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第19章 反撃の狼煙
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匠が回復したのは、倒れてから一週間後だった。
その間、帝国軍は動かなかった。
「複合攻城機」の敗北、坑道戦の失敗——二度の大敗で、帝国軍も再編成が必要だったのだろう。
だが——
「そろそろ、動き出す頃だ」
匠は、城壁の上に立っていた。
北の地平線を見る。帝国軍の陣地から、煙が上がっている。
「新しい何かを——準備している」
匠は、「指金」を発動させた。
敵陣を透視する。
見えた。
今度は——
「……人だ」
巨大な兵器ではなく、人。
大量の兵士が、整列している。
「総攻撃を——仕掛けてくる気だ」
兵器では勝てないと悟った蛭間が、最後の手段——人海戦術に出ようとしている。
「師匠、どうしますか」
ガルドが、傍に来た。
「迎え撃つ」
匠は、短く答えた。
「でも——今度は、敵の数が多すぎます」
「ああ。だから——」
匠は、城壁を見回した。
「——反撃する」
「反撃?」
「ああ。守るだけじゃ、いつか負ける。こっちから、攻める」
匠の目に、光が宿った。
「王国軍の援軍が、南から来ている。合流すれば——敵を挟み撃ちにできる」
「援軍——知りませんでした」
「昨日、斥候が報告してきた。あと二日で、到着するそうだ」
匠は、北を見た。
「二日——それまで、持ちこたえる。そして——反撃に転じる」
二日間の籠城戦が始まった。
帝国軍は、人海戦術で要塞を攻めてきた。
梯子を掛け、城壁をよじ登ってくる。
矢を放ち、石を投げ、あらゆる方向から攻撃してくる。
「押し返せ——!」
ボルクが、城壁の上で叫んでいた。
「一人も、中に入れるな——!」
激しい戦闘が、昼夜を問わず続いた。
匠は、戦闘には参加しなかった。
その代わり、防御設備の維持に専念した。
「ガルド、あの梯子を落とせ!」
「ドルゴ、門の補強を!」
「ヴァルゴ、城壁の亀裂を埋めろ!」
弟子たちが、匠の指示に従って走り回る。
戦いながら、直す。
それが、大工にできる戦い方だった。
一日目の夜。
匠は、城壁の上で一人、北を見ていた。
帝国軍の篝火が、無数に燃えている。
「……蛭間」
匠は、呟いた。
「お前は——あそこにいるのか」
返事はない。当たり前だ。
だが——
「明日か、明後日——決着がつく」
匠は、腰の道具袋に手を当てた。
墨壺と、「神匠の指金」。
「俺は——お前に、負けない」
匠の声は、静かだった。
「俺の『丁寧な仕事』が——お前の『効率』に、勝つ」
夜空には、二つの月が浮かんでいた。
二日目の夕方。
南から、砂塵が上がった。
「援軍だ——!」
見張りが叫んだ。
「王国軍の援軍が、到着しました——!」
匠は、城壁の上から、それを見た。
数千の兵士が、南から押し寄せてくる。王国の旗が、風に翻っている。
「……来た」
匠は、息を吐いた。
「これで——反撃できる」
援軍の先頭に、見覚えのある顔があった。
ヴェルナー伯爵だ。
「クロダ・タクミ!」
伯爵が、城壁の下から叫んだ。
「よくぞ持ちこたえた! これより、反撃に転じる!」
「了解しました!」
匠は、叫び返した。
そして——弟子たちを集めた。
「全員、聞いてくれ」
匠は、弟子たちの顔を見回した。
ガルド、ドルゴ、ヴァルゴ——最初から一緒に戦ってきた仲間たち。
「これから——俺は、敵陣に向かう」
「敵陣——?」
「ああ。蛭間を——止めに行く」
弟子たちの顔色が変わった。
「師匠、危険です!」
「分かっている」
匠は、静かに言った。
「でも——俺にしか、できないことがある」
「……」
「蛭間は——俺と同じ『力』を持っている。建築を見れば、弱点が分かる力だ」
「師匠と、同じ……」
「ああ。だから——俺が、止めなければならない」
匠は、城壁を見た。
「この城は——お前たちに、任せる」
「師匠——」
「信じているぞ」
匠は、微笑んだ。
「お前たちは——もう、一人前の大工だ。俺がいなくても、この城を守れる」
弟子たちは、しばらく黙っていた。
そして——
「分かりました」
ガルドが、頷いた。
「師匠。行ってきてください」
「……ああ」
「必ず——戻ってきてください」
匠は、ガルドの肩を叩いた。
「約束する」
そして——匠は、城壁を降りた。
匠は、王国軍の突撃部隊に加わった。
リーネも、一緒に来ようとした。
「俺と一緒に来るな。危険だ」
「馬鹿。行くに決まっているだろう」
リーネは、弓を背負っていた。
「お前一人で行かせるものか」
「……」
「私は——お前を、見捨てない。そう言っただろう」
匠は、何も言えなかった。
「分かった」
結局、そう答えるしかなかった。
「一緒に来い」
リーネは、微笑んだ。
「最初から、そのつもりだ」
王国軍の突撃が始まった。
数千の兵士が、帝国軍の陣地に向かって突進する。
匠は、その中にいた。
剣は持っていない。持っているのは、道具袋だけだ。
だが——
「俺の武器は——これだ」
匠は、「神匠の指金」を握りしめた。
帝国軍の陣地が、近づいてくる。
「あそこだ」
匠は、陣地の中央を見た。
大きな天幕がある。そこに——
「蛭間が、いる」
匠は、走った。
リーネが、後に続く。
帝国兵たちが、行く手を阻もうとする。
だが——王国軍の兵士たちが、道を開けてくれた。
「大工殿、行ってください!」
「敵の建築師を——止めてください!」
匠は、頷いた。
そして——天幕に向かって、走り続けた。
(第19章 終)
第五部 決着
その間、帝国軍は動かなかった。
「複合攻城機」の敗北、坑道戦の失敗——二度の大敗で、帝国軍も再編成が必要だったのだろう。
だが——
「そろそろ、動き出す頃だ」
匠は、城壁の上に立っていた。
北の地平線を見る。帝国軍の陣地から、煙が上がっている。
「新しい何かを——準備している」
匠は、「指金」を発動させた。
敵陣を透視する。
見えた。
今度は——
「……人だ」
巨大な兵器ではなく、人。
大量の兵士が、整列している。
「総攻撃を——仕掛けてくる気だ」
兵器では勝てないと悟った蛭間が、最後の手段——人海戦術に出ようとしている。
「師匠、どうしますか」
ガルドが、傍に来た。
「迎え撃つ」
匠は、短く答えた。
「でも——今度は、敵の数が多すぎます」
「ああ。だから——」
匠は、城壁を見回した。
「——反撃する」
「反撃?」
「ああ。守るだけじゃ、いつか負ける。こっちから、攻める」
匠の目に、光が宿った。
「王国軍の援軍が、南から来ている。合流すれば——敵を挟み撃ちにできる」
「援軍——知りませんでした」
「昨日、斥候が報告してきた。あと二日で、到着するそうだ」
匠は、北を見た。
「二日——それまで、持ちこたえる。そして——反撃に転じる」
二日間の籠城戦が始まった。
帝国軍は、人海戦術で要塞を攻めてきた。
梯子を掛け、城壁をよじ登ってくる。
矢を放ち、石を投げ、あらゆる方向から攻撃してくる。
「押し返せ——!」
ボルクが、城壁の上で叫んでいた。
「一人も、中に入れるな——!」
激しい戦闘が、昼夜を問わず続いた。
匠は、戦闘には参加しなかった。
その代わり、防御設備の維持に専念した。
「ガルド、あの梯子を落とせ!」
「ドルゴ、門の補強を!」
「ヴァルゴ、城壁の亀裂を埋めろ!」
弟子たちが、匠の指示に従って走り回る。
戦いながら、直す。
それが、大工にできる戦い方だった。
一日目の夜。
匠は、城壁の上で一人、北を見ていた。
帝国軍の篝火が、無数に燃えている。
「……蛭間」
匠は、呟いた。
「お前は——あそこにいるのか」
返事はない。当たり前だ。
だが——
「明日か、明後日——決着がつく」
匠は、腰の道具袋に手を当てた。
墨壺と、「神匠の指金」。
「俺は——お前に、負けない」
匠の声は、静かだった。
「俺の『丁寧な仕事』が——お前の『効率』に、勝つ」
夜空には、二つの月が浮かんでいた。
二日目の夕方。
南から、砂塵が上がった。
「援軍だ——!」
見張りが叫んだ。
「王国軍の援軍が、到着しました——!」
匠は、城壁の上から、それを見た。
数千の兵士が、南から押し寄せてくる。王国の旗が、風に翻っている。
「……来た」
匠は、息を吐いた。
「これで——反撃できる」
援軍の先頭に、見覚えのある顔があった。
ヴェルナー伯爵だ。
「クロダ・タクミ!」
伯爵が、城壁の下から叫んだ。
「よくぞ持ちこたえた! これより、反撃に転じる!」
「了解しました!」
匠は、叫び返した。
そして——弟子たちを集めた。
「全員、聞いてくれ」
匠は、弟子たちの顔を見回した。
ガルド、ドルゴ、ヴァルゴ——最初から一緒に戦ってきた仲間たち。
「これから——俺は、敵陣に向かう」
「敵陣——?」
「ああ。蛭間を——止めに行く」
弟子たちの顔色が変わった。
「師匠、危険です!」
「分かっている」
匠は、静かに言った。
「でも——俺にしか、できないことがある」
「……」
「蛭間は——俺と同じ『力』を持っている。建築を見れば、弱点が分かる力だ」
「師匠と、同じ……」
「ああ。だから——俺が、止めなければならない」
匠は、城壁を見た。
「この城は——お前たちに、任せる」
「師匠——」
「信じているぞ」
匠は、微笑んだ。
「お前たちは——もう、一人前の大工だ。俺がいなくても、この城を守れる」
弟子たちは、しばらく黙っていた。
そして——
「分かりました」
ガルドが、頷いた。
「師匠。行ってきてください」
「……ああ」
「必ず——戻ってきてください」
匠は、ガルドの肩を叩いた。
「約束する」
そして——匠は、城壁を降りた。
匠は、王国軍の突撃部隊に加わった。
リーネも、一緒に来ようとした。
「俺と一緒に来るな。危険だ」
「馬鹿。行くに決まっているだろう」
リーネは、弓を背負っていた。
「お前一人で行かせるものか」
「……」
「私は——お前を、見捨てない。そう言っただろう」
匠は、何も言えなかった。
「分かった」
結局、そう答えるしかなかった。
「一緒に来い」
リーネは、微笑んだ。
「最初から、そのつもりだ」
王国軍の突撃が始まった。
数千の兵士が、帝国軍の陣地に向かって突進する。
匠は、その中にいた。
剣は持っていない。持っているのは、道具袋だけだ。
だが——
「俺の武器は——これだ」
匠は、「神匠の指金」を握りしめた。
帝国軍の陣地が、近づいてくる。
「あそこだ」
匠は、陣地の中央を見た。
大きな天幕がある。そこに——
「蛭間が、いる」
匠は、走った。
リーネが、後に続く。
帝国兵たちが、行く手を阻もうとする。
だが——王国軍の兵士たちが、道を開けてくれた。
「大工殿、行ってください!」
「敵の建築師を——止めてください!」
匠は、頷いた。
そして——天幕に向かって、走り続けた。
(第19章 終)
第五部 決着
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