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第21章 崩落
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天幕の支柱が、倒れた。
布が落ち、骨組みが崩れる。
その下には——火薬の樽が、山と積まれていた。
「まずい——!」
蛭間が、叫んだ。
だが、もう遅かった。
崩れた骨組みの中から、松明が転げ落ちた。
火薬に向かって——
「伏せろ——!」
匠は、地面に身を投げ出した。
次の瞬間——
爆発。
轟音が、世界を揺るがした。
炎と煙と瓦礫が、天を覆った。
衝撃波が、匠の身体を吹き飛ばした。
視界が、白く染まった。
どれくらいの時間が過ぎただろうか。
匠は、意識を取り戻した。
「……っ」
全身が痛い。耳鳴りがする。煙の臭いが、鼻を突く。
「……生きてる、か」
匠は、ゆっくりと身体を起こした。
周囲は、瓦礫の山だった。
天幕があった場所は、クレーターになっている。周囲の建物は、全て吹き飛んでいた。
「……やりすぎたかな」
匠は、苦笑した。
だが——
「リーネ……」
匠は、周囲を見回した。
リーネは、どこにいる。
「リーネ——!」
叫んだ。
返事がない。
「リーネ——!」
匠は、瓦礫の中を歩き始めた。
身体が痛い。足が震えている。
だが、止まれなかった。
「リーネ——!」
瓦礫の陰に、人影があった。
匠は、駆け寄った。
「リーネ——!」
だが——それは、リーネではなかった。
蛭間だった。
瓦礫の下敷きになり、動けなくなっている。
「……黒田……」
蛭間が、匠を見上げた。
その目には——もう、敵意はなかった。
ただ、疲労と、諦めと、そして——不思議そうな表情があった。
「……なぜだ」
蛭間が、呟いた。
「なぜ——お前は、そこまでする」
「……」
「俺を殺すために——自分の命も、危険にさらす。なぜだ」
匠は、しばらく黙っていた。
そして——
「お前を殺すためじゃない」
静かに、答えた。
「俺は——守るために、ここに来た」
「守る?」
「ああ。城を守る。弟子たちを守る。リーネを守る。この世界の人々を——守る」
「……」
「そのためには——お前を、止めなければならなかった」
蛭間は、匠を見つめていた。
「……お前は——馬鹿だ」
声に、力がなかった。
「効率も、合理性も——何も考えていない」
「そうかもな」
「ただ——愚直に、『守る』ために——」
蛭間の声が、途切れた。
「……蛭間」
匠は、蛭間の傍に膝をついた。
「俺は——お前を、恨んでいない」
「……何?」
「お前は——俺を、殺した。現実世界で。でも——」
匠は、蛭間の目を見た。
「——俺は、お前を恨んでいない」
蛭間の目が、見開かれた。
「なぜだ……お前は——俺に殺されたのに……」
「お前も——同じように、死んだんだ。同じ事故で」
「……」
「俺たちは——同じなんだ。異世界に来て、同じ力をもらって、同じように戦った」
匠は、静かに言った。
「違ったのは——何のために、力を使うか」
「……」
「お前は——『壊す』ために使った。俺は——『守る』ために使った」
蛭間は、黙っていた。
その目から——涙が、一筋流れた。
「……俺は」
声が、震えていた。
「俺は——何のために——生きてきたんだ——」
「……」
「効率。合理性。結果。それだけを——追い求めて——」
蛭間の声が、弱くなっていく。
「でも——俺の建物は——全部、壊された——」
「……」
「お前の——『丁寧な仕事』に——」
蛭間の目が、閉じかけた。
「黒田……」
「何だ」
「お前の——勝ちだ——」
蛭間の声は、もう、ほとんど聞こえなかった。
「俺は——負けた——」
「……」
「大工ってのは——『壊す』ためじゃなく——『残す』ために——建てるんだな——」
蛭間の目が、完全に閉じた。
そして——動かなくなった。
匠は、しばらく蛭間の傍にいた。
「……さよなら、蛭間」
匠は、呟いた。
「お前は——最悪の上司だった。でも——」
匠は、蛭間の目を閉じてやった。
「——最後は、分かってくれたみたいだな」
匠は、立ち上がった。
身体中が痛い。だが、まだ動ける。
「リーネを——探さないと」
匠は、瓦礫の中を歩き始めた。
「タクミ——!」
声が聞こえた。
匠は、振り返った。
リーネが、走ってきていた。
服は汚れ、顔に煤がついている。だが——無事だった。
「リーネ——!」
匠は、彼女に向かって走った。
二人は、瓦礫の中で抱き合った。
「よかった——無事で——」
「お前こそ——心配したぞ——」
二人とも、泣いていた。
「……終わったな」
匠は、呟いた。
「ああ——終わった」
リーネは、匠の胸に顔を埋めた。
「お前が——生きていて——本当に——よかった——」
匠は、リーネの髪を撫でた。
「俺も——お前が——無事で——よかった」
空には、夕日が沈もうとしていた。
戦いは——終わった。
布が落ち、骨組みが崩れる。
その下には——火薬の樽が、山と積まれていた。
「まずい——!」
蛭間が、叫んだ。
だが、もう遅かった。
崩れた骨組みの中から、松明が転げ落ちた。
火薬に向かって——
「伏せろ——!」
匠は、地面に身を投げ出した。
次の瞬間——
爆発。
轟音が、世界を揺るがした。
炎と煙と瓦礫が、天を覆った。
衝撃波が、匠の身体を吹き飛ばした。
視界が、白く染まった。
どれくらいの時間が過ぎただろうか。
匠は、意識を取り戻した。
「……っ」
全身が痛い。耳鳴りがする。煙の臭いが、鼻を突く。
「……生きてる、か」
匠は、ゆっくりと身体を起こした。
周囲は、瓦礫の山だった。
天幕があった場所は、クレーターになっている。周囲の建物は、全て吹き飛んでいた。
「……やりすぎたかな」
匠は、苦笑した。
だが——
「リーネ……」
匠は、周囲を見回した。
リーネは、どこにいる。
「リーネ——!」
叫んだ。
返事がない。
「リーネ——!」
匠は、瓦礫の中を歩き始めた。
身体が痛い。足が震えている。
だが、止まれなかった。
「リーネ——!」
瓦礫の陰に、人影があった。
匠は、駆け寄った。
「リーネ——!」
だが——それは、リーネではなかった。
蛭間だった。
瓦礫の下敷きになり、動けなくなっている。
「……黒田……」
蛭間が、匠を見上げた。
その目には——もう、敵意はなかった。
ただ、疲労と、諦めと、そして——不思議そうな表情があった。
「……なぜだ」
蛭間が、呟いた。
「なぜ——お前は、そこまでする」
「……」
「俺を殺すために——自分の命も、危険にさらす。なぜだ」
匠は、しばらく黙っていた。
そして——
「お前を殺すためじゃない」
静かに、答えた。
「俺は——守るために、ここに来た」
「守る?」
「ああ。城を守る。弟子たちを守る。リーネを守る。この世界の人々を——守る」
「……」
「そのためには——お前を、止めなければならなかった」
蛭間は、匠を見つめていた。
「……お前は——馬鹿だ」
声に、力がなかった。
「効率も、合理性も——何も考えていない」
「そうかもな」
「ただ——愚直に、『守る』ために——」
蛭間の声が、途切れた。
「……蛭間」
匠は、蛭間の傍に膝をついた。
「俺は——お前を、恨んでいない」
「……何?」
「お前は——俺を、殺した。現実世界で。でも——」
匠は、蛭間の目を見た。
「——俺は、お前を恨んでいない」
蛭間の目が、見開かれた。
「なぜだ……お前は——俺に殺されたのに……」
「お前も——同じように、死んだんだ。同じ事故で」
「……」
「俺たちは——同じなんだ。異世界に来て、同じ力をもらって、同じように戦った」
匠は、静かに言った。
「違ったのは——何のために、力を使うか」
「……」
「お前は——『壊す』ために使った。俺は——『守る』ために使った」
蛭間は、黙っていた。
その目から——涙が、一筋流れた。
「……俺は」
声が、震えていた。
「俺は——何のために——生きてきたんだ——」
「……」
「効率。合理性。結果。それだけを——追い求めて——」
蛭間の声が、弱くなっていく。
「でも——俺の建物は——全部、壊された——」
「……」
「お前の——『丁寧な仕事』に——」
蛭間の目が、閉じかけた。
「黒田……」
「何だ」
「お前の——勝ちだ——」
蛭間の声は、もう、ほとんど聞こえなかった。
「俺は——負けた——」
「……」
「大工ってのは——『壊す』ためじゃなく——『残す』ために——建てるんだな——」
蛭間の目が、完全に閉じた。
そして——動かなくなった。
匠は、しばらく蛭間の傍にいた。
「……さよなら、蛭間」
匠は、呟いた。
「お前は——最悪の上司だった。でも——」
匠は、蛭間の目を閉じてやった。
「——最後は、分かってくれたみたいだな」
匠は、立ち上がった。
身体中が痛い。だが、まだ動ける。
「リーネを——探さないと」
匠は、瓦礫の中を歩き始めた。
「タクミ——!」
声が聞こえた。
匠は、振り返った。
リーネが、走ってきていた。
服は汚れ、顔に煤がついている。だが——無事だった。
「リーネ——!」
匠は、彼女に向かって走った。
二人は、瓦礫の中で抱き合った。
「よかった——無事で——」
「お前こそ——心配したぞ——」
二人とも、泣いていた。
「……終わったな」
匠は、呟いた。
「ああ——終わった」
リーネは、匠の胸に顔を埋めた。
「お前が——生きていて——本当に——よかった——」
匠は、リーネの髪を撫でた。
「俺も——お前が——無事で——よかった」
空には、夕日が沈もうとしていた。
戦いは——終わった。
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