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契約印と黒薔薇
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「ミカエル、これはなに?」
「契約印です。」
あれから数日後、ノア様が私の前髪を掻き分けて、目を見ていた。現在私の瞳は、ノア様と同じ紫水晶に染まっていた。これが契約完了の証、私がノア様を主人として受け入れたという証拠だった。
「けーやくいん?」
「要するに、私がノア様のものだという証です。」
「僕のもの?」
「はい。」
ノア様は目を丸くすると、次にとびきり嬉しそうな顔をして、目の横じりを親指で撫ではじめた。
「嬉しいですか?」
「うん。だってミカエルは僕のだもん」
印が欲しかったところなのだと、あどけない声で口にする。やはりこの人の根元は原作の「彼」なのだと思い知らされる。ノア様の柔らかい指が、頬を撫でた。
「いたっ」
「…あっ」
ノア様の指からは血が出ていた。何か尖ったものを触ったときの傷。間違いなく、私の頬に触れて出来た傷だ。これは早急に修理しなければ。
「申し訳ありません、ノア様。私は少しばかり故障しているようです。」
「…こしょう?」
「はい。公爵様に殴られた際に、欠けてしまったようです。」
多分、中身もだ。人間で言う内臓あたりの損傷を感じる。私の中身は歯車や魔導回路だが、人間と同じ、壊れたらまずい箇所と言うのに変わりない。
「ですが、この程度なら運用に差し支えありません。御身に怪我をさせてしまったこと以外には。」
そう言いながら、私はノア様の指の消毒をし、欠けた頬にガーゼをペタリと貼り付けた。だがノア様は何か不満があるようで、ぷうとほっぺたを膨らませている。
「そのばんそうこう、似合わない!!」
「……?似合う、似合わないは関係ないと思いますが。」
「あるの!全然あるの!!」
おお、地団駄を踏むノア様なんてレアだな。ノア様は洋服の入ったクローゼットの底から、何やら箱を持ち出した。その中から、一輪の造花を取り出す。艶のある、美しい黒薔薇だ。それを私の破損部位に挿す。何だかくすぐったい。
「これでいいの!」
満足げに腰に手を当てるノア様。私は黒薔薇に触れ、同じように微笑んだ。
_____公爵は、あれから私たちにちょっかいを掛けてくることは無くなった。私の脅しと、セオドールが目を光らせていることもあるのだろう。私は解雇されない。何故なら、私の主人はノア様で、ついでに戦闘能力が高いから。私たち魔法で動く絡繰人形は、暴れさせると一体で百人の兵士の力を振うからだ。
私を作った、職人も言っていた。「決して無闇に力を振るうな」と。私はこの先何があっても、これだけは守ろうと思っている。…それより、目下の問題は。
「ノア様」
「なあに?」
「お友達が欲しくありませんか?」
「いらない。ミカエルがいればいいもん」
やってしまった。ノア様を幸せにすると豪語しておきながら、いつの間にか依存させるような真似をしてしていたようだ。でも今までのノア様の生活を考えれば、突然現れた自分に優しい人に、依存しない訳がない。
だがそれではいけない。ノア様は将来、沢山の友達に囲まれて、好きな人と出会って、ハッピーエンドを迎えるのだ。
「実は、セオドール様より紹介状を受け取っております。」
「…お兄様から?」
「ガラクシア伯爵家の、ノヴァ様です。」
ノヴァ・ガラクシア。原作では、ガラクシア伯爵として、セオドールとは四歳差の十八歳で出て来る。夜空を写し取ったような長い黒髪に、瞳は海の底のような深い藍色。肌は蝋のように白く、切れ長の目の下には隈が浮かんでいる。高身長だが、常に猫背だ。
原作キャラと親交を深めるのは、今からでも早過ぎることはない。なるだけノア様に情を持って貰って、最悪の結末を避けると同時に、ノア様の健全な生活に友は不可欠。私に向き過ぎている関心を少しでもノヴァに持って行って欲しい。
「…こわいひと?」
「いいえ。とても温厚で、穏やかな人だと伺っております。」
これは今のノア様には酷なことだと、理解している。私のやっていることは自己満足で、自分勝手で、最低だ。ノア様を傷付けるだけかもしれない。でも、来たる最悪を回避する為になら、私は何だってする。
「ミカエルは、僕に友達がいた方がうれしい?」
「…はい。」
「なら、僕会ってみるね」
「ありがとうございます」
自分でしたことなのに、胸が痛い。これは本当にノア様の為だろうか?私の為ではないか?無垢な笑顔を前に、私は何も言えなかった。
side:ノア
ばかだなぁ、ミカエル。
僕はミカエルの辛そうな顔を見ながらそう思った。ミカエルはいつだって、僕のしあわせを一番に考えてくれている。だからこれも、そのひとつなのだろう。
そうだとわかっていれば、僕はちっとも辛くない。これはミカエルが僕を思ってくれたってことだから。
それに少しもわかってない。僕には、本当にミカエル以外いらないってこと。それと同じように、ミカエルには僕以外必要ない。僕以外の目に、ミカエルがうつってほしくない。
だってミカエルは、僕だけのものだから。
「契約印です。」
あれから数日後、ノア様が私の前髪を掻き分けて、目を見ていた。現在私の瞳は、ノア様と同じ紫水晶に染まっていた。これが契約完了の証、私がノア様を主人として受け入れたという証拠だった。
「けーやくいん?」
「要するに、私がノア様のものだという証です。」
「僕のもの?」
「はい。」
ノア様は目を丸くすると、次にとびきり嬉しそうな顔をして、目の横じりを親指で撫ではじめた。
「嬉しいですか?」
「うん。だってミカエルは僕のだもん」
印が欲しかったところなのだと、あどけない声で口にする。やはりこの人の根元は原作の「彼」なのだと思い知らされる。ノア様の柔らかい指が、頬を撫でた。
「いたっ」
「…あっ」
ノア様の指からは血が出ていた。何か尖ったものを触ったときの傷。間違いなく、私の頬に触れて出来た傷だ。これは早急に修理しなければ。
「申し訳ありません、ノア様。私は少しばかり故障しているようです。」
「…こしょう?」
「はい。公爵様に殴られた際に、欠けてしまったようです。」
多分、中身もだ。人間で言う内臓あたりの損傷を感じる。私の中身は歯車や魔導回路だが、人間と同じ、壊れたらまずい箇所と言うのに変わりない。
「ですが、この程度なら運用に差し支えありません。御身に怪我をさせてしまったこと以外には。」
そう言いながら、私はノア様の指の消毒をし、欠けた頬にガーゼをペタリと貼り付けた。だがノア様は何か不満があるようで、ぷうとほっぺたを膨らませている。
「そのばんそうこう、似合わない!!」
「……?似合う、似合わないは関係ないと思いますが。」
「あるの!全然あるの!!」
おお、地団駄を踏むノア様なんてレアだな。ノア様は洋服の入ったクローゼットの底から、何やら箱を持ち出した。その中から、一輪の造花を取り出す。艶のある、美しい黒薔薇だ。それを私の破損部位に挿す。何だかくすぐったい。
「これでいいの!」
満足げに腰に手を当てるノア様。私は黒薔薇に触れ、同じように微笑んだ。
_____公爵は、あれから私たちにちょっかいを掛けてくることは無くなった。私の脅しと、セオドールが目を光らせていることもあるのだろう。私は解雇されない。何故なら、私の主人はノア様で、ついでに戦闘能力が高いから。私たち魔法で動く絡繰人形は、暴れさせると一体で百人の兵士の力を振うからだ。
私を作った、職人も言っていた。「決して無闇に力を振るうな」と。私はこの先何があっても、これだけは守ろうと思っている。…それより、目下の問題は。
「ノア様」
「なあに?」
「お友達が欲しくありませんか?」
「いらない。ミカエルがいればいいもん」
やってしまった。ノア様を幸せにすると豪語しておきながら、いつの間にか依存させるような真似をしてしていたようだ。でも今までのノア様の生活を考えれば、突然現れた自分に優しい人に、依存しない訳がない。
だがそれではいけない。ノア様は将来、沢山の友達に囲まれて、好きな人と出会って、ハッピーエンドを迎えるのだ。
「実は、セオドール様より紹介状を受け取っております。」
「…お兄様から?」
「ガラクシア伯爵家の、ノヴァ様です。」
ノヴァ・ガラクシア。原作では、ガラクシア伯爵として、セオドールとは四歳差の十八歳で出て来る。夜空を写し取ったような長い黒髪に、瞳は海の底のような深い藍色。肌は蝋のように白く、切れ長の目の下には隈が浮かんでいる。高身長だが、常に猫背だ。
原作キャラと親交を深めるのは、今からでも早過ぎることはない。なるだけノア様に情を持って貰って、最悪の結末を避けると同時に、ノア様の健全な生活に友は不可欠。私に向き過ぎている関心を少しでもノヴァに持って行って欲しい。
「…こわいひと?」
「いいえ。とても温厚で、穏やかな人だと伺っております。」
これは今のノア様には酷なことだと、理解している。私のやっていることは自己満足で、自分勝手で、最低だ。ノア様を傷付けるだけかもしれない。でも、来たる最悪を回避する為になら、私は何だってする。
「ミカエルは、僕に友達がいた方がうれしい?」
「…はい。」
「なら、僕会ってみるね」
「ありがとうございます」
自分でしたことなのに、胸が痛い。これは本当にノア様の為だろうか?私の為ではないか?無垢な笑顔を前に、私は何も言えなかった。
side:ノア
ばかだなぁ、ミカエル。
僕はミカエルの辛そうな顔を見ながらそう思った。ミカエルはいつだって、僕のしあわせを一番に考えてくれている。だからこれも、そのひとつなのだろう。
そうだとわかっていれば、僕はちっとも辛くない。これはミカエルが僕を思ってくれたってことだから。
それに少しもわかってない。僕には、本当にミカエル以外いらないってこと。それと同じように、ミカエルには僕以外必要ない。僕以外の目に、ミカエルがうつってほしくない。
だってミカエルは、僕だけのものだから。
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