、笑っていると徐々に隊士たちも集まり始めた。頃合いを見て千香は、素麺と薬味と麺汁を厨房へ取りに行く。いかんせん量が多そうだと思い、ふと目に入った沖田と藤堂に、声を掛けて。

「沖田さんと藤堂さん。そろそろ素麺を持って来ようと思うのですが、私一人では持ちきれないと思うので、お手伝いお願いできますか。 」

すると藤堂がああ、と納得した顔をした。

「勿論。流し素麺とは風流だね。 」

「平助。実は素麺は森宮さんの手打ち麺なんだぜ。 」

「本当!?森宮さん凄いや!いやあ。俄然楽しみになってきた。 」

「ふふ。それでは、行きましょう。 」

藤堂の喜びように満足したのか、千香はにこにこと満面の笑みで足を進める。厨房へ入ると一番重い、素麺が入った鍋を藤堂が持ってくれ、薬味を乗せた大皿を沖田が持ってくれたので、千香はざると箸と麺汁が入った器のみ持って行くだけで済んだ。力仕事はやっぱり男子だ、と感心した。
   隊士たちに麺汁の入った器と箸を渡し終えると、漸くその場にいる全員があの言葉の意図を理解した。素麺の流し始めの位置は千香には少し高い位置にあったので、台の上に乗り、素麺をざるに移し替える。

「それでは皆様、ようござんすね? 」

と流し素麺とは不釣り合いな賭博の定番の台詞を発した千香に隊士たちの間で爆笑が起こる。嬉しくなった千香は頬を緩めて、素麺を流し始めた。各々流れてくる素麺に手を伸ばそうとするが、局長たちを差し置いては気が引ける。困惑の空気が漂う中、近藤が口を開く。

「...今日は無礼講だ。ただし、素麺は早い者勝ち取った者勝ちなので、心して掛かるように。 」

すると皆目の色が変わり、「おおおお」と雄叫びを上げ、争奪戦が始まった。大の大人がこんなに素麺に必死になるなんて、笑えると、千香は素麺を流しつつほくそ笑む。土方はと言えば、他の隊士たちが素麺にいくら燃えようとも、決して、紙と筆を手放さず、サラサラと何かを書き連ねていた。大体、皆に素麺が行き渡って満腹になったように見えた頃、千香は手を休め素麺を啜る。結構コシがあって美味しいじゃんと一人咀嚼していると、島田が寄ってきて。

「美味かった。また作って欲しい。まだ名前を言っていなかったな。私は島田魁という。 」

千香はにこりと笑顔を返す。

「御粗末様です。私は森宮千香と申します。機会があればまた作りますね。 」

「ああ。では、失敬して。 」

島田は千香に人の良さそうな笑顔を見せると、器と箸を持って厨房へ去っていった。そして、近藤が近寄って来て。

「森宮さん。今回の流し素麺、とても楽しかった。隊士の仲も深まっただろうし、何よりこんな機会でもないと私たちに遠慮してしまうだろうし。ありがとう。 」

「いえ。そんな。楽しんでいただけたのならそれで充分ですよ。 」

近藤の言葉に千香はくすぐったくなった。



流し素麺は大成功を収めた。
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