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異世界

練兵

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和久津にデータを渡した後、俺とマレーンは異世界へ蜻蛉返りしていた。ある男と一緒に。

「ほほほ。ここがリリパットの村ですか。ガリバーの気分ですねぇ」

「富沢、お前はちょっと小さくなれ。葛籠がギリギリだ。それと、ここは村ではない。駐屯地だ」

扇子をバタバタさせながら富沢は周囲を注意深く見渡した。

「それは失礼。ならばあれは練兵場ですか?」

富沢は駐屯地の外れ、リリパット達が槍に見立てた棒を振るっている方を扇子で指した。

「そうだ。歩きながら話すぞ」

「せっかちなボスですねぇ。そうは思いませんか?お嬢さん」

「ワタシハヘイキデス」

「随分と物分かりが良い。まぁ、ボスに逆らっても何にもなりませんからねぇ、賢明ですよ」

富沢がマレーンを構う。たぶん富沢なりの気遣いなんだろうが、とにかく痩せろと言いたい。

「あの老人は?」

富沢が集団の前に立って盛り上げるグランピーを指した。

「グランピーだ。リリパット軍は表面上、奴の指揮下にある。唯一、森の外を知るリリパットだ」

「随分と買ってるんですねぇ」

「奴は役目を果たしたからな」

富沢は興味深い視線をグランピーに向ける。

「それで、私は何を?」

「先ずは奴等でも扱えそうな槍を調達してもらう。あと、見込みのありそうな奴等を20人ぐらい選んでカオスサーガに連れ帰ってくれ」

富沢が巨体を揺すって戯ける。

「それは妖怪ダンジョンへ?言葉は伝わるんですか?」

「心配するな。後で【念話】のスキルオーブをやる。第5階層のフロアボスを倒してスキルオーブを得た奴だけこっちに送れ。4人に1人の割合でカオスサーガのメンバーをつけるんだ。訓練でリリパットを減らすつもりはない」

「過保護ですねぇ。どうしたんです?」

「奴等は重要なコンテンツだ。散る時は華々しく英雄的でなくてはならん」

「ほほほ!そーいうことですか。彼等はカオスサーガのメンバーと同等に扱います。ご安心を」

「あと、訓練の合間に日本語を教えろ。最終的にリリパット軍への命令は日本語で行う予定だ」

富沢は隣のマレーンをチラリと見る。こいつ、やけに構うな。

「……それは戦い方を教えるより大変かも知れませんよ。大丈夫ですか、お嬢さん?」

「ワタシハヘイキデス」

「人のことはいい。お前はすんなり葛籠を抜けられるように痩せろ」

「ボス、私の体型は加護の力を高めるのものなんです。お嬢さん、身体の大きい男性をどう思いますか?」

「ワタシハヘイキデス」

くそ。今日教えた日本語が裏目に出た。
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