外れジョブ「レンガ職人」を授かって追放されたので、魔の森でスローライフを送ります 〜丈夫な外壁を作ったら勝手に動物が住み着いて困ってます〜

フーツラ

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時は流れ

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 早いもので、俺が辺境で暮らすようになってから十年が経とうとしていた。

 魔の森の開発は進み、今では開拓村は十まである。

 村が増える度に壁や家を作るのを手伝っていたので、何かと開拓民との繋がりは多い。畑で採れた野菜や狩の獲物など差し入れが途絶えることはなく、ついつい食べ過ぎてしまう毎日。十年前より確実に体重が増えた。

 増えたといえば獣人だ。

 獣人国は少し前に正式に国と認められた。ミスラ王国の国王からお墨付きがもらえたのだ。それによって前以上に獣人が獣人国を目指すようになった。

 女王ルーの名前は世界轟き、その力は増す一方だ。

 勿論、彼女に頼り切りというわけではない。しっかと国としても機能している。冒険者ギルドだって支部を出すぐらいに。

 魔の森の北は開拓民、南は獣人国。綺麗に棲み分けられている。一時期はお互いに衝突することがあったが、今はすっかり落ち着いて良好な関係だ。

 そういえば俺とクライン侯爵家の関係だが、こちらは相互不干渉を貫いている。貴族の間では俺が元侯爵家の人間だということは広まっているらしいが、特段何かされることはない。もしかすると、辺境伯が手を回しているのかもしれない。

 開拓村、獣人国、辺境伯。

 この三つの勢力に対してのらりくらりとバランスを取りながら過ごす十年だった気がする。


 過去を振り返りながらの散歩。マルス領が近くなってきたところで声が掛かる。

「マルス、どこへ行っていたんだ! 産まれそうなんだぞ! 早く来てくれ!!」

 ゴルジェイだ。珍しく焦っている。

「今行きます!」

 ゴルジェイが向かった先は増築して大きくなった我が家だ。

 扉を開けて中に入るとローズが泣きそうな顔をしている。

「マルスちゃん……! 産まれそうなの……!!」

 大きくなったお腹をさすっている。

「何か出来ることはありますか?」

 口を開いたのはベッドに腰掛けるヴォジャノーイだ。

「そげん心配すっことなか。ポンポンポンって出てくっで、羊膜やら臍ん緒はちぎって終わりだ」

 そんなものなのか? お産に立ち会うのは初めてなので分からない。

 ゴルジェイも心配そうだ。ローズの顔も余裕がない。

「あっ……! 産まれそう……!?」

 ポンと出てきたのは掌におさまるぐらい小さな猫だった。テトがせっせと羊膜を舐め、臍の緒を噛みちぎっている。

 また少しするともう一匹、ポンと出てくる。これが繰り返されて合計四匹の赤ちゃん猫が産まれた。

 ベッドで横になるテトのお腹に連なり、母乳を飲んでいる。

「テト、お疲れ様。頑張ったなぁ。何が食べたい?」

「ミャオミャオミャ~」

「マッドボアのステーキかな? ハーブを効かせた」

「ミャオ」

 どうやら当たりらしい。

 そういえば、テトがこのマルス領に来た理由もマッドボアの肉だった気がする。

「よし! 今日はテトの出産祝いだ! 酒を飲むぞ!!」

「あにょ、よかことゆね。新鮮な湧水で作った酒は最高じゃっでなぁ」

 最近は酒造りにハマっているゴルジェイとヴォジャノーイが宴会の準備に飛び出していった。

「パーティー……!? オシャレしないと……! ちょっとラストランドにお買い物に行ってくるわね……!! 夜までには戻るから、勝手に始めちゃ駄目よ……!!」

 どうやって金を捻出しているのか? ローズの家は衣装で溢れかえっている。本人が楽しそうだからいいのだけど……。

 二人と一柱がいなくなり、急に静かになる。

「最初は俺とテトしかいなかったんだよなぁ」

「ミャオ~」

 マルス領は住人も増え、ひっきりなしに人が訪れるようになった。大変なこともあったが、それは何処でどんな人生を送っても同じだろう。

「俺は追放されたことを感謝しないといけないなぁ」

「ミャオ?」

「あの出来事がなければ、ここで皆んなと出会うことはなかっただろうからね」

「ミャオ~」

 ひと鳴きして、テトは赤ちゃんを舐め始める。見ているだけで心が穏やかになる光景だ。ミイミイと高い赤ちゃんの鳴き声に自然と頰が緩む。

「これからも頑張らないと」

 俺のジョブは【レンガ職人】。やれることなんて、レンガを作ったり固定したりすることだけだ。

 でも、少しは役に立つ。手の届く範囲は狭いけれど、ちょっとした安心感は与えられる。喜んでくれる人がいる。

 そんな人達を大事にするのだ。これまでも、これからも。
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