鳶職人×異世界転生_俺の手が世界を建てる~鳶職人、異世界で伝説の塔を築く~

もしもノベリスト

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第10章 獣人の力仕事師バルト

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王都に戻った蒼太は、早速全員を集めた。

建設予定地の広場。ゴルド、リーナ、バルト、そして数十人の作業員たちが、蒼太の前に並んでいる。

「今日から、本格的に仕事を始める」

蒼太の声が、広場に響いた。

「まず、自己紹介だ。俺は鷹野蒼太。この現場の責任者だ」

「次に、こいつらを紹介する」

蒼太はゴルドを示した。

「ゴルド。ドワーフの石工だ。基礎工事を担当する」

ゴルドは腕を組んで、ふんと鼻を鳴らした。

「次に、リーナ」

銀髪のエルフが、一歩前に出た。

「エルフの木工師だ。木材の調達と加工を担当する」

リーナは無言で頷いた。

「そして、バルト」

虎の獣人が、巨体を揺らしながら前に出た。

「獣人の力仕事師だ。重量物の運搬を担当する」

バルトは周囲を睨んだ。人間の作業員たちが、僅かに後退する。

「言っておく」

蒼太は全員を見回した。

「この現場では、種族は関係ねえ。人間もドワーフもエルフも獣人も、全員が『職人』だ。対等に扱う。差別は許さねえ」

ざわめきが起きた。

「そんな……獣人と対等なんて……」

「エルフが人間の指示を聞くはずがない」

「ドワーフは気難しいと聞いている」

否定的な声が上がる。

蒼太は黙って聞いていた。

やがて、静かに言った。

「文句がある奴は、今すぐ帰れ」

ざわめきが止まった。

「俺の現場では、俺のルールに従ってもらう。それが嫌なら、他を当たれ。強制はしねえ」

誰も動かなかった。

「よし。じゃあ、仕事の説明を始める」

蒼太は図面を広げた。

「今日から、塔の基礎工事に入る。まず、地面を掘る。深さは五メートル。直径は百メートル」

「百メートル……」

作業員たちが息を呑んだ。

「でけえ穴だ。でも、これがなきゃ三百メートルの塔は建たねえ。基礎がすべてだ」

蒼太はゴルドを見た。

「ゴルド。掘った穴の底に、石を敷き詰める。お前の設計通りにやってくれ」

「任せろ。俺の石積みに、文句は言わせん」

「リーナ。穴を掘るための道具と、足場の部材を用意してくれ。木の選定は任せる」

「分かった。最高の木を用意する」

「バルト。お前の部隊には、石と土の運搬を頼む。重労働だが、頼めるか」

「俺たちの出番だな。任せろ」

蒼太は全員を見回した。

「いいか、この塔は、全員で建てる。誰が欠けても完成しねえ。俺たちは、チームだ」

作業員たちの表情が、少しずつ変わっていった。

不安から、緊張へ。緊張から、期待へ。

「さあ、始めるぞ。朝礼だ」

    *    *    *

作業が始まった。

毎朝、全員が広場に集まる。蒼太が今日の作業内容を説明し、危険箇所を確認する。

「今日の作業は、北側の掘削だ。危険なのは——」

「土砂崩れです」

エドが答える。

「対策は?」

「掘削面に近づきすぎない。異音がしたら、すぐに離れる」

「よし。作業開始」

作業員たちが散っていく。

最初の数日は、ぎこちなかった。

種族間の溝は深い。人間はドワーフを警戒し、ドワーフはエルフを疎み、エルフは獣人を見下し、獣人は全員を敵視する。

しかし、作業を続けるうちに、少しずつ変化が現れた。

「おい、そこの人間。その持ち方じゃ腰を痛めるぞ」

ゴルドが、若い作業員に声をかけた。

「え……」

「石を持つときは、膝を使え。背中じゃなく、脚の力で持ち上げるんだ」

「あ、ありがとうございます……」

別の場所では、リーナが道具の使い方を教えていた。

「この鉋は、木目に逆らって使ってはならない。こう、木目に沿って——」

「へえ、そうなんですか……」

そしてバルトは、黙々と石を運んでいた。

一人で、人間三人分の石を担いで歩く。その姿を見て、作業員たちは感嘆の声を上げた。

「すげえ……あの力……」

「獣人ってのは、あんなに強いのか……」

夕方、作業が終わると、蒼太は全員を集めた。

「今日の反省会だ。問題点があれば、言ってくれ」

最初は誰も発言しなかった。

しかし、日が経つにつれて、少しずつ意見が出るようになった。

「あの、ソウタさん。道具の置き場所が遠くて、取りに行くのに時間がかかります」

「なるほど。明日から、作業場所の近くに仮置き場を作ろう」

「ゴルドさんの指示が分かりにくいです……」

「俺の指示が分かりにくいだと?」

ゴルドが睨む。しかし蒼太が割って入った。

「ゴルド、お前の技術は一流だが、説明は俺がフォローする。いいな」

「……ふん」

こうして、少しずつ、現場はまとまっていった。

    *    *    *

ある日の夜。

蒼太は宿舎の外で、一人で空を見上げていた。

「眠れないのか」

声がして、振り返ると、バルトが立っていた。

「ああ。考え事をしてた」

「何をだ」

「この塔が、本当に建つのかなって」

バルトは蒼太の隣に座った。

「弱気だな」

「そうかもな」

蒼太は苦笑した。

「三百メートルって、正直、想像つかねえんだ。俺がやってた現場は、せいぜい数十メートルだった。それの十倍だぜ」

「不安か」

「ああ」

蒼太は正直に答えた。

「でも、やるしかねえ。他に方法がねえんだから」

バルトは暫く黙っていた。

「お前、なぜこの仕事を受けた」

「なぜって……」

「お前は異世界から来た。この世界の戦争に関係ない。なぜ、命を賭けて塔を建てようとする」

蒼太は考えた。

「……分からねえ。正直、最初は巻き込まれただけだった」

「今は?」

「今は——」

蒼太は空を見上げた。

「仲間ができた。お前や、ゴルドや、リーナ。エドもいる。この現場で働く連中が、俺の仲間だ」

「……」

「仲間のためなら、命を賭ける。それが、職人ってもんだ」

バルトは蒼太を見つめた。

「……お前、変わった人間だな」

「よく言われる」

二人は笑った。

「なあ、バルト」

「何だ」

「お前は、なぜ俺に協力してくれるんだ」

バルトは少し考えた。

「……お前が、俺たちを『仲間』と呼んだからだ」

「え?」

「俺たちは、ずっと『道具』だった。人間に使われ、捨てられる。それが、当たり前だと思っていた」

バルトの声は、静かだった。

「でも、お前は違った。俺たちを仲間と呼び、同じ報酬を払うと言った。最初は信じなかった。でも——」

「でも?」

「お前は、約束を守った。俺たちに飯を食わせ、仕事を与え、対等に扱った。それが、嬉しかった」

蒼太は何も言えなかった。

「だから、俺はお前の下で働く。お前が塔を建てると言うなら、俺もそれに命を賭ける」

「バルト……」

「だから——」

バルトは蒼太の目を真っ直ぐに見た。

「絶対に、死ぬなよ。お前が死んだら、俺たちの居場所がなくなる」

蒼太は頷いた。

「分かった。俺は死なねえ。お前らも、絶対に死なせねえ」

「約束だぞ」

「ああ、約束だ」

二人は、夜空の下で握手を交わした。

星が、静かに瞬いていた。

【第10章 完】
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