幕末・浪漫千香 〜どんな時代でも、幸せになれる〜

秋藤冨美

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心を尽くして

新選組

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夜になると千香を含め、隊士たちは広間に集められた。そして、近藤の口から会津中将より『新選組』と言う名前を受け賜わり、京の市中警護を仕ったことが語られる。それを聞いた隊士たちは、驚きつつも歓喜の声を上げた。...とうとう新選組になるのか。予めそのことを知っている千香はさして驚かなかったが。
   近藤の話が終わると、隊士たちは散り散りになっていく。千香も一度外の空気を吸いたいと思い、自分の部屋に近い廊下に出て縁側へ腰を下ろした。この様子だと、新選組が終わってしまうのも一瞬の様な気がしてしまう様だ。でも、それまでに千香が死んでしまえばそんなことも言えないのだが。思っていたより、時の流れは早い様である。千香は此処に来たとき一八だったが、春で一九になった。と言ってもこの時代では、新しい年を迎えるごとに一つ歳を取る様になっているのだが。史実では、新選組は後十年も保たない。その間に沢山の人が命を落としていくのだ。隊士たちはその終わりの時に向かって、毎日命を燃やしてるのかも知れない。人の命は脆く儚い。そのことをこの時代にいるとより実感する。時々耳にする、辻斬りの噂。潔く散る、と言って切腹して果てて行く武士。あまり親しくなかったが、佐々木愛次郎とあぐりのことも。千香は暗い気持ちを払う様に、両手で頬をパン!と叩いた。しかし、思ったより力がこもっていたのか、両頬にジンジンと痛みが広がる。ピリピリと痛む頬をさすりながら、この阿呆!と自己反省。すると背後から声が聞こえた。

「何やってんですか。森宮さん。 」

くつくつと笑いながら、隣に腰を下ろしたのは。

「お、きたさん。どうしたんですか?何かお困りごとでも。 」

「...ほら、そうやってすぐ気を回す。それは貴方の良いところでもあり、直すべきところでもある。 」

目線を中庭へやり、沖田は呟く。

「え?あの、仰ってる意味が良く分かりません...。 」

意識が何処へあるのか解せない沖田へ千香はそう返す。

ぐるりと沖田が千香の方へ向き直ったかと思うと、むにっと片手で千香の両頬を掴んだ。

「っ、あはは!変な顔っ! 」

「ひゃ、ひゃめてくだはい!おこりまひゅよ! 」

「いや、御免。暗い顔してる様に見えたから。しかし、それを隠そうと、一人で抱え込もうとするのは良くない。我慢は体に毒だと言う。 」

沖田に考えが見透かされた様で、千香は戸惑った。スッと両頬から手が離され、顔が自由になる。

「何故って顔をしているね。理由は簡単なことだ。貴方が此処に来た時と同じ顔をしていたからだよ。 」

同じ、顔。沖田の言葉に、記憶の糸を手繰り寄せた。

「自分は一人でも平気だ。ちょっとやそっとじゃ、負けたりしない、と。でも、あの時の貴方は今にも泣き出しそうなのを必死に堪えていた。きっと、泣いてしまえば自分に負けてしまうと、思っていたからではないですか? 」

そうだ。確かに自分には、安易に他人に頼ることを良しとしない節がある。何処までいっても、所詮他人は他人でしか無く、それ以上でもそれ以下でもないとそう思ってきた。だから、表面上は上手くやっているように見えても、本当の、心の奥の深いところは誰にも見せない。いや、見せられないのだ。それを見せてしまったら、自分が自分でなくなる。”負けて“しまう。だから、本当の気持ちには蓋をして何重にも鍵を付けて、開けられない様にしていたのに。沖田はそれをいとも簡単に見破ったというのだろうか。

「なんだか、幼い頃の私に似ているなあと思った。 」

過ぎ去りし日々を思い返すかの様に、沖田は目を細める。

「沖田さんに、ですか? 」

意外な言葉に首を傾げる。

「私は九の頃から、近藤局長の家の試衛館に預けられてね。周りを大人に囲まれて育った。歳の近い者なんているはずもなく、ずっと一人だと孤独だと思っていたんだ。 」

確か、試衛館に入る前は姉のミツに育てられたはず。複雑な幼少期を送っていたのだろう。

「でも、違った。近藤局長は、私を本当の弟の様に可愛がってくれて。受け入れてくれた。それが分かった途端、こう思った。この人になら、自分の弱い所を見せても大丈夫だ。何でも話していいんだと。どうしようもなく蟠るこの感情を、この人なら全部受け止めてくれる、とね。 」

「...。 」

「だから、貴方も一人で全て抱え込もうとするのは止しなさい。いつかきっと壊れてしまうから。話ならいつでも、聞きます。たまには、誰かを頼るというのも良いものですよ。 」

そう言った沖田はにこりと笑ったかと思うと、自身の部屋の方へと去って行く。
姿が見えなくなるまで見送ると、一人取り残された千香は思う。それでもやっぱり、言えない。真ん丸い月を見上げ、これからの新選組に想いを馳せた。


夜はゆったりと更けていく。
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