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ダンジョン

冒険野郎

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イラッシャイマセ

店の入り口の読み取り機にスマホをかざすと、ドアが開いて無機質な電子音に歓迎された。

協会認定のエクスプローラーショップ「冒険野郎」の新宿店はいつも通りに賑わっている。

若い男の集団が俺をみて何か言っていた。ここ1ヶ月ほどクーラーボックスを持って新宿ダンジョンに出入りしていたせいで、ちょっと目立ってしまったのだ。

俺は広い店の中を進み、ガラスケースの置かれているコーナーにたどり着いた。マジックポーチやスキルオーブ、その他特殊効果のある武器等が置かれていて、厳つい店員が睨みを利かせている。

「マジックポーチが欲しい」

「やっと金を使う気になったか」

この1ヶ月で厳つい店員とは顔見知りになっていた。毎日のようにここにコバルト結晶を売りに来ていたからだ。鉱石のように知り合いに捌くのが難しいものは、協会認定ショップに売るのが1番手っ取り早い。

「で、どれぐらいのやつにするんだ?どうせ買うなら最初から容量がでかい方がおすすめだぞ」

「この1500万のやつはどれぐらい入る?」

「600リットルは入るな。ドラム缶3個分だ」

「この2億のやつは?」

「こいつは容量は1000リットルだけれども、時間停止機能がついている。食い物入れて忘れてても、腐らない」

「ファンタジーだな」

「今更だろ」

店員は眉を動かして息を吐いた。

「いえてるな。この1500万のやつをくれ」

「毎度あり。これでクーラーボックスともおさらばだな」

「ああ、随分目立ってしまったからな」

「お前、釣りの神様の加護持ちだって噂されてたぞ」

「それなら海か河へ行ってるよ」

「知ってるか?瀬戸内ダンジョンの大半は海なんだぜ」

「攻略は進んでるのか?」

「いや、全く」

「だろうな」

「海の神様の加護持ちしか先に進めないらしい」

「結構いるのか?」

「漁師にはそれなりにいるらしいが、そもそも若い漁師が少ないからな」

「ジジイはダンジョン行かないってか?」

「そーいうことだ。未だにダンジョンの存在を信じてない層は一定数いるからな」

「スキル持ちの孫が生まれたら信じるだろ」

「いえてるな。ところで、スキルオーブはいらないのか?」

「これから第5階層に行くからな。買うにしてもそれからだ」

「しょぼいスキルを引いて、泣きながらレアなスキルオーブを買ってくれ。俺の店で」

「死ね」

「でもお前、ソロだろ?スキルなしで大丈夫なのか?初めてのフロアボスはパーティーで挑むのがセオリーだぞ?」

「その辺は大丈夫だ。流石に考えてるさ」

そう、よーく考えているさ。
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