9 / 23
赤い髪の女
魔道具屋にて
しおりを挟む
「いやー、聞いたことないね。スキルを無効にするスキルなんてのは」
「……そうですか。ラムズヘルムにならあるかも? って聞いたもので……」
魔道具屋の店主の言葉に赤い髪の女は項垂れた。歳は俺よりも少し上、18歳ぐらいだろう。顔は大人しそうなのに妙に露出の多い格好をしている。痴女か?
「悪いが他のお客さんもいるんでね」
店主の言葉で後ろにいる俺の存在に気がついたようだ。飛び退くようにカウンターの前を俺に譲った。
「いらっしゃい。なんのようだい?」
「この魔結晶をスキルオーブにして欲しい」
スキルの入った魔結晶をリュックから取り出してカウンターの上に置くと、店主は鋭い目つきになった。
「ちょっと見てもいいかい?」
「もちろんだ」
店主は手袋をはめた手で慎重にスキル入りの魔結晶を取り、照明の魔道具で照らした。
「ふむ。珍しい光り方だね。鑑定しないと分からないけど、レアなスキルかもしれない」
「そいつは有難い。スキルオーブ化と鑑定で幾らだ」
「3万ギムでどうだい?」
別の魔道具屋では4万ギムと言われたが、ここは随分と安いな。さっきはルーキーだと舐められていたようだ。
「安いな」
「見所のありそうな冒険者には安くしているのさ。どうする?」
「頼む。何日ぐらいかかる」
「この魔結晶は随分と魔素を溜め込んでるみたいだから結構かかるよ。余裕をみて5日は欲しい」
「分かった。料金は?」
「後払いでいいよ。今、引き替えの札を発行するからちょっと待ってね」
店主はスキル入りの魔結晶を持って店の奥に引っ込んで行った。スキル入りの魔結晶を身体に取り込むとスキルを覚えることが出来る。ただ、そのままは駄目だ。魔結晶には人間の身体には毒となる魔素が含まれている。その魔素を抜いたものがスキルオーブと呼ばれる。
「あの!」
赤髪の女が上目遣いでモジモジしながら声を上げた。この様子は間違いない──。
「この店の脇にちょうどいい路地があったぞ。トイレを探しているならそこですればいい」
「違います!」
「そんな格好をしているクセに恥ずかしがり屋か。小便ぐらいさっさとすればいいのに」
「違いますって!! それに、この格好には理由があるんです!」
水着のような格好でプリプリと女は怒る。
「理由?」
「え、あ、いえ。なんでもないです……」
女は焦った様子で縮こまった。
「で、何のようだ?」
「あの、さっきのスキル入りの魔結晶はやっぱりダンジョンで見つけたんですか?」
なんだ。そんなことか。
「そうだ。ゴブリンダンジョンで見つけた」
「えっ! ゴブリンダンジョンでレアなスキル入りの魔結晶が取れるんですか?」
「たまたま運が良かったのかもしれない。ただ、今は立ち入り禁止になっている筈だ。寄生虫の駆除中だ」
「……そうですかぁ。ありがとうございました……」
明らかにがっかりした様子の女は背中を丸めてとぼとぼと店から出て行った。そんなにスキル入りの魔結晶が欲しいのか。
「お待たせ。これが引き替えの札だよ」
奥から戻ってきた店主が魔結晶の描かれた札を持ってきた。どうやら俺が渡した魔結晶のようだ。人が描いたとは思えないほど精巧だ。
「ははは! 驚いたようだね。これは魔道具で写したんだよ」
「そんな魔道具があるのか?」
「割と有名な魔道具だよ。この札があれば取り違えたりしないからね」
「なるほど」
「ところで君はまたダンジョンに行くのかい?」
「ああ。そのつもりだ。入れるダンジョンがあればな」
「ちょっと難易度高めだけど、超巨大オークがそろそろ休眠に入るって聞いたよ。自信があるなら行ってみるといい」
オークダンジョン。きっとオークが出てくるのだろうが、全然問題ないな。行ってみるか。
「スキルオーブが出来るまでの間に覗いてみる」
「また、スキル入りの魔結晶を見つけたらウチで頼むよ?」
「分かった」
店主の笑顔に見送られ、俺は店を出た。オークダンジョンを目指して。
「……そうですか。ラムズヘルムにならあるかも? って聞いたもので……」
魔道具屋の店主の言葉に赤い髪の女は項垂れた。歳は俺よりも少し上、18歳ぐらいだろう。顔は大人しそうなのに妙に露出の多い格好をしている。痴女か?
「悪いが他のお客さんもいるんでね」
店主の言葉で後ろにいる俺の存在に気がついたようだ。飛び退くようにカウンターの前を俺に譲った。
「いらっしゃい。なんのようだい?」
「この魔結晶をスキルオーブにして欲しい」
スキルの入った魔結晶をリュックから取り出してカウンターの上に置くと、店主は鋭い目つきになった。
「ちょっと見てもいいかい?」
「もちろんだ」
店主は手袋をはめた手で慎重にスキル入りの魔結晶を取り、照明の魔道具で照らした。
「ふむ。珍しい光り方だね。鑑定しないと分からないけど、レアなスキルかもしれない」
「そいつは有難い。スキルオーブ化と鑑定で幾らだ」
「3万ギムでどうだい?」
別の魔道具屋では4万ギムと言われたが、ここは随分と安いな。さっきはルーキーだと舐められていたようだ。
「安いな」
「見所のありそうな冒険者には安くしているのさ。どうする?」
「頼む。何日ぐらいかかる」
「この魔結晶は随分と魔素を溜め込んでるみたいだから結構かかるよ。余裕をみて5日は欲しい」
「分かった。料金は?」
「後払いでいいよ。今、引き替えの札を発行するからちょっと待ってね」
店主はスキル入りの魔結晶を持って店の奥に引っ込んで行った。スキル入りの魔結晶を身体に取り込むとスキルを覚えることが出来る。ただ、そのままは駄目だ。魔結晶には人間の身体には毒となる魔素が含まれている。その魔素を抜いたものがスキルオーブと呼ばれる。
「あの!」
赤髪の女が上目遣いでモジモジしながら声を上げた。この様子は間違いない──。
「この店の脇にちょうどいい路地があったぞ。トイレを探しているならそこですればいい」
「違います!」
「そんな格好をしているクセに恥ずかしがり屋か。小便ぐらいさっさとすればいいのに」
「違いますって!! それに、この格好には理由があるんです!」
水着のような格好でプリプリと女は怒る。
「理由?」
「え、あ、いえ。なんでもないです……」
女は焦った様子で縮こまった。
「で、何のようだ?」
「あの、さっきのスキル入りの魔結晶はやっぱりダンジョンで見つけたんですか?」
なんだ。そんなことか。
「そうだ。ゴブリンダンジョンで見つけた」
「えっ! ゴブリンダンジョンでレアなスキル入りの魔結晶が取れるんですか?」
「たまたま運が良かったのかもしれない。ただ、今は立ち入り禁止になっている筈だ。寄生虫の駆除中だ」
「……そうですかぁ。ありがとうございました……」
明らかにがっかりした様子の女は背中を丸めてとぼとぼと店から出て行った。そんなにスキル入りの魔結晶が欲しいのか。
「お待たせ。これが引き替えの札だよ」
奥から戻ってきた店主が魔結晶の描かれた札を持ってきた。どうやら俺が渡した魔結晶のようだ。人が描いたとは思えないほど精巧だ。
「ははは! 驚いたようだね。これは魔道具で写したんだよ」
「そんな魔道具があるのか?」
「割と有名な魔道具だよ。この札があれば取り違えたりしないからね」
「なるほど」
「ところで君はまたダンジョンに行くのかい?」
「ああ。そのつもりだ。入れるダンジョンがあればな」
「ちょっと難易度高めだけど、超巨大オークがそろそろ休眠に入るって聞いたよ。自信があるなら行ってみるといい」
オークダンジョン。きっとオークが出てくるのだろうが、全然問題ないな。行ってみるか。
「スキルオーブが出来るまでの間に覗いてみる」
「また、スキル入りの魔結晶を見つけたらウチで頼むよ?」
「分かった」
店主の笑顔に見送られ、俺は店を出た。オークダンジョンを目指して。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる