幕末・浪漫千香 〜どんな時代でも、幸せになれる〜

秋藤冨美

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心を尽くして

素麺パーティー!! 上 〈日常編〉

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   季節は移り変わり、夏へ。蝉の鳴く声、若々しい青葉、ジリジリと照りつける日差しが続く中、千香は今日も今日とて、珍しいメニューを考案していた。今日はあっついから、昼餉は素麺なんてどうだろう。
   思い立ったが吉日といって、千香は早速小麦粉やら水やらを駆使し手打ち素麺を作り始めた。何やら様子がおかしいと厨房へ顔を覗かせた隊士も、急に千香が何かを踏みつけ始めたものだから、口をあんぐりと開ける他なく。千香は苦笑いをして、言った。

「これ、素麺を作っているんですよ。 」

と足元を見つめながら、隊士へ声をかける。奇妙なものを見るような眼差しで、隊士は返した。

「何故踏みつける必要があるのだ。 」

すると千香は、ふふん!と得意げになって。

「こうした方が麺にコシが出て美味しくなるんですよ! 」

笑顔を向けた。千香はふと、何故幼い頃から今まで何でも作りたがったのだろうと答えの出ない疑問をぼんやり考えて。

「さて、と。 」

足で踏むのもそこそこに、調理台の上に生地を薄く伸ばして、包丁で麺を切り始める。

「...。」

先程まで怪しんでいた隊士も、興味があるのか千香の手元を見ようと首を伸ばして。千香はその様子を見てクスリ、と笑い。

「やってみますか? 」

「...!!良いのか? 」

余程やってみたかったのか、手を空で千香と同じように動かしているのが見受けられたので、勧めてみたが...。案外見栄え良く仕上げているのだ。下手をすれば自分よりも上手いのではないか。と内心ショックを受けつつも、目の前の男の手際の良さに感心せざるを得なかった。
   その隊士の協力もあり、予定より早く昼餉の支度を完了させることができたのだが、只の素麺だというのは今ひとつパンチが足りないと思い、どうせなら、流し素麺にしようと思い付いた。

ようし!と意気込んだ千香は、その男に告げる。

「ねえねえ。折角だから、流し素麺にしようと思うんですけど、竹とか取ってきてほしいなーなあんて。 」

ちらりとその男の目を見やる。

「竹か...。よし良いだろう。 」

そう承諾すると足早に男は厨房から去っていく。その後ろ姿に、結構優しい人なのだろうかなどと考え。胡瓜や苦労しつつも手に入れ、薄く焼いた卵を切りながら、ふと思った。すると、背後から嬉しそうな声が聞こえてきて。

「素麺か?素麺なのか?まさしくそれは素麺なり! 」

などと訳の分からない言葉を言い連ねる原田が居た。

「まさか手打ち?今まで貴方の料理の腕には感心させられてきたが、此処までとは...。 」

またそこに感嘆の声を漏らす沖田の姿も見受けられた。

「実は流し素麺なぞ、試みてみようかと! 」

千香は原田たちの方へ向き直り、ピン!と右手の人差し指を立てて悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

「へー!そりゃあ良え!!ほやけど、それはそうと、素麺を流す竹が無きゃ出来んかろ! 」

「ああ。それは先程、別の方に頼んでおきました 」

それを聞いた沖田は疑ぐるような顔をして、千香に尋ねる。

「誰です?その別の方と言うのは。 」

「あれっ!そういえば名前聞くの忘れてました。 」

千香はいけねっ!と自分の頭をぽかりと軽く殴る。

「では、特徴は。 」

段々と声のトーンが低くなる沖田に気づき、千香は必死に思い起こす。

「随分と身体の大きい方で、竹を持ってきてくださるそうなので、力持ちなのかなと。 」

千香の言葉に沖田は考え込む素振りを見せ、パッと顔が明るくなったかと思うと、原田に投げかけた。

「それきっと島田さんですよ!永倉さんと知り合いの! 」

「ああ!成る程!島田魁か! 」

島田魁は永倉と同じ道場に通っていたこともあり、新選組に入隊した人物で、力士と相撲を取った際、横綱をも投げ飛ばしてしまったため『力さん』と言うあだ名が付いていた。最も、今はまだ誰も呼ばないが。

「それはさておき、森宮さん。 」

先程とは打って変わって沖田は真剣な表情を表した。

「貴方には世間知らずな節がある。今回は島田さんだと分かったから良いものの、もし仮に、物盗りの類だったらどうするんですか。もう少し危機感という物を持っていただきたい。 」

沖田はまるで千香を世間知らずの箱入り娘であるかの様な物言いをする。

「大丈夫です!少しは武術の心得があるので。自分の身くらい自分で守れます。 」

心配してくれるのはありがたいが、心配され過ぎるというのも自分の思うように動けなくなり気がして、千香は断る。

「それでも!貴方は女子なのですから、万が一の時には誰か呼ぶように。」

それに反して沖田はこれでもかと強く念を押すため、千香は最早取り合う気も失せ、適当に返事をする。

「はあい。 」

「総司は心配性だな!森宮くらい気が強けりゃ大丈夫だろ!並大抵の奴相手ならよ。 」

「原田さんには分からないと思いますよ。私の心配しているところは。 」

はあと沖田は溜め息を吐いて。

「おーい!持ってきたぞ! 」

どたどたと大きな足音を立て、島田が帰ってきた。千香はその声を聞き、入り口からひょっこり顔を出して、声を張る。

「御手数お掛けしてすみません!申し訳ついでに、それ、二つに割っておいてください!沖田さんと原田さんに手伝って貰って! 」

奥で、ええ!と落胆の声が聞こえるがなんのその。厨房へ踵を返すと、千香は残りの薬味を切り終え、人数分の器に麺汁を用意し始める。後ろにいる二人に背を向けたまま、有無を言わせぬ様に淡々と二人に指示をした。

「お二人は、島田さんのお手伝いをお願いします。私は美味しい素麺の支度をしておきますから。 」

つまみ食いの機会を図り損ねた原田は項垂れながら、厨房を後にした。その後に続く沖田はぼそりと耳打ちして行く。

「くれぐれも、何かあれば呼んでくださいね。 」

その後ろ姿に千香は、いーだ!と返してから、手を進めた。
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