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赤い髪の女
リザルト
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「泣くな」
「うぅぅ、だって……」
ビデールがマントの裾で涙を拭う。目の周りは赤く腫れていた。
「一度のダンジョンアタックで都合良くスキル入りの魔結晶なんて見つかるわけないだろ?」
「ベン君は見つかったじゃないですか!」
「俺は運がいいんだ」
「ずるい!」
両手の拳を握ってポカポカ叩くので、マントがはだけてビデールは全裸だ。脱出液で艶々とした肌が灯りに照らされて妖艶に輝く。
「日が暮れてしまったな。急いで帰るぞ」
「……はい」
オークダンジョンを降りてラムズヘルムへと急ぐ。すっかり静かになってしまったビデールの様子を窺うと、疲れからか表情は暗く足取りは重い。
「大丈夫か?」
「すみません。ちょっと体力が限界で」
【人体発火】は強力なスキルだから消耗も激しいのかもしれない。
「このままだと朝になっちまう。乗れ」
リュックを前にかけてビデールに背中を差し出す。
「えっ、そんな悪いですよ……」
「俺はさっさとラムズヘルムに帰りたいんだ。かといってこんなにフラフラの奴を置いていくのは寝覚めが悪い。乗れ」
「……はい」
ビデールは遠慮がちに背中に身体を預けてきた。それをグッと腕で持ち上げて歩く。
「あの、重くないですか?」
「人間の女なんて軽いもんだ。村にいた頃は仕留めたモンスターを担いでたからな」
「比較対象がなんか違う!」
少しは余裕が出来たようだ。
「そう言えば、笛の童はいなくなっていたな」
「笛の童?」
「ああ。オークダンジョンの入り口にいただろ? 笛の音で肛門を開く、ちょっと変わったほぐし屋だ。俺はまだそいつに料金を払ってないんだ」
「私が入ったときにはそんなほぐし屋さん、いませんでしたよ。【怪力】の人にお願いしました」
客から金も取らずに行ってしまうほぐし屋か。なんだか落ち着かないが、居ないものは仕方ない。次会った時に払うことにしよう。
速度を上げて黙々とラムズヘルムを目指していると、背中から寝息が聞こえてきた。ダンジョンアタックを終えてホッとしたのだろう。俺も大分疲れてきたが、もう街の灯りは近い。
ピュー。
不意に背後から笛の音が聞こえた。不思議なことに足が軽くなる。あの童の仕業だろう。何から何まで気の利く奴だ。今度会った時は少し多めに金を渡そう。
#
笛の音に後押しされてラムズヘルムに着くと、人々はもう夕食を終えて飲んだくれるか、明日に備えて早く寝るかという頃合いだった。
「おい、起きろ」
「……え、あっ、ふぁ、寝ちゃってました」
ビデールが寝起きらしくふわふわと話す。
「ビデールの宿は何処だ?」
「えっと、木馬亭ってとこです」
「なんだ。俺と同じ宿か。気が付かなかった」
「えっ、同じだったんですね! あそこ、安くていいですよね!」
街の中で背負われているのが恥ずかしかったのか、自分で歩くと言い出したビデールは俺の背中から降りてマントを羽織直した。
「ベン君、今度お酒を飲みに行きましょう! お礼がしたいです」
「遠慮なく頂こう。俺はもう何日かオークダンジョンに潜るからその後でいいか?」
「もちろんです!」
木馬亭の前に着くと、中からは若者が騒ぐ声が聞こえる。ダンジョンから戻ってきた新人冒険者達が食堂で酒を飲んで騒いでいるのだろう。
「今日は流石に俺も疲れた。また、今度な」
「はい! ありがとうございました! おやすみなさい」
こうして、俺の超巨大オークへの初めての挑戦は終わった。
「うぅぅ、だって……」
ビデールがマントの裾で涙を拭う。目の周りは赤く腫れていた。
「一度のダンジョンアタックで都合良くスキル入りの魔結晶なんて見つかるわけないだろ?」
「ベン君は見つかったじゃないですか!」
「俺は運がいいんだ」
「ずるい!」
両手の拳を握ってポカポカ叩くので、マントがはだけてビデールは全裸だ。脱出液で艶々とした肌が灯りに照らされて妖艶に輝く。
「日が暮れてしまったな。急いで帰るぞ」
「……はい」
オークダンジョンを降りてラムズヘルムへと急ぐ。すっかり静かになってしまったビデールの様子を窺うと、疲れからか表情は暗く足取りは重い。
「大丈夫か?」
「すみません。ちょっと体力が限界で」
【人体発火】は強力なスキルだから消耗も激しいのかもしれない。
「このままだと朝になっちまう。乗れ」
リュックを前にかけてビデールに背中を差し出す。
「えっ、そんな悪いですよ……」
「俺はさっさとラムズヘルムに帰りたいんだ。かといってこんなにフラフラの奴を置いていくのは寝覚めが悪い。乗れ」
「……はい」
ビデールは遠慮がちに背中に身体を預けてきた。それをグッと腕で持ち上げて歩く。
「あの、重くないですか?」
「人間の女なんて軽いもんだ。村にいた頃は仕留めたモンスターを担いでたからな」
「比較対象がなんか違う!」
少しは余裕が出来たようだ。
「そう言えば、笛の童はいなくなっていたな」
「笛の童?」
「ああ。オークダンジョンの入り口にいただろ? 笛の音で肛門を開く、ちょっと変わったほぐし屋だ。俺はまだそいつに料金を払ってないんだ」
「私が入ったときにはそんなほぐし屋さん、いませんでしたよ。【怪力】の人にお願いしました」
客から金も取らずに行ってしまうほぐし屋か。なんだか落ち着かないが、居ないものは仕方ない。次会った時に払うことにしよう。
速度を上げて黙々とラムズヘルムを目指していると、背中から寝息が聞こえてきた。ダンジョンアタックを終えてホッとしたのだろう。俺も大分疲れてきたが、もう街の灯りは近い。
ピュー。
不意に背後から笛の音が聞こえた。不思議なことに足が軽くなる。あの童の仕業だろう。何から何まで気の利く奴だ。今度会った時は少し多めに金を渡そう。
#
笛の音に後押しされてラムズヘルムに着くと、人々はもう夕食を終えて飲んだくれるか、明日に備えて早く寝るかという頃合いだった。
「おい、起きろ」
「……え、あっ、ふぁ、寝ちゃってました」
ビデールが寝起きらしくふわふわと話す。
「ビデールの宿は何処だ?」
「えっと、木馬亭ってとこです」
「なんだ。俺と同じ宿か。気が付かなかった」
「えっ、同じだったんですね! あそこ、安くていいですよね!」
街の中で背負われているのが恥ずかしかったのか、自分で歩くと言い出したビデールは俺の背中から降りてマントを羽織直した。
「ベン君、今度お酒を飲みに行きましょう! お礼がしたいです」
「遠慮なく頂こう。俺はもう何日かオークダンジョンに潜るからその後でいいか?」
「もちろんです!」
木馬亭の前に着くと、中からは若者が騒ぐ声が聞こえる。ダンジョンから戻ってきた新人冒険者達が食堂で酒を飲んで騒いでいるのだろう。
「今日は流石に俺も疲れた。また、今度な」
「はい! ありがとうございました! おやすみなさい」
こうして、俺の超巨大オークへの初めての挑戦は終わった。
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