外れジョブ「レンガ職人」を授かって追放されたので、魔の森でスローライフを送ります 〜丈夫な外壁を作ったら勝手に動物が住み着いて困ってます〜

フーツラ

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滝壺

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「マルスちゃん……」
「マルス……」

 珍しくローズとゴルジェイの息があっている。

 二人は同じ方を向いたまま、静かに俺を呼んだ。大丈夫。俺にも分かっている。鉱床はあそこだ。あの滝の下にあるに違いない。何故なら滝壺が一面、見事なピンク色だからだ。

「これが、全部魔花鉱石……」

 アヒムの目がギラついたものになる。これを売ればどれだけの金になるかと、勘定しているのだろう。しかし──。

「あのカエル……」

 滝壺のほとりにある岩の上に猫ぐらいの大きさのカエルが腰掛けているのだ。どうやら眠っているようで、腕を組みウツラウツラと頭を揺らしている。カエルにしては随分と人間っぽい。

「マルスちゃん、あれなんだと思う?」

 珍しくローズが小声だ。

「カエルのカタチをした何かでしょうね。ただのカエルってことはなさそうです。ゴルジェイさんはどう思います?」

「水の精霊について聞いたことは……?」

 水の精霊?

「水の精霊と言えば女性の姿をしているのでは?」

「それは有名な方だな。あまり知られていないのだが、カエルのカタチをしているものもいるらしい」

 あの人間味溢れる居眠りカエルが精霊? だとしたら厄介だな。精霊は気まぐれ。気に入った相手にはとことん尽くすが、気に入らない相手には徹底的に非情になる。

「精霊の扱いならローズちゃんにお任せあれ」

 ローズがタタタターッと駆けて行く。いや……マズイ……!? 奴には精霊を爆殺した過去がある……!!

「ローズさん! やめて──」

「わっ! 蛇だっ! めちゃんこデッカい蛇だぁぁ!!」

 驚いたカエルは飛び起きる。

「どこじゃ! 蛇はどこじゃ!! おいん同胞ん恨み、ここで晴らしてやっ!!」

 鋭い目つきで周囲を見渡す。しかし当然蛇などいない。

「冗談よ! 水の精霊さん? びっくりした!?」

 あわわ。なんでこんなに馬鹿なんだ。ローズは。

「はぁ? おいがきもっよう寝ちょったんに、しょーもなかことしやがって。一体、おいになんのごたる? 用件によっては許さんぞ?」

「そんなに怒らないでよー。この滝壺、ローズちゃんにくれない?」

 もっと言い方があるだろ! 何とかしないと……。これから巻き返せるか……!?

「勝手なことを言いやがって。あん世で後悔しやがれ!!」

 カエルが飛び退き、手を突き出して構える。ローズもスキル発動の溜めに入った。そして──。

【水弾!!】
【ボム!!】

 水の塊と爆炎の塊が中空でぶつかり、弾けた。耳をつんざく爆音がし、辺りが水蒸気で満たされる。

「やっな! 小娘」
「やるわね! カエルちゃん」

 二人は互角とみてか、テトが身構える。しかし、精霊を殺すのは後味が悪い。ここは俺に任せてもらおう。

 テトに「待て」と合図を送り、さっと前に出てローズの横に並ぶ。

「なんじゃ小僧? おいとやろうってんか? 二人まとめてやってやっ! 【水斬!!】」

 せっかちな精霊だな……。しかし、丁度いい。ぶっつけ本番だが、俺には「出来る」という確信が何故かあった。

 迫り来る水の刃に向けて俺は手をかざし、今朝からずっと頭に浮かんでいたスキルの名前を念じる。

【魔術レンガ作成!!】

「なんじゃとっ!?」
「うっそ!?」
「ありえん!?」
「ミャオ!?」

 アヒム以外の面々が一斉に声を上げた。

 そして、ポトリと透明なレンガが地面に落ちる。

「水の精霊さん。突然起こしてしまって申し訳なかったです。俺はマルス。【レンガ職人】のジョブを持っています。ご覧のように万物をレンガに変えることが出来ます」

 ハッタリである。

「そげん馬鹿な話があっか!?」

「信じてもらえないようですね。ならば──」

 一歩前に出て滝壺の辺りの岩から石レンガを作成する。

「……」

 目を剥くカエルを尻目に森の大木に触れ、木レンガを作成する。

「本当なんか……?」

「カエルレンガなんてのもいいかもしれません」

 カッと目に力を入れて睨み付ける。

「どうか、やめたもんせ。レンガにはなろごたなか……!」

 カエルが手を合わせて懇願している。なんだろう。罪悪感がわいてきた。

「冗談ですよ。俺達はこの滝壺の下にある魔花鉱石を採掘させて欲しいだけなんです。水の精霊さんと争うつもりはありません」

「本当か?」

「本当です。ただ、採掘している期間は騒がしくなるでしょう。もしよろしければ、一時的に移住しませんか? とても綺麗な湧水が出る場所があるんですよ」

 脅しとすかし。交渉の基本だ。

「わ、湧水もよかかもしれん。川には丁度飽いちょったところじゃ」

 決まった。

 俺はカエルの前に出て手を伸ばす。

「レンガにはせじくれや?」

「大丈夫です。ただの友好の印ですから」

 カエルは恐る恐る手を伸ばし、俺と握手するのだった。
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