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ダンジョン

来訪者

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三毛猫社の隅でいつものようにコーヒーを飲んでいるときだった。異様な雰囲気を纏った2人組がこちらに視線を定めたまま歩いてくる。

ああ。またか。

富沢の時と同じように、どうせ厄介事だろう。男はひょろひょろとした体格で首にスカーフを巻いている。刻印を隠しているのだろう。連れの女は男と同じくらいの長身ではっきりとした顔つき。いかにも勝気だ。女の首にも刻印。見たことのないものだ。

「お前が根岸か?」

女の方がぶっきら棒に声を掛けてきた。その様子に男が慌てる。

「いえ、違います。根岸ではないです。人違いでは?」

「何!人違いだったか!すまん」

「望月さん!チョロすぎますよ」

ヒョロい男が女にツッコむ。

「どういうことだ?三木」

「この人は根岸さんです。刻印も確認してあるので間違いないです」

「おい!根岸!騙したのか!」

「なんのアポイントメントもなしに現れる輩が何を言っているんだ。いきなり話し掛けてきてまともに相手してもらえるわけないだろ」

「き、貴様!」

「ちょっと望月さん!根岸さんの言う通りですよ!いきなり喧嘩腰に声を掛けたのが悪かったんです」

ひょろ男の方はそれなりに常識があるらしい。

「私は三木っていいます。で、こっちが望月です。エクスプローラーをやってます」

「知らんな」

「"ふんどしナイト"と"日本昔ばなし"って言えばわかりますか?」

「お前等、頭おかしいのか?」

「なんだと!」

「もう、望月さん!落ち着いてくださいよ!事前にどういう人か教えてたでしょ?」

「だがしかし、、」

「根岸さん、すみませんでした。少しだけ話をさせていただけませんか?」

「なんの話だ」

「新宿ダンジョンの完全攻略に関係する話です」

ふん。面白い。


#######


「へえ。新宿にこんな広い事務所を持ってるんですね。落武者チャンネル、儲けてるんですねー」

「夏目はいないのか?夏目に会いたいぞ!」

2人を事務所に連れてきたのは間違いだったかもしれない。

「お前等、遊びに来たのか?」

「くっ」
「ごめんなさい」

「まあいい。で、新宿ダンジョンの完全攻略とお前達は何か関係あるのか?」

「つい先日、新宿ダンジョンの第19階層が攻略されたのはご存知ですか?」

「ああ。あれだけニュースでやっていればな」

「あの攻略チームは協会が日本政府からの要請を受けて結成したもので、選りすぐりのエクスプローラーが所属しています。我々もその一員です」

「"ふんどしナイト"と"日本むかし話"が?」

「そうだ!」

なんでこの女は自分のあだ名を呼ばれて嬉しそうなんだ。理解出来ん。

「もう"ふんどし"じゃないんですけど、一度付いたあだ名ってなかなか消えないんですよ」

三木が困ったような表情をするが、困っているのは俺だ。

「で、何故俺を訪ねて来た?」

「これを見て頂けますか?」

そう言うと三木は自分の首のスカーフを外して刻印を露にした。その刻印は明らかに色が薄く、今にも消えてしまいそうだ。

「根岸さん、お願いします。加護の力を取り戻す手伝いをしてくれませんか?」

三木は深々と頭を下げるのだった。
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