外れジョブ「レンガ職人」を授かって追放されたので、魔の森でスローライフを送ります 〜丈夫な外壁を作ったら勝手に動物が住み着いて困ってます〜

フーツラ

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再会

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 暗い要塞の中を進む。

 すれ違う兵士達は苛立っているように見えた。しばらく閉じ込められていたのだろう。仕方がない。

「マルスちゃん……! 【剣聖】様ってどんな人なのかな……!? きっとカッコいいよね……!? 一目惚れされたらどうしよう……!?」

「ローズさん。黙って」

「なんでよ……!? ローズちゃん、ワクワクが止まらないのよ……!?」

 はぁ。

「いま、ため息ついた……!?」

「ついてません。本当です」

 はぁ。

 なんだろう。この行き場のない気持ちは。それなりの時間を一緒に過ごしてきたローズが、【剣聖】という言葉の前に心を弾ませている。

 別に悪いわけではない。ある意味当たり前だ。それだけ、【剣聖】という言葉には力がある。


 王国の子供は【剣聖】と【勇者】の物語を聞いて育つ。かつての王国を救った二人の男の話だ。

 クライン侯爵家は代々、【剣聖】と【勇者】を輩出してきた。だから、王国一の武門と知られている。

 今代も剣聖を授かった。弟だった男、ユーリが。

 追放されたあの日のことを思い出す。

『レンガ職人など、この侯爵領に何百人といるだろ! 早く出ていけよ!』

『ユーリ様だろ? お前はもうクライン家の人間ではない。ただの平民だ』

『父親、マルスは病死したことにしましょう!』

 罵倒罵声。

 カッと頭に血が上る。

「どうしたの……? マルスちゃん……」

 駄目だ。落ち着け。今はただのマルス。

「なんでもありません」


 案内の兵士がある部屋の前で止まった。

「まだ、起きておられる筈です」

 シンとした廊下にノックの音が響く。

『……なんだ?』

 扉の向こうから覇気のない声がする。

「辺境伯軍の先遣隊が到着しました」

『……入れ』

 ドアノブが回された。


#


 机に両肘を置き、頭を抱えている男がいた。

 もう何も見たくないというように、下を向いている。

「辺境伯軍のローズちゃんです……!」

 名目上の隊長であるローズが場にそぐわない声を上げた。

「どうやってこの要塞に入ってきた? 本当に辺境伯軍なの──」

 顔を上げたユーリと目が合った。言葉を失ったように口をパクパクとさせている。

「なんでこんなところに──」

「初めまして。俺はマルスといいます。辺境から先遣隊としてやってまいりました。結界に穴を開けたのは俺です」

「嘘をつくなっ! あれは我が剣をもってしても破れなかったのだぞ!! 貴様がなんとか出来る代物ではない!!」

 ユーリは立ち上がり、俺を睨み付ける。

「そうは言われましても、本当のことですから。そもそも穴を開けないと、ここに来れないでしょう?」

「クソッ!!」

 ドカッと椅子に座り、チラチラこちらを見ては不機嫌な顔をする。

「ユーリ殿。俺達は帝国軍を追い返すためにここにやって来ました。しかしそれにはこの要塞の兵力が必要です。力を貸してくれませんか?」

 少し落ち着いたユーリが目を瞑り、眉間に皺を寄せている。今、様々な考えが頭を駆け巡っていることだろう。

 王国を守るためにはどうすればよいか? 【剣聖】である自分の立場は? そして、俺をどう扱うのか?

「……マルスよ。どうすればいい?」

「考えがあります」

 逆転の一手に向けて、俺達は夜が明けるまで話し合った。
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