幕末・浪漫千香 〜どんな時代でも、幸せになれる〜

秋藤冨美

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報い

束の間の

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膳を運び終えた千香は、まだ起きてこない藤堂を起こしに部屋へ戻った。部屋へ入ると、案の定、藤堂はまだ夢の中にいたのである。

「ほら、平助起きて。もう朝だよ。朝餉も用意してあるから、早く支度しておいでよ。 」

ゆさゆさと体を揺さぶりながら、藤堂を起こそうと試みるも。

「ん...。もう食べられねえよお。 」

対して藤堂は頬を緩ませながら、寝言では定番の台詞を吐く。

「食べるのは今からでしょ!ほらほら、起きて! 」

少し手荒いかとも思ったが、千香は敷蒲団をはいで藤堂をゴロリと転がした。

「いてっ!...ああ。千香お早う。 」

すると藤堂は頭をさすりながら、ゆっくりと体を起こした。

「あははっ!子どもみたい!可愛いなあ。 」

藤堂の寝起き顔があまりにもあどけないので、千香は腹を抱えて笑ってしまった。

「どうせまた背が小さいからそうだとか言うんだろ?そんな奴にはこうだ! 」

藤堂は寝起きとは思えない程勢いよく立ち上がったかと思うと、素早く千香の脇腹へ手を持って行き、くすぐり始めた。

「ちょ、やめ、あはは!くすぐったいってば! 」

「へへん!仕返しだ! 」

あまりにも巧妙な手つきでくすぐられたので、千香は涙が溢れる程笑ってしまう。

「も、もう限界、 」

すると、へにゃり、と脱力して立ち上がれなくなってしまった。
その様子の千香を見て、藤堂もくすぐりの手を止めた。

「もう降参?千香はくすぐりに弱いなあ。 」

ケラケラと悪びれもなく藤堂は笑った。

「へ、平助が手慣れてるからよ!私今まで誰にくすぐられてもこんなことにならなかったのに! 」

千香が少しむすっとした表情で、藤堂を見上げると。

「ッ...。そんな目で見られたらさ、自分を抑えるのが大変なんだけど。 」

潤んだ目で、座り込んでいるので図らずとも、上目遣いになっているのだ。それを知らない千香は、藤堂の言葉に小首を傾げ。

「そんな目って、どういう意味? 」

「もう。自覚無いのは厄介なんだよな。...怒るなよ? 」

藤堂も身を屈め、千香に目線を合わせて。

「え?何...。ッ! 」

千香の口に温かいものが触れた。角度を変えて何度も。逃げようとしてもグッと頭を引き寄せられ、逃れることはできない。
それが離れたかと思うと、熱っぽい瞳で千香を見つめた。

「他の男の前でそんな姿見せたら、駄目だからな。もし、そんなことがあったらこうやってお仕置き。 」

額をコツンと合わせ、藤堂はニヤリと笑ってみせた。

「ッはあ...、はあ。そ、そんなの!ひどいよ。 」

千香は唇が重なっている間息継ぎができなかったので、反抗するのも切れ切れになる。

「さて。朝餉食べに行くか。 」

藤堂は何事もなかったかの様に、立ち上がり身支度を整えようとした。

「ちょ、ちょっと!着替えるんなら、言ってよ! 」

千香も慌てて立ち上がり、部屋を出て行こうとすると、

「夫婦になればいくらでも見るじゃないか。 」

何をそんなに慌てるんだといった風に、藤堂は言った。

「そ、そうだとしても、恥じらいって物を持ってよ! 」

千香は恥ずかしさから頬を赤くして視線を下にやった。
そのウブな反応に藤堂は、したり顔でなるほどと頷いた。

「あ!あと、今日は伊東さんと朝餉一緒に食べるから早く支度済ませてね。待たせちゃ悪いでしょう? 」

「伊東先生と一緒!?何でもっと早く言ってくれなかったんだよ! 」

「...だって、平助なかなか起きないし。それに、朝から...。 」

千香は思い出したかの様に唇に指を当てて、ますます頬を赤らめた。

「う。そ、そうだった。...じゃあ、なるべく早く支度するから待っててよ。 」

そう言った藤堂は、ニカッといつもの様に少しあどけない笑顔を見せた。

「...うん。待ってるね。 」

それだけ言うと千香は、部屋を出た。暫く思考が停止して壁に寄りかかっていたが、ふと我を取り戻すと歩を進め始めた。
廊下を歩きながらも、顔の先程の熱が冷めないままなのを感じて段々と焦り出して。
本来なら江戸時代では、キスというものは口吸いと言って情事の際にしかしない。いわばそれも営みの内に入るのだ。それを昨晩は、自分からして。さらに、先程は藤堂から何回もされたのだ。

「うわあ。凄いことしちゃった...。 」

まだ火照る頬を両手で包みながら、冷やそうと試みるが無意味で。
しかし、あまりに遅いのも不自然である。さらに伊東が、藤堂が来るまで朝餉を食べるのを待っているのだ。

「は、早く戻らなきゃ。 」

千香はぶんぶんとかぶりを振りつつ、そそくさと部屋へと向かった。

そのあと藤堂が来たのは、四半時後のこと。伊東から説教を食らっているのを見ると、やっぱり千香にはいたずらをして叱られている子供にしか見えないのであった。
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