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第三章~真実~
俺のことも名前で呼んでよ
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「鈴野、放課後時間あるか?」
昼休み。
田代先生に声をかけられる。
「大丈夫ですけど、どうかしました?」
「おう、明日使う資料を「わかりました」
「お早い返事でありがたいです」
持っていた教科書であたしの、頭をポンッと叩く。
生徒会の顧問であり、うちのクラスの担任でもある田代先生。
資料まとめを頼まれるなんていつものこと。
生徒会でも一緒でよく関わるあたしに頼みやすいのだろう。
〝田代先生に資料まとめ頼まれたから、生徒会室行かないと思う〟
燿くんにそうLINEを入れておく。
〝田代ちゃんの準備室?〟
〝そうだよ〟
いつもなら、こんなことも聞かれないのに不思議に思いながら返事をする。
〝俺も行くわ〟
〝え?どういう風の吹き回し?〟
田代先生の手伝いなんて、一緒にきたことないのに。
急にこんなことを言い出す燿くんが不思議で仕方なかった。
〝別に。たまにはちとせの手伝いでもと思ってね〟
〝ありがとうと言っとく〟
なにか裏があるに違いないけど。
普段ならこんなこと地球がひっくり返っても言わない。
燿くんが冷たいとかじゃない。
燿くんは多忙なのだ。
クラスのことも生徒会のこともやっていて。
あげく、両親が仕事で遅くなるから兄弟の面倒も家のこともほぼ燿くんがやっている。
いつも効率を考えてる燿くんが、こんな手伝いをするなんて。
素直に受け取れるわけなんてない。
〝言っとくじゃなくて言えよ〟
〝裏がありそう〟
普段、一緒にいるときにもこんなやり取りをしているなとふと思う。
こうしてLINEでもしてるあたしたちは非常にバカだと思う。
でも、誰かとこうして繋がっていられることに嬉しく思う。
教室を見渡すと、みんなが机をくっつけたりしてお母さんの手作り弁当や購買のパンなどを食べてる光景が目に入る。
「屋上行こうかな」
誰にも聞こえない声で呟いて、自分の席から立ち上がる。
聞こえたところで、誰も拾ってはくれない言葉だけど。
「あれ」
屋上のドアを開いて一歩踏み出すと同時に、フェンスの所にいる人が振り向く。
「遊佐、先生……」
あれ以来、教室であうことはあってもほかの場所で会うことはなかった。
「みんなと同じように下の名前でいいのに」
遊佐先生は、フェンス際に座って隣をポンポンと叩く。
……おいでってことだよね。
男の子とというか、人とあまり関わって来なかった人生のせいで進みだそうとする足がすくんでしまう。
「なにやってんの?」
ふはっと吹き出して、立ち上がった遊佐先生はあたしの前へと歩いてくる。
そんな一連の動きにすらあたしの心臓は破裂しそう。
「鈴野さんって、周りに溶け込もうとしないよね」
「……っ、昔から苦手で」
「霧島と付き合ってるの?」
ニコニコしながら聞いてくる言葉に心臓が抉られそうになる。
あたし、なんで遊佐先生の言葉にいちいち反応してるんだろう。
「付き合って、ないですよ」
この質問は何度もいろんな人に聞かれてきたことだ。
なにも珍しい質問ではない。
それなのにどうしてショックを受けてるんだろう。
「そっか、それならよかった」
「……え?」
遊佐先生の発した言葉に首を傾げる。
「あー、何言ってんだろね。俺」
目の前にいた先生は、自分の髪の毛をかきあげる。
「先生は、彼女とかいないんですか」
なんでこんな質問をしたのか、わからない。
「いないよ」
どうしてこの答えに胸が踊るのかもわからない。
「そう、ですか」
なぜだか緩みそうになる頬を抑えながら、フェンス際へと歩く。
「ちとせちゃん」
「……っ!?」
急に呼ばれた名前にびっくりしないはずがない。
──ドキン、ドキン
胸の高鳴りが止まらない。
「俺のことも名前で呼んでよ」
「ま、なぶ、くん」
燿くん以外の名前を呼ぶことなんてないから、しどろもどろになってしまう。
でも、名前でよばれたこと。
そして、名前で呼べたこと。
そのことに頬が緩まないはずなんてなかった。
昼休み。
田代先生に声をかけられる。
「大丈夫ですけど、どうかしました?」
「おう、明日使う資料を「わかりました」
「お早い返事でありがたいです」
持っていた教科書であたしの、頭をポンッと叩く。
生徒会の顧問であり、うちのクラスの担任でもある田代先生。
資料まとめを頼まれるなんていつものこと。
生徒会でも一緒でよく関わるあたしに頼みやすいのだろう。
〝田代先生に資料まとめ頼まれたから、生徒会室行かないと思う〟
燿くんにそうLINEを入れておく。
〝田代ちゃんの準備室?〟
〝そうだよ〟
いつもなら、こんなことも聞かれないのに不思議に思いながら返事をする。
〝俺も行くわ〟
〝え?どういう風の吹き回し?〟
田代先生の手伝いなんて、一緒にきたことないのに。
急にこんなことを言い出す燿くんが不思議で仕方なかった。
〝別に。たまにはちとせの手伝いでもと思ってね〟
〝ありがとうと言っとく〟
なにか裏があるに違いないけど。
普段ならこんなこと地球がひっくり返っても言わない。
燿くんが冷たいとかじゃない。
燿くんは多忙なのだ。
クラスのことも生徒会のこともやっていて。
あげく、両親が仕事で遅くなるから兄弟の面倒も家のこともほぼ燿くんがやっている。
いつも効率を考えてる燿くんが、こんな手伝いをするなんて。
素直に受け取れるわけなんてない。
〝言っとくじゃなくて言えよ〟
〝裏がありそう〟
普段、一緒にいるときにもこんなやり取りをしているなとふと思う。
こうしてLINEでもしてるあたしたちは非常にバカだと思う。
でも、誰かとこうして繋がっていられることに嬉しく思う。
教室を見渡すと、みんなが机をくっつけたりしてお母さんの手作り弁当や購買のパンなどを食べてる光景が目に入る。
「屋上行こうかな」
誰にも聞こえない声で呟いて、自分の席から立ち上がる。
聞こえたところで、誰も拾ってはくれない言葉だけど。
「あれ」
屋上のドアを開いて一歩踏み出すと同時に、フェンスの所にいる人が振り向く。
「遊佐、先生……」
あれ以来、教室であうことはあってもほかの場所で会うことはなかった。
「みんなと同じように下の名前でいいのに」
遊佐先生は、フェンス際に座って隣をポンポンと叩く。
……おいでってことだよね。
男の子とというか、人とあまり関わって来なかった人生のせいで進みだそうとする足がすくんでしまう。
「なにやってんの?」
ふはっと吹き出して、立ち上がった遊佐先生はあたしの前へと歩いてくる。
そんな一連の動きにすらあたしの心臓は破裂しそう。
「鈴野さんって、周りに溶け込もうとしないよね」
「……っ、昔から苦手で」
「霧島と付き合ってるの?」
ニコニコしながら聞いてくる言葉に心臓が抉られそうになる。
あたし、なんで遊佐先生の言葉にいちいち反応してるんだろう。
「付き合って、ないですよ」
この質問は何度もいろんな人に聞かれてきたことだ。
なにも珍しい質問ではない。
それなのにどうしてショックを受けてるんだろう。
「そっか、それならよかった」
「……え?」
遊佐先生の発した言葉に首を傾げる。
「あー、何言ってんだろね。俺」
目の前にいた先生は、自分の髪の毛をかきあげる。
「先生は、彼女とかいないんですか」
なんでこんな質問をしたのか、わからない。
「いないよ」
どうしてこの答えに胸が踊るのかもわからない。
「そう、ですか」
なぜだか緩みそうになる頬を抑えながら、フェンス際へと歩く。
「ちとせちゃん」
「……っ!?」
急に呼ばれた名前にびっくりしないはずがない。
──ドキン、ドキン
胸の高鳴りが止まらない。
「俺のことも名前で呼んでよ」
「ま、なぶ、くん」
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でも、名前でよばれたこと。
そして、名前で呼べたこと。
そのことに頬が緩まないはずなんてなかった。
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