32 / 95
忠実に生きていくということは
簡単じゃない
しおりを挟む
「あのね...。 」
未だ見たことのない程の切羽詰まった表情の千香がそこには居た。
「ど、どうしたんだよ? 」
只事ではない雰囲気に、思わず藤堂は声を震わせる。
「...言いにくんだけどね、私が平助について来た本当の理由を、言おうと思って。 」
藤堂の方へと向き直った千香は、瞳をキラキラとさせていて、グッと涙を堪える様なそぶりをして見せた後。千香は言い放った。
「私が平助について来た本当の理由は、伊東大蔵を新選組に入れさせないためなの。 」
途端藤堂の頭の中は、真っ白になる。体も何処か空へ投げ出されて様な感覚がして、地に足がついていない気分になり。
「え...?伊東先生を?どうして...? 」
千香の思惑を全くと言っていいほど、理解出来ない。どうして、自分の尊敬する人と共に居たいと思うことは駄目なことなのか。
「私が知っている史実では、伊東大蔵が新選組に入った後、仲間割れして組を二つに分けてしまうの。それで、平助は...。 」
「いくら千香でも、俺の師を悪く言うのは許せない。 」
千香が言い終わる前に、藤堂が遮った。頭より口が先に動き、感情のままに怒りを露わにし、刀の鮎口に手を掛ける。
それは、正に、武士のものであり、人を斬る者の目に相違無かったのである。
「ッ...。ごめん、なさ、 」
本物の武士の剣幕を目の当たりにし、千香は声が上手く出せず、息も絶え絶えになった。
「俺...。最低だ。千香に怖い思いさせた。千香の前じゃこんな姿見せるつもり無かったのに。ごめん。 」
ハッと我に返った藤堂は目線を下げ、両手で顔を覆う。
その後の道中は、どちらとも無言のままで、ただ足を進めるだけでしかなかった。
旅籠に泊まっても、必要最低限の会話しかせずに、江戸へと辿り着いた。
そして、藤堂と千香は伊東道場の門前へと立って居て。
きっとこれが、最後のチャンスだ。今を逃せばもう、藤堂を助けることは出来ないだろう。このまま事が進めば、歴史の流れに逆らうことはまず不可能だ。
千香は道場へと足を踏み入れようとする藤堂の袖を掴んだ。
「...何?また伊東先生のことを悪く言う気? 」
千香の方を見ずに、藤堂の低い声が響いた。
「ううん。そうじゃない。ただ、このまま行ってしまったら平助が戻って来れない様な気がするの。怖いの。 」
千香は藤堂が何か考えている様子でいるのを眺めた後、ギュッと後ろから抱きしめた。
「私、平助に死んで欲しくないの。きっと平助や新選組を助けるために、この時代に来たんだと思う。だから、行かないで。一緒に居て。 」
腕を震わせながら、千香は言った。
藤堂は千香の方へ向き直り、少しきつく千香を落ち着かせる様に抱き寄せる。
「大丈夫。俺はどこにも行かないから。ずっと一緒に居るって約束しただろう?ただ伊東先生に新選組に入って頂いて、組の知恵と武芸の両翼を担う様な役割をお任せするだけ。何も不安になることなんてないんだ。何たって俺の先生だからさ。 」
「で、でも、 」
「俺ってそんなに弱そうに見える?頼りないかな。 」
「ううん。そんなことない。 」
「そうか。なら良かった。さ、行こう。 」
藤堂は千香から体を離すと、右手を掴んで歩き始める。
千香は顔の陰りを濃くし、心の中が近藤たちに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「また、助けられないの...? 」
千香の呟きは、藤堂の耳には届くことはなかった。
未だ見たことのない程の切羽詰まった表情の千香がそこには居た。
「ど、どうしたんだよ? 」
只事ではない雰囲気に、思わず藤堂は声を震わせる。
「...言いにくんだけどね、私が平助について来た本当の理由を、言おうと思って。 」
藤堂の方へと向き直った千香は、瞳をキラキラとさせていて、グッと涙を堪える様なそぶりをして見せた後。千香は言い放った。
「私が平助について来た本当の理由は、伊東大蔵を新選組に入れさせないためなの。 」
途端藤堂の頭の中は、真っ白になる。体も何処か空へ投げ出されて様な感覚がして、地に足がついていない気分になり。
「え...?伊東先生を?どうして...? 」
千香の思惑を全くと言っていいほど、理解出来ない。どうして、自分の尊敬する人と共に居たいと思うことは駄目なことなのか。
「私が知っている史実では、伊東大蔵が新選組に入った後、仲間割れして組を二つに分けてしまうの。それで、平助は...。 」
「いくら千香でも、俺の師を悪く言うのは許せない。 」
千香が言い終わる前に、藤堂が遮った。頭より口が先に動き、感情のままに怒りを露わにし、刀の鮎口に手を掛ける。
それは、正に、武士のものであり、人を斬る者の目に相違無かったのである。
「ッ...。ごめん、なさ、 」
本物の武士の剣幕を目の当たりにし、千香は声が上手く出せず、息も絶え絶えになった。
「俺...。最低だ。千香に怖い思いさせた。千香の前じゃこんな姿見せるつもり無かったのに。ごめん。 」
ハッと我に返った藤堂は目線を下げ、両手で顔を覆う。
その後の道中は、どちらとも無言のままで、ただ足を進めるだけでしかなかった。
旅籠に泊まっても、必要最低限の会話しかせずに、江戸へと辿り着いた。
そして、藤堂と千香は伊東道場の門前へと立って居て。
きっとこれが、最後のチャンスだ。今を逃せばもう、藤堂を助けることは出来ないだろう。このまま事が進めば、歴史の流れに逆らうことはまず不可能だ。
千香は道場へと足を踏み入れようとする藤堂の袖を掴んだ。
「...何?また伊東先生のことを悪く言う気? 」
千香の方を見ずに、藤堂の低い声が響いた。
「ううん。そうじゃない。ただ、このまま行ってしまったら平助が戻って来れない様な気がするの。怖いの。 」
千香は藤堂が何か考えている様子でいるのを眺めた後、ギュッと後ろから抱きしめた。
「私、平助に死んで欲しくないの。きっと平助や新選組を助けるために、この時代に来たんだと思う。だから、行かないで。一緒に居て。 」
腕を震わせながら、千香は言った。
藤堂は千香の方へ向き直り、少しきつく千香を落ち着かせる様に抱き寄せる。
「大丈夫。俺はどこにも行かないから。ずっと一緒に居るって約束しただろう?ただ伊東先生に新選組に入って頂いて、組の知恵と武芸の両翼を担う様な役割をお任せするだけ。何も不安になることなんてないんだ。何たって俺の先生だからさ。 」
「で、でも、 」
「俺ってそんなに弱そうに見える?頼りないかな。 」
「ううん。そんなことない。 」
「そうか。なら良かった。さ、行こう。 」
藤堂は千香から体を離すと、右手を掴んで歩き始める。
千香は顔の陰りを濃くし、心の中が近藤たちに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「また、助けられないの...? 」
千香の呟きは、藤堂の耳には届くことはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写と他もすべて架空です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる