転生して神様になったのにいきなり千年幽閉されました

ぼー

文字の大きさ
5 / 7
神様の仕事

神様と願い3

しおりを挟む
 
「さて、それではただいまより第214回円卓会議を始める」

  陽太郎は目の前のちゃぶ台を円卓と称して言う。

 陽太郎の隣にはみかんにも似た果物をモキュモキュと食べるルナール。そして、向かい側にはルシフェリーナが虚ろな目で持参した婚活雑誌を眺めている。

「つまらないこと言ってないでさっさとこれからのことを打合せするわよ」

 ルシフェリーナはパタンッと読みかけの雑誌を閉じた。

「そうですね。何が円卓ですか、円い卓だから円卓ですか?相変わらずこじらせてますね陽太郎様は」

 女二人の戯言を無視して陽太郎は続ける。

「いいからいいから。こういうのは雰囲気が大事なんだよ。それに、神に逆らう輩に制裁を与えるだなんていかにも神様らしいじゃないか。あのケモミミおっさんは絶対に許さないから、死んだほうがましってくらいな目に合わせてやる」

「本来神に逆らうってもっとシリアスな、それこそ世界が滅びるくらいの騒動になるのがこれまでの世の常だったのだけれど・・・何故でしょう。こんなくだらない、ネカマに騙された神の復讐に付き合うだなんて天使長の名が泣くわね」

 ルシフェリーナは遠い目をしつつ、先ほどルナールが用意したお茶をずるずるすすっている。

 ちゃぶだいに顎をのせてくつろぐ天使長の姿もなかなかの光景ですと、ルナールは思った。思っただけで口にはしなかった。

「まぁ、実際問題どうされるのですか?このケモミミおっさんに接触するのは容易です。ここには映写機がありますから、しかし問題は接触してからです。神である陽太郎様が下界の民に危害を加えてなんてことが天界の方に知れたらそれこそ大問題ですし」

「だったらルシフェリーナがラリアットを食らわせればいいんじゃねぇの?俺でも数分は意識飛ぶから、下界の奴なら半年は起きれねぇだろ」

「いや、そんなことしたら私が天界から追放されるわよ。それにあなたも私も天界に属する者。守るべき下界の民を傷付けでもしたらどうなることか・・・考えるだけでも恐ろしいわ」

「あー・・・そーいやそんな決まり事もあったな。でも、俺神になりたての時に下界のムカつく野郎のズボンをずりおろしてやったことがあったんだよな。勢いつけすぎて、パンツも下ろしちゃって下半身ナイトフィーバー」

「・・・・、あーそう言えばそんなこともあったわね。一応私達って下界の民を導く立場であるとともに、民の間違いを正す立場でもあるの。私怨でなく公正な目で裁きを下す場合それを罪には問われないのよ」

「フルチンは神的にはセーフだったんだなぁ・・・」

「いや、アウトよ。あなたそのあとうちの警備隊長のミカエリスに縛られて天界一高い塔のセフィロトタワーから紐なしバンジーの刑にあってたじゃない」

「ルシフェリーナ様。それはもはやバンジーとは呼べないのでは?」

「あれは痛かった」

 痛かったで済むあたり、自分の体はもはや人間ではないんだなぁと思うとなんだか感慨深くはある。

 とはいえ、こうした神々の下界へのルールがある限り陽太郎やルシフェリーナがケモミミおっさんに武力行使を働くのはほぼ不可能だということが分かった。

 今回の件、確かにこのケモミミおっさんは神である陽太郎から金をだまし取った。しかい、別の見方をすればこのケモミミおっさんは陽太郎(神)にお金が欲しいと願っただけなのだ。そして、その願いを叶えた陽太郎がやはり返せなどと、このおっさんに迫ったとした場合。陽太郎の神としての存在そのもの消滅してしまう可能性が高い。

 確かに、神や天使は下界の民とは一線を画する存在だ。しかし、そんな彼らがこの世界で崇められ者として存在できているのは、下界の民の信仰心の強さにほかならない。

 神個人の力はその神に集まる信仰心の総量といっても過言ではない。信仰心が多ければ多いほどより上位の神に昇華できる。そして、神としての位を上げることでより大きな願いを叶えることができるのだ。

 今回のように一方的に願いを無効にしようものなら陽太郎への信仰心は限りなくゼロに近づくだろう。ただでさえ、陽太郎を慕う下界の民は少ない。その数は両手で数えることができるくらいに。

「うーむ、今回は俺たちが直接手を出せないとなるとなぁ。いつもだったら俺がぶん殴るか、ルシフェリーナを呼んで殴らせれば済む話なんだがなぁ」

「・・・まぁそうなんだけれどね。でもその表現だとまるで私があんたの小間使いみたいに聞こえるのが癪に障るんだけど」

「しかし事実だ。いつもその方法で解決しているからな。それともなんだ?暴力以外で解決する方法をお持ちなんですかぁ?脳筋おっぱいおんなぁー」

「ぐぬぬ・・・くやしいけどこの拳で対処できないなら私の出番はなしね。あと最後のは余計よ!」

「しかしながら、下界の民相手に暴力を振るう神と天使に使えているとなると、元下界の民の私としましては複雑な気持ちになりますね」

「何言ってんだルナール。この場合立場なんて関係ないんだよ。いつの世も上辺だけの話し合いより、心に響く拳ひとつで物事は解決できる」

「ほほうっ。あの時あなたに授けた教えをまだ覚えているとはね。そうよ、言葉よりも拳で語る明日を生きてこそこのアスガルドの民にふさわしいわ!」

 陽太郎とルシフェリーナは二人揃ってゲラゲラと笑う。その姿を下界の民が見たらどう思うのだろう?

 ルナールは少し想像したがすぐにやめた。ろくなことにはならないと理解したからだ。そんなことを考えても仕方がない。今考えるべきはこの脳筋二人に代わりに新しい案を見つけることにある。

 要はこのケモミミおっさんからお金を取り戻せばいいのだ。言葉では簡単だがすでに使い込んでいると思われるので・・・いや、目の前の映写機で確認したところまだこの男が陽太郎からだまし取ったお金を使ったという履歴がないことから、どうやらまだお金は無事のようだ。

 プライバシーも減ったくれもないと思うが、こちらはこの世界を治める立場にあるから故、仕方がない、ルナールは時折下界の民が哀れに見えるもお仕事と称してケモミミおっさんの個人的な情報をモニターに映し出しいく。

「・・・このケモミミおっさんですが、どうやら借金を抱えているようですね」

 ルナールの声が若干下がる。

「おいおい、どーせギャンブルやら女に貢いで積もった借金だろ?なおさら許されないな。返済のために神に願うなど言語道断だ。おいルシフェリーナ、やはりこいつには鉄拳による制裁が必要だぞ」

 陽太郎は神とは思えない醜悪な笑みでルシフェリーナを見やる。

「そうね陽太郎。そんなくだらない理由で私の結婚資金に手を出すなんて身の程知らずにもほどがあるわ」

 ボキボキと拳を鳴らすルシフェリーナ。

 ルナールはそんな二人を半ば無視して、ケモミミおっさんの情報を集めるが、ふと彼女の手が止まる。

「・・・・お二人とも朗報です。どうやらこのケモミミおっさん、私達の予想に反して善良なる下界の民かもしれませんよ?」

 ルナールは今にも暴れだしそうな二人のモニターを向ける。画面に映し出されていたのはこのおっさんの借金の内容だった。

 そこに記されているのは至極単純な文面のみ。端的に訳すと、町にある貧しい教会の借金をこのおっさんが肩代わりしたという内容だった。その金額1000千ゴルド。ちょうど陽太郎がこのおっさんに与えた金額と一致している。

「・・・・あのサンタテレサの教会ね。そういえば最近質の悪い金貸しそのサンタテレサの街を出入りしているって聞いた気がするわ」

「ほほう、つまりこのおっさんはこの教会の借金を返すためにこの神である陽太郎様にあんなネカマ紛いのお願い分をよこしたというわけか・・・なるほど極刑に値する!」

「落ち着いてくださいこの馬鹿主。言ったでしょう?これは朗報です。このケモミミおっさんが善意のために陽太郎様に願いを届けてたというなら、私達が行うことはひとつです」

 ルナールはその無表情な顔を二人に向けると、少し楽し気にこう言った。

「その質の悪い金貸しの神の制裁を与えて差し上げましょう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!

さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語 会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

処理中です...