46 / 47
時は流れ
しおりを挟む
早いもので、俺が辺境で暮らすようになってから十年が経とうとしていた。
魔の森の開発は進み、今では開拓村は十まである。
村が増える度に壁や家を作るのを手伝っていたので、何かと開拓民との繋がりは多い。畑で採れた野菜や狩の獲物など差し入れが途絶えることはなく、ついつい食べ過ぎてしまう毎日。十年前より確実に体重が増えた。
増えたといえば獣人だ。
獣人国は少し前に正式に国と認められた。ミスラ王国の国王からお墨付きがもらえたのだ。それによって前以上に獣人が獣人国を目指すようになった。
女王ルーの名前は世界轟き、その力は増す一方だ。
勿論、彼女に頼り切りというわけではない。しっかと国としても機能している。冒険者ギルドだって支部を出すぐらいに。
魔の森の北は開拓民、南は獣人国。綺麗に棲み分けられている。一時期はお互いに衝突することがあったが、今はすっかり落ち着いて良好な関係だ。
そういえば俺とクライン侯爵家の関係だが、こちらは相互不干渉を貫いている。貴族の間では俺が元侯爵家の人間だということは広まっているらしいが、特段何かされることはない。もしかすると、辺境伯が手を回しているのかもしれない。
開拓村、獣人国、辺境伯。
この三つの勢力に対してのらりくらりとバランスを取りながら過ごす十年だった気がする。
過去を振り返りながらの散歩。マルス領が近くなってきたところで声が掛かる。
「マルス、どこへ行っていたんだ! 産まれそうなんだぞ! 早く来てくれ!!」
ゴルジェイだ。珍しく焦っている。
「今行きます!」
ゴルジェイが向かった先は増築して大きくなった我が家だ。
扉を開けて中に入るとローズが泣きそうな顔をしている。
「マルスちゃん……! 産まれそうなの……!!」
大きくなったお腹をさすっている。
「何か出来ることはありますか?」
口を開いたのはベッドに腰掛けるヴォジャノーイだ。
「そげん心配すっことなか。ポンポンポンって出てくっで、羊膜やら臍ん緒はちぎって終わりだ」
そんなものなのか? お産に立ち会うのは初めてなので分からない。
ゴルジェイも心配そうだ。ローズの顔も余裕がない。
「あっ……! 産まれそう……!?」
ポンと出てきたのは掌におさまるぐらい小さな猫だった。テトがせっせと羊膜を舐め、臍の緒を噛みちぎっている。
また少しするともう一匹、ポンと出てくる。これが繰り返されて合計四匹の赤ちゃん猫が産まれた。
ベッドで横になるテトのお腹に連なり、母乳を飲んでいる。
「テト、お疲れ様。頑張ったなぁ。何が食べたい?」
「ミャオミャオミャ~」
「マッドボアのステーキかな? ハーブを効かせた」
「ミャオ」
どうやら当たりらしい。
そういえば、テトがこのマルス領に来た理由もマッドボアの肉だった気がする。
「よし! 今日はテトの出産祝いだ! 酒を飲むぞ!!」
「あにょ、よかことゆね。新鮮な湧水で作った酒は最高じゃっでなぁ」
最近は酒造りにハマっているゴルジェイとヴォジャノーイが宴会の準備に飛び出していった。
「パーティー……!? オシャレしないと……! ちょっとラストランドにお買い物に行ってくるわね……!! 夜までには戻るから、勝手に始めちゃ駄目よ……!!」
どうやって金を捻出しているのか? ローズの家は衣装で溢れかえっている。本人が楽しそうだからいいのだけど……。
二人と一柱がいなくなり、急に静かになる。
「最初は俺とテトしかいなかったんだよなぁ」
「ミャオ~」
マルス領は住人も増え、ひっきりなしに人が訪れるようになった。大変なこともあったが、それは何処でどんな人生を送っても同じだろう。
「俺は追放されたことを感謝しないといけないなぁ」
「ミャオ?」
「あの出来事がなければ、ここで皆んなと出会うことはなかっただろうからね」
「ミャオ~」
ひと鳴きして、テトは赤ちゃんを舐め始める。見ているだけで心が穏やかになる光景だ。ミイミイと高い赤ちゃんの鳴き声に自然と頰が緩む。
「これからも頑張らないと」
俺のジョブは【レンガ職人】。やれることなんて、レンガを作ったり固定したりすることだけだ。
でも、少しは役に立つ。手の届く範囲は狭いけれど、ちょっとした安心感は与えられる。喜んでくれる人がいる。
そんな人達を大事にするのだ。これまでも、これからも。
魔の森の開発は進み、今では開拓村は十まである。
村が増える度に壁や家を作るのを手伝っていたので、何かと開拓民との繋がりは多い。畑で採れた野菜や狩の獲物など差し入れが途絶えることはなく、ついつい食べ過ぎてしまう毎日。十年前より確実に体重が増えた。
増えたといえば獣人だ。
獣人国は少し前に正式に国と認められた。ミスラ王国の国王からお墨付きがもらえたのだ。それによって前以上に獣人が獣人国を目指すようになった。
女王ルーの名前は世界轟き、その力は増す一方だ。
勿論、彼女に頼り切りというわけではない。しっかと国としても機能している。冒険者ギルドだって支部を出すぐらいに。
魔の森の北は開拓民、南は獣人国。綺麗に棲み分けられている。一時期はお互いに衝突することがあったが、今はすっかり落ち着いて良好な関係だ。
そういえば俺とクライン侯爵家の関係だが、こちらは相互不干渉を貫いている。貴族の間では俺が元侯爵家の人間だということは広まっているらしいが、特段何かされることはない。もしかすると、辺境伯が手を回しているのかもしれない。
開拓村、獣人国、辺境伯。
この三つの勢力に対してのらりくらりとバランスを取りながら過ごす十年だった気がする。
過去を振り返りながらの散歩。マルス領が近くなってきたところで声が掛かる。
「マルス、どこへ行っていたんだ! 産まれそうなんだぞ! 早く来てくれ!!」
ゴルジェイだ。珍しく焦っている。
「今行きます!」
ゴルジェイが向かった先は増築して大きくなった我が家だ。
扉を開けて中に入るとローズが泣きそうな顔をしている。
「マルスちゃん……! 産まれそうなの……!!」
大きくなったお腹をさすっている。
「何か出来ることはありますか?」
口を開いたのはベッドに腰掛けるヴォジャノーイだ。
「そげん心配すっことなか。ポンポンポンって出てくっで、羊膜やら臍ん緒はちぎって終わりだ」
そんなものなのか? お産に立ち会うのは初めてなので分からない。
ゴルジェイも心配そうだ。ローズの顔も余裕がない。
「あっ……! 産まれそう……!?」
ポンと出てきたのは掌におさまるぐらい小さな猫だった。テトがせっせと羊膜を舐め、臍の緒を噛みちぎっている。
また少しするともう一匹、ポンと出てくる。これが繰り返されて合計四匹の赤ちゃん猫が産まれた。
ベッドで横になるテトのお腹に連なり、母乳を飲んでいる。
「テト、お疲れ様。頑張ったなぁ。何が食べたい?」
「ミャオミャオミャ~」
「マッドボアのステーキかな? ハーブを効かせた」
「ミャオ」
どうやら当たりらしい。
そういえば、テトがこのマルス領に来た理由もマッドボアの肉だった気がする。
「よし! 今日はテトの出産祝いだ! 酒を飲むぞ!!」
「あにょ、よかことゆね。新鮮な湧水で作った酒は最高じゃっでなぁ」
最近は酒造りにハマっているゴルジェイとヴォジャノーイが宴会の準備に飛び出していった。
「パーティー……!? オシャレしないと……! ちょっとラストランドにお買い物に行ってくるわね……!! 夜までには戻るから、勝手に始めちゃ駄目よ……!!」
どうやって金を捻出しているのか? ローズの家は衣装で溢れかえっている。本人が楽しそうだからいいのだけど……。
二人と一柱がいなくなり、急に静かになる。
「最初は俺とテトしかいなかったんだよなぁ」
「ミャオ~」
マルス領は住人も増え、ひっきりなしに人が訪れるようになった。大変なこともあったが、それは何処でどんな人生を送っても同じだろう。
「俺は追放されたことを感謝しないといけないなぁ」
「ミャオ?」
「あの出来事がなければ、ここで皆んなと出会うことはなかっただろうからね」
「ミャオ~」
ひと鳴きして、テトは赤ちゃんを舐め始める。見ているだけで心が穏やかになる光景だ。ミイミイと高い赤ちゃんの鳴き声に自然と頰が緩む。
「これからも頑張らないと」
俺のジョブは【レンガ職人】。やれることなんて、レンガを作ったり固定したりすることだけだ。
でも、少しは役に立つ。手の届く範囲は狭いけれど、ちょっとした安心感は与えられる。喜んでくれる人がいる。
そんな人達を大事にするのだ。これまでも、これからも。
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。
彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。
「お前はもういらない」
ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。
だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。
――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。
一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。
生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!?
彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。
そして、レインはまだ知らない。
夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、
「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」
「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」
と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。
そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。
理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。
王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー!
HOT男性49位(2025年9月3日0時47分)
→37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる