鳶職人×異世界転生_俺の手が世界を建てる~鳶職人、異世界で伝説の塔を築く~

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第11章 職人会議

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建設予定地の中央に、大きな天幕が張られた。

蒼太が「職長会議」と呼ぶ場所だ。

天幕の中には、長い木製のテーブルが置かれている。その周りに、ドワーフ、エルフ、獣人、そして人間の職人たちが集まっていた。

総勢二十名。

各種族の代表者と、主要な技術者たち。これだけの異種族が一堂に会するのは、この大陸の歴史においても稀なことだった。

空気は、重かった。

ドワーフたちはエルフを睨み、エルフたちは獣人から距離を取り、獣人たちは人間を警戒している。歴史的な対立感情が、目に見えない壁となって全員を隔てていた。

蒼太は天幕の奥に立ち、全員を見渡した。

「集まってくれて、ありがとう」

誰も答えない。

「今日から、本格的に塔の建設を始める。そのために、全員の役割と、作業の進め方を確認したい」

ゴルドが鼻を鳴らした。

「会議など、時間の無駄だ。俺は自分の仕事をするだけだ」

「そうはいかねえ」

蒼太は淡々と答えた。

「この塔は、お前一人じゃ建たねえ。全員の力が必要だ」

「ふん。人間や獣人の力など、あてにならん」

ゴルドの言葉に、バルトが低く唸った。

「何だと、ドワーフ。俺たちを馬鹿にしているのか」

「事実を言っているだけだ。お前たちに、繊細な作業ができるとは思えん」

「繊細な作業? 石を積むだけの仕事が、繊細だと?」

「石を積む『だけ』だと? 貴様、石工を舐めているな」

二人が睨み合う。周囲の緊張が、一気に高まった。

リーナが割って入った。

「やめなさい。ここは、協議の場よ」

「黙れ、エルフ。お前たちは、いつも高みから見下ろしているだけだ」

「私たちが見下ろしている? それはあなたたちの被害妄想でしょう」

「何だと——」

「静かにしろ」

蒼太の声が、天幕に響いた。

低い声だったが、全員の動きが止まった。

「……言いたいことがあるのは分かる。歴史があるのも分かる。だが、今はそれを言い合う場じゃねえ」

蒼太は全員を見回した。

「いいか、俺はお前らに仲良くしろとは言わねえ。好き嫌いは自由だ。だが、この現場では、それを表に出すな」

「なぜだ」

ゴルドが問うた。

「仕事に支障が出るからだ」

蒼太は答えた。

「現場ってのは、全員で回すもんだ。誰かが自分勝手な行動をすれば、全体が止まる。最悪、事故が起きる。死人が出る」

「……」

「俺がここに来たとき、すでに百二十三人が死んでた。足場がない、安全管理がない、それだけじゃねえ。連携が取れてなかったからだ」

蒼太の声には、静かな怒りがあった。

「種族同士で反目し合って、情報を共有しない。自分の仕事だけやって、他は知らんぷり。そんなことをしてたら、また死人が出る」

天幕の中が、静まり返った。

「俺は、お前らに死んでほしくねえ。お前らの仲間にも、死んでほしくねえ。だから——」

蒼太は一人一人の目を見た。

「この現場では、種族は関係ねえ。全員が『職人』だ。職人同士、対等に扱う。情報を共有する。助け合う。それだけだ」

沈黙が続いた。

やがて、バルトが口を開いた。

「……お前の言いたいことは分かった。だが、言うだけなら簡単だ」

「ああ、そうだな」

「行動で示せ。お前が本気だということを」

蒼太は頷いた。

「そのつもりだ。だから、今日、この会議を開いた」

蒼太は懐から紙を取り出し、テーブルに広げた。

「これが、作業の分担表だ」

全員が、紙を覗き込んだ。

「基礎工事はゴルドが指揮する。石の選定、配置、強度管理。すべてお前に任せる」

ゴルドが眉を上げた。

「俺に、全権を与えるということか」

「ああ。お前が一番腕がいい。お前の判断に従う」

「……ふん」

ゴルドは不満そうだったが、否定はしなかった。

「木材の調達と加工はリーナが担当する。足場の部材、塔内部の構造材。すべてお前に頼む」

リーナが頷いた。

「私の責任で、最高の木材を用意する」

「頼む。それから、運搬作業はバルトの部隊が担当する」

バルトが腕を組んだ。

「石も、木材も、全部か」

「ああ。お前らの力がなけりゃ、材料を現場に運べねえ」

「……いいだろう。任せろ」

蒼太は続けた。

「俺は足場を組む。高所作業は、俺が指揮する」

「お前自身がやるのか」

ゴルドが問うた。

「当たり前だ。親方は、一番危ないところに立つ。それが俺のルールだ」

ゴルドは暫く蒼太を見つめた。

やがて、小さく笑った。

「……面白い人間だ」

「よく言われる」

蒼太は全員を見回した。

「他に質問は?」

リーナが手を挙げた。

「一つ、確認したい」

「何だ」

「報酬の配分は、どうなる? 種族によって、差をつけるのか?」

蒼太は首を振った。

「同じ仕事をしたら、同じ金を払う。種族は関係ねえ」

「本当に?」

「ああ。俺は嘘は言わねえ」

リーナは暫く蒼太を見つめた。

やがて、小さく頷いた。

「……分かった。信じる」

「ありがとう」

バルトが口を開いた。

「もう一つ、聞きたいことがある」

「何だ」

「お前は、俺たちを『仲間』と呼んだ。それは、本気か?」

蒼太はバルトを真っ直ぐに見た。

「本気だ」

「なぜだ。お前は人間だ。俺たちは獣人だ。歴史的に、敵同士だ」

「それは、お前らの歴史だ。俺の歴史じゃねえ」

「……」

「俺は異世界から来た。この世界の因縁なんか、知らねえ。だから、フラットに見れる」

蒼太は続けた。

「俺から見たら、お前らは全員、腕のいい職人だ。種族なんか、どうでもいい。腕があるかどうか、それだけだ」

バルトは暫く黙っていた。

やがて、低く笑った。

「……お前、本当に変わってるな」

「よく言われる」

「いいだろう。お前の『仲間』になってやる」

バルトが手を差し出した。蒼太は、その手を握った。

ゴルドが鼻を鳴らした。

「やれやれ。仕方ない。俺も付き合ってやるか」

リーナも頷いた。

「私も、この現場を見届けたい」

蒼太は三人を見回した。

「ありがとう。じゃあ、改めて——」

蒼太はテーブルの上に拳を置いた。

「俺たちの敵は、魔王軍じゃねえ。『この塔が建たないこと』だ。俺たちは、それに勝つ。全員で」

ゴルドが拳をテーブルに乗せた。

「乗ってやる」

バルトも続いた。

「俺たちも」

リーナが最後に手を重ねた。

「私も」

四つの拳が、テーブルの上で重なった。

人間、ドワーフ、獣人、エルフ。

種族を超えた連帯が、ここに生まれた。

「よし」

蒼太は笑った。

「じゃあ、始めるか。俺たちの現場を」

    *    *    *

職長会議の後、蒼太は現場を巡回した。

各所で、作業が進んでいる。

基礎工事の現場では、ゴルドがドワーフたちを指揮していた。

「そこの石、もう少し右だ! ずれているぞ!」

「へい、親方!」

若いドワーフたちが、テキパキと動いている。ゴルドの指示は厳しいが、的確だ。

木材加工の現場では、リーナがエルフたちと共に作業していた。

「この木目を活かして、削りなさい。木の声を聞くのよ」

「はい、リーナ様」

エルフたちは、繊細な手つきで鉋を動かしている。削られた木材は、驚くほど滑らかだった。

運搬作業の現場では、バルトが獣人たちを率いていた。

「おい、そっちは二人で持て! 一人じゃ危険だ!」

「分かった、ボス!」

獣人たちは、巨大な石を軽々と担いでいる。その力は、人間の数倍はある。

蒼太は各現場を回りながら、声をかけていった。

「いい調子だ。その調子で頼む」

「休憩は取れてるか? 無理するなよ」

「何か問題があったら、すぐに言ってくれ」

作業員たちは、最初は戸惑っていた。

こんな風に声をかけてくる責任者は、初めてだったからだ。

しかし、蒼太の態度に悪意がないことを悟ると、少しずつ打ち解けていった。

「ソウタさん、ここの石、少しずれてるような気がするんですが……」

「どれ、見せてみろ」

蒼太は石に手を当て、【匠の手】で確認した。

「……確かに、少しずれてるな。よく気づいた。直してくれ」

「はい!」

「何か気づいたことがあったら、遠慮なく言ってくれ。お前らの目も、俺の目だ」

作業員の表情が、明るくなった。

夕方、作業が終わると、蒼太は全員を集めた。

「今日の反省会だ。何か問題があれば、言ってくれ」

最初は誰も発言しなかった。

しかし、一人が口を開くと、次々と意見が出てきた。

「ゴルドさんの指示が早すぎて、ついていけないことがあります」

「木材の運搬ルートが、石の運搬ルートと被っていて、危ないです」

「休憩場所が遠くて、戻るのに時間がかかります」

蒼太は一つ一つ、メモを取った。

「分かった。明日から改善する。他には?」

「あの……」

若いドワーフが、おずおずと手を挙げた。

「何だ」

「獣人さんたちの力を借りたいんですが……石が重くて、一人じゃ動かせないのがあって……」

バルトが反応した。

「どの石だ。俺たちが運んでやる」

「えっ、いいんですか?」

「当たり前だ。同じ現場の仲間だろう」

若いドワーフの顔が、パッと明るくなった。

「ありがとうございます!」

蒼太は、その光景を見て、小さく笑った。

少しずつ、だが確実に。

壁が、崩れ始めている。

    *    *    *

一週間が経った。

基礎工事が、順調に進んでいた。

ゴルドの指揮の下、巨大な石が次々と配置されていく。【匠の手】で確認しても、欠陥は見当たらない。さすがは大陸一の石工だ。

木材の加工も、予定通りだった。

リーナが選んだ木材は、どれも最高品質だ。加工された部材は、驚くほど精密で、足場の組み立てが格段に楽になった。

運搬作業も、スムーズに進んでいた。

バルトの部隊は、獣人ならではの力で、重い資材を次々と運んでいく。作業効率は、人間だけの時の三倍以上だ。

そして——

「よし、足場の一段目、完成だ」

蒼太は満足げに、出来上がった足場を見上げた。

高さ約五メートル。塔の基礎部分を取り囲むように、足場が組み上がっている。

「すげえ……」

「これが、足場ってやつか……」

「上に登っても、全然揺れねえ……」

作業員たちが、感嘆の声を上げた。

蒼太は足場に登り、安全を確認した。

「よし、問題ねえ。これで、安全に作業できる」

エドが駆け寄ってきた。

「ソウタさん! すごいです! こんなに早く足場が完成するなんて!」

「お前らが頑張ったからだ。俺一人じゃ、こうはいかねえ」

蒼太は足場から降り、全員に向かって言った。

「今日は、記念すべき日だ。俺たちの現場で、最初の足場が完成した」

歓声が上がった。

「明日から、塔の本体工事に入る。基礎の上に、石を積み始める。いよいよ、本番だ」

「おおー!」

「やってやるぜ!」

「塔を建てるぞ!」

蒼太は全員の顔を見回した。

ドワーフも、エルフも、獣人も、人間も。

全員が、同じ方向を向いている。

「よし、今日は解散だ。明日に備えて、しっかり休め」

作業員たちが散っていく。

蒼太は一人、足場の前に残った。

夕日が、足場を赤く染めている。

「……ここから、だな」

蒼太は呟いた。

三百メートル。

まだ、道のりは長い。

しかし、最初の一歩は踏み出した。

仲間がいる。技術がある。やる気がある。

「やれる」

蒼太は拳を握った。

「俺たちなら、やれる」

夜空に、最初の星が瞬いた。
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