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1.こんにちはファミリア
②
しおりを挟む――小さい頃のわたしは特別な子供だった。
この施設の前で、赤ちゃんだったわたしが見つかったのは12年前の夏の終わり。
その日はひどい大雨で、この地域には避難警報も出ていて――土砂崩れの危険性があるってことで、施設の子供たちはみんな、近所の学校の体育館に避難してたんだって。
夜中に何度か、地割れみたいなひどい揺れと音があって、気が気じゃなかったって、当時からいる職員さんは教えてくれた。
あくる日、前日の雨が嘘みたいに晴れた朝早く、職員さんたちが駆け付けた玄関先で――生まれたばかりの赤ちゃんがひとり、小さなかごの中で泣いているのが見つかった。
その大雨で、奇跡的に死者は出なかったけれど、山の中にはいくつか土砂崩れの痕跡があって――もしかして、それに巻き込まれた人の子供なんじゃないかってずいぶん探したみたいなんだけど、とうとう見つからなかったんだって。
その時は結構大きなニュースになったみたいで、今でも時々、取材の話があったりする。あのときの「奇跡の子」は今!!って。
低学年の頃は、施設の先生たちが喜んでくれるのが嬉しくて、何度かインタビューに答えたこともあった。けれど、大きくなるにつれて、そのことに後ろめたくなってきた。
『きみが普通に生きていることが、誰かに勇気を与えるんだ』なんて、記者さんから言われたこともあったけれど――それにしたって、苦笑いしたくなる。
わたしみたいな平凡な人間が、そんなドラマチックな出生なんて、嘘みたいだ。
この施設で育って、いろいろな子に出会ったけれど、わたしみたいに親の顔も知らない子は珍しい。
それが不幸なことか、幸せなことかは――よく分からない。
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