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昼食を終えると、ロランさんは家の庭に大きな桶を三つ並べた。そして網にいっぱいのルウム貝がどさりと置かれる。
「リネア。こうやってナイフを入れるんだ」
手のひら程のルウム貝にナイフを差し入れて小刻みに動かすと、パカリと開く。
そして乾物にする貝柱の部分とそれ以外とを別々の桶に選別していく。
「怪我しないようにな」
ウンウンと頷き、私はルウム貝の解体を開始した。
最初は上手くいかなかったけれど、一度コツを掴むとリズムよくパカパカと貝が開いて楽しい。
夢中で作業をしていると、ロランさんに「子供みたいだな」と言われた。私はもういい歳なのに!
そう言えば、彼は何歳なのだろう?
私よりは大分年上だとは思うのだけれど……。
作業がひと段落した頃、休憩ついでに私はある試みをした。
解体した貝殻を桶から取り出し、自分の歳の数だけ地面に並べたのだ。
私の行動を怪訝な顔で見つめるロランさんだったが、貝殻と自分を交互に指さすと理解してくれたらしい。
「リネアは二十歳なのか……」
ロランさんは複雑な表情をする。
私が「あなたは?」と手を向けると、彼は重い腰を上げた。
そして私に倣って地面に貝殻を並べ始める。
十……二十……三十。
ここまで並べてロランさんはこちらをちらりと見た。私の反応をうかがうように。
笑顔を返すと、彼はまた貝殻を並べ始める。
四十……四十四。ここで手が止まった。彼は四十四歳だ。
「おじさんだろ……?」
何故だかロランさんは申し訳なさそうにしている。私にとって年齢なんて関係ないのに。
「びっくりしたか?」
そんなことないと首を振るけれど、ロランさんは納得しないようだ。男心は難しい。
私が困っていると、彼はハッと気が付いたように次の作業を提案した。
「お、俺は貝殻を捨ててくるから、リネアは乾物にする部分を洗っておいてくれ」
うん。分かった。綺麗にすればいいのね。それ、得意だよ?
桶を持って海に向かうロランさんの背中を見送りながら、私は手に聖なる魔力を集めた。
このことが、どんな事態を巻き起こすとも知らずに……。
#
「リネア! 何かしたか!?」
商船が帰った後、ロランさんは勢いよく家の扉を開けてそう言った。台所で料理をしていた私は驚き、包丁を落としそうになる。
私がヘマをしたのだろうか? 不安になって縮こまっていると、彼は側に来て「違う違う」と手を振った。
「リネアがルウム貝の乾物の手伝いを始めてから、商人からの評判が凄くいいんだ」
はぁ。良かった。文句でも言われたのかと、緊張しちゃった。でも、評判がいいってどういうことだろう?
「今までよりも遥かに日持ちが良くて、味も極上。そして何より──」
何より?
「食べると、あらゆる病気が治るらしいんだ……」
……えっ!? 私は丁寧に【浄化】で貝柱を綺麗にしているだけだけど……。一体何が起こったの!?
「その顔、何かあるな?」
うっ……。バレてる……。ここは素直に白状した方が良さそうだ。
包丁を置き、右手に少しだけ聖なる魔力を集める。そしてまな板に手をかざして──。
【浄化!】
ピカピカになったまな板をロランさんが真剣な表情で見つめている。
「リネア、聖魔法でルウム貝を清めていたのか?」
は、はい。そうです。と頷く。
「つまり……癒しの女神の聖女ってことか……?」
どうだろう? 私は教会から聖女認定を取り消されている。未だに聖魔法は使えているけれど。
よく分からなくて首を捻ると、ロランさんは私を気遣うように質問をやめた。
「これは大変なことになるぞ……。まぁ、俺がなんとかするかぁ……」
そんなに大事なの? よく分からないけれど、彼が何とかしてくれるならば大丈夫。全幅の信頼を寄せているのだ。
「リネア。こうやってナイフを入れるんだ」
手のひら程のルウム貝にナイフを差し入れて小刻みに動かすと、パカリと開く。
そして乾物にする貝柱の部分とそれ以外とを別々の桶に選別していく。
「怪我しないようにな」
ウンウンと頷き、私はルウム貝の解体を開始した。
最初は上手くいかなかったけれど、一度コツを掴むとリズムよくパカパカと貝が開いて楽しい。
夢中で作業をしていると、ロランさんに「子供みたいだな」と言われた。私はもういい歳なのに!
そう言えば、彼は何歳なのだろう?
私よりは大分年上だとは思うのだけれど……。
作業がひと段落した頃、休憩ついでに私はある試みをした。
解体した貝殻を桶から取り出し、自分の歳の数だけ地面に並べたのだ。
私の行動を怪訝な顔で見つめるロランさんだったが、貝殻と自分を交互に指さすと理解してくれたらしい。
「リネアは二十歳なのか……」
ロランさんは複雑な表情をする。
私が「あなたは?」と手を向けると、彼は重い腰を上げた。
そして私に倣って地面に貝殻を並べ始める。
十……二十……三十。
ここまで並べてロランさんはこちらをちらりと見た。私の反応をうかがうように。
笑顔を返すと、彼はまた貝殻を並べ始める。
四十……四十四。ここで手が止まった。彼は四十四歳だ。
「おじさんだろ……?」
何故だかロランさんは申し訳なさそうにしている。私にとって年齢なんて関係ないのに。
「びっくりしたか?」
そんなことないと首を振るけれど、ロランさんは納得しないようだ。男心は難しい。
私が困っていると、彼はハッと気が付いたように次の作業を提案した。
「お、俺は貝殻を捨ててくるから、リネアは乾物にする部分を洗っておいてくれ」
うん。分かった。綺麗にすればいいのね。それ、得意だよ?
桶を持って海に向かうロランさんの背中を見送りながら、私は手に聖なる魔力を集めた。
このことが、どんな事態を巻き起こすとも知らずに……。
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「リネア! 何かしたか!?」
商船が帰った後、ロランさんは勢いよく家の扉を開けてそう言った。台所で料理をしていた私は驚き、包丁を落としそうになる。
私がヘマをしたのだろうか? 不安になって縮こまっていると、彼は側に来て「違う違う」と手を振った。
「リネアがルウム貝の乾物の手伝いを始めてから、商人からの評判が凄くいいんだ」
はぁ。良かった。文句でも言われたのかと、緊張しちゃった。でも、評判がいいってどういうことだろう?
「今までよりも遥かに日持ちが良くて、味も極上。そして何より──」
何より?
「食べると、あらゆる病気が治るらしいんだ……」
……えっ!? 私は丁寧に【浄化】で貝柱を綺麗にしているだけだけど……。一体何が起こったの!?
「その顔、何かあるな?」
うっ……。バレてる……。ここは素直に白状した方が良さそうだ。
包丁を置き、右手に少しだけ聖なる魔力を集める。そしてまな板に手をかざして──。
【浄化!】
ピカピカになったまな板をロランさんが真剣な表情で見つめている。
「リネア、聖魔法でルウム貝を清めていたのか?」
は、はい。そうです。と頷く。
「つまり……癒しの女神の聖女ってことか……?」
どうだろう? 私は教会から聖女認定を取り消されている。未だに聖魔法は使えているけれど。
よく分からなくて首を捻ると、ロランさんは私を気遣うように質問をやめた。
「これは大変なことになるぞ……。まぁ、俺がなんとかするかぁ……」
そんなに大事なの? よく分からないけれど、彼が何とかしてくれるならば大丈夫。全幅の信頼を寄せているのだ。
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