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異世界

安住の地

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"……本当にそのような国があるのか?"

ラビオの幹部室に黒いボロ布を纏った男を招き、俺はある提案をしていた。

"ある。実際に来れば分かる筈だ"

"信じられないな。民の大半が信仰心を持たないだなんて……"

日本人にとっては当たり前の感覚でも、アルナ星に暮らす人には奇異に感じられるのだろう。

"日本で、神様の存在を本当の意味で信じているのは加護持ちだけだ"

"何故、我等を誘う?一度襲われて恨んでいないのか?"

"ただの取り引き。大した理由はないな。襲われたことに関しては、こちらがあえて仕向けただけだ"

"……分かった。しかし、召喚オーブを渡すのは、実際にその日本を確認してからだ"

"いいだろう。我々の目的は達成した。直にアルスター王国を発つつもりだ。ついでにお前を日本へ連れて行く"

"楽しみにしておく"

一族と相談するのだろう。男は足早に部屋から去っていった。

入れ替わるようにして和久津が入ってくる。外で様子を伺っていたのだ。

「パイセン、もう話はついたんですか?」

「ああ。奴を日本へ連れて行く。反神の民にとっては神様が実在しない世界というのは理想らしい」

「なんか複雑っすねー」

「奴等と敵対するよりはいい。加護持ちの天敵だ。それに見返りもある」

「あっ、そういえば三木さんが目を覚ましましたよ!クワガタがどうとか言ってましたけど、何のことかわかります?」

「三木の奴、せっかく助けに行ったのになかなか起きなかったからな。クワガタを鼻につけたんだ。思いっ切り挟まれていたぞ」

「ひどい!てか、なんでクワガタ!?」

「やはりカニの方がよかったか?あまり強力なハサミだと三木の鼻がとれてしまうかと思って自重したんだが……」

「挟むのは確定!」

「三木には覚醒してもらう必死があったからな」

「パイセンなら他にやりようあったでしょ?」

「覚醒状態の三木は味方を守りつつそれ以外は排除する、最強の盾にして矛なんだ。1番安全で効率がいい。そして面白い」

「結局そこっしょ!」

「他の加護持ち達の様子はどうだ?」

「まだみんな起き上がれないっすねー。大分弱ってるみたいです」

「三木とエジンが動けるようになったら、ココともおさらばだ」

「了解っす。ところで、パイセン。何か忘れてませんか?」

うん?何のことだ。加護持ち達は全員救出したし、やり残しはない筈だ。

「パイセン!自分の頭、いつ元に戻してくれるんすか!?早くフサフサに戻してくださいよっ!」

「残念だったな。反神の民の洗礼を受けたせいで【性転換】スキルだけ使えなくなってしまったんだ。諦めてくれ」

「絶対嘘っす!!」

もちろん嘘だ。
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