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第14章 蛭間、現る
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匠が目を覚ましたのは、薄暗い部屋の中だった。
天井が見える。木製の梁。石造りの壁。
ここは——
「目が覚めたか」
声がした。
首を動かすと、リーネが傍に座っていた。
「……リーネ」
「三日間、眠っていたぞ」
「三日……?」
匠は、飛び起きようとした。
だが、身体が動かなかった。
「動くな」
リーネが、匠の肩を押さえた。
「お前は、過労で倒れたんだ。医者が言っていた——このまま無理を続けたら、命に関わると」
「でも、工事が——」
「工事なら、弟子たちがやっている」
リーネは、窓の外を指差した。
「見ろ」
匠は、ゆっくりと身体を起こした。
窓から、城壁が見えた。
そこには——
「……ガルドたちが」
弟子たちが、城壁の上で作業をしていた。
石を積み、木材を運び、モルタルを塗っている。
匠がいなくても、作業は進んでいた。
「お前が倒れた後、ガルドが指揮を取った」
リーネが、説明した。
「最初は混乱したが——お前が教えたことを、みんなで思い出しながら、一つ一つ進めているそうだ」
「……そうか」
匠は、窓の外を見つめた。
ガルドの姿が見えた。弟子たちに指示を出しながら、自らも手を動かしている。
「あいつ……成長したな」
「お前のおかげだ」
リーネは、匠の手を取った。
「お前が、教えたんだ。お前が、育てたんだ」
「俺は、ただ——」
「謙遜するな」
リーネの声は、厳しかった。
「お前がいなければ、あいつらは何もできなかった。でも、今は違う。お前がいなくても、あいつらは自分で考えて、自分で動ける」
「……」
「それは——お前が、ちゃんと教えたからだ」
匠は、何も言えなかった。
ただ、窓の外を見つめていた。
弟子たちが、城壁の上で働いている。
自分がいなくても——
「……俺は、いらなくなったか」
ぽつりと、匠は呟いた。
「馬鹿」
リーネが、匠の手を強く握った。
「お前がいなくなったら、みんな困る。でも——お前が倒れたままでも、困るんだ」
「……」
「だから、休め。ちゃんと回復してから、また働け」
匠は、リーネを見た。
緑色の瞳が、真っ直ぐに匠を見ている。
「……分かった」
匠は、小さく頷いた。
「少しだけ、休む」
リーネは、ほっとしたように息を吐いた。
「やっと、分かってくれたか」
匠は、三日間、ベッドの上で過ごした。
最初の一日は、ほとんど眠っていた。身体が、睡眠を求めていた。
二日目から、少しずつ動けるようになった。ベッドの上で座り、食事を取り、リーネや弟子たちと話をした。
「師匠、城壁の北側が完成しました」
ガルドが、報告に来た。
「そうか」
「師匠の図面通りにやりました。蒼鉄樹の柱も、ちゃんと入れました」
「……よくやった」
匠は、ガルドを見た。
以前の、スラム街で出会った頃の彼とは、別人のようだった。
目に光がある。自信がある。責任感がある。
「お前、立派になったな」
「……師匠に、教えてもらったからです」
ガルドは、少し照れたように言った。
「俺は、何も知らなかった。木の切り方も、石の積み方も。でも、師匠が全部教えてくれた」
「俺は、ただ——」
「俺に、生きる意味をくれたんです」
ガルドの声は、真剣だった。
「俺は、スラム街で盗みをして生きてた。明日のことなんか、考えたことなかった。でも——」
ガルドは、自分の手を見た。
「——今は違う。俺は、大工だ。何かを作れる。人の役に立てる」
「……」
「それを教えてくれたのは、師匠だ」
匠は、何も言えなかった。
胸の奥が、熱くなっていた。
「……ありがとう」
小さく、匠は言った。
「お前に、そう言ってもらえて——嬉しい」
三日目の夜。
匠は、ベッドから起き上がり、窓辺に立った。
月明かりが、城壁を照らしている。
弟子たちが作った城壁。自分が教えた技術で、作られた城壁。
「……悪くない」
匠は、呟いた。
その時——
「指金」が、警告を発した。
「……?」
匠は、「指金」を発動させた。
北の方角。遠くの帝国軍陣地。
そこに——
「……何だ、あれは」
巨大な構造物が、建造されていた。
攻城塔ではない。攻城槌でもない。
もっと——複雑な何か。
「分析……」
匠は、「指金」の能力を最大限に引き出した。
——構造分析:未知の構造物。複数の機能を統合。攻城能力、防御能力、移動能力を兼備。設計思想:極めて合理的。冗長性なし。全ての部品が最適化されている。
「……蛭間」
匠は、呟いた。
「お前、また——新しいものを作っているな」
窓の外を、じっと見つめる。
あの構造物が完成したら——
「……次の戦いは、今までより厳しくなる」
匠は、拳を握りしめた。
「でも——」
匠は、城壁を見た。
弟子たちが作った城壁。自分が教えた技術で作られた城壁。
「——俺たちも、負けない」
匠の目に、闘志が宿った。
休息は、終わりだ。
明日から——また、戦いが始まる。
翌朝。
匠は、久しぶりに外に出た。
「師匠!」
弟子たちが、駆け寄ってきた。
「もう大丈夫なんですか」
「ああ。もう動ける」
匠は、城壁を見上げた。
「よくやったな、お前たち」
「師匠の教え通りにやっただけです」
「それでも、立派だ」
匠は、北の方角を見た。
「だが——敵も、新しいものを準備している。俺たちも、気を抜けない」
「新しいもの?」
「ああ。詳しくは分からないが……今までより、厄介なものになりそうだ」
弟子たちの表情が、引き締まった。
「俺たちは、何をすればいいですか」
「まず——城壁の残りを完成させる。それから、新しい防御設備を作る」
匠は、頭の中で計画を組み立てていた。
「敵がどんなものを持ってきても、対応できるように。準備を整える」
「分かりました、師匠」
「さあ——仕事だ」
弟子たちが、散っていく。
匠は、一人で空を見上げた。
二つの月が、朝の空に薄く浮かんでいる。
「蛭間……」
匠は、呟いた。
「お前との決着——もうすぐだ」
(第14章 終)
天井が見える。木製の梁。石造りの壁。
ここは——
「目が覚めたか」
声がした。
首を動かすと、リーネが傍に座っていた。
「……リーネ」
「三日間、眠っていたぞ」
「三日……?」
匠は、飛び起きようとした。
だが、身体が動かなかった。
「動くな」
リーネが、匠の肩を押さえた。
「お前は、過労で倒れたんだ。医者が言っていた——このまま無理を続けたら、命に関わると」
「でも、工事が——」
「工事なら、弟子たちがやっている」
リーネは、窓の外を指差した。
「見ろ」
匠は、ゆっくりと身体を起こした。
窓から、城壁が見えた。
そこには——
「……ガルドたちが」
弟子たちが、城壁の上で作業をしていた。
石を積み、木材を運び、モルタルを塗っている。
匠がいなくても、作業は進んでいた。
「お前が倒れた後、ガルドが指揮を取った」
リーネが、説明した。
「最初は混乱したが——お前が教えたことを、みんなで思い出しながら、一つ一つ進めているそうだ」
「……そうか」
匠は、窓の外を見つめた。
ガルドの姿が見えた。弟子たちに指示を出しながら、自らも手を動かしている。
「あいつ……成長したな」
「お前のおかげだ」
リーネは、匠の手を取った。
「お前が、教えたんだ。お前が、育てたんだ」
「俺は、ただ——」
「謙遜するな」
リーネの声は、厳しかった。
「お前がいなければ、あいつらは何もできなかった。でも、今は違う。お前がいなくても、あいつらは自分で考えて、自分で動ける」
「……」
「それは——お前が、ちゃんと教えたからだ」
匠は、何も言えなかった。
ただ、窓の外を見つめていた。
弟子たちが、城壁の上で働いている。
自分がいなくても——
「……俺は、いらなくなったか」
ぽつりと、匠は呟いた。
「馬鹿」
リーネが、匠の手を強く握った。
「お前がいなくなったら、みんな困る。でも——お前が倒れたままでも、困るんだ」
「……」
「だから、休め。ちゃんと回復してから、また働け」
匠は、リーネを見た。
緑色の瞳が、真っ直ぐに匠を見ている。
「……分かった」
匠は、小さく頷いた。
「少しだけ、休む」
リーネは、ほっとしたように息を吐いた。
「やっと、分かってくれたか」
匠は、三日間、ベッドの上で過ごした。
最初の一日は、ほとんど眠っていた。身体が、睡眠を求めていた。
二日目から、少しずつ動けるようになった。ベッドの上で座り、食事を取り、リーネや弟子たちと話をした。
「師匠、城壁の北側が完成しました」
ガルドが、報告に来た。
「そうか」
「師匠の図面通りにやりました。蒼鉄樹の柱も、ちゃんと入れました」
「……よくやった」
匠は、ガルドを見た。
以前の、スラム街で出会った頃の彼とは、別人のようだった。
目に光がある。自信がある。責任感がある。
「お前、立派になったな」
「……師匠に、教えてもらったからです」
ガルドは、少し照れたように言った。
「俺は、何も知らなかった。木の切り方も、石の積み方も。でも、師匠が全部教えてくれた」
「俺は、ただ——」
「俺に、生きる意味をくれたんです」
ガルドの声は、真剣だった。
「俺は、スラム街で盗みをして生きてた。明日のことなんか、考えたことなかった。でも——」
ガルドは、自分の手を見た。
「——今は違う。俺は、大工だ。何かを作れる。人の役に立てる」
「……」
「それを教えてくれたのは、師匠だ」
匠は、何も言えなかった。
胸の奥が、熱くなっていた。
「……ありがとう」
小さく、匠は言った。
「お前に、そう言ってもらえて——嬉しい」
三日目の夜。
匠は、ベッドから起き上がり、窓辺に立った。
月明かりが、城壁を照らしている。
弟子たちが作った城壁。自分が教えた技術で、作られた城壁。
「……悪くない」
匠は、呟いた。
その時——
「指金」が、警告を発した。
「……?」
匠は、「指金」を発動させた。
北の方角。遠くの帝国軍陣地。
そこに——
「……何だ、あれは」
巨大な構造物が、建造されていた。
攻城塔ではない。攻城槌でもない。
もっと——複雑な何か。
「分析……」
匠は、「指金」の能力を最大限に引き出した。
——構造分析:未知の構造物。複数の機能を統合。攻城能力、防御能力、移動能力を兼備。設計思想:極めて合理的。冗長性なし。全ての部品が最適化されている。
「……蛭間」
匠は、呟いた。
「お前、また——新しいものを作っているな」
窓の外を、じっと見つめる。
あの構造物が完成したら——
「……次の戦いは、今までより厳しくなる」
匠は、拳を握りしめた。
「でも——」
匠は、城壁を見た。
弟子たちが作った城壁。自分が教えた技術で作られた城壁。
「——俺たちも、負けない」
匠の目に、闘志が宿った。
休息は、終わりだ。
明日から——また、戦いが始まる。
翌朝。
匠は、久しぶりに外に出た。
「師匠!」
弟子たちが、駆け寄ってきた。
「もう大丈夫なんですか」
「ああ。もう動ける」
匠は、城壁を見上げた。
「よくやったな、お前たち」
「師匠の教え通りにやっただけです」
「それでも、立派だ」
匠は、北の方角を見た。
「だが——敵も、新しいものを準備している。俺たちも、気を抜けない」
「新しいもの?」
「ああ。詳しくは分からないが……今までより、厄介なものになりそうだ」
弟子たちの表情が、引き締まった。
「俺たちは、何をすればいいですか」
「まず——城壁の残りを完成させる。それから、新しい防御設備を作る」
匠は、頭の中で計画を組み立てていた。
「敵がどんなものを持ってきても、対応できるように。準備を整える」
「分かりました、師匠」
「さあ——仕事だ」
弟子たちが、散っていく。
匠は、一人で空を見上げた。
二つの月が、朝の空に薄く浮かんでいる。
「蛭間……」
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