12 / 95
心を尽くして
新選組
しおりを挟む
夜になると千香を含め、隊士たちは広間に集められた。そして、近藤の口から会津中将より『新選組』と言う名前を受け賜わり、京の市中警護を仕ったことが語られる。それを聞いた隊士たちは、驚きつつも歓喜の声を上げた。...とうとう新選組になるのか。予めそのことを知っている千香はさして驚かなかったが。
近藤の話が終わると、隊士たちは散り散りになっていく。千香も一度外の空気を吸いたいと思い、自分の部屋に近い廊下に出て縁側へ腰を下ろした。この様子だと、新選組が終わってしまうのも一瞬の様な気がしてしまう様だ。でも、それまでに千香が死んでしまえばそんなことも言えないのだが。思っていたより、時の流れは早い様である。千香は此処に来たとき一八だったが、春で一九になった。と言ってもこの時代では、新しい年を迎えるごとに一つ歳を取る様になっているのだが。史実では、新選組は後十年も保たない。その間に沢山の人が命を落としていくのだ。隊士たちはその終わりの時に向かって、毎日命を燃やしてるのかも知れない。人の命は脆く儚い。そのことをこの時代にいるとより実感する。時々耳にする、辻斬りの噂。潔く散る、と言って切腹して果てて行く武士。あまり親しくなかったが、佐々木愛次郎とあぐりのことも。千香は暗い気持ちを払う様に、両手で頬をパン!と叩いた。しかし、思ったより力がこもっていたのか、両頬にジンジンと痛みが広がる。ピリピリと痛む頬をさすりながら、この阿呆!と自己反省。すると背後から声が聞こえた。
「何やってんですか。森宮さん。 」
くつくつと笑いながら、隣に腰を下ろしたのは。
「お、きたさん。どうしたんですか?何かお困りごとでも。 」
「...ほら、そうやってすぐ気を回す。それは貴方の良いところでもあり、直すべきところでもある。 」
目線を中庭へやり、沖田は呟く。
「え?あの、仰ってる意味が良く分かりません...。 」
意識が何処へあるのか解せない沖田へ千香はそう返す。
ぐるりと沖田が千香の方へ向き直ったかと思うと、むにっと片手で千香の両頬を掴んだ。
「っ、あはは!変な顔っ! 」
「ひゃ、ひゃめてくだはい!おこりまひゅよ! 」
「いや、御免。暗い顔してる様に見えたから。しかし、それを隠そうと、一人で抱え込もうとするのは良くない。我慢は体に毒だと言う。 」
沖田に考えが見透かされた様で、千香は戸惑った。スッと両頬から手が離され、顔が自由になる。
「何故って顔をしているね。理由は簡単なことだ。貴方が此処に来た時と同じ顔をしていたからだよ。 」
同じ、顔。沖田の言葉に、記憶の糸を手繰り寄せた。
「自分は一人でも平気だ。ちょっとやそっとじゃ、負けたりしない、と。でも、あの時の貴方は今にも泣き出しそうなのを必死に堪えていた。きっと、泣いてしまえば自分に負けてしまうと、思っていたからではないですか? 」
そうだ。確かに自分には、安易に他人に頼ることを良しとしない節がある。何処までいっても、所詮他人は他人でしか無く、それ以上でもそれ以下でもないとそう思ってきた。だから、表面上は上手くやっているように見えても、本当の、心の奥の深いところは誰にも見せない。いや、見せられないのだ。それを見せてしまったら、自分が自分でなくなる。”負けて“しまう。だから、本当の気持ちには蓋をして何重にも鍵を付けて、開けられない様にしていたのに。沖田はそれをいとも簡単に見破ったというのだろうか。
「なんだか、幼い頃の私に似ているなあと思った。 」
過ぎ去りし日々を思い返すかの様に、沖田は目を細める。
「沖田さんに、ですか? 」
意外な言葉に首を傾げる。
「私は九の頃から、近藤局長の家の試衛館に預けられてね。周りを大人に囲まれて育った。歳の近い者なんているはずもなく、ずっと一人だと孤独だと思っていたんだ。 」
確か、試衛館に入る前は姉のミツに育てられたはず。複雑な幼少期を送っていたのだろう。
「でも、違った。近藤局長は、私を本当の弟の様に可愛がってくれて。受け入れてくれた。それが分かった途端、こう思った。この人になら、自分の弱い所を見せても大丈夫だ。何でも話していいんだと。どうしようもなく蟠るこの感情を、この人なら全部受け止めてくれる、とね。 」
「...。 」
「だから、貴方も一人で全て抱え込もうとするのは止しなさい。いつかきっと壊れてしまうから。話ならいつでも、聞きます。たまには、誰かを頼るというのも良いものですよ。 」
そう言った沖田はにこりと笑ったかと思うと、自身の部屋の方へと去って行く。
姿が見えなくなるまで見送ると、一人取り残された千香は思う。それでもやっぱり、言えない。真ん丸い月を見上げ、これからの新選組に想いを馳せた。
夜はゆったりと更けていく。
近藤の話が終わると、隊士たちは散り散りになっていく。千香も一度外の空気を吸いたいと思い、自分の部屋に近い廊下に出て縁側へ腰を下ろした。この様子だと、新選組が終わってしまうのも一瞬の様な気がしてしまう様だ。でも、それまでに千香が死んでしまえばそんなことも言えないのだが。思っていたより、時の流れは早い様である。千香は此処に来たとき一八だったが、春で一九になった。と言ってもこの時代では、新しい年を迎えるごとに一つ歳を取る様になっているのだが。史実では、新選組は後十年も保たない。その間に沢山の人が命を落としていくのだ。隊士たちはその終わりの時に向かって、毎日命を燃やしてるのかも知れない。人の命は脆く儚い。そのことをこの時代にいるとより実感する。時々耳にする、辻斬りの噂。潔く散る、と言って切腹して果てて行く武士。あまり親しくなかったが、佐々木愛次郎とあぐりのことも。千香は暗い気持ちを払う様に、両手で頬をパン!と叩いた。しかし、思ったより力がこもっていたのか、両頬にジンジンと痛みが広がる。ピリピリと痛む頬をさすりながら、この阿呆!と自己反省。すると背後から声が聞こえた。
「何やってんですか。森宮さん。 」
くつくつと笑いながら、隣に腰を下ろしたのは。
「お、きたさん。どうしたんですか?何かお困りごとでも。 」
「...ほら、そうやってすぐ気を回す。それは貴方の良いところでもあり、直すべきところでもある。 」
目線を中庭へやり、沖田は呟く。
「え?あの、仰ってる意味が良く分かりません...。 」
意識が何処へあるのか解せない沖田へ千香はそう返す。
ぐるりと沖田が千香の方へ向き直ったかと思うと、むにっと片手で千香の両頬を掴んだ。
「っ、あはは!変な顔っ! 」
「ひゃ、ひゃめてくだはい!おこりまひゅよ! 」
「いや、御免。暗い顔してる様に見えたから。しかし、それを隠そうと、一人で抱え込もうとするのは良くない。我慢は体に毒だと言う。 」
沖田に考えが見透かされた様で、千香は戸惑った。スッと両頬から手が離され、顔が自由になる。
「何故って顔をしているね。理由は簡単なことだ。貴方が此処に来た時と同じ顔をしていたからだよ。 」
同じ、顔。沖田の言葉に、記憶の糸を手繰り寄せた。
「自分は一人でも平気だ。ちょっとやそっとじゃ、負けたりしない、と。でも、あの時の貴方は今にも泣き出しそうなのを必死に堪えていた。きっと、泣いてしまえば自分に負けてしまうと、思っていたからではないですか? 」
そうだ。確かに自分には、安易に他人に頼ることを良しとしない節がある。何処までいっても、所詮他人は他人でしか無く、それ以上でもそれ以下でもないとそう思ってきた。だから、表面上は上手くやっているように見えても、本当の、心の奥の深いところは誰にも見せない。いや、見せられないのだ。それを見せてしまったら、自分が自分でなくなる。”負けて“しまう。だから、本当の気持ちには蓋をして何重にも鍵を付けて、開けられない様にしていたのに。沖田はそれをいとも簡単に見破ったというのだろうか。
「なんだか、幼い頃の私に似ているなあと思った。 」
過ぎ去りし日々を思い返すかの様に、沖田は目を細める。
「沖田さんに、ですか? 」
意外な言葉に首を傾げる。
「私は九の頃から、近藤局長の家の試衛館に預けられてね。周りを大人に囲まれて育った。歳の近い者なんているはずもなく、ずっと一人だと孤独だと思っていたんだ。 」
確か、試衛館に入る前は姉のミツに育てられたはず。複雑な幼少期を送っていたのだろう。
「でも、違った。近藤局長は、私を本当の弟の様に可愛がってくれて。受け入れてくれた。それが分かった途端、こう思った。この人になら、自分の弱い所を見せても大丈夫だ。何でも話していいんだと。どうしようもなく蟠るこの感情を、この人なら全部受け止めてくれる、とね。 」
「...。 」
「だから、貴方も一人で全て抱え込もうとするのは止しなさい。いつかきっと壊れてしまうから。話ならいつでも、聞きます。たまには、誰かを頼るというのも良いものですよ。 」
そう言った沖田はにこりと笑ったかと思うと、自身の部屋の方へと去って行く。
姿が見えなくなるまで見送ると、一人取り残された千香は思う。それでもやっぱり、言えない。真ん丸い月を見上げ、これからの新選組に想いを馳せた。
夜はゆったりと更けていく。
0
あなたにおすすめの小説
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写と他もすべて架空です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる