2人の未来〜今まで恋愛感情を抱いたことのなかった童貞オタク受けがゲイだと勘違いした周りに紹介されてお見合いする話〜

ルシーアンナ

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お見合いの話

また目頭を押さえて言うから俺からは口元しか見えなかったけれど、その時初めて彼が笑った。

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 この時間は一体なんだったのだろう?

 素朴な疑問を浮かべながら落ち込む俺に、名須さんは顔を顰めてここめかみを抑えた。


「頭痛いんですか?」

 思わず尋ねてしまったのは、そんな風に見えたから。

「ア? ……ウン、ちょっと、ね」

 名須さんは言って、メガネを外し目頭を押さえると、手元にあったおしぼりで目を拭った。


「あの、俺頭痛薬持ってますけど、良かったら……」

 処方箋薬ではないから、その商品がダメではなかったらなのだけれど、そう思って言う俺に、

「ン、だいじょーぶ、すぐ治まッから」

 また目頭を押さえて言うから俺からは口元しか見えなかったけれど、その時初めて彼が笑った。


 ちょっとドキッとしたのは、彼が初めて不機嫌そうなガードを緩めてくれたから?


「ゴメン、このあと一件客先寄らなきゃいけなくなって」

 眼鏡を掛け直し言われた言葉に、俺は、

「ハイ」

 と頷く。


 今日は定時で上がれたからと夕方に待ち合わせたはずだけれど、

『このあと一緒に食事にでも』

 なんてことになったら、そっちの方が弱ってしまうから俺もその方が良かったし、きっとそれも方便という奴だろう。


 歳上だからって理由だろうか?
 俺らのコーヒー代は名須さんが持ってくれて、

「ごちそうさまでした」

 とお礼を言ったら、

「オウ」

 って返って来た声がまた少し力の抜けた、気さくに聞こえるものだった。



 ホテルのエントランス前で、

「今日はありがとうございました」

 もう一度お礼を言ったら、

「こっちこそ、じゃあまたね」

 なんて言ってくれたけれど、きっと「また」なんてないのだ。


 人と人の出会いって、

『袖振り合うも多生の縁』

 なんていうけれど、今度彼に会えるのだとしたらきっとお互いに生まれ変わってからだという意味。


 タクシーに乗り込んだ名須さんと、駅まで数分の距離を歩く俺はそこで別れた。

 一度だけ振り返ったら、彼の乗ったタクシーが左ウインカーを出して歩道前で一旦停止しているところだった。



 もうすぐ俺の誕生日だから、また恋人居ない歴イコール年齢を更新してしまうなぁ――って思ったのは、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ誰かと一緒に居てもいいって気持ちが俺にもあったからだろうか?
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