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最終章 〜卒業〜

17 懐かしのサイターマランド(+おまけのミニストーリー)

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 ──時は過ぎ、夕暮れが二人を照らし始めた頃……

「なぁ……観覧車、乗るか?」
「うん、そうだね」

 たけるの提案にきよみは大きく頷き、二人は観覧車へと乗った。

「久しぶりに乗ったな……」
「うん……そうだね」
「この五年間、色んな事があったが、とても楽しかったな」
「うん……」
「……本屋で初めてきよみを見た時、お前が俺より年下だと思ってたんだ……」
「え、それ私も同じだよ。たけるが私より年上だと思ってた!」
「あー……どうりで最初話した時、お兄さんなんて言ってたのか……」
「うん。そうなんだ……」

 二人はこの数年での互いを振り返っていた。
 お互い歳の違う人に見えていた事を打ち明け合っていた二人だったが、きよみは恥ずかしくなったのか顔を赤くしてしまった。

「あの時は俺達がこんなに仲良くなるとは思いもしなかったな……」
「そうだね……私もそんなことちっとも思ってなかった。本当にあの時は、イケメンなたけるに会えただけだったんだけど、すごく嬉しかった」
「そ、そうなのか……?」
「うん。そこからなんだよ……? 私がたけるのこと好きだって気付いたのは」
「そうだったんだな……」
「うん」

 お互いに今に至るとは想像もしていなかったようで、二人とも顔を見合わせて驚いた表情を浮かべていた。
 きよみはあの時、本当に恋に落ちたと言う感覚を初めて知った事を今も鮮明に覚えていた。

「あと四ヶ月で、私たちが付き合い始めてからちょうど五年になるね」
「だなー……長い様で短かったな」
「あっという間だったよね」
「ああ……本当に……」
「……?」

 たけるがズボンのポケットをゴソゴソと漁り始めた。
 何かプレゼントをくれるのかな?
 ときよみがドキドキ、ワクワクしながらたけるの出すものを楽しみにしていたのもつかの間。

「あのな、きよみ」
「ん、ん? なぁに?」
「付き合ってから、もうすぐ五年になるけどな……これからも、俺と結婚を前提に付き合ってくれ!」
「た……たけるぅ……」

 嬉しい、嬉しすぎるよたける……

 何とたけるはポケットから婚約指輪を出し、きよみにプロポーズしてきたのだ。
 予想外のプロポーズにきよみは涙が止まらなくなってしまった。

「うぅ……ありがとう、たける。そんなふうに思ってくれてたんだ」
「ああ。きよみが良いなら、俺は結婚したい」
「うん。私もたけると結婚したい。こちらこそよろしくお願いします」
「ああ!」

 きよみはプロポーズを受け入れた。
 その返事を聞いたたけるは満面の笑みを浮かべ、きよみと口付けを交わした……

 ──翌年三月。たけるが専門学校を卒業した後、きよみ達は教会で盛大に結婚式を開いていた。
 これはきよみの父親からの遺言であり、心から愛する愛娘に贈られた最高の結婚式であった。
 きよみはたけると共にバージンロードを歩いていた。きよみが周りを見渡すと、きよみの両親とたけるの両親がそこにいた。

 “……あれ? ちょっと待って。参列してる親はお母さんだけならともかく、私のお父さんやたけるのお父さん、お母さんが居るのはおかしい気がするんだ……”

 いるはずも無いその姿が見えたきよみは目を擦ってから再びそれを見ると、きよみの母以外の親は体が少し透けていた。

 “幽……霊? ……そっか。私達の慶びの時だもんね……下りてきててもしょうがないか。見えたのは驚いたけど……”

「新郎、たける。あなたはウエスの名の下、新婦であるきよみに対して永遠の愛を誓いますか?」
「はい。誓います」

 教会の神父の言葉によって、たけるは永遠の愛を誓った。
 ウエスはこの世界の神道で神の孫と崇められている男性の名だ。

「新婦、きよみ。あなたもウエスの名の下、永遠の愛を誓いますか?」
「はい。誓います」

 神父の言葉できよみも同じように永遠の愛を誓った。これで二人は晴れて夫婦となった。

 “ふふっ、すごく幸せ。ずっとたけると一緒で幸せに過ごしたいなぁ……”

 きよみはふとそんな気持ちになった。

 “本当に。ずっと幸せでありますように……”

 ━━━

「ん……」

 たけると二人で過ごしているいつものゲーム部屋の一隅で書いていた、きよみとたけるが過ごした日々を描いた小説最後の一文をパソコンで書き終えた彼女は体を伸ばして猫背を正した。

「お、書き終わったのか?」
「あ、たける。うん、何とか書けたよ」

 丁度部屋に入ってきたたけるが体を伸ばしてるきよみを見たのか、少し興奮気味に聞くたけるをきよみは笑顔で肯定した。
 結婚してから二人は共に人気を格段に手に入れながら、自らの作品を徐々に作って行っていた。
 きよみは休みを有効活用しようと自分たちを描いた話を書こうと考えついた。そして、自分が結婚したところで一旦区切りをつけたのだ。

「そっかそっか。で? どんな感じなんだ?」
「結構良い感じだと思うよっ!」
「おぉー。ちょっと読ませて」

 たけるがきよみの書いた話を読もうと、きよみの座っていた椅子をきよみと交代し、彼女の書いた話に目を通す。
 その目はとても鋭く、まるでプロの作家が新人作家が書いた作品を読んでいるようであった。きよみはその横で息を飲みながらその姿を見守っていた。
 しかし、その目は息つく間もなく和らぐのであった。

「すごいなー、こんなに長い文を休日の中で家事を縫って作るなんてプロだな」
「そうかな? ……でも確かに少し頑張って書いたところがあるかも」
「だろ? まあとにかくお疲れさま! そしてありがとな」
「うん、ありがとう」

 二人は共に笑顔であった。彼女の書いた話の末尾にある『ずっと幸せでありますように……』という願いがそこに具現化しているようであった。
 本当に二人は幸せで過ごす事が出来るような、そんな気がする。
 彼女のお腹には幸せを具現化する二人の子供たちが着実に、且つ一歩ずつ彼らに近づいている事を知らせようとしているのであった……
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