結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ

文字の大きさ
68 / 69
another story③~彼らの長男の小話~

幸せにするから

しおりを挟む
「親父」



翌日、早速実家に1年くらいぶりに足を踏み入れる。



「お前、どうしたんだ急に」



当然俺が来るとは思っていなかったようで、目を丸くしている。



「親父の跡を継ごうと思って」


「は?何を突然言ってるんだ?熱でもあるじゃんないのか?」


俺に近づいてきて、額に手を触れる。



「.......っと、その方は?」



俺の後ろにいる凜菜に目を向ける。



「あ、冴島さえじま凜菜です」



ペコッと親父に頭を下げる。



「凜菜と結婚しよーと思ってる」


「はぁ?さっきからお前は色々と順序ってものを知らないのか?」


「俺がこんななの親父がよく知ってるだろ」



普通をずっと嫌っていた俺のこと、一番よく知っているのは親父だと思っている。



「はぁ、こんなのでいいのかい?凜菜さんは」


「あ、はい。來輝がいいんです」



凜菜の言葉に彼女の手をしっかりと握る。



「まぁ、結婚はお前の好きにしたらいい。ただ、後継ぎの件はあんなに嫌がっていたお前が急にどうしたんだ?」


「別に。音楽と両立がやっとできそうだからだよ」


「いいよ、そんな無理しなくて。航に継いでもらうって決めたとこだし」



俺がこういっても、親父の考えが変わらないのはわかっていた。
でも、実際に言われると「もう、お前なんか要らない」と言われてるような気分になってしまう。

自分のいままでの言動から、そうなってしまっても仕方ないのに。



「もう、親父は俺のこと要らないんだな」


「.......は?」


「まぁ、こんな出来損ないの息子.......要らねぇか」



こんなことを言う自分も惨めに思えてきて、もう帰ろうと凜菜の手を握ったとき「ただいまー」と能天気な母さんの声が聞こえる。



「あら、來輝来てたの?」


「あ、うん。でももう帰るとこ」



母さんは、俺にはいつも寛大だったけど、でもきっともうこの家には俺の居場所はない。
だから、さっさと帰ろうと思った。



「來輝?どうかした?」



そんな俺の顔をのぞき込む母さん。



「いや、ただ顔見にきただけだから」



母さんから目を逸らして、無理やりそのままリビングを出ようとする。



「來輝」



そんな俺を呼び止めたのは親父の声。



「お前、何考えてるんだ?」


「え?」


「ちょっと、学くん.......せっかく来たのにまた喧嘩しないでよ?」



母さんがハラハラと俺たちふたりをみる。



「こいつ、いきなり会社を継ぐって言い出したんだよ」


「え?來輝が?」



母さんがキョトンとして、首を傾げる。



「俺だって、自分の仕事で食っていけるようになって.......親父の仕事のことわかったっていうか.......いままで、ワガママばかりだったなって」



これは、もうだいぶ前から思っていた。
でも、素直になれなくて、こんなこと口にするのも恥ずかしくて。



「來輝は、曲を作る仕事があるでしょ?そんな2足のわらじだなんてダメだよ。ちゃんと自分の仕事を全うさせないと」



母さんまでも、こんなふうに言うなんて思わなかった。
主に跡継ぎのことを言ってくるのは、親父だったけど、俺に家に残っていて欲しいと母さんの方が思っていたはずだ。

それが、なんだ。
航とかいう、婿をとったら俺のことなんてどうでもよくなったということか。



「母さんもか.......」


「え?あたしもって?」


「親父と同じく、俺のことを要らないって思ってんだな」



自分で言った瞬間、心のなかに強い冷たい風が吹く。



「ちょっと、学くん!?そんなこと言ったの!?」


「言ってねぇよ。こいつが勝手に話を進めてるだけだろ」


「だからって普通こんなこと言わないでしょ?学くんはいっつも來輝に対する態度が冷たいの!」



母さんが、親父に怒鳴ってから、俺の方へ「ねぇ、來輝」と向く。



「母さん?」


「來輝のこと、要らないなんて思うわけないでしょ?」


「でも、あんなに跡継ぎって言ってたくせに、航とかいうやつが現れたら.......俺なんて用済みになってんじゃんか」



なんだか、悔しくて仕方なくて、唇を噛む。



「來輝、それは違うよ。たしかに航くんは跡を継いでくれる。でも、來輝はいつまでも遊佐家の長男よ。お父さんと話し合って、來輝には好きな道に進んでもらおうってなったの。來輝の作る音楽、お父さんが誰よりも一番楽しみにしてるのよ」



母さんの言葉に親父を見ると、少し頬を赤く染めた顔で立っていた。



「男同士だからね、ぶつかることが多かったと思う。それでもお父さんはずっと來輝のことを心配してたのよ。來輝が出ていってからも、口を開けば來輝はどうしてる?ってそればかり」


「.......嘘だろ」



俺のことを全く気にしていないとばかり思っていた。
俺自身になんて、関心がなくて。
ただ、跡継ぎとして成長していけばいいと思っているんだと思っていた。



「嘘じゃない。俺にとっては來輝も光架も変わらないくらい大事だ。特に來輝、お前は俺たちにとって初めての子供だ。何よりも大事だった。だから、口うるさくなってしまってすまない」


「.......親父」



親父がこんなふうに俺にとって言うなんて、思ってもいなかった。



「來輝も素直になったら?」



俺にそう言ってきたのは、凜菜だった。



「.......うん、親父。俺、親父のこと大好きだよ」



こんなこと言うの気が引けるけど。
本当は小さい頃からずっと、親父にのことが好きだった。



「.......來輝」



俺の言葉に目を丸くする。



「だから、俺も親父に素直になれなくて、喧嘩腰ばかりでごめん。跡継ぎはしないけど、これからも遊佐家の一員として、いさせてください」



親父に向かって頭をさげる。



「こいつも一緒に」



少し後ろで俺の手を握る凜菜を横へと連れてくる。



「お前も守りたい人ができたんだな?」


「あぁ、すげぇ大事だと思ってる」



きっと、凜菜がいないと俺はいまここで親父とこうしていることもなかっただろう。
音楽も途中で投げ出しているかもしれない。



「凜菜さん、來輝のことよろしくお願いします」



親父が凜菜に頭を下げる。



「こ、こちらこそです!」



慌てたように、凜菜が頭をさげる。



「來輝、家族を持つってことは、もういい加減なことは絶対にできないからな。お前は少し途中で投げ出しがちなところがあるから。絶対に凜菜さんとこれから増えていくだろう家族だけは守れ。もし、どうにもならなくなったときは、俺たちがいるから」


「.......親父、ありがとう」



素直にその言葉が出た。

俺は、たしかに投げ出しがちなところがあった。
どんなことも最後までやり遂げる凜菜に出会って、俺も少しずつ変わっていって、今の俺がいる。

オレの理想の夫婦は、自分の親だ。
こんなふたりになれるように、頑張ろうと誓った。



「凜菜のこと、絶対に幸せにするから」


─ another story ③完結 ─
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-

設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt 夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや 出張に行くようになって……あまりいい気はしないから やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀ 気にし過ぎだと一笑に伏された。 それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない 言わんこっちゃないという結果になっていて 私は逃走したよ……。 あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン? ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 初回公開日時 2019.01.25 22:29 初回完結日時 2019.08.16 21:21 再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結 ❦イラストは有償画像になります。 2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない

朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。 止まっていた時が。 再び、動き出す―――。 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦* 衣川遥稀(いがわ はるき) 好きな人に素直になることができない 松尾聖志(まつお さとし) イケメンで人気者 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

処理中です...