友達の辞め方、募集します。

浅川未羽

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〈10〉僕の悲しみ、分かりますか?

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「おはよう」

彼だった。
白シャツに白いズボン。
一見すると清潔感のある服装だが、
スニーカーだけが、泥でひどく汚れている。

「ねぇ、ここはどこ?」
率直な疑問をぶつける。

彼は黙っている。
私は続けた。

「私はなぜここにいるの?
アナタはどうしてここにいるの?
私たちの他に誰かいるの?どうやって帰…」

「待った!そんなにたくさん聞かないでよ」

「アナタが全然答えてくれないから」

数分の沈黙の後、
とても悩んでる様子の彼がやっと口を開いた。

「…ここは僕が『ろん』を飼ってた部屋だよ」

「ろん?」

「そう、ろん。犬だよ。茶色い毛のね」

「茶色い…毛の…犬……」

「でもね。ある日突然逃げちゃったんだ。僕は必死に探した。家の庭、学校…それから、神社…公園…」

「……」

「でも、どこにもいなかった。そんな遠くに行けるはずないのに…。朝まで探した。だけど結局いなくて、僕は家に帰ろうとしたんだ。…でもね、その途中で見つけたんだ…!ろんを…!」

「……」

「どこで見つけたと思う?」

「……て」

「え?なに?聞こえないよ」

「……て。……やめて。それ以上言わないで」

「…どうして?ここからが良いところなのに」

「嫌…聞きたくない!!それ以上は聞きたくないの!!」

耳を塞いでうずくまっていた私を、
彼はソファに押し倒した。
両手を押さえつけられ、耳を塞ぐことも、
逃げ出すこともできなくなってしまった。

「聞けよ!聞きたいだろ!どこにいたか!教えてやるよ!」

「嫌だ…!嫌だ…!!!」

「ゴミ袋の中だよ!バラバラにされて!タオルで包まれてさァ!俺が付けてあげた赤い首輪も一緒に捨てられてたよ!ひどいよなァ!?」

「ごめんなさい…ごめんなさい!ごめんなさい!」

「どうしてお前が謝るんだよ?悪いのはお前じゃないだろ?」

「私が拾ったから!私が捨てなかったから!私が鈴を付けたから!」

「お前じゃない!!お前じゃ…ないんだよ…」

私の頬に、雫が落ちた。

彼から落ちてきた雫が、
私の頬を伝ってさらに落ちていく。

私を鋭い眼差しで睨みつけてはいるが、
その鋭い視線からでさえも伝わって来る、深い悲しみ。

その悲しみは、私の胸までギュッと締め付ける。

「ごめん…なさい…」
私は、とにかく謝ることしかできなかった。

「謝んないでよ。もう、いいんだ。…僕も、ろんも、とてもつらかった。でも、そのつらさを知ってもらえたと思うから。だから、これでいいんだ」

彼は、私の上から退けると、
何も言わずに、部屋を出ていった。

私はしばらく、ソファに寝転がったまま、
ただ呆然と天井を見つめていた。



『でも、そのつらさを知ってもらえたと思うから』


彼は言っていたが、どういう意味だろうか。

私は起き上がり、ソファに座る。


そして、目の前のダンボールに


『右腕』


の文字を見つけた。
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