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パウロ商会
『あんな症状は初めてだよ。診たところ何も異常はないんだ。でも、本人は速く動くモノを上手く認識出来ないらしい。もしかしたら、心の問題ではないかと疑っているよ』
ロメロを診断したこの国一番の医者の言葉を思い出す。
「心の問題ねぇ……」
「どうしたんですか? ライラさん。溜め息なんてついちゃって。らしくないですよ」
王都にあるバーの一角。カウンターの向こうで、馴染みのバーテンがグラスを拭きながら声を掛けてきた。
「騎士団長が交代した話、知っているでしょ?」
「あぁ。ロメロさんが体調を崩されたとか。新しい団長はガランドですよね。あいつ……よくない噂を聞きますよ」
「……本当?」
バーテンは声を顰める。職業柄、男のところには様々な情報が集まる。ガランドのことも何か知っているのかもしれない。
「私は詳しくないですが、ここに行けば……」
そう言ってバーテンは紙の切れ端にペンを走らせ、さりげなくカウンターに置く。私はグラスに手を伸ばすように、メモを受け取った。
酒を飲み干し、席を立つ。
ガランドのよくない噂……。一体何だろうか……?
#
バーテンに教えられた場所は古い装いの魔道具屋だった。昼間なのに、やっているかどうかも怪しい。窓から中を覗いてみても、人気はない。
「すみません」
思い切って店の中に入り、声を上げる。静寂の後、カウンターの奥からゴソゴソと音がして、のっそりと老婆が現れた。
「何が欲しいんだい?」
「赤い光を出す魔道具はありますか?」
バーテンに教えられた合言葉を言うと、老婆は瞳をギラつかせる。
「ちょっと待ちな」
老婆がカウンターのボタンを押すと、入り口のドアが「カチリ」と音を立てた。どうやら鍵がかかったらしい。新たな客を入れない為か。それとも、私を帰さない為か……。
「何が知りたい? ライラ嬢」
「私のことを知っている?」
「そーらそうだよ。前騎士団団長の婚約者のことを知らないで、情報屋が務まるわけないだろう?」
言われてみればその通り。
「そうね。私が知りたいのはガランドについてよ。よくない噂があるって聞いたわ」
「あるねー。あの男は碌なもんじゃないよ。奴を騎士団長にするなんてとんでもないことさ」
「そんなに……? どんなことでもいいから、教えてほしいの」
老婆はねっとりとした視線を私に向ける。
「金貨10枚」
「払うわ」
用意していた小袋から金貨を取り出し、カウンターに並べる。老婆は驚くほどの速さでそれを集め、懐にしまった。
「ガランドはある商会と繋がっている。しかもそれは、奴が騎士団の中で目立ち始めた時期と一致する」
「その商会の名前は……?」
「パウロ商会。最近王都で勢力を伸ばしているから、聞いたことあるだろ? とにかくやり方が汚いって、他の商会から嫌われているところだよ。ガランドはそこの支援を受けているんだ」
「支援の内容は?」
「残念ながら掴めていないよ。自分で確認するこったね」
老婆は手をひらひらさせる。
「ありがとう。参考になったわ」
「あぁ。そうだ。この魔道具を貸してやろう」
老婆は眼鏡をカウンターに置いた。
「これは?」
「嘘がわかる魔道具さ。上手く使えばパウロ商会から情報を引き出せる筈だよ」
そう言って老婆はカウンターのボタンを押し、ドアを解除した。もう帰れということらしい。
さて、パウロ商会か……。
ロメロを診断したこの国一番の医者の言葉を思い出す。
「心の問題ねぇ……」
「どうしたんですか? ライラさん。溜め息なんてついちゃって。らしくないですよ」
王都にあるバーの一角。カウンターの向こうで、馴染みのバーテンがグラスを拭きながら声を掛けてきた。
「騎士団長が交代した話、知っているでしょ?」
「あぁ。ロメロさんが体調を崩されたとか。新しい団長はガランドですよね。あいつ……よくない噂を聞きますよ」
「……本当?」
バーテンは声を顰める。職業柄、男のところには様々な情報が集まる。ガランドのことも何か知っているのかもしれない。
「私は詳しくないですが、ここに行けば……」
そう言ってバーテンは紙の切れ端にペンを走らせ、さりげなくカウンターに置く。私はグラスに手を伸ばすように、メモを受け取った。
酒を飲み干し、席を立つ。
ガランドのよくない噂……。一体何だろうか……?
#
バーテンに教えられた場所は古い装いの魔道具屋だった。昼間なのに、やっているかどうかも怪しい。窓から中を覗いてみても、人気はない。
「すみません」
思い切って店の中に入り、声を上げる。静寂の後、カウンターの奥からゴソゴソと音がして、のっそりと老婆が現れた。
「何が欲しいんだい?」
「赤い光を出す魔道具はありますか?」
バーテンに教えられた合言葉を言うと、老婆は瞳をギラつかせる。
「ちょっと待ちな」
老婆がカウンターのボタンを押すと、入り口のドアが「カチリ」と音を立てた。どうやら鍵がかかったらしい。新たな客を入れない為か。それとも、私を帰さない為か……。
「何が知りたい? ライラ嬢」
「私のことを知っている?」
「そーらそうだよ。前騎士団団長の婚約者のことを知らないで、情報屋が務まるわけないだろう?」
言われてみればその通り。
「そうね。私が知りたいのはガランドについてよ。よくない噂があるって聞いたわ」
「あるねー。あの男は碌なもんじゃないよ。奴を騎士団長にするなんてとんでもないことさ」
「そんなに……? どんなことでもいいから、教えてほしいの」
老婆はねっとりとした視線を私に向ける。
「金貨10枚」
「払うわ」
用意していた小袋から金貨を取り出し、カウンターに並べる。老婆は驚くほどの速さでそれを集め、懐にしまった。
「ガランドはある商会と繋がっている。しかもそれは、奴が騎士団の中で目立ち始めた時期と一致する」
「その商会の名前は……?」
「パウロ商会。最近王都で勢力を伸ばしているから、聞いたことあるだろ? とにかくやり方が汚いって、他の商会から嫌われているところだよ。ガランドはそこの支援を受けているんだ」
「支援の内容は?」
「残念ながら掴めていないよ。自分で確認するこったね」
老婆は手をひらひらさせる。
「ありがとう。参考になったわ」
「あぁ。そうだ。この魔道具を貸してやろう」
老婆は眼鏡をカウンターに置いた。
「これは?」
「嘘がわかる魔道具さ。上手く使えばパウロ商会から情報を引き出せる筈だよ」
そう言って老婆はカウンターのボタンを押し、ドアを解除した。もう帰れということらしい。
さて、パウロ商会か……。
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