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異世界

グランピーはかく語りき

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"信じられん女じゃ!この大賢者たるグランピー様を蹴飛ばしおったぞ!おい、男!教育がなっとらんぞ!"

地面に転がっていたグランピーが起き上がりながら抗議を続ける。

"放任主義なんだ。すまんな"

"そもそも老人を労らんとは碌な死に方を、、"

グランピーが黛の顔を見て急に挙動不審になる。

"いや、まあ儂も言い過ぎたかもしらん"

"どうした、急に"

グランピーは俺の顔をマジマジと見て更に顔色を悪くする。

"これはいかん。おわた"

"おい、心の声がダダ漏れだぞ。大賢者はどこにいった?"

「何かあった?」

グランピーの様子を不審に思った黛が聞いてくるが、俺にも分からない。

「どうだろうな。さっきから怯えて会話にならないんだ」

「面倒臭いからナイナイする?」

黛がマジックポーチから大鎌を出して肩に担ぐと、グランピーはものすごい勢いで全身を地面に投げ出した。五体投地だ。

"この通り!この通りですじゃ!何卒!命だけはご勘弁を!"

見事な命乞いに毒気を抜かれた黛が大鎌を仕舞う。その様子を地面に額をつけたまま伺うグランピーはなかなか器用だ。

"命は保障しよう。その代わり、話せ"

グランピーはまだ怯えながらも額を地面から上げた。


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グランピーの住処は転移した場所から3、40分歩いた所にあった。森の中のちょっとした洞窟に住み着いているようで、他のリリパット族の姿はない。一族の全てのものから尊敬を集めている大賢者にしては、慎ましい住まいだ。

"なるほど。異世界からの旅人でしたか。どうりで変わった格好をしておるわけですじゃ"

グランピーは俺のボディースーツをみてウンウンと頷く。

"死の神様の加護を持つ者はこの世界では誰からも恐れられる存在なんですじゃ。大鎌を持って念じるだけで相手の寿命を吸い上げてしまうと言われておりますからな"

ふむ。どうやら加護の内容が地球とこっちでは違うみたいだな。こっちの死の神様の加護はまんま死神だ。グランピーの怯え方にも納得出来る。

"根岸殿の、性悪の神様の加護はよく分かっておらんというのが本当のところですじゃ。大体の者はその神様の存在すらしらないぐらいに。ただ、、"

"ただ?"

"昔々、まだこの森の南に小国が沢山あって戦争が頻繁に行われていた頃のこと。ある小国の王が根岸殿と同じ神様の加護を授かっていたと言われております。その王は、、"

"王は?"

"とにかく性格が悪くて最終的に周りの国から一斉に攻められて滅びたそうですじゃ"

俺は久しぶりに腹を抱えて笑った。
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