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聖印12

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手のひらの魔石を転がしながら、俺は昨日のことを思い出していた。魔石を食べたあとに得たあの不思議な感覚と力は、戦闘が終わった少し後まで続いた。

もし魔石を食べれば誰でもあのような力を得られるなら、もっと世の中に知られている筈だ。しかし、そんな話は聞いたことがない。

つまり昨日の事象は俺だけに起こることなのではないか?そしてその原因は《悪食の聖印》としか考えられない。勇者3人を1人で退けられる程の力。使い方さえ間違えなければ、大きな助けになるのは間違いない。

「ハクロウ、入っていい?入るわね」

マノンが返事を待つことなく、俺の部屋に入ってきた。

「傷の具合はどう?」

「だいぶ痛みは引いた。傷薬が効いたのか、それともこれも聖印の効果なのか。マノンはどうなんだ?」

「私は大丈夫よ。元々打ち身だけだったし」

マノンは腰に手を当てて胸を張り、健在を主張した。

「まぁ、傷が癒えるまでゆっくりすることね!アダンからもらったお金もあるし、しばらくは平気でしょ!」

美味しいもの食べてくるー。そう言ってマノンは部屋から出ていった。いつも馬鹿みたいに食べるのにあの体形を維持しているのは大したものだ。

俺は急に静かになった部屋に取り残され、思考する時間を与えられた。聖印とは何か。魔石とは何か。俺はそれらの表面的なことしか知らない。そろそろちゃんと勉強する時期なのかもしれない。


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2日後には俺が受けた傷は完全に塞がり、外を出回るのにも不自由がないぐらいになった。子供の頃にした怪我の治りと比べてみても、圧倒的に早い。これは傷薬の効果ではなく、聖印の恩恵の1つということで間違いないだろう。

マノンが借りている部屋をノックしたが反応はない。そういえば、朝早くに勝手に俺の部屋に入ってきて出掛けるだかなんだか言っていたような気がする。俺は散歩がてら冒険者ギルドに向かうことにした。ギルドの資料室に何か手掛かりがあるかもしれない。そう思ってのことだ。


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資料室には俺と同じような駆け出しの冒険者の2人組がいて、魔物に関する本を開いて熱心に目を通していた。俺もよくお世話になっている本だ。邪魔しないようにしよう。

俺はしばらくの間、魔石について書かれている本を探した。しかし、魔石そのものを取り上げているものは見つからなかった。

そこで少し視点を変えて魔導具について書かれている本を探した。基本的に魔導具は魔石を動力源にしているものが多い。ならば魔石の扱いについても記載されているのではと思ったのだ。

資料室の中を隈なく探した結果、魔導具について書かれている本が3冊ほど見つかった。

その内の2冊は冒険者に役立つ魔導具が紹介させているようなものだったが、1冊は魔道具の作りについて解説しているものがあった。俺はその本を手に取り、資料室の机に向かった。
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