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仕方ないので冒険者

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「ワン」

「はいはい、水ですね。わかりましたよ」

全く人遣いの荒い犬である。寝床のボロ家からスラム唯一の井戸までは結構遠い。一日に何回も水汲みに行くのは非常に面倒であるが、主人、いや主犬?の命令には逆らえない。一度こっそり水瓶に溜まった雨水を桶に入れてボスに出したら、気に食わなかったらしくボコボコにされた。犬の癖に殴るんだよなぁ。こいつ。

両手の桶に水を汲んでボロ家へと急ぐ。以前なら水が入った桶なんかを持つとフラフラしてまともに歩けないところだったが、今は違う。ボスに噛まれてからは身体がすっかり変わり、自分より重いものを持ってもビクともしなくなってしまった。その代わり肌は青白く、犬歯は鋭く。そう、俺は吸血鬼になってしまったようなのだ。

あれは7日まえのことだ。腹を減らした俺はスラムを出て商人区まで足を伸ばし、そこら中の飲食店のゴミ箱を漁っていた。大体は野菜の切れ端があるぐらいで、肉なんて滅多にない。それでも背に腹は代えられない。なんでもいいから口にしたかったのだ。

商人区の中では高級な部類らしいレストランの裏に行くと、そこには先客がいた。銀色の毛並みを持つ大きな犬がゴミ箱の中から美味そうな肉を引きずり出しハムハムしていたのだ。

「俺の肉!」

俺は犬を蹴り上げ、肉を手に入れる。そうなる筈だったのに、実際は犬に軽く躱された上に脚を噛まれ意識を失った。そして目が覚めるとこの身体だ。ボス曰く、吸血犬に噛まれて人間が吸血鬼になるのは非常に稀だそうだ。吸血鬼になる前に狂って死ぬのが普通なのだとか。才能あるってボスには言われたが、全然嬉しくない。

「ボス、お待たせしました」

俺はボスの前に桶を差し出し、ボスは水を一舐めする。

「ワン」

腹が減ったじゃねーよ! 糞! まとめて一回で言えよ!
俺は叫びそうになりながらも、辛うじて了解する。自分も吸血鬼になって分かったのだが、吸血鬼も普通に腹が減る。吸血衝動と空腹は別腹なのだ。

「ボスは何が食べたいんですか?」

「ワンワン」

なんでミートパイなんだよ! 犬としても吸血鬼としてもおかしいだろ!

「でも俺、お金なんてもってないですよ」

こちとらスラムの孤児だ。金目のものとは一切無縁の人生だ。生まれてこのかた金貨はもちろん、銀貨だって手にしたことはない。いや、大銅貨すらなかったかもしれない。とにかく金なんてない。

「ワンワン。ワンワン」

ボスに冒険者になって金を稼げって言われてしまった……。


#


翌日の朝。
俺はさっきから冒険者ギルドに行くようにボスから背中を押されている。そう、物理的に。

「無理ですって。俺みたいな子供が冒険者ギルドに行ったところで相手にされませんよ。笑われて追い出されるだけですって」

「ウー、ワンワン!」

「わかりました!わかりましたよ!行けばいいんでしょ、行けば」

行かないとお前をミートパイにしてやるぞ、と凄まれてしまった。ボコられるより笑われる方がまだマシだ。今から冒険者ギルドに行こう。幸い、俺は吸血鬼だけど陽の光を浴びても平気だ。ボス曰く、光を浴びて灰になるのは下級の吸血鬼だけだそうだ。ボスは伝説級の吸血犬なので、その眷属の俺も吸血鬼としてはなかなか高位の存在らしい。感謝しろよって言われたが、するわけないだろ!バカ!俺は逃げ出すようにボロ家を出た。

商人区と職人区の間にある冒険者ギルドはいつも人でごった返している。鎧を着た大男やローブを着た怪しい女、魔物を従えたテイマー。全くまとまりのない人混みを掻き分けて、やっとの思いで冒険者ギルドの入り口に辿り着いた。さて、入りますか。


「おい、なんか臭くないか?」

「あぁ、臭いな。スラムのガキが迷い込んできやがった。鼻が曲がりそうだ」

はい、きましたー!いきなりきました。冒険者ギルドに入るなり、いきなり絡まれた。髭面の大男が2人、俺を見つけてニヤニヤしている。悪かったな!臭くて!でも、あんたらも結構臭そうだぞ!

「あんた達、やめなよ!いい歳して子供をからかって得意になってんじゃないよ!」

髭面の男達とは違うところから声が上がった。見ると真っ赤な髪をした長身の女が髭面達を睨みつけている。

「ハハハ、ルーシー、お前も確かスラム出身だったな!そこのガキと同じ臭いがするぞ!」

「あんた達、私に喧嘩を売ってるのかい?」

「なんだ、ルーシー。俺達に相手してもらいたかったのか?ヒーヒー言わしてやるから感謝しろブベバッ」

髭面がまだ喋っている内からルーシーは飛びかかり、ブン殴って黙らせた。残りの1人も身構える前に股間を蹴り上げられ、悶絶している。なにこの人、めっちゃ気が短い。

「あの、ありがとうございました」

助けてもらったのだ。とりあえず礼を言う。

「ふん」

ルーシーは下から上まで舐めるように俺に視線を這わす。ちょっと怖い。

「モニカ、後は頼んだよ」

ルーシーは受け付けカウンターに向けて声を掛け、そのまま行ってしまった。カウンターでは眼鏡をかけたいかにも受付嬢とした女が手招きしている。どうやらやっと話が進むようだ。






「どうぞ、座って」

眼鏡の女は抑揚の少ない話し方で俺に椅子を勧めた。

「冒険者登録に来たってことでいいかしら?」

「はい、よろしくお願いします」

「あなた文字は読める?」

「お察し、、」

「そうよね。では、非常に簡単に説明するわ。あなたは今日から冒険者よ。本来登録料が銀貨一枚かかるんだけど、それはルーシーから徴収するわ。名前と年齢を教えて」

「ジルです。歳は10歳ぐらいです」

「まぁ、それぐらいでしょうね。2時間後に来てくれたら冒険者証を渡すわ。それを受け取ったらFランク冒険者として依頼を受けることが出来るわ」

「わかりました。ところで、どうやってルーシーさんにお金を返したらいいですか?」

「それは考えなくていいと思うわよ。聞こえてたと思うけど、ルーシーもスラム出身なの。それで彼女はスラムから這い上がろとする子供には甘いの」

「そうですか」

「そうなの。ところでジル。なんでその歳で冒険者になろうと思ったの?スラム出身で冒険者になる人はそれなりにいるけど、あなたほど若い人は滅多にいないわ」

「ミートパイ」

「えっ」

「ミートパイ買って帰らないとボコられるんです」

「、、そう。何かあったら私に相談しなさい。出来る限りのことはするから」

「はい!よろしくお願いします」

なんだか知らないが、随分と親切だ。





俺は今、街の下水道に潜っている。
夜目が利くため明かりが必要ないのは楽だが、臭いが酷い。ただでさえスラムで暮らしているせいで臭いとからかわれるのに、このままだと臭いマシマシだ。

そんなことを考えていると、不意に黒い何かが前を横切った。目を凝らすとそれはジャイアントラット。今回の討伐依頼の対象だ。俺はスラムで拾った棒切れをジャイアントラットに叩きつける。

グシャッ!

ジャイアントラットの頭が弾けた。吸血鬼になってから身体能力が飛躍したせいで、力加減が難しい。ジャイアントラットの討伐証明部位が尻尾でよかった。俺は尻尾を引きちぎり、ズタ袋へ入れる。

ズタ袋には今、ジャイアントラットの尻尾が3本。依頼は100本。全然足りないな!今日中に終わらせてミートパイ買って帰らないと、ボスに何を言われるかわからない。何かやり方を考えなければ。今の俺に出来ることは何だろう?吸血鬼の俺に出来ること。

思い付いた俺はジャイアントラットを探して下水道を歩き回る。

見付けた。何かに一生懸命齧りついているジャイアントラットが3匹。
俺は気付かれないように慎重に近づき、一気に距離をつめて身体全体で3匹を抑え込む。

ジャイアントラットくせえええ!マジくせえええ!

一瞬その臭いに決意が鈍りそうになったが、ボスの顔を思い浮かべて自分を奮い立たせる。そして俺は次々とジャイアントラットに噛みつき、血を吸った。



俺に血を吸われたジャイアントラット達が目を覚ましたのは1時間ぐらい経った頃だった。てっきり失敗したのかと思って次の手を考えていたら、奴等はむくりと起き上がり、今は俺の前の一列に並んでいる。

「俺の言っていることは理解できるか?」

「「「ギ!」」」

ジャイアントラットってギって鳴くんだな。意外。

「今日、今この時からお前達は俺の眷属だ!」

「「「ギ!」」」

喜んでもらえたようで何よりだ。

「俺はジャイアントラットの尻尾を必要としている!お前達は今日中に1匹30本、ジャイアントラットの尻尾を集めてきて欲しい。手段は問わない!」

「「「ギ!」」」

「よし!行ってこい!この袋に30本集めたらここに戻ってこい!」

「「「ギギ!」」」

俺のファースト眷属達はそれぞれ口に袋を咥え、恐るべき速さで下水道を駆けて行った。奴等も身体能力が向上したらしい。頼もしい限りだ。俺もうかうかしてられない。残り7匹ジャイアントラットを倒さなければ。



俺がズタ袋に10本目のジャイアントラットの尻尾を入れたのはさらに1時間経過した頃だった。とりあえず俺の分のノルマは達成だ。後は集合場所でダラダラしよう。

俺が集合場所でダラダラすること約1時間、眷属達は示し合わせたように帰ってきた。大きく膨れ上がったズタ袋を口に咥えて。

俺は眷属達に労いの言葉は掛けながら、それぞれのズタ袋の口を開いた。その中の尻尾の数は30本どころではない。100本を優に超えている。俺は7本集めるのに1時間かかったのに!主より優れた眷属などいない筈なのに!しかしこれで依頼達成は確実だ!

「よし、これで目的は達せられた!さすがは俺の眷属だ!このまま俺の寝床に行くぞ!」

「「「ギ!」」」

下水道の外はまだ陽が残っていた。思ったより潜っていた時間は短かったらしい。

「よし、このままスラムに行くぞ!付いて来い!」

「「「ギギィィィィィ!!!!」」」

「えっ!マジ!」

どうやら俺の眷属達は下級吸血鬼だったらしい。
奴等はズタ袋を残して灰になって消えてしまった。南無。


#


俺は一度ボロ家に戻り、出来る限り身体を綺麗にしてから冒険者ギルドへ向かった。ボスがいたら何か言われるかとビクビクしたが、幸いなことに出掛けていたらしく留守だった。今の内に依頼達成の報酬をもらって、ミートパイを買ってこよう。

夕暮れ時の冒険者ギルドは朝と変わらず、ごった返していた。俺は受付カウンターにできた行列の最後尾に加わり、順番を待つ。

「はい、次の方」

モニカが機械的に声を上げる。大分疲れているのか、朝よりも更に平坦な喋り方だ。

「あの、ジャイアントラットの討伐が完了しました」

「えっ、ジル。もう達成したの?」

「はい、これ」

俺はズタ袋をカウンターにのせる。モニカはずっしりと重いズタ袋の口を開け、軽く確認してからそれをバックヤードの確認係に引き渡した。

「随分早かったわね。ジャイアントラットは弱い魔物、ほとんどただの鼠と変わらないけど、一人で100匹となるとそれなりに大変な筈よ」

「あの、仲間と一緒にやったんでなんとかなりました」

「仲間ってスラムの? その子達はどこにいるの?」

「その、奴等はもう、いません」

「ジルと同じくらいの子供達だったの?」

「俺よりも大分小さかったです。でも、俺よりもずっと頑張ってくれました」

「……」

何故だか知らないがモニカが眼鏡を外して涙を拭いている。何か俺の話に感動ポイントがあったらしい。



俺はジャイアントラット346匹分の討伐報酬、大銀貨1枚を手に商人区へ向かっていた。ミートパイを買うためだ。初めて手にする大金に心が躍り足取りも軽い。いままでは店の裏のゴミ箱を漁っていただけだったが、今日は堂々と正面から入れる。よし、ここにしよう。俺は「小鹿亭」と書かれた食堂に入ることにした。

小鹿亭はテーブル席3つにあとはカウンターの小さな食堂だった。
テーブル席は全て埋まっている。それなりに人気のある店なのかもしれない。

「すいません」

俺はカウンターの向こうで動き回ってる主人らしき男に声を掛けた。短髪で厳つい顔をした男はギロッとこちらを見る。

「なんだ小僧。お使いか?」

「そんなもんです。ミートパイを持ち帰りたいのですが、できますか?」

「ほう、ウチの看板料理がミートパイと知っているのか。やるな小僧! 今から焼くから30分ぐらいかかるぞ。カウンターで待てるか?」

「はい、待ちますからお願いします」

「よしきた!小鹿亭特製、グレートミートパイを楽しみに待っていろ!」

グレートってなんだよ。グレートって。


#



「ワンワン、ワンワン!」

「そんなに美味しいんですか?グレートミートパイ」

「ワン、ワンワンワン!」

「いくら美味しいからって、毎日食べるのはどうかと思いますけどね」

「ウー、ワンワン!」

「わかりましたよ!とりあえずお金が続く限りは毎日買いに行きますから」

ボスはボロ家に帰ってくるなりミートパイの匂いを嗅ぎつけて大興奮し、ペロリとワンホールを食べてしまった。少しは味見したかったのに!

「ところでボス、眷属について教えてもらいたいんですけど」

俺は下水道でのあらましを話し、眷属についての疑問をボスにぶつける。

「血を直接吸えば、相手はどんな生き物でも眷属にできるんですか?」

「ワンワン」

眷属化には自分の元々の種族との相性が重要らしい。例えば俺は元々人間なので、人間の血を直接吸った場合、相手は俺の眷属になる可能性が高いとか。

「それならなんでジャイアントラットは眷属化できたんですかね?」

「ワンワン」

悪かったな!スラムに巣食う鼠に近しい存在で!俺は人間じゃなかったのかよ!初耳。

「あと、眷属には数の上限はあるんですか?」

「ワン、ウー、ワン」

なるほど。それは主の吸血鬼としての力次第ということか。試してみるしかないな。

「因みに、吸血鬼としての力はどうやったら鍛えられるんですか?」

「ワンワン、ワンワンワン」

魔物を倒して血を吸う。つまり、冒険者をやってれば自然と強くなれるってことか。ボス、ミートパイ効果でやたら饒舌だな。さすがグレート。

兎にも角にも、金を稼ぐ手段が他にない以上、冒険者をやっていくしかないってことか。わかりやすくていい。


#


「おい、スラムのガキがいるぞ」

「ああ、ラットキラーか。あいつなら毎日いるぞ」

「ラットキラー?」

「いつもジャイアントラットの討伐依頼を受けてるから、ラットキラーだ。毎日とんでもない量のジャイアントラットを狩っているらしい。おかげで街中の飲食店で鼠被害が激減しているってよ」

「スラムの鼠が鼠狩りとはね。お似合いだ」

受け付けカウンターの列に並んでいると、俺のことを噂する会話が聞こえた。最初は気にしていたがさすがに1カ月もすると慣れてしまって何とも思わない。ラットキラーでもなんとでも言ってくれ。金が貰えれば俺はそれで満足だ。

「次の方、どうぞ」

カウンターに進んでいつも通りズタ袋を置くと、モニカは少しだけ笑顔を見せた。

「ジル、お疲れ様。毎日毎日飽きないわね」

モニカは手早くズタ袋の中を確認し、バックヤードに引き継いだ。

「他に出来ることはありませんからね」

「そんなことないわ。これだけ毎日魔物を狩っていれば、身体も随分と強化されている筈よ」

「えっ?」

「えっ?あなた何も知らないの?」

「すみません」

「いえ、私が悪かったわ。知らなくて当然よね。今度ルーシーに話しておくから、教えてもらいなさい。あの子、ジルのこと気にしてたから喜んで教えてくれる筈よ」

「そういえば最近ルーシーさん見ませんね」

「あの子は護衛依頼で王都まで行ってるわ。何日もしないうちに帰ってくる筈よ。で、お待たせ。これが今回の報酬よ。もうそろそろジャイアントラットの討伐依頼が取り下げられそうだから、次のステップを考えときなさい。その辺もまとめてルーシーに相談するといいわ」

「ありがとうございます。相談してみます」

とは言ったものの、俺、ルーシーさん苦手なんだよなー。会うといつもジロジロ見られるからちょっと怖い。なんというか、身の危険を感じる。吸血鬼の勘てやつだ。



俺は冒険者ギルドを出るといつものように子鹿亭に向かった。慣れた手つきでドアを開けると厳つい主人が声を上げる。

「よう小僧!今日も来たか。まあ、カウンターに座れよ」

何度も名前はジルだと伝えてるのに、いつまで経っても小僧呼ばわりだ。

「今日はマッドボアのスネ肉の煮込みがオススメだぞ!」

「いえ、ミートパイを下さい。持ち帰りで」

「、、毎度ありー」

主人は明らかに残念そうな顔をしながら、ミートパイを焼き始めた。不満はボスに言ってもらいたい。

「ところで知ってるか、小僧。西の森でゴブリンが大発生しているってよ。街を出るときは気をつけろよ!ゴブリンに集られたらお前みたいな青瓢箪でも骨も残らず齧られちまうぞ」

主人はガハハハと笑うが、いま、笑う要素1つもなかったからな!俺が青白いのは種族特性だから!ちょっと気にしてるんだから!絶対ミートパイ以外の料理頼まないかんな!

しかし、ゴブリンね。血、不味そう。


#


「ワン?」

「実はですね、今日これから知り合いと食事に行く予定なんですが、ちょっと憂鬱で」

「ワワーン?」

「いえ、凄くいい人ですよ。冒険者になれたのもその人のお陰みたいなところがありますし」

興味をなくしたボスは夜の散歩だろうか、スタスタとボロ家から出て行ってしまった。はあ、行くしかないよな。


待ち合わせに指定されたのは職人区にある雑多な感じの食堂だった。商人区に大衆店から高級店まで色々なタイプの店があるのに比べ、職人区には質より量を重視するようなタイプの店が多い。この店も例にもれず、沢山食べて沢山飲み、ガハガハ騒ぐ感じだ。少し気が楽になった。

中に入るとルーシーは既に奥の2人がけのテーブルに座っていた。

「すみません、待ちましたか?」

「いや、さっき着いたところだ。気にするな」



料理は店のオススメを適当に頼んでもらい、俺はヤギのミルクを、ルーシーはエールを飲んでいる。

「モニカから、ジルは何も知らないから教えてやってくれと言われたぞ。危なっかしいって」

エールを飲んで少し饒舌になったようだ。

「そもそも何故冒険者が魔物を倒すと強くなるのか、だが……」

「強い魔物の体内には魔石が生成されること……」

「冒険者のランク分けとランクアップの基準……」

「魔法については私もあまり……」

「テイムした魔物の登録について……」

この人、めっちゃ喋るな!あと、エールを飲むペースが凄く早い!もう4杯目だぞ!今まで短気なおねーさんのイメージだったが、大酒飲みの多弁が加わった。

「ところで、ジル。ゴブリンのことは聞いているか?」

「西の森で大発生。でしたっけ?」

「そうだ。これ以上群れを大きくするのはマズイという判断から、ゴブリンの討伐報酬が引き上げられた。ジャイアンラットの次はゴブリンがいい。ゴブリンの討伐依頼は駆け出しの冒険者の定番だ。冒険者を成長させる様々‥」

「やります!次はゴブリン討伐やります!」

早く返事しないと延々喋るからな。

「で、その際の装備だが……」

返事しても続いた! 結局その日は店が終わりになるまで、ルーシーは大いに飲み、大いに喋り続けた。色々と教えてもらって大変有り難かったのだが、心の収支がマイナスに振れているのは何故だろう。
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